第205話 遺跡のトンネル
吸血鬼になったアギと別れ、昔、行方不明になったという教皇と聖騎士団のゾンビたちを追いかけて遺跡に入った。ほぼ一方通行のようで、オリガと共に通路を先へと進む。
断崖絶壁にある入り口は古代魔法王国が作ったもので、そもそもこの断崖絶壁も古代魔法王国が作った物とのことだ。遺跡のトンネルは戦場へ向かうための通路であり、今の魔王であるバランサーと戦いを続けていたらしい。
どんな事情があったかは不明だが、この遺跡に関しては教皇が入り口を開けられる。それが代々教皇に引き継がれていたようだが、その教皇が行方不明になったので、その存在が文献にしか出てこなかった。
遺跡の入り口を開けるにはアイテムが必要になる。おそらく教皇のゾンビが持っているネックレスがその鍵だ。教皇には悪いが、倒して回収しなくちゃならないだろうな。その後、聖騎士団の団長さんにでも返そう。
「あのアギって吸血鬼は大丈夫?」
「ここのことをばらさないかって話か?」
「そう、それ」
「アイツはこの戦いに興味はないはずだ。ここの存在を誰にも言わないよ」
ここの存在は吸血鬼達も知らない。さっき別れたアギがその報告をする可能性はある。でも、オリガの懸念はたぶん不要だ。基本的にアギは強敵と戦えればなんでもいいという戦闘狂だ。はた迷惑なことにそのターゲットを俺にしている。俺が次の満月にちゃんと戦えばここの存在を言うことはないだろう。
アギと戦う対策も考えなくちゃいけないんだよな。満月の夜に狼男の吸血鬼をどうやって倒せって言うんだよ。あの時の続きとか言ってたけど、状況がひどくなってるじゃないか。
「クロス様、楽しそう」
「え? 楽しそう? 俺が?」
「なんとなくそう見える」
戦うのが楽しいわけじゃない。たぶん、アギがあんな形でも生きていたことが嬉しいんだろうな。俺はアギの性格が気に入っているんだろう。善人ではないが、悪人と言えるほどでもない気がする。むしろ、善とか悪とか考えてない。
吸血鬼なんてアギが望んでいる生き方じゃないとは思うが、それすら気にしていない気もする。せめて次の戦いは満足いく戦闘をしてもらいたいもんだ。できれば俺じゃない相手でお願いしたいけど。
次の満月まではまだ時間がある。その間に色々と準備をしておかないとな。それにアギに効果があるような小細工なら、ヴァーミリオンにも効果的なような気がする。
そういや、ヴァーミリオンの奴はいつまで引きこもっているのかね。そもそも未来が見えなくなったから怯えるというのが分からん。このままずっと引きこもっているつもりなんだろうか。
『あれが最後に見た未来はクロス様に殺される未来ですから』
『そうだったのか。それは怯えるよな』
『その未来を変えるために色々やっているようですけど、未来を変えるのは難しいでしょうね』
『もしかして、いま戦っても俺が勝てるって話?』
『ヴァーミリオンと一対一で戦えば勝てると思いますが、ヴァーミリオン軍はまだいますし、アウロラが復活してませんので、お勧めはしませんね』
それもそうだ。課金スキルを使えば負けることはないと思う。でも、今持っているお金はアウロラさんを助けるための金だ。そう簡単には使えない。確実に勝つためにもヴァーミリオン軍を減らして、さらにお金を貯めないと駄目だな。
「クロス様、見つけた。前方、百メートル」
オリガの声に従って通路の奥を見る。夜目が効くとは言っても、ここまで来るとほとんど真っ暗だが、俺には魔眼もある。集中すれば結構見える。
どうやら向こうもこちらに気付いたようだ。聖騎士たちがその場に何人か残り、それ以外はさらに先に進んだ。ゾンビなのにそういうことをするとは驚きだ。生前の記憶によるものだろうが恐れ入る。
残った聖騎士達は百人くらい。俺たちの足止めを目的にしているのか、盾を構えて十人一列に並んでいるだけだ。
通路はそこそこ広いので相手にせず奥へ行くという手段もとれる。でも、奥へ向かって挟み撃ちになったら面倒だ。それにゾンビとしてここを徘徊させるのは忍びない。
「ここで片付ける。オリガはサポートを」
「了解」
今日はすでに超絶強化を使ったから、これ以降は課金が必要になる。身体強化の魔法だけで勝てるだろうか。とりあえずやってみるしかないな。
身体強化の魔法を起動させてから木刀を取り出して突っ込んだ。
聖騎士たちは一糸乱れぬ行動で盾を構える。
中央にいる騎士に高速で近づき、盾の上からぶっ叩く。盾を構えていた騎士は後方にぶっ飛ばされて、同じように後方に並んでいた騎士たちがボーリングのピンみたいに倒れた。
「え? あれ?」
思いのほか手ごたえがない。ゾンビになって聖騎士たちは弱体化したのか?
『単純にクロス様が強くなってます。いままで強敵を倒してきた結果でしょうね』
『マジか』
レベルが上がったってやつか。なかなか強くならないと思ってたけど、そんなことなかったな。敵のインフレがすごかっただけで、俺もいつの間にか強くなってたわけだ。それでもまだ届かない奴は多いだろうけど、小細工を駆使して倒していこう。
残った聖騎士たちを倒した。霧状の聖水や聖水を振りかけた木刀とかそれなりに効果があったようだ。これはあとでグレッグやスコールさんに報告しておこう。皆でも使えるはずだ。
それにオリガの投げナイフが相手の攻撃を邪魔していた。かなり戦いやすかった。ぜひともアギとの戦いのときもお願いしたい。アギの奴は認めそうにないけど。
そのオリガは倒れた聖騎士たちの前で祈りを捧げているようだ。
「クロス様、聖騎士様たちの遺品は――」
「亜空間に入れて持ち帰るつもり。今の聖騎士団の団長さんに渡すよ」
「うん。そうしてあげて。確か団長さんのご先祖様がいたはずだから」
「だからあんなに怒ってたのか」
単純に同じ聖騎士団だからというわけじゃなくて、ご先祖様がいたわけだな。もしかしたら行方不明になったことは不名誉なこととしてで、色々と言われてきた家系なのかもしれない。
事情は分からないが、百五十年前に何かの理由でヴァーミリオン軍と戦った可能性が高いと思う。できるだけ遺品は持ち帰ってあげよう。
遺品は回収し、遺体は燃やす。遺体を持ち帰って欲しいという話があるかもしれないが、昔の遺体だ。正直、判別がつかないだろう。
遺体の遺品をそれぞれワンセットで亜空間に入れておけば、身に着けていた物で誰なのかは分かるかもしれない。悪いけど、こうするしかないな。
さて、戦闘は意外と早く済んだが、急いで残りを追おう。
あれから計三回、隊列を組んだ聖騎士たちと戦った。
徐々に強さが上がっているようで、倒しきるまでの時間もそれなりに掛かっていたが、あとは教皇と聖騎士が十人くらいのはずだ。おそらく聖騎士の一人は当時の団長とか副団長などの強い奴になるだろう。
「クロス様、外が見える」
「なに?」
目を凝らして奥を見ると、確かに遺跡が終わっているようで外が見えた。今までほとんど暗闇だったので月明かりがまぶしいくらいだ。
そして外が見えるということは聖国側の土地ということだ。そこまで移動速度があるとは思えないし、足跡を消すような真似もしないだろうから追い付けるとは思うが、すぐに対処しないと――
「悲鳴が聞こえる」
「え? 近くに民家があるのか?」
「この辺りは製材所。それを生業にしている人たちが住んでいる村があるはず」
製材所……丸太を角材とかにする場所のことか? いや、そんなことはどうでもいい。すぐに助けに行かないと。
「オリガ、村人の救助を最優先。急いで先に向かってくれ。俺もすぐに行く」
「了解」
オリガは木々の間を高速で駆け抜けていった。
俺にはそんな芸当ができるか怪しいので空から移動だ。オリガの向かった方向へ助走をつけてジャンプ。思ったよりも近い場所に村らしきものがあった。
しまった、悲鳴が聞こえる程度なんだから当然近い場所にあるんだよ。勢い余って飛び越しそうだ。
『空中に足場を作ってくれ。村に向かって飛ぶ』
『なら金貨一枚で』
『払う』
『クロス様が蹴った時に足場を作りますのでいつでもどうぞ』
トレーディとの戦いでもやったけど、空中の足場っていいね。金貨一枚なので結構お高いが、空中で方向を変えられるのはありがたい。
空中で体勢を整えてから、上に向かって足を延ばすように思いきり蹴る。壁があるような感触があってから、村に向かって落ちるように跳んだ。
……なんだ? 誰か戦ってる? オリガじゃない。もっとがっしりした男が剣を振り回しているようだが――なんだ、急がなくてよかったな。
ヴォルトが聖剣で教皇と戦っている。助けるけど、なんでこの村にいるんだ?
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