第116話 戦闘狂
アギが向かってきているが、まずは落ち着いて状況確認。
俺を襲っているのはアギ一人。
ワンナはアウロラさんとメイガスさんが相手している。
上空ではオリファスとおそらくテデムが戦っているはずだ。
他の獣人や亜人たちはヴォルトたちが戦っているからこっちまではこない。
昼なのでアギに変身はない。
それでもさっきの攻撃で強いのは分かった。
それにスピードもある。たとえ昼でも油断はできない。
こっちは身体強化、超絶強化、聖槍によるステータス向上。
アギの強さが分からないから何とも言えないが、互角くらいにはなったか?
さっきと似たような攻撃がくる。
もう一度受けて状況を確認しよう。
砂の上を走るというよりは跳ぶって感じだな。
さっきもアギの足元の砂が爆発したようになって、こっちに向かってくる。
しかも速い。
アギの右ストレートを聖槍で受ける。
激しい衝撃だが、吹き飛ばされずに受けることができた。
これにはアギも驚いたようだ。次の瞬間には笑ったが。
「やるじゃねぇか!」
「照れるから褒めるなよ」
今度はこっちの番だ。
こっちの攻撃はどれくらい効果があるのか確認しておかないと。
槍なんかたいして使えない。ならいつも通りのフルスイングだ。
砂で足場が悪いから踏み込みが甘いがそれでも腰を入れてのフルスイング。
その攻撃をアギは左膝を上げるようにして脛で受けた。
見ているだけでいたそうだが、アギは何でもなさそうにしている。
というか、コイツ、裸足か。
上半身は裸だし、ズボンは空手の道着みたいなズボンをはいている。
自分より強い奴に会いにでもいこうとしてんのか。
そう思ったのも束の間、受けた左足がそのまま上がった。
その動きで槍が押し戻され、体勢を崩す。
「チェストォ!」
あがった足がそのまま俺の方に落ちる。
かかと落としか!
すぐに後ろへ跳ぶとアギのかかと落としが地面にさく裂して、砂が巻き上がった。
目つぶし効果もあるが、それだけじゃない。
あれは次の攻撃の動作も兼ねてる。
今度は巻き上がった砂の中からアギが右膝を突き出してきた。
跳び膝蹴りだが、これも速い。
なんとか槍でその攻撃を受けたが、アギはそのまま空中で左足の蹴りを俺の頭に向かって放つ。
それをしゃがんで躱した。
アギは空振りしたが、それも想定内だったんだろう。
左足の蹴りの勢いのまま横に回転しアギは背中を見せた。
そして今度は空中で体勢を変えて、右足のかかとであびせ蹴りを見せる。
それも槍を横にして受けたが、衝撃が強すぎる。
その場では耐えられないのでそのまま後ろへ衝撃を逃がすように跳んだ。
さすがにアギも地面に寝転がるような体勢になって攻撃は止まる。
アギは「ほー」と言いながら、立ち上がり、ズボンの砂を払った。
「あの三段蹴りを受けきったのはお前が初めてだ」
「だから褒めるなって」
「いいじゃねぇか。せっかく編み出した技を使い切る前に終わっちまってたんだ。ようやく全力でやってもいいんだからいくらでも褒めてぇところだ」
全力でやって欲しくないんだけどな。
相変わらずの戦闘狂だが、そこに変な感情がないのは悪くない。
ここは交渉できるかもしれないな。
「少し話をしないか?」
「あ? 何の話だ?」
「アギ、お前、負けたら俺の下に付け」
「……へぇ?」
「シェラは殺したが、話しが通じないと思ったからだ。お前は違う」
アギは何も答えない。黙って俺を見ているので続けた。
「戦いの場は別に用意してやる。どうだ?」
「そりゃ、俺を殺す価値もないと言ってんのか?」
「殺したくないって言ってる。他の四天王はともかく、お前は戦闘狂だがまともだ。共存できると思ってる」
「お優しいこった。だが、俺が共存を望んでいるとでも思ってんのか?」
「……最後の一人になるまで戦い続けるつもりか?」
「それも悪くねぇなぁ……でもよ、一つだけ言えることがあるぜ」
「それは?」
「そんなことは俺に勝ってから言いな!」
アギは瞬間移動ともいうべき速さで俺の目の前に移動する。
思考速度を上げている状態でもほとんど見えないほどのスピードでまた右ストレートが放たれた。
頭を狙ってきたその攻撃を首を右に曲げて紙一重で躱す。
だが、次の瞬間、左足に痛みが走った。
「ぐっ!」
左足にアギの右足で蹴りを入れられた。
ローキックってやつか。右ストレートは囮かよ。
今度はさらに左足を踏み込みながら左のボディブローを放つ。
槍では受けられない。
右腕を折り込むようにして腹部を守る。
そんな防御はお構いなしとアギはパンチを振りぬく。
体が宙に浮いた――と思ったら吹っ飛ばされた。
あの馬鹿力め。胃の中の物が出そうになる。
オリファスじゃないのに吐きそうだ。
しかし、これじゃ勝てそうにもないな。
こんだけ強化してもアギには戦闘技術で勝てない。
なら後はアギを弱くするしかないな。
アギ唯一の弱点。それは弱体化。
基礎ステータスが高いので割合で下がる弱体魔法やスキルがかなり効く。
というよりも必須だ。それでようやく普通の強敵になる。
『アギを弱体化してくれ』
『かなりの値段です。金貨一千万枚くらいは掛かりますが』
『もちろんやる。ありとあらゆる弱体効果をアギに付与してくれ』
『しました。時間は十分。それまでに決着をつけてください』
十分。短いが、それ以上の時間をかけて倒せないなら永遠に倒せないだろう。
アウロラさんがいてくれれば助かるが、あっちでワンナが邪魔しているようだ。
俺を吹き飛ばしたのもアウロラさんと離れるためだろう。
なら俺一人でやらないとな。
大きく息を吐きだしてから、アギに向かって聖槍を投げた。
「うお!」
アギはそれを受けずに躱す。
その間に距離を詰めた。
そして腰に下げていた木刀でフルスイング。
「なに!?」
アギは腕でそので攻撃を受けると困惑した声を出した。
思いのほか痛かったのだろう。
そりゃそうだ。今のお前は防御力が落ちてる。
すぐさま地面に刺さった聖槍を左手で手に取り、そのまま槍と木刀の二刀流だ。
それでアギを挟み込むように攻撃する。
アギはそれを左右で片腕で受けるが、顔がゆがんだ。
直後に左足による蹴りが真下から真上に上がったが、今のアギなら今の俺には普通の速度だ。それでも速いけど。
その攻撃を躱すと、アギはそのまま後方へバックステップして距離を取った。
そして俺を面白そうに見る。
「お前のスキルって奴か。テデムの奴が警戒してたぜ。使われたら終わりだってな」
「なんのことだか分からないな」
「スキルを使わせない方法を考えろって言っといたんだが駄目だったらしい」
「だから何を言ってるのか――」
「だが、無限には使えないらしいな。何かしらの代償があるって聞いてるぜ?」
鋭いじゃないか。
でも、代償が金だってことまでは知らないようだ。
「面白れぇ。テデムの奴はスキルを使われたらできるだけ時間を引き延ばせって言ってたが、こんなの見せられたら我慢できるわけねぇよなぁ?」
くそ、意外とばれてる。
だが、アギが馬鹿でよかった。
コイツはそんな小細工はしないんだろう。
アギが突っ込んでくる。
明らかに異常があるのにそれでも向かってくるのは何か奥の手があるのか?
……いや、大丈夫。金貨はあと三千万枚近くある。何が起きても対処できる。
明らかに遅くなったパンチを躱し、カウンター気味に木刀で撃ち込む。
アギはダメージを受けつつも全く構わないようで、さらに攻撃してきた。
「いてぇなんて久しぶりだぜ、クロス!」
「俺はしょっちゅうだよ」
アギは痛みすら楽しいのかよ。
知りたくはないがこれはチャンスだ。
痛みに耐えることはできても体が深刻なダメージを受けたら動かない。
特に足を狙って攻撃してやる。
炎天下の砂漠で五分近い攻防が続いている。
でも、俺の方が明らかにダメージを与えている。
全く守らないアギはさらに動きが鈍ってきた。
これなら時間内に――
「神魔滅殺!」
「うお!」
いきなり攻撃が割り込んできたと思ったらアウロラさんだ。
アギは体勢を崩しながらもその攻撃を躱して、地面を転がりながら距離を取った。
くそ、タイミングが合わずに追撃できなかった。
アウロラさん達が戦っていた場所を見ると、ワンナが大の字で倒れていた。
どうやらアウロラさんが勝利したようだ。
よし、結局俺だけじゃ勝てなかったけど、これで勝ちだろう。
「おいおい、クロスとの戦いに水を差すんじゃねぇよ」
「私達は戦いに来たのではなく、倒しに来たんです」
「なるほどなぁ。でも、そんなこたぁ、俺には関係ねぇんだよ」
「……もう一度言います。降伏してください」
「あ? なんで勝った気でいるんだ?」
「……私達二人に勝てると? どう見てもボロボロですが?」
「ん? ああ、そうだな。それにお前ら二人相手じゃ確かに分が悪い。それにこのままじゃクロス一人にも勝てねぇ。そろそろ頃合いだな」
頃合い?
やっぱり何か奥の手があるのか?
アギは大きく息を吸い込むと空に向かって吠えた。
狼の遠吠えではあるが、迫力が違う。
その声に空気全体が激しい振動を起こしている。
『馬鹿な……なんであれを……』
『え? どうした?』
『気を付けてください。アギは神の残滓を使いました』
『え? 神の残滓? ……なんだ?』
視界が急に暗くなった。
真っ暗ではなく夜という状態だが――夜?
空を見るといくつもの星が見え、満月が輝いている。
慌ててアギの方へ視線を向けると、狼の姿に変身している最中だった。
「さあ、第二ラウンドと行こうじゃねぇか! テメェら二人まとめて掛かって――」
「ようやく使ったか」
「あ? ――!」
アギの胸元から腕が現れる。
あれはどう見ても貫かれて……背後に誰かいる?
アギの背後に黒い靄のようなものが現れ、それが徐々に人の形になった。
どう見てもヴァーミリオンだ。
「テ、テメェ……ヴァーミ……!」
「たとえ満月でも心臓を貫かれたら死ぬだろう。だが安心しろ。お前を死人にして仲間にしようとは思っていない」
ヴァーミリオンはアギから腕を引き抜き、腕を思いきり払って血を地面に飛ばす。
アギはヴァーミリオンを睨みながらうつぶせに倒れた。
「やあ、クロス、久しぶりだね。元気だったかい?」
冷酷そうな顔から一転、ヴァーミリオンは久々に会った友人のような顔で笑った。
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