第151話 恋愛関係に強い聖剣
俺は今、東国の首都、千輪にやってきている。一度来たことがある場所なので一週に一度だけ無料で使える転移でエル・ドラードから直接やってきた。
理由はヴォルトの妹であるサンディアから遠隔通話用の魔道具を通して連絡が来たからだ。
「兄さんが神刀を折っちゃって捕まったんだけど、どうしよう?」
「それは俺が聞きたい」
なんでそうなったのかまでは聞いていない、というよりも詳しくはサンディアも知らないようだ。話によれば聖剣が騒いでいたらしく、持っていたヴォルトが折ったと言うよりも聖剣が勝手に折ったという話だ。
なんでそうなるとしか言えないが、ヴォルトとしても暴れて脱出するわけにはいかないようで、サンディアを通して俺に連絡してくれたわけだ。
東国にいることは以前少し聞いていた。冒険者ギルドの依頼だとか。少し時間を置いたらこんな状態になっていて驚きだが。
何をどうすれば許されるのかは全く分かっていないが、カガミさんの姉であるホクトさんに謝るしかない。刀を抜いただけで怒られたのに、折ったらどこまで怒ったのか想像できん。
そんなわけで千輪にやってきたが、三年ぶりなのに特に変わった様子はない。中央広場に巫女服を着た猫耳姿のアルファたちの像ができているくらいだろう。
まずはサンディアと合流しようと連絡を入れる。
「おーい、サンディア。今、千輪に着いたんだけど、どこにいるのかな?」
「さすがクロスさん、移動が早いね! 私は狸亭って宿にいるんだけど」
「狸亭……あれかな。大通り沿い?」
「そうそう。私が外に出るからそこで合流しようよ」
サンディアがそういうと通信が切れる。そしてすぐさま狸亭の外にサンディアが出てきた。手を大きく振ってこっちに駆けてくる。精霊の犬と一緒に。
「クロスさん、久しぶり! 元気だった!? 私は元気だよ!」
「うん、ちょっと落ち着こうか」
相変わらず元気そうだ。三年前まで寝たきり状態だったのが信じられないほど回復している。とはいえ、アレは精霊に魔力を食われていただけだからかな。
その精霊をスキルの力で犬にしたわけだが……でかいな。最後に見た時よりもさらに二回りくらいでかくなっている。
「落ち着いた? なら聞くけど、ヴォルトと聖剣はどこにいるのかな?」
「兄さんも聖剣ちゃんもコクーインってところにいるよ。牢屋に入れられたんだけどご飯はちゃんと三食出るみたい」
「ホクトさんは罪人だろうとちゃんとしてくれるから大丈夫だとは思うけどね」
「聖剣ちゃんはやばそうな鎖でぐるぐる巻きにされて封印されたとかなんとか」
「かなり文句を言ってるんじゃないの?」
「封印されて話せないみたいだって兄さんが言ってた」
昔は静かになった聖剣を夢見ていたが、実際になってしまうと寂しく感じるな。
「最後の言葉はぷんすかツンデレ金髪狐耳のじゃっ娘巫女キターだったかな?」
「聖剣は放っておこう。そもそも聖剣がやらかしたことだし。とりあえずヴォルトを助けに虚空院に行こうか。聖剣の方はできたら助けるって感じで」
「クロスさんは酷いなー。でも、私も一ヶ月くらいは聖剣ちゃんに大人しくしていて欲しい。毎日勉強させるんだよ、ひどくない?」
「意外とまともなところがあるから評価しづらいんだよね……」
ヴォルトとサンディアはスラムで育ったからまともな教育は受けていない。ヴォルトは勇者として教会の支援は受けていたけど、それはほとんど病弱だったサンディアに使われたはず。勉強どころじゃなかっただろう。
それを考えれば聖剣がやっていることは正しいことではあるが、アイツの場合、個人的な理由で勉強を教えているんだろうな。たぶんだけど。
まあ、それはいい。まずはヴォルトの解放だ。
俺のことを覚えてくれていた獣人がいて、ホクトさんに連絡を入れてくれることになった。
あれから三年経ったとはいえ、ツンデレをこじらせたままだとは思う。しっかりと耳を見て言葉の真意を掴まないと。
そんなことを考えていたら、ザシュザシュとわらじで地面を歩くような足音が聞こえてきた。しかもかなり大きい。音からして怒っている。
金色の髪と狐耳、そして巫女風の服を着たホクトさんが目を吊り上げてこちらに向かってきている。もうすでに逃げたい。
「なにやっとるんじゃ、お主の仲間は!」
「お久しぶりです、ホクトさん」
「うむ、久しぶり――じゃないわ! お主の仲間だと言うから神刀を見せてやったのに、いきなり折るとは何事じゃ! 東国でもこれほどの事件は初めてじゃぞ!」
鬼が襲ってきた事件よりも上になってるよ。まあ、そうだよな。神刀を奪われるとかそんな状況以前に折っちゃってるし。
「あの、俺も聞いてすぐに駆け付けただけなんですよ。どんな状況で何があったのか確認したいので、まずはヴォルトに会わせてもらってもいいですか?」
「……仕方あるまい。じゃが、あの男は持っていた剣が勝手に折ったと言っておるぞ。本当に信じられる奴なのか?」
「その剣にも話を聞いてもいいですかね?」
なぜかホクトさんは俺の方を見て残念そうな顔をする。怒りの顔から目じりが下がり、憐れみを感じる視線を俺に投げかけている。
「クロスよ。お主がこの東国を守ってくれたことには感謝しておる。じゃが、言うに事欠いて剣に話を聞くなど何を言っておるんじゃ。ごまかすにしてもそれ相応の方法があると思うぞ?」
「いえ、アイツは聖剣だから話せます。そういう剣なんです」
「聖剣……じゃと?」
「魔王を倒せる唯一の剣と言われていますね。以前、俺が管理していたダンジョンの台座に刺さってたんですが、当時からうるさくて困った奴でした」
「……儂をからかっておるんじゃろう?」
「そんな命知らずなことはしてませんよ。そうだ、カガミさんも面識はあるはずなので聞いてみてください」
「む? よし、ならカガミに聞いてみようぞ!」
心なしかホクトさんが嬉しそうだ。狐耳がピンとしているし。たぶん、カガミさんに連絡する理由ができて嬉しいんだろうな。
ホクトさんは鏡を取り出すと、そこに魔力を通した。すると、そこにカガミさんが現れる。
「ホクト姉さま、どうされました?」
「うむ、少々聞きたいことがあってな……そちらは息災か?」
「はい、アランと一緒ですし、数週間前にクロスさんが帝国を良いところに変えてくださったので生活も楽になりました。アランの仕事は増えましたが、しっかりと支えています」
「そうか。よくやっているようでなによりじゃ。だが、役目を終えたら東国へ帰ってくるのじゃぞ」
「もちろんです。その時はアランと一緒に帰りますので」
「うむ、楽しみにしておる。では、体に気を付けて――」
「聖剣のことを聞いてくださいよ」
「そうじゃった。カガミよ、聖剣のことを知っておるか?」
「聖剣? 勇者ヴォルトさんが持っている剣のことですか? サンディアちゃんも使えたとは思いますが」
「そう、それじゃ。その聖剣じゃが、話すことができるのか?」
「はい、できますよ。恋愛関係に強い聖剣です。私も少し相談に乗ってもらいました」
恋愛関係に強い聖剣ってなんだ? というか、カガミさん、アレに相談したの? ダメだろ? ホクトさんも微妙というか変な顔をしているが、気持ちは痛いほど分かる。
「う、うむ、カガミがそう言うなら間違いないようじゃな」
「はい、ホクト姉さまも一度ご相談した方が良いかと思います。コクウ様と色々あると思いますので」
「し、知っておったのか……!」
「え? あ、もしかして隠してました……?」
隠していると思っているのは本人だけというのは良くある話だな。でも、そんな話は後にしてほしい。
「あの、ホクトさん、それは夜にでも改めて話をしてもらっていいですか?」
「そ、そうじゃな。よし、カガミよ、夜にまた連絡する」
「あ、はい。待っていますので」
カガミさんの声がそう聞こえると、通信が終わったようだ。ホクトさんとコクウの関係を聞いてしまったが不可抗力だ。ここは何も聞いていない風に装うしかない。
「聖剣のことは分かってくれましたよね。ならヴォルトと一緒に聖剣の話を聞かせてもらってもいいですかね?」
「……許可しよう。じゃが、今の儂とカガミの会話は聞かなかったことにしてほしい」
「……何か話してましたっけ?」
「いや、何も。クロスが武士であって助かる」
武士じゃないけどね。そして俺はいいけど、サンディアがワクワク顔なのは大丈夫だろうか。余計なことを言わないで欲しいが、難しいかな。
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