第157話 父親の真実
コクウの案内で霊峰と呼ばれる場所の洞窟へやってきた。
到着した時点で夜になってしまったので、洞窟の近くにある山小屋というか掘っ立て小屋だが、そこで今日は休むことになった。今は皆でその準備をしている。
なぜかホクトさんも付いてきたが、おそらくコクウと共にいたいのだろう。それにコクウの父親のことで色々と心配しているようだ。
コクウの父親、コウゲツについてはここに来るまでに色々聞いた。神刀を超える刀を作ろうとしていた刀鍛冶であること、凶刀を作り上げた人物であること、行方不明になり、見つかった時はすでに亡くなっていたこと、これくらいの情報がある。
また、見つかったときは本人がやったと思われる刀傷が多数あった。ただ、傷をつけたはずの凶刀はその場になかったらしい。
テンジクが操られていたことから考えて、凶刀がコウゲツを操っていた可能性が高い。それに抵抗して洞窟に捨てたというのがコクウの憶測だ。
凶刀が抵抗したのか、それとも凶刀の支配から逃れるためにコウゲツがやったかのどちらかで傷をつけたのではないかとも言っている。
スキルに真実を確認することはできるが、それをコクウに証明することはできないだろう。コクウから見たら俺がそう言っているだけという状況でしかないが、それでも確認するべきだろうか。もっと酷い真実だったら知りたくはないが。
『コクウの認識であってますよ。コウゲツは操られましたが、それを精神力ではねのけました』
『まだ聞いてないんだから言わないでくれよ。でも、凶刀を作ったのはコウゲツなんだよな? 凶刀は神の残滓じゃなかったか?』
鬼だとしても神の残滓を作ることはできないだろう。そもそも神の残滓はスキルから分け与えるものだと言っていたし、あれも元はスキルが作った物だろう。
『あの残滓は凶刀に憑りついただけで、凶刀そのものが神の残滓というわけではありませんよ』
『そういえばそうだったな』
『それに最初に憑りついたのはコウゲツのほうで、コウゲツが抵抗して自ら命を絶とうとしたので仕方なく凶刀に憑りついたんです』
『ええ?』
そもそも意思を持つ神の残滓はいわゆる精神体で実体を持たないらしい。何かに取りつくことでようやく世界に干渉できる。そういう残滓は少ないながらも世界中にいるようで、それぞれの性質で色々やっているとのことだ。
他にもオリファスが持つ「メタトロン」やヴァーミリオンが持っていた「未来予知」のスキルのような残滓もあるが、これらは意思がなく、所有者が亡くなるとどこかの誰かに受け継がれるという。
そして神刀のような物質として存在する残滓もあり、これらは何らかの形で本体が失われると相手に吸収される。それは基本的に残滓同士でしか起こらないが、聖剣だけは特別だという。
なんでそんな複雑な状態なのかと聞けば、二番目の神のロマンらしい。
『「残滓ってかっこいいな!」と「世界中にばら撒こう!」と言ってましたね』
『二番目の神ってろくなことしてないな』
『すべての因果の原点ですから良いも悪いもありませんよ』
この世界を創ったのが二番目の神なんだから当然か。でも、かっこいいくらいで世界にばら撒くな。
「おーい、クロス、ぼーっとしてないで自分の寝床の準備はしてくれよ。明日は洞窟に行くんだから早めに飯食って寝ようぜ」
「悪い。すぐやるよ」
ヴォルトに注意されちまった。確かにその通りだ。でも、どうするかな。コウゲツの話をコクウにするべきか。それが真実だと伝えるには俺のスキルについて説明をしないといけないんだけど。
……迷うことはないか。コクウは俺のために色々やってくれているようだし、説明しておくべきだろう。ホクトさんもいるけど、たぶん、俺のためになんかしてくれているはずだし、カガミさんの姉だからな。隠し事はなしだ。
飯を食いながら説明しておこう。
食事を終えたあと、コクウとホクトさんに俺のスキルの性能と、コウゲツのことを説明した。スキルに関してはもともと不思議系スキルという認識がされていたので、受け入れ自体は簡単だったようだ。
「面白過ぎるスキルではあるが、納得できる部分も多いな」
「儂もコクウと同じ感想じゃ。クロスらしいというかなんというか」
「俺らしいって何さ。まあ、そんなわけでね、さっき話したコクウの親父さんについてもスキルで調べた情報だから間違いないよ」
コクウは大きく息を吐いてから頷いた。
「そうか。父は神の支配を精神力で撥ね退けたか」
「そうなるね。凶刀に憑りついていた神の残滓は元はコクウの親父さんに憑いていたらしいよ」
「支配できなくなったので凶刀に憑りついたというわけか。父が自ら怪我をしていたのは――」
コクウが俺の方を見ている。
そのあたりは知らないがスキルなら分かるよな?
『相手を弱らせることができれば支配が楽になります。コウゲツを一時的に弱らせて支配を強くしようとしたのでしょう。ですが、それに屈することはなかったということです。それが仇となって亡くなってしまいましたが』
限界まで弱らせても支配はできなかった。だから持っていた凶刀の方に憑りついた。そしてコウゲツは洞窟を出て帰ろうとしたんだろう。途中で限界が来てしまったわけだ。
コクウにそのことを教えると「そうか」と言った。
「クロス、感謝する。父が強き者であったと分かっただけで俺は満足だ」
「こういう時に酒でもあれば完璧だが、それはこの仕事が終わってからだな」
「ああ、最高の酒で乾杯しないとこの気持ちは収まらん」
コクウはずいぶんと嬉しそうにしていて、それをホクトさんが嬉しそうに眺めている。ヴォルトも最高の酒で乾杯というのに反応したのか嬉しそうだ。サンディアは「最高のジュースも出してよー」と文句を言っているが。
コクウの方はそれでいいとして、まだ謎はあるよな。
そもそもコウゲツはいつ神の残滓に憑りつかれたのだろう。俺みたいに生まれたときからなんてことはないと思うんだけど。
『ヤマタノオロチを洞窟で見たのがコウゲツなのですよね』
『もともと神の残滓はヤマタノオロチに憑いてたってことか?』
『それは違います。残滓はヤマタノオロチに憑こうと色々な物に憑依しながらここまで来ました。でも、力不足でオロチに憑りつけなかった。そこにコウゲツがやってきたので憑りついたのです。その後、残滓はコウゲツを操って凶刀を作り、それでヤマタノオロチを弱らせようとした。その前にコウゲツの支配が解けましたが』
『あの残滓はオロチを狙ってここにいたのか。オロチに憑りつけなかったところに、たまたまコウゲツが来てしまったと』
『コウゲツは刀鍛冶ですからね。洞窟でとれる鉱石に用があったのでしょう。そのあたりを利用して憑りついたと思いますよ』
『なら神刀を取り込もうとしたのも、ヤマタノオロチに憑りつくための手段か?』
『そうですね。結局失敗しましたが』
状況は分かったけど、動機が分からないな。そもそもなんでヤマタノオロチに憑りつこうとしていたのかが分からない。スキルはそれも知っているんだろうか。
『そもそもあの残滓は神になろうとしていただけです。他の残滓を取る込むためにも、強力な肉体を求めていました』
『なんで神になれると勘違いしている奴らが多いんだ?』
『なんででしょうね? 馬鹿なんですかね?』
『お前の一部なんじゃないの?』
『力は分け与えていますが、思考を似せているわけではありませんから。独自の思考で動いているのですから、元は同じでも私とは全く異なる存在です』
ものすごく嫌そうに言っている。俺としても別物だと思いたい。残滓を取り込んだ――というよりも残滓を取り返したという感じだが、スキルの性格が変わってきたら困るし。
『安心してください。取り込んだ残滓の影響は受けませんから』
『それは良かった』
……? はて? 残滓の影響は受けていないかもしれないが、アウロラさんの魂を取り込んだら感情が芽生えたのか? 残滓以外だと影響を受けるということか?
「クロス、そろそろ寝ようぜ。明日はオロチと戦うかもしれないんだからな」
「え、あ、ああ、そうだな。明日に備えて寝るか」
余計なことは色々終わってから考えよう。まずはヤマタノオロチだ。
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