第112話 食料不足と新たな拠点
砂漠地帯で一番南側にあるオアシスを占領した。
特に名前はなく、「南のオアシス」と呼ばれている。
もともと砂漠地帯にあるオアシスは両手で数えられる程度。
わざわざ固有名詞をつけるほどでもないのだろう。
ヴォルトやフランさん達の活躍によって死者を出さずに占領できたのは良かった。
大怪我をした奴はいるけど、アマリリスさんやオリファス、それにスコールの薬で治ったようで命が危険な状態の亜人や獣人はいない。
そして一番ありがたいのは、敗者として大人しくするのがアギたちが決めているルールだったことだ。
そんなルールは初めて知ったが、「殺されない程度に手加減された」というのは、弱いから殺してもらえなかったという意味になるそうで、次のリベンジを待つためにも逆らわないらしい。
……ちょっとついていけない思想だが、そういう人もいるんだろう。
今は大人しくはしているけど、いつかはまたやる気らしいけど。
大人しくしているうちにアギを倒してルールを変えるしかないな。
でも、そういうルールがあるならアギは殺さなくても大丈夫か?
シェラにそんな思想はない。隙を見せたらすぐに襲ってきただろう。
でも、アギは俺が強ければ大人しくしていることになる。
圧倒的に強くないと駄目だろうけど。
アイツは話が分かる方ではある。
話というか強さが絶対というルールがある。
そこを突けば味方になる可能性もあるな。
あとでアウロラさんと相談してみよう。
そして一番の問題はこのオアシスというか、砂漠地帯全域にある。
なぜか魔都からの流通が止まっており、食料が入ってこないとのことだ。
アウロラさんがやったことなのかと思ったけど、そんなことはしていないという。
つまり何者かが砂漠地帯への食料供給を止めた。
どう考えてもヴァーミリオンだよな。
こちらの情報はそれなりに筒抜けなんだから、戦いが始まろうとしたところで俺とアギ、両方の組織を弱体化させようってことだろう。領地は離れていても見ているだけなんてことはない。魔都を飛び越えて俺たちを直接襲ってくる可能性もある。
うっかりしてた。
ヴァーミリオンは自ら手を下すことは滅多にないが間違いなく強い。
単体で襲ってきても軍隊と変わらないだろう。
領地が離れているからといって襲ってこないなんてことはないんだ。
とくに夜は気を付けよう。
アギと同じで月が出ている夜は異様に強い……と聞いたことがある。
実際に目にしたことはないが、アギと同じように夜なら無敵と言っていいはず。
ただ、太陽の下ではかなり弱体化するとか。
太陽の光でも消滅しないのは吸血鬼として上位の存在だからだろう。
むしろ、昼の砂漠なら倒しやすいほうかもしれないな。
こっちは雨期でもない限り雨は降らない。
太陽が隠れないから砂漠では逃げられないわけだ。
変わりに月も隠れないけど。
来るなら俺とアギの勝負がついた時か?
どっちが勝ったとしても、ダメージを受けている状態だろう。
そこへヴァーミリオンが襲って来れば高確率で負ける。
その対策も考えないと駄目か。
アギだけに集中したいが色々とあるな。
アウロラさんに色々考えてもらおう。
さて、そろそろテントの設置が終わる。
オアシスの近くでも家を建てるようなことはなかったらしく、ほぼ野宿状態でいたという。なんでオアシスを離れて攻撃してきたのかと思ったけど、そもそも籠城できるような場所がないのか。
食料に関しては地面に穴を掘ってそこに集めてあったらしいが、流通がなくなりほぼ空らしい。砂漠にいる魔物を倒して食べていたとか。
ジャイアントスコーピオンとデザートシャークか。
大きいから一体でも倒せば一日分の食料になるのかね。
サソリの身は海老に近いのだろうかと考えていたらアウロラさんが来た。
なにやら深刻そうな顔をしているがどうしたんだろう?
「なにかありましたか?」
「昼はともかく夜の時点で食料が全く足りません」
「それは俺たちの分もって意味ですか?」
「そうですね。メイガスさんの亜空間には大量の食料がありましたが、これまででかなり消費しましたから」
かなりの強行軍だったからな。
森でシェラを倒してそのまま補充なしで砂漠だ。
アウロラさんは砂漠での補充を考えていたと言う。
捕虜の分の食事も用意すると全く足りないという状況らしい。
「このタイミングで魔都からの流通が止まるとは。やられました」
「そういうときもありますよ。なら砂漠で魔物を狩るしかないですね」
「そうですね。ちなみにクロスさんはロック鳥という魔物を知ってますか?」
ロック鳥といえば、巨大な白い鳥か?
象を三体持ち上げるほど巨大だとは聞いたことがあるけど、ゲームでもこっちでも見たことはないな。
「巨大な鳥であってますかね?」
「はい、その魔物です。その巣が南の方にあるらしいので、そちらに誰かを派遣したいと思うのですが良いでしょうか?」
「食料にするって意味ですよね?」
「かなり大きな鳥ですので、一羽倒しただけでも数日分の食料になるかと」
カラアゲ、いや、焼き鳥か?
どちらにしても鳥肉尽くしになりそうだな。
お酒がないのは残念だけどフランさん達の料理はレパートリーが多い。
色々楽しめるなら期待が膨らむ。俺としてはかなり良い。
それに俺たちだけじゃなくて捕虜の食料も必要ならやるべきだろう。
「ならやるしかないですね。でも巨大な鳥を倒すなら誰がいいでしょう?」
「メイガスさんですね。空飛ぶ絨毯も使えますし、亜空間は必須ですから」
「ああ、確かに。倒すだけじゃなく、持ってこないといけませんからね」
空飛ぶ絨毯は砂漠で使ってなかった。
砂漠だと目立ちすぎるという理由だ。
でも、ここから南側ならアギの配下はいないし問題ないだろう。
「ならメイガスさんにお願いしましょう。でも、護衛を兼ねて他の人も――テンジクならあのスキルで楽に倒せるかもしれないですね」
溜めの時間は必要だが、巨大な鳥くらいは倒せると思う。
アウロラさんも同じように思ったのか頷いた。
その後、二人にロック鳥討伐を依頼すると、二つ返事で引き受けてくれた。
またアルファたちやヴォルトも付いていくことになったらしい。
ヴォルトがいるならアルファたちがいても護衛は大丈夫だろう。
さて、食料の方はいいとして、他のことをアウロラさんに相談するか。
テントの中でアウロラさんと話をする。
食料の問題はなんとか解決できるとして、問題はヴァーミリオンだ。
アギを倒した後に襲ってくる可能性を言うと、アウロラさんも頷いた。
「勝ったとしても弱っているのでそこを襲ってくるということですね?」
「はい、何か対策はありますかね?」
「対策というよりもアギ、ヴァーミリオンとは昼に戦うしかありません。いくらクロスさんでも夜では分が悪すぎます」
昼だから勝てるとは言えないけど、確かにその通りだ。
アギと夜に戦うのは分が悪いというよりも勝てない。
スキルで倒したとしてもその後のヴァーミリオンには絶対負けるだろう。
昼ならアギもヴァーミリオンも弱体化している。
ヴァーミリオンも馬鹿じゃない。さすがに昼には襲ってこないだろう。
アギと昼に戦うのは必須だ。それもできるだけ早い時間。
「クロスさんなら勝てるかもしれませんが、夜は絶対に逃げてください」
「もちろんです」
「緊急脱出用としてメイガスさんの空飛ぶ絨毯を借りることになっていますが、ヴァーミリオン相手だとそれも厳しいですね」
アウロラさんの言葉に頷く。
吸血鬼には変身能力があって、コウモリやオオカミに変身できる。
アギとは違って空に逃げればなんとかなるという話じゃない。
そう考えると、オアシスを拠点にするのは駄目じゃないか?
夜の間、ずっと逃げるのは不可能だ。
水は必要だけど、籠城できるような強固な建物がないと危険すぎる。
砂漠地帯にある建物はアギがいる城くらいか。
大昔からある城らしいが、由来は分かっていないとか。
アギを倒した後ならともかく、そこは無理っぽいな。
「アウロラさん、アギがいる城以外に籠城が可能な場所ってありますか?」
「いえ、籠城できるほどの強固な建物はありません。ただ――」
「ただ?」
「魔都に向かったパンドラを覚えていますか?」
「ええ、もちろんです。でも、それが?」
シェラが古代迷宮で見つけたパンドラ。
シェラの弟を護衛するという形でそのパンドラを魔都に送った。
一応俺がマスターという状況になっていて、そういう命令をだしている。
こっちのパンドラのおかげでそれが可能になった。
今は魔都で本人には知られずに護衛をしているところだろう。
「そのパンドラが言ってましたが、この辺りもバランサーと戦っていた場所だったようです。今の魔都――つまり魔王城はあの頃からバランサーの拠点だったようで、それを囲むように基地を作ったとか」
「つまりこの砂漠にも古代迷宮がある?」
「はい、なので今、パンドラさんに頼んで調べてもらっています」
アウロラさん、俺が考えるより前から想定してたんだろうな。
なんというか、俺って何も考える必要がなさそう。
色々話を聞くと、当時はこの辺りも砂漠ではなく普通の草原だったという。
激しい戦闘で地形が変わったとか。
それはいいけど、雨期にしか雨が降らないとかそこまで影響を及ぼすか?
地形はともかく、天候まで影響するって何をしたんだろう?
「ただいま戻りました。完璧メイドは仕事が早い。褒めるがいい」
テントの入り口からパンドラが入ってきた。
「ちょうど話をしてたんだ。古代迷宮はあった? ああ、その前にお疲れ様。仕事が早いのはさすがだな」
「仕え甲斐のあるマスターで助かります。一日一回以上褒めてもいいですよ?」
「……パンドラは偉い。で、あったのか?」
「ありました。ここから北東に二十キロほどのところです。現状、入口はロックされていますが、私なら開けられます。開けゴマ」
それは朗報。
でもロックされているってちょっと不安だな。
「もしかして中に何かいるのか? 別のパンドラとか」
「いえ、基本的に私達は作られたと同時に前線に送られます。私とかシェラのところにいたパンドラは例外中の例外です。完璧メイドは一味違う」
「なら何の目的で作られた古代迷宮――基地なんだ?」
「見てきた場所はいわゆる医療施設ですね。パンドラは使い捨てですが、今でいう古代人とかオリジンは普通に怪我をしたら治しますので」
「……今は使い捨てじゃないからちゃんと戻って来いよ?」
「……そんなこと言われても嬉しくないんだからね!」
なんでツンデレ風。それに嬉しそうだぞ。
でも、そうか医療施設か。
そういう場所ならオアシスでなくとも水がありそうだな。
よし、なら明日はその古代迷宮に行ってそこを拠点にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます