第184話 小悪魔的聖女
聖国クレセントの聖都にようやく到着した。
相変わらずメイド号はどこでも注目の的だが、いつかは馬車に代わる乗り物として量産するらしい。メリルとパンドラを一緒にさせたのは良くなかったかもしれないが、まあいいや。
そして聖国に入っていくつかの村や町を通ったが、当然のことながらあまり活気はない。帝国と同じように戦争をしている国なんてそんなものだろう。しかも最近まで帝国とも戦っていた。かなり疲弊している状態だ。
ベルスキアも支援はしているが、どちらかというと魔国やカロアティナ王国の支援がメインで、聖国にはそれほど支援していない。とはいえ、聖国は西側諸国の防波堤的な場所なので多くの支援を受けるようになった。
帝国との戦争中は帝国に配慮したというか目を付けられないように何もできなかったようだが、全面的に降伏してからは何の憂いもなく支援を始めたとのことだ。
聖国が滅んだら君らもヤバかったんだぞと思ったが、そう思っても表立って支援はできなかったのだろう。秘密裏に支援をしていた国もあったようで、そこには女王コルネリアも感謝しているらしい。
あの人、過激な人ではあるが、話が分かる人だとも言われている。恩には恩を、仇には仇を返す鏡みたいな人だとか。俺、理由はあったけど教会を色々やっちまったんだが大丈夫だろうか。
国を大きくしようとか、強力にしようという考えがあったために教会を利用していたわけだが、オリファスとディエスのせいで教会が力を持ちすぎたことが問題だったんだろうな。
オリファスだけならなんとかできたのだろうけど、堕天使がいたんじゃパワーバランスが崩れるのは当然だ。現在は教会を完全に支配下に置いて管理しているとか。
ヴァーミリオンの軍が攻め込んできたので色々とうやむやになっているけど、本当に俺が行っても大丈夫だろうか。来る途中にオリファスやアマリリスさん、それにグレッグにも連絡したのだが「とうとう聖国を支配下に」とかオリファスが言ったので強制的に遠隔通話を切ったけど。
とくに城に呼ばれているわけでもなく、現在はオリファスやグレッグが準備をしてくれている。なので今は以前聖都でお世話になった孤児院で休ませてもらっているところだ。
今回も快く場所を提供してくれたので、パンドラが持っていた物資を提供した。あと、孤児たちはサンディア、聖剣、精霊、そしてパンドラと遊んでいる。
「サンディア姉ちゃん、かっけー!」
「私、聖剣さんの言葉を忘れないでおく。絶対いい男を捕まえる」
「やばい、犬派になりそう!」
「やはりメイドは最強……!」
何をやっているのかはここから見えないが、子供たちが楽しそうにしているから問題はないだろう。ないと思いたい。
「クロス様、ヴォルト様、お久しぶりです」
扉を開けて入ってきたのはアマリリスさんだ。三年前よりもずいぶんと大人びただろうか。シスターの恰好はそのままだが、あの頃よりも自然に笑えているような気がする。体内にいた悪魔がいなくなったからストレスも大幅になくなったのだろう。
「よう、アマリリス、元気だったか?」
「ふふ、ヴォルト様、前はサンディアちゃんに言ってた言葉を私に使ってくれるんですね?」
「そういやそうだったなぁ」
サンディアが病気中、それを診ていたのがアマリリスさんだ。聖都へ来るたびにヴォルトはそんなことを言いながらサンディアに会っていたんだろう。
ヴォルトとの話が終わると、アマリリスが俺の方を見て微笑んだ。
「クロス様もお元気でしたか?」
「色々あったけど何とかね。アマリリスさんは大丈夫だった?」
「私も色々ありましたが、なんとか元気です」
聖国は激戦区だ。色々あったとだけしか言っていないが、帝国とも戦っていたし、そんな言葉だけでは済まされないくらいに多くのことがあったと思う。俺よりも若い子が頑張っているのは、なにかこう、申し訳なく思ってしまうな。
「そういや、オリファスとグレッグの奴も聖都に戻ってきてるんだろ? 戦場は大丈夫なのか?」
ヴォルトの言葉に俺も頷く。
確かにそれは気になるところ。オリファス、グレッグ、アマリリスさんの三人は聖国でも主力中の主力。いるかいないかで、戦況や被害の桁が変わってくるとも言われている。そんな三人が聖都に戻ってくるのは大幅な戦力ダウンになる。
「数日なので問題ありません。バルバロッサ様やスコール様、それにガリオ様やマルガット様も戦場にいますので」
オリファスを信仰している赤の騎士団長バルバロッサと宮廷薬師スコールさんか。それに可愛いもの好きのガリオと、マルガットは……女王派の大司祭か。なるほど、確かに強い奴らが揃ってる。いきなり戦線が崩れるようなことはないか。
「ところで、クロス様、帝国で色々やってくださったと聞きました。どうかお礼を言わせてください。本当に助かりました。ありがとうございます」
「ああ、うん。あれは金を奪う際のついでだから。なんかこううまい具合に転がっただけだからお礼なんて言わないで」
アレは運が良かった。ヴィクターと接触できたのが大きいな。それに古代竜のウィーグラプセンと知り合いになれたのも大きい。帝国を弱体化させるだけだったんだけど、協力関係を得られるようになったのは最高の結果だ。残念ながら今はそれで揉めてるけど。
なんだかアマリリスさんが俺を優し気な目で見ているような気がする。
「クロス様は相変わらずですね」
「変わってないから安心したでしょ。ちょっとは強くなったんだけどね」
「クロスよぉ、あれでちょっとは強くなったって評価はないからな? 素の状態はともかく、スキル使ったら俺だって勝てるか分からねぇよ」
「過大な評価をありがとうよ」
そうなのかもしれないが、ヴァーミリオンに勝てないならどれほど強くなっても意味がない。とはいえ、自分の実力が客観的にみれないのは確かにまずい。せめてヴァーミリオン軍の幹部に勝てるほどの強さがあるか知っておきたいところだ。
……そういえば、聖国を攻めている不死者の中に幹部が一人いたよな?
「アマリリスさん、戦場でヴァーミリオン軍の幹部と戦ったことはある? 誰でもいいんだけど」
「幹部が誰なのか分からないのですが、戦場で恐れられている敵がいることは知ってます。戦ったこともありますが、かなりの被害が出ました……」
「嫌なことを思い出させちゃったね。そいつがなんて言われているか知ってる?」
「名乗りを上げたわけではないのですが、他の吸血鬼が言っていたらしく、名前はトレーディだとか」
UR鮮血のトレーディか。パーティに不死者が多いほどステータスが向上するタイプのスキルを持っていた気がする。そんなのが戦場にいたら危険だな。でも、強さを測るのならちょうどいいかもしれない。
幹部がどれほど強くなってもヴァーミリオンほど強くなるわけじゃない。これに勝てないようならヴァーミリオンとは戦えないだろう。あとどれくらい強くなればいいのか分からないから、どんなもんだがちゃんと調べておこう。
「あの、クロス様、どうかされました?」
「聖都での対応が終わったら戦場に行って、そいつと戦ってみたいなと思って」
「まあ! なら一緒に戦場へ来てくれるのですか!?」
「敵の幹部がどれくらいの強さなのか確認しようと思ってね。ヴォルト、いざというときは守ってくれよ」
「それは俺がクロスに言いてぇよ。でも、問題ねぇぜ。暗躍している吸血鬼がいないなら俺も戦場で暴れたいからな!」
「まあ、ヴォルト様も! ふふ、戦場に戻るのが楽しみになるなんて、私もはしたないですね」
アマリリスはそう言いながら、口元を手で隠しつつ笑っている。可憐とかおしとやかが似合う女性っていいね。
「では、すぐにでも帝国と聖国をクロス様の支配下に置いて戦場へ向かいましょう!」
「ちょっとアマリリスさん?」
「あ、いけない。これは内緒でした」
アマリリスさんはそう言って笑顔で舌をちょっとだけ見せた。あざとい。というか、聖女よりも小悪魔になっている気がする。聖国での対応も心配になってきたぞ。
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