第153話 ロマンあふれる世界
俺がいるというだけでホクトさんはヴォルトや聖剣を解放してくれた。
解放とは言ってもヴォルトがいた離れに居なくてはならない。泊まっている狸亭に関してはサンディアが解約してくると精霊と共に向かった。今、部屋には俺とヴォルト、そして台座に刺さった聖剣だけだ。
ヴォルトと面と向かって話をするのも久しぶりだ。遠隔通話用の鏡を通して話はしていたが、直接会うとやっぱりちょっと違うな。たった三年というべきか、もう三年と言うべきか。
さすがにサンディアが戻ってくる前にお酒で乾杯はまずいだろう。エルセンにいた頃はそんなことも考えずに冒険者ギルドで乾杯していたんだけどな。
「クロスはずいぶんと強くなったじゃねぇか」
「本人はぴんと来てないんだが、そう見えるのか?」
「体つきががっしりした感じには見える。魔族の割には貧相だったからなぁ」
「悪かったな。俺は肉体派じゃなくて頭脳派なんだよ」
そんなわけない。それに肉体派でもない。薬草採取とたまに見かけるウサギやイノシシを狩っていたくらいだ。魔物だってほとんど狩らずに逃げ回っていたわけだし。
俺の答えが冗談だと分かっているのか、ヴォルトはすぐに笑い出した。
「確かにあの村じゃ頭脳派の方だな。一番はフランさんだが」
「フランさんはどちらかというと肉体派だぞ?」
「何言ってんだ、フランさんは両方を兼ね備えた最高の女性だろうが」
え? これって惚気か?
「ちょっと確認なんだが、お前とフランさんって付き合ってたりしないよな?」
「口説いてはいるが、答えは戦いが終わってからって言われてる」
「マジかよ」
ほぼ間違いなくこいつら付き合うぞ。変なフラグでもヴォルトとフランさんならへし折っていきそうな勢いだ。今から友人代表のスピーチを考えておくか。
「フランさんはすげぇよな。ヴァーミリオンの不死軍隊に対して全戦全勝らしいぞ。さすがに領地に攻め込むほどではないけど、一時的に奪われた領地をすぐに取り返すって聞いてる」
ヴォルトの言葉に頷く。フランさんの部隊は女騎士だけの編成だがそれが強い。ゲームでも壊れキャラとしてその名を馳せていたからな。
「フランさんの活躍を聞くたびに俺も頑張んなきゃって思うぜ」
「……色々巻き込んで済まないな」
「何言ってんだ。最初に巻き込んだのは俺の方だろ。フランさんの件や妹の件、それに教会の件とか色々解決してくれただろうが。今度は俺がクロスに力を貸す番だ」
いい奴でイケメン。知らない奴なら殴りたくなるが、ダチだと思えば最高の奴だと思える。
「いいわね! 男同士の友情ってそれだけでご飯三杯はいけるわ!」
「お前、ご飯を食べる口がないだろ」
さっきから大人しいから反省でもしているかと思ったら、聖剣は俺たちの会話を聞いていただけか。三年経っても全く変わってないな。
「ヴォルトや妹さんは聖剣と三年いたけど、大丈夫だったか?」
「大丈夫って何よ! ヴォルト、言ってやって!」
「大変だった。毎日勉強させようとするし、食い物の食べ方まで口うるさいんだぜ」
「あんな野生児みたいな食べ方してたらダメでしょうが! ヴォルトはギリセーフだとしても妹ちゃんは駄目よ!」
簡単に目に浮かぶ。ヴォルトもサンディアも食べ物が親の仇かっていうくらい早食いだからな。それに勉強か。二人とも読み書きが苦手だとか聞いたし、そのあたりを教えているのかも。この辺りは聖剣に味方したいところかな。
おっと、この辺りの話はまた後にしようか。まずは東国へ何しにきているかだ。それと神刀の修理もある。お金がどれくらいあるかも聞いておきたい。
「ところでヴォルトたちはなんで東国へ来たんだ? ギルドの依頼だとは聞いたが」
「そうなんだよ。金稼ぎのために強力な魔物を狩ってたら、ギルドのランクが上がっちまってな。指名依頼とやらがかなり来るようになっちまったんだ」
「良くある話だな……ということは東国にも指名依頼で?」
「面倒だから断ろうと思ったんだが、貴族の依頼だからどうしてもってお偉いさんに言われてな。駄々をこねたおかげで結構な報酬がでるようになったから、まあいいんだけどよ。で、ここについてすぐにこの有様だったわけさ」
「まったく、困ったもんよね」
「依頼はともかく、ここでの騒動はお前がやったんだぞ」
聖剣は当事者意識を持ってもらいたい。それにしても指名依頼か。冒険者ギルドなんて言っても結局は何でも屋の仕事斡旋所みたいなもんだ。ギルド所属という身分はそれなりに保証されているが王族や貴族の依頼を断れるほどの権力はギルドにない。
「それで、依頼ってのは?」
「東国にあるヒヒイロカネって金属が欲しいんだと。カガミの姉のホクトがここにいるって言うから聞きに来たんだ」
「なら、どこにあるという情報はホクトさんから聞いたのか?」
「聞いたけどそれは知らないらしい。ただ、あの神刀がヒヒイロカネで出来ているって噂らしくてな、それで見せてもらったんだよ」
「そういう経緯か。そこで聖剣が神刀を折ったと」
「一撃で粉砕してやったわ!」
「そのおかげで俺はここまでくる羽目になったんだけどな」
「私に会えて嬉しいでしょ?」
なんだろう。聖剣のいない日々がすごく幸せに思えてきた。いや、確実に幸せだ。それは声を大にして言える。
それはいいとして、神刀って神の残滓だよな。ここは確認しておくべきだろう。
『神刀はヒヒイロカネで出来ているのか?』
『そうですね。あれの本体はヒヒイロカネで出来ています。東国のロマンだそうで。それに私が残滓の力を分け与えました』
『二番目の神はロマンが多すぎるなぁ』
『確かに。ですが、この世界を捨てた一番目の神よりも神でしたね。この世界をより楽しい物にしようと頑張っていましたので』
『楽しい物……?』
『ロマンあふれる世界にしたいということです。人の身でこの世を去るまで多くの物を作っていましたからね。寝る間も惜しんで私に依頼してました』
気のせいじゃないと思うんだが、スキルは二番目の神のことを話すときちょっと嬉しそうな気がする。なにかいい思い出でもあるのだろうか。
『嬉しそう? 私がですか?』
『心の声が聞こえちゃったか。なんとなくだけど、スキルから嬉しそうな感情が伝わってくるぞ』
『あの頃に感情はほとんどありませんが、今考えると楽しかったかもしれませんね。何もない世界に何かができていく。その過程を見るのは楽しかったと思います。もう遥か昔のことですが』
スキルにも良い思い出があるんだろうな。それはいいとして、ヒヒイロカネか。ホクトさんは知らないようだけど。
『ヒヒイロカネは東国にあるのか?』
『もちろんありますよ。それとヒヒイロカネがあれば、神刀を直すためのお金を減らすことができます』
『マジか。ならそれを探さないとな。ヴォルトたちも依頼が達成できるし、安く直せるなら見つけるしかない』
『そうですね。ヤマタノオロチという魔物の腹の中にヒヒイロカネはありますので、そこから取り出してください』
『……それもロマンなのか?』
『私も同じように聞きましたが、もちろんだと力強く言ってました』
ロマンは分かるが、二番目の神が嫌いになりそうだ。
とはいえ、こっちにはヴォルトがいるし聖剣もある。それにサンディアと精霊がいるからな。どれほどの強さなのかは知らないが、まあ、問題ないだろ。
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