第158話 溶岩洞

 山小屋で一晩明かしたあと、朝早くから皆で洞窟へ入った。


 コクウは父親のことが判明して清々しい顔をしており、ホクトさんはそれを満足そうに眺めている。そのおかげというか、ヤマタノオロチ討伐に関してはホクトさんも付いてくることになった。


 UR傾国のホクト。見た目からして人気があったキャラだが、ナギナタの攻撃がすべての敵にダメージを与える範囲攻撃の上に、自分そっくりな式神を二体作り出して三回攻撃する、運営は何を考えて実装したのかと言いたくなるほどの強キャラだ。


 カガミさんがパーティにいるとステータスが三倍になるというこれまた頭がおかしいパッシブスキルもあったが、今回それはない。でも、状況的にコクウがいればかなり強くなっているのではないだろうか。


 SSR刀鬼コクウは刀を持たせると攻撃力が倍になるというパッシブスキルを持っていたはず。でも、父親のことで憂いがなくなったコクウはSSRで収まるかどうか分からない。たぶん、もっと強くなっているのではないだろうか。


 ヴォルトは当然強いので問題ないが、サンディアはちょっとよく分からない。そもそもキャラがいなかった気がする。ヴォルトのプロフィールに妹がいることは書いてあったから物語には出ていた可能性はあるが、仲間になるキャラとしては実装されていなかったはずだ。


 スキルの力で精霊魔導士というクラスになったし、勇者しか使えない聖剣を使えるようになっている。基本的に聖剣はサンディアが使っているようだし、明らかに強いよな。


 やばい、また俺が一番弱いのではないだろうか。ミナークから色々と戦闘技術というか心構え的なことは教わったけど、それだけでいきなり強くなるわけじゃない。せめて足手まといにならないようにしないと。


 洞窟に入ってすぐにコクウをこちらを振り向いた。


「ここから先は魔物がいる。ファイアリザードよりも危険なラヴァリザードやラヴァスライムなどもいるから注意してくれ」


 ラヴァといえば、溶岩とかマグマとかそんな意味だったか? 溶岩のトカゲやスライムがいるってことか。それにこの洞窟かなり暑い。もしかして溶岩が流れ出たことでできた洞窟なのだろうか。溶岩洞とかいったっけ。


「おそらくヤマタノオロチは洞窟の最奥にいる。親父の話によれば最奥は巨大な空洞になっていて、そこで見たことがあるそうだ」


 おそらく残滓に操られる前のことなのだろう。珍しい鉱石がとれるということで何度も足をはこんでいたのかもしれないな。それが残滓に操られる結果になったわけだが。


 それらを考えてもここにヤマタノオロチがいる可能性は高いのだろう。このメンバーなら絶対に勝てそうな気がするが、油断は禁物だな。


 コクウを先頭にヴォルト、ホクトさん、俺、サンディア&聖剣&精霊の並びで進む。


 灰色に近い色の岩できている洞窟。はるか昔にできた洞窟なのだろうが、この暑さから考えて近くにマグマの川とかありそうだ。溶岩もゲームならただのダメージで済むかもしれないが、マグマなんかに触れたら明らかにやばい。慎重に行かないと。


 ただ、魔物に関してはそこまで注意しなくていいのかもしれない。コクウとヴォルトが瞬殺している。ホクトさんの出番がないほどだ。コクウはほぼ一太刀で魔物を真っ二つ、ヴォルトも一撃で葬っている。呆れているのは俺だけではないようだ。


「コクウ、ヴォルト、お主ら強さがおかしいじゃろう?」

「そんなことはないと思うが……?」

「魔物が弱すぎるんじゃねぇのか?」


 そんなわけねーだろと言いたいが、こいつらに比べたら大抵の魔物は弱いのは間違いない。普通の人なら倒すのにもっと時間がかかるはずだ。ヴォルトの奴、前よりもはるかに強くなったな。俺とエルセンのダンジョンで戦った時とは段違いだ。


『あの時は勇者の力を貸し出していましたので』

『そういやそうだった。でも、技術的にもかなり強くなってないか?』

『三年間、サンディアと共に魔物を狩りに狩ってましたから』


 生態系を壊すほど狩ったんだろうな。魔物がいなくなった土地もありそう。


 それに俺の後ろにいるサンディアも結構強い。聖剣のおかげかもしれないが、襲ってきた魔物をヴォルトと同じように一撃で倒している。


「妹ちゃん、今度はそっちから来てるよ」

「りょーかーい、うりゃ!」


 言葉とは裏腹に一撃が重い。ラヴァリザードが粉砕された。


 犬の精霊にまたがって高速移動し、周囲は聖剣が警戒、さらにステータス向上中のサンディアが魔物を粉砕か。純粋な強さはともかく、冒険者としてはヴォルトよりも頼れそうだ。


「あれ? 聖剣ちゃん、なんか強くなってない?」

「お、分かっちゃう? なんかこう最近レベルアップした気がするのよね。デデーデッデッデンみたいな」

「なにそれ?」


 なんかのゲームのレベルアップ効果音じゃないか。というか、聖剣の奴、神刀の残滓を吸収して強くなったのに理由を分かってないのか。神刀も浮かばれないな。


 メイガスさん達と一緒にいたときも思ったんだが、クロス魔王軍って世界を支配できるくらいの戦力だな。四天王が多すぎて馬鹿な組織に思われているかもしれないけど、戦力だけならどの組織にも負けないだろう。


 金貨十億枚の対応が終わればヴァーミリオンの軍にも負けない気がする。早くお金を集めてアウロラさんを助けないと――むしろヴァーミリオンを先に倒した方が被害は少ないか……?


『無料のアドバイスをあげましょうか?』


 いきなりスキルから話しかけられた。しかも無料でアドバイスとか珍しいこともあるもんだ。


『せっかくだから、ぜひ』

『ヴァーミリオンの軍をあまり舐めない方がいいです』

『舐めているわけじゃないが、そうなのか?』

『千年近く準備をしていたのです。それこそクロス魔王軍に匹敵する不死者たちがいます。元勇者とか魔王軍の初代四天王とか』

『マジかよ』

『不死者となっているため全盛期ほどではありませんが、それでも強いでしょう。あと二年で残り金貨三十億枚あつめる必要亜張りますが、それまでにヴァーミリオンの軍を倒せるかどうかといえば、難しいと言わざるを得ません』

『ヴァーミリオンの軍を抑えている間に金を稼げということか』


 ヴァーミリオンが指揮を執っているわけではないが、それでも三年近く周辺の領地と戦争をしている。吸血鬼やゾンビなど、不死者という特性を考えればそれくらいはできるとは思うが、まだ本気ではないわけだ。


 それにいつかヴァーミリオンが出てくる可能性もある。そうなると戦いはさらに激化するだろう。たしかにアウロラさんを助ける方が先か。


『被害はありますが、まずはヴァーミリオンの軍をこれ以上侵攻させないように食い止めてもらいましょう。相手の兵力を減らしつつクロス様が強くなって、アウロラも助ければヴァーミリオンにも勝てますよ』

『そうだな。まだ金貨は三十億枚くらいは必要だ。今回のヒヒイロカネでどれくらいの値段になるかは分からないが、お金を稼ぐためにもヴァーミリオンの軍をあの場に留めておく必要があるわけだな』


 おそらくだけど、メリルの商売やメイガスさん達の遺跡探索なら残り二年で金貨三十億枚くらいは手に入るだろう。


 ただ、それは世界の安全が保障されている限りだ。エンデロア王国みたい滅んでしまうとお金集めが困難になる。それを防ぐためにも防衛と金貨集めはそれぞれやってもらうしかないな。


 それにオグステン帝国みたいに吸血鬼が暗躍している場所があるかもしれん。それらは俺が潰しておかないと。


「皆、そろそろ大空洞に着くぞ。周囲を警戒してくれ」


 コクウが振り返ってそう言った。


 考え事をしていたらいつの間にか到着していたか。

 さて、いることは分かっているんだ。サクッと倒して――皆に倒してもらってヒヒイロカネを手に入れよう。

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