第115話 奇襲

 アギたちの軍隊がいるオアシスの近くまでやってきた。


 まだこちらに気付いていないようだが安心はできない。

 砂漠なんて隠れる場所がないんだ。

 辛うじて砂丘になっているところに身を隠せるくらいだ。


 オアシスの攻略もこれが危険だった。

 ありがたいことにメイガスさんとオリファスの魔法は長距離攻撃ができるので常に先制できたけど。


「それじゃいつも通りお願いしていいですかね?」


 先手必勝。というよりも昼間のうちに片を付けたい。

 今はまだ昼だけど、アギと戦っている最中に月が出たら困る。

 月の光がどこまで有効なのかは知らないが、夕方くらいでも月は見えるからな。


 ……はて?

 頼んだのにメイガスさんもオリファスも魔法を使わないな。


「どうかしました?」

「魔力の流れが少しおかしくないかしらー?」

「……意見が合うのは癪だけど、そんな気がするわねぇ……でも、どこから……?」


 魔力の流れがおかしい?


「それって――」

『伏せてください!』


 いきなりだったので驚いたがすぐに伏せた。

 そして身体強化の魔法を使う。


 直後に俺の頭を何かが掠めた。

 攻撃されてる?


「攻撃されてる! みんな伏せろ!」


 慌ててそう言うと、全員が地面に伏せた。

 そしてメイガスさんは周囲に結界を張る。


 全員がキョロキョロと周囲を見渡したが、特に何かがいるようには見えない。

 だが、結界に何かの攻撃が当たっているのは分かる。


 さっき攻撃が掠めた場所と地面に当たった角度から考えて上か?


「メイガスさん、上に誰かいますか?」


 メイガスさんは何も言わずに上を見た。


「いるわねー。でも、すごく上空。あんな所からクロスちゃんを狙うなんてすごいわね。こっちの攻撃も届くとは思うけど、あんなに遠いと追尾の魔法も無理ね」


 スキルのおかげで直撃は免れたけど、当たってたらヤバかったな。

 しかし、アギの配下の奴が魔法で狙撃とは。

 それだけ俺を恐れているのかね。


 おっと、それよりも礼が先か。


『ありがとう、助かった』

『サービスです。でも、気を付けてください。狙いはクロス様ですよ』

『注意するよ』


 さて、どうしたものか。

 ここからじゃ相手を攻撃できないというか、しても当たらないとなると撃たれっぱなしだぞ。


「クロス、向こうの奴ら、こっちに気付いているみたいだぞ。一直線にこっちへ向かってる」


 ヴォルトの言葉を確かめようと砂丘から顔を出してオアシスの方を見た。

 間違いなくこっちに来てるな。

 しかも速い。すぐにここへ到着するだろう。


「そっちはアンタがやりなさいよぉ。私はちょっと上から狙ってる奴を倒すから」

「あら? いいのー?」

「神を狙撃するなんてぶっ殺すしかないでしょ……ひひひ、殺す、殺す、殺す……!」


 どうやらオリファスが上空の敵をやってくれるようだ。

 メイガスさんは残してくれるようだから、分担するということだろう。

 怖い。怖いが、ちゃんと言っておくべきだな。


「オリファスさん、気を付けて。無理はしないように」


 そう言うとオリファスの目がこれでもかというくらい開いた。


「なんというお言葉……! 絶対にぶっ殺してきます……! ああ、漲るぅ……!」


 オリファスはそう言うと、体を帯電させた状態で跳び上がった。

 メイガスさんの結界を内側から壊す結果になったが、そのまま高速で敵の方へ向かったようだ。

 その後、上空では戦闘が始まったようで炎や雷の魔法が見える。

 それと同時にこっちへの攻撃が収まった。


「何もかも上手くいきませんね。すみません皆さん、接近戦も必要になりました」


 アウロラさんがそう言うと、ヴォルトたちは笑った。


「なあに、望むところだよな?」

「そうだな。実は暴れたいと思ってた」

「なんだよ、お前ら。俺と同じ気持ちだったんじゃねぇか!」

「まあまあ、カゲツ殿。せっかくの許可でござる。楽しくやろうではござらんか」


 突撃部隊はいつも頼もしいね。


「うふふー、でも先手は譲らないわよー」


 メイガスさんがのんびりそう言うと、光り輝く矢が上空に大量に作られた。

 それが高速でアギの軍隊へと向かっていく。

 先頭にいた奴らが勢いよく倒れたようだ。


「軽い追尾にはなっているけど、絶対じゃないからあたらないようにねー」


 メイガスさんの注意にヴォルトたちは「おうよ!」と言って突撃した。


 ただ、テンジクだけは砂丘の上に立ったままだ。


「テンジクさんはどうしました?」

「いやなに、溜めが少なければ手加減できると気づいたでござる」

「え? あ!」

「死にはしないと思うでござる」


 そういうとテンジクは刀を肩に乗せる形で構える。

 そしてすぐさま刀を振るった。


 最大まで溜めれば超絶ダメージをたたき出すが、少ない溜めだとダメージは低い。

 それでも広範囲の攻撃にはなる。ゲームでも雑魚戦用に使ってたな。


 テンジクの放った諸行無常。それが獣人や亜人たちに直撃した。

 無傷ではないが大した怪我でもない。ただ、かなりの足止めになっているようだ。


「おらぁテンジク! なにしやがんだテメェ!」


 カゲツも巻き込まれたようだな。ヴォルトとアランは躱したようだけど。


「すまんでござるよ! さて、それでは某も行ってくるでござる!」


 テンジクも飛び出していった。


 普通なら三千人相手にあんな笑顔で突撃なんかしないけど、これは前世じゃない。

 個人が集団を凌駕できる強さを持っている人もいる。

 うちにはそういう人が多いからな。


 とりあえず、俺はアギを見つけるまでメイガスさんの護衛をするか。


「クロスさん!」

「え?」


 アウロラさんが飛びついてきたと思ったら、地面を転がった。

 なんだ? 何があった?


「ほら俺の言った通りじゃねぇか。こんな奇襲でクロスをやれるわけがねぇんだよ」

「言ったのはテデムだ。俺じゃない」

「どっちでもいいさ。でも、こんな姑息な手を使っても勝てないって分かったろ? 後は好きにさせてもらうぜ?」


 この声、アギか?


 慌てて立ち上がると、アギと竜の顔をした人が立っていた。

 竜と人間のハーフである竜人――ワンナか。

 剣を持っているってことは俺を攻撃したのか?

 でも、どこにいた?


「久しぶりだな、クロス」

「……ああ、久しぶりだな、アギ。もしかして俺を攻撃したのか?」

「コイツと、あと上で戦ってる奴がな。言っておくが俺の考えじゃねぇぞ。こいつらがやるって聞かねぇから一回だけのお試しだ」

「死んだらどうすんだよ」

「お前がそんなことで死ぬかよ。現に生きてるだろ?」


 どっちも俺が自分で対処したわけじゃないけど。

 おっといかん、アウロラさんがそのままだ。

 まさか怪我をしてないよな?


「アウロラさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。急に現れたようですが、一体何が?」

「よう、アウロラ、お前も久しぶりだな」

「お久しぶりですね、アギ。降伏しませんか?」


 アウロラさんがそう言うとアギが笑った。大笑いだ。


「冗談のセンスが良くなったじゃないか。おめぇの冗談はいつもつまらなったが今のは良かったぜ?」


 アウロラさんに冗談のセンスがないって言ったのお前かよ。


「残念です。冗談ではなかったのですが」

「なら笑えねぇな。相変わらずセンスがねぇのか」

「少しは鍛えたんですけどね」

「まあ、人には得手不得手ってのがあるってテデムが言ってたぜ。気にすることはねぇよ。そんじゃ、やるか」


 そう言った瞬間、目の前に巨大な壁が現れた。

 当然壁じゃなくてデカいアギの体だ。

 そしてその巨体からは信じられないほどのスピードでパンチが繰り出される。


 腕を交差させてそのパンチを受ける。

 意識を失いそうになるほどの衝撃で吹っ飛ばされた。

 しかも身体強化をしてるのにかなり痛い。


「ワンナ! アウロラとエルフの方は任せたぞ! 俺の邪魔させんなよ!」

「勝つのは無理だぞ」

「そんなこと分かってらぁ! 足止めだけしとけ!」


 辛うじて聞こえる声。

 身体強化で思考速度が上がっているから聞こえるのだが、俺は砂漠の地面を猛スピードで転がっている。あの馬鹿力め。信じられない威力で殴りやがった。十メートルくらいは吹っ飛んだか?


『気付いていないと思いますが、腕が折れてます。治しますか?』

『たのむ。それに超絶強化も』

『分かりました。今回は時間制限をせずに二分ごとに金貨一枚いただきます』

『そうしてくれ』

『聖槍は使いますか?』

『強化しないと勝てそうにない。出してくれ。あと俺が使えるように』

『ならそれも一分単位で金貨を減らすようにします』


 転がるスピードが落ちたところでスキルが聖槍を手元に出す。

 それを手に取りながら、転がる勢いを利用して立ち上がった。

 服の中や靴の中に砂が入って気持ち悪いが仕方ないな。


「あれで無傷とはさすがだな!」


 お金が減ってんだから無傷じゃない。

 でも、できるだけ余裕を見せておかないとな。


「その程度で俺をやれると思ってたのか?」

「言うじゃねぇか! テメェの本気を見せやがれ!」


 そう言いながらアギが突っ込んでくる。

 戦いが好きな奴ってなんでこうなのかね。

 面倒くさいが仕方ない。返り討ちにしてやる。

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