第160話 定番の倒し方

「七本目もらい!」

「ひゃっほー! リーチ!」

「わんわん!」


 サンディアが精霊に乗り、駆け抜けるように聖剣でヤマタノオロチの首を斬り落とした。聖剣というチート武器ではあるが、直径五メートルもある首を斬り落とすってヤバイ。しかもなんかゲーム感覚だし。


 ヤマタノオロチ討伐戦は一時間くらいかけてようやく残り一本まで減らした。さすがにヴォルトたちにも疲労は見えるが、そこまで戦力が落ちているというわけではない。むしろ動きはさらに洗練されてきた気もする。


 ヴォルトが二本、コクウが一本、ホクトさんが一本、そしてサンディアが三本目の首を落とした。俺だけ一本も斬ってないけど、あんなのは普通の人には斬れない。


 そして首が残り一本となったヤマタノオロチはすでにただの大蛇だと言ってもいい。ただ、あれだけ血が出ていてもいまだに普通に動けるっておかしいを通り越してなんだコイツという感じだ。


 しかも、残った首が司令塔なのか、明らかに他の首よりも一回り太い。口から炎を吐いたときはビビった。それにあれってどう考えてもレールガンっぽいレーザーだった。もう生物じゃないだろ。


『色々な法則を無視して作った魔法生物なので仕方ないですね』

『二番目の神がやったのか?』

『はい。中ボスだから派手に強くしようと言ってましたけど』

『俺も魔王軍の中ボスなんだけどね』


 本物の中ボスと偽物の中ボスってことか。それはどうでもいいんだけど、中ボスにしては強すぎないだろうか。ゲームじゃないけど、それで考えたらヴァ―ミリオンとか魔王ってもっと強いことになるんだが。


 そんなことを考えていたら、ヴォルトたちが最後の首に斬りかかっている。ここまで来れば負ける要素はもうないはずだが、俺は少し警戒しておくか。なんだか残った八本目は目が嫌な感じだ。こちらをずっと観察している気がする。


 それに知能があるように見えるが攻撃が単調なんだよな。考えすぎなのかもしれないが、どうも手を抜かれている気がする。首を七本失ってまで手を抜く必要性があるとは思えないけが、もしかすると他の首を犠牲にしてこちらを調査しているのかも?


 ここはお金を払ってでも確認しておくべきか。


『ヤマタノオロチはアイツだけか? ほかに隠れていたりはしない?』

『いえ、反応はありませんし、ヤマタノオロチはこの世界で一体だけです。あれは魔法生物と言いましたけど、倒すと一定周期後に周囲の魔力を吸収して復活するような魔物です。基本的にこの世界の魔物はそんな感じではありますが』

『ヴォルトたちが生態系を壊すくらいに退治していなくなったとか聞いたけどな?』

『一時的ですよ。そのうちまた普通に現れます』

『迷惑極まりないな』

『魔法王国はその仕組みを解明して遺跡のガーディアンとして使ってますからね』

『古代人すげぇな』


 おっといかん。そんなことはどうでもいいんだ。重要なのは今の戦いだ。大丈夫だとは思うけど、俺は少し離れて状況を見てた方がいい気がする。そもそも俺の攻撃なんて必要ないしな。


 それに俺だけじゃなく、コクウやホクトさんも微妙に感じ取ったのか、攻撃の手を少し緩めて周囲を警戒している感じだ。


『ところでヤマタノオロチの知能はどれくらいなんだ?』

『あの太い首は普通の動物よりは賢いですね。倒した七本は動物並みです』

『戦略を考えるくらいの知能はあると?』

『動きが単調なので何か狙っているかもしれませんね』


 残り一本ということもあってヴォルトとサンディアの攻撃が激しい。でも、さすがに他の首と違って斬り落とせそうにない。傷をつけるのが精一杯のようだ。そもそも他の首だって太さから言えば斬り落とせないはずなんだけど。


「いい加減にしやがれ!」


 怒りにも似たヴォルトの斬りつけ。地面を這うようにしていた最後の首にヴォルトが地面にクレーターができるくらいの斬撃を放つ。ホクトさんとは違って魔力を込めたわけではない普通の攻撃だから衝撃波なんかはでないが、その威力で軽く地面が揺れた。


 そしてヤマタノオロチはいきなり天井を仰いでから少し痙攣、その後、力を失ったかのように地面にゆっくりと倒れた。


 ……わざとらしい気がする。演技的な倒れ方だ。


『あれって本当に死んだのか?』

『……調べるには金貨が発生するようです』

『……なら生きてるってことだな』


 戦い続けて疲れ切っているヴォルトとサンディアは大きく息を吐いている。警戒心が緩んだところで攻撃ってことか。そんなことさせるわけにはいかない。


「ヴォルト兄と三本づつで同点かー」

「妹にばっかりいい恰好はさせねぇよ。そんじゃ、こいつの体内からヒヒイロカネを――あぶねぇ!」

「え?」

「妹ちゃん!」


 待機していてよかった。死んだと思っていた最後の首がサンディアを丸呑みしようとしている。でも、こっちは準備万端だ。それにコクウやホクトさんも警戒していたようですぐに動いた。


『超絶強化を』

『数分は無料ですよ』


 身体強化の魔法とスキルによる超絶強化、そして貰ったアルバトロス。

 ヤマタノオロチがサンディアを飲み込む前にその口の中を切り裂いた。

 俺が出せる最強の一撃とアルバトロスの性能が合わさって、相当なダメージを与えた……はずなんだけど、口が閉じない。


 ……やばい、口の中に魔力が集まっている。飲み込むわけじゃなくてレーザーの攻撃をするつもりか……!


 こんな至近距離であんなの撃たれたら、炭すら残らない。まずはサンディアを精霊ごと力を込めてコクウとホクトさんがいる方へ突き飛ばす。二人と目があった。アイコンタクトじゃないが、あとは勝手に逃げてくれるだろう。問題は俺だ。


『炎を防ぐのにはいくらかかる?』

『高いです。むしろ口の中というか、飲み込まれた方が安いと思います。消化されないように防御膜をはりますので』

『オロチの中に飛び込むのかよ……』

『金貨一億枚でレーザーを無効化しますけど、やりますか? それに下手に躱そうとすれば周囲にいる皆が危険になります』

『なら防御膜はいくら?』

『金貨五枚』

『飛び込むよ』


 それほどお金に差があるならやるしかない。オロチのレーザーは口の中から吐いているタイプじゃなくて魔法みたいなものだ。今は上あごと下あごの間に魔力が集まっているが、喉の奥は安全地帯。飲み込まれるので安全ではないけど。


 ドラゴンとかならまだ分かるが蛇に飲まれるのか。中から切り裂いて出てくるのはちょっと嫌だが仕方あるまい。悩む時間がかかるほど危険なのですぐさま喉の奥へ飛び込んだ。


『金貨五枚で体全体に防御膜を張ります。血も防ぎますから安心してください』

『よろしく』


 生きたまま溶かされるとか想像しただけでも嫌だ。


 直後に衝撃があったけど、おそらくレーザーを放ったのだろう。サンディアはコクウとホクトさんと共に逃げたから大丈夫なはず。後は俺がオロチの外に出ればいい。早く出たい。溶けることはないが、感触が気持ち悪い。というか匂いが……!


『嗅覚を無効にしてくれ』

『数分なら無料です。しました』


 飲み込まれている感触も嫌だが、それまで無効にするとやばいような気がするからこのままでやろう。真っ暗なので何も見えないが、上か下かくらいは分かる。一応無事なアルバトロスで中から上に向かって突き刺した。


 内側は意外と脆いのかすんなり剣が通った。だが、分厚いのか外に突き抜ける感触がない。


 ……やばい。オロチが暴れて目が回りそうだ。というか、地面の上をのたうち回っているからその衝撃で俺までダメージを受けているんだけど。でも、やるしかないよな。


 滅茶苦茶に切り刻むと暴れるのも激しくなったが、それが徐々に大人しくなっていく。どうやら根競べは俺の勝ちのようだ。


 その後、ようやくアルバトロスが外に突き抜けた感触があった。外側からは斬れないが、内側からなら俺でもやれそうだ。そのままの状態で剣を移動させると、少しだけ光が見えた。ホクトさんが魔法で作り出した灯りだ。


 さらに剣を動かして俺が出られるくらいの大きさにする。どうやらヴォルトたちも外側から手伝ってくれていたようだ。すでにヤマタノオロチは息絶えているようで、最後は特に抵抗もなく外に出られた。


 防御膜があるから服には着いてないけど血だらけだ。風呂入りたい。


 立ち上がって大きく深呼吸をする。必死で気づかなかったけど、空気が薄かったんだな。創作では定番の倒し方だが、こんな経験はもうこりごりだ。

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