第111話 砂漠での戦い
妹さんとガリオのおかげでオアシスにいる戦力は大体分かった。
少ないと言うアウロラさんの予想通り、大規模ではない。
問題はどうやって殺さずに勝つかというところだが、とりあえず拘束するということになった。捕らえられた状態で命を失うのは嫌だろう。再起を図るためにも大人しくしてくれるはずとアウロラさんは言っている。
そしてアギを倒した後は魔都でコロシアムのようなものを開催する予定らしい。
それで我慢しろってことなんだろうな。
他にも魔物を討伐する部隊を編成するとか色々と考えがあるようだ。
魔王様にそういう提案をしていたけど、受け入れてはもらえなかった。
好き勝手に生きることこそが魔族であると言っていたらしい。
それはそうなんだろうけど、魔王様って何をしてたんだろうな。
魔王様はバランサーという神が遺した兵器。
いったい何の均衡を保っていたのか。
パンドラの話を聞くと微妙に違うような気もする。
魔族に好き勝手にさせておいて世界の秩序が守れるのかね?
それにアウロラさん自身が何者かという話もある。
魔王様の娘というだけなら分からないでもないんだけど、魔王様が兵器だからな。
もともと魔族っぽくないとは思っていたけど。
おっといかん。
最近、考えることが増えて脱線が多い。
まずはアギを倒して砂漠地帯を支配下に置くことを優先して考えよう。
そのあとは魔都で魔王城を占領する。
そうすることで魔王代理が誰なのかを魔族全体に示せる。
アウロラさんは俺にさせたいみたいだけど、俺はアウロラさんを魔王代理に推す。
その後にヴァーミリオンと戦う形か。
しばらくエルセンには戻れそうにないな。
面倒ごとを回避してもさらに面倒ごとが増える。
でも、ヴァーミリオンを倒せば平穏が戻ってくるはずだ。
そこまではなんとかやっていこう。
『ヴァーミリオンと和睦というのもありだと思いますよ』
『え? 和睦?』
『将来的にヴァーミリオンが魔王となっても平和なら問題ないのでは?』
『そうだけど、アイツは……よく考えたら魔王になりたい理由を知らないな』
ウォルバッグは支配欲が強いだけで何も考えていなかっただろう。
魔族以外にもそうだったろうから、人間相手でも攻め込んだはずだ。
シェラは魔王代理になって好きな研究に打ち込みたかったはず。
研究のためなら人間だろうが襲わせたはずだ。
アギは戦うことができれば満足な奴だ。
ただ、強い奴がいるなら人間相手でも戦いに行くだろうな。
どう考えても三人は魔王になったら世界が混乱する。
でもヴァーミリオンは?
吸血鬼という魔物ではあるが、生きている者を憎んでいるという話は聞かない。
人の血を吸う以上、人を滅ぼすとか不死者にするということもないだろう。
それに圧倒的な力を持っているが戦闘狂でもないし残忍でもない。
それが俺の知っているヴァーミリオンの姿だ。
もしかしてヴァーミリオンが魔王になった方が平和か?
アウロラさんが魔王でも平和になりそうではあるが、それは永遠に続かない。
それは俺でも同じだ。いつか寿命が来る。
ヴァーミリオンが何を考えているのかは知りたいところだな。
スキルを使ってでも知りたいところだが、今は駄目だ。
それでなくてもシェラとの戦いで金が減っている。
残りは四千万程度。アギとの戦闘ではこれでも心もとない。
『アギを倒してから考えるよ』
『そうですね。まずはアギをなんとかしましょう』
スキルからの提案だが、まだ先の話だ。
それに金がないのもそうだが、この砂漠地帯では増える可能性もない。
なので残っているお金でやりくりするしかないだろう。
「クロスさん、そろそろ攻撃を仕掛けますが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
最初はメイガスさんとオリファスで遠距離攻撃を仕掛ける。
それだけでも勝てるとは思うが、それじゃ相手が納得せずに降伏してくれない。
そういう面倒な状況なので、その後、ヴォルトたちが接近戦をしかける。
死ぬまで暴れられても困るからな。納得できる形で負けさせる。
皆を危険にさらしたくはないが、仕方ないだろう。
それにヴォルトたちなら相手を殺さずに勝てるくらいには強い。
アマリリスさんの治癒魔法やスコールの薬もあるからなんとかなるはずだ。
しばらくするとメイガスさんとオリファスが魔法を使った。
メイガスさんはいつものマジックアロー。怪我はしないが痛いという殺さないことにかけては最強の魔法だ。
そしてオリファスは雷の魔法が得意のようでサンダースパークという魔法を使う。これも致命傷にはならず相手を感電させて気絶させるような魔法だとか。
その二人の魔法が遠く離れたオアシスの方で炸裂する。
近くにアルファがいるので魔法の威力も倍増しているようだ。
そしてスカーレットは今回は出番なし。
帯電して髪が孔雀のように広がっているオリファスがアルファを見た。
魔法の威力を上げているアルファに驚いているのだろう。
「貴方、いいわぁ……メイガスの子じゃなかったらさらってたかも」
「メイガス様と一緒にさらわれてるし、精神支配されてたけど?」
「……そういえば。でも、それは謝った……はずよね……?」
「うん。それにクロスお兄ちゃんがオリファスは謝ったから許してあげてくれって。だから、メイガス様も私達も許してる。そもそも主導したのはディエスって天使だって言ってたから、とりあえず無罪放免」
オリファスがこっちをみて目をパチパチさせている。
髪の毛が広がっているから素顔が見ているんだけど、色白で綺麗なもんだ。
果てしなく残念だけど。
「やばい、神やばい……! テンションが上限突破した……!」
オリファスはそういうと、嬉しそうにサンダースパークを連発した。
多くの稲妻がオアシスを襲うのを見るとちょっと申し訳ないくらいだ。
「向こうがこちらに気付きました。魔法を止めてください」
「ここまでねー」
「ここからなのに……!」
メイガスさんは一仕事終えた顔で、オリファスは少し残念そうだ。
このままでも勝てることは勝てるが、向こうが大人しくならない。
適度に暴れさせないとな。
「では突撃部隊と闇百合近衛騎士隊はお願いします」
「おう、まかせろ! 行くぞお前ら!」
「私達も行くよ! 練習通りにやるからね!」
部隊としては対照的だな。
好き勝手にやる突撃部隊と、連携の闇百合。
強いのは変わらないけど。
ヴォルトたちは単体で強いし、フランさんたちはそもそも集団戦が得意だ。
見る見るうちに向かってきた獣人や亜人たちを倒している。
相手も強いことは強いが、連携もないし、我先にと襲ってくる。
オアシスの防衛をしているのに突撃してどうすると言いたいが仕方ないか。
籠城とかそういう戦いを好む奴らじゃない。
でも、作戦もなにもないから怖さがないな。
数は多いがはっきり言って個人戦を挑んでいるようなもの。
突撃してきた奴を順番に倒していけばいい。体力がもてば問題ないだろう。
アギみたいに突出した強さを持っている奴が来たら危険だけど、配下にそういうのがいるって話は聞いたことがない。
……こういうのをフラグと言うのだろうか。なんだあの巨人たちは?
砂が盛り上がったと思ったら一つ目の巨人、サイクロプスが数体でてきた。
ゆうに五メートルくらいの背丈があるし、多少、歪ではあるけど、サイズの合った金属製の装備をしている。それに持っている剣が馬鹿でかい。
アイツら魔物だけど、もしかして手懐けたのか?
ヴォルトたちはともかく、フランさんたちはやばい気がする。
「アウロラさん、フランさんたちに撤退の指示を――」
「フランはやる気ですよ?」
「え?」
フランさん達とサイクロプスの戦いが始まっている。
サイクロプスは馬鹿でかい分、動きは鈍い。
大きく振りかぶってからの攻撃をフランさんたちは難なく躱す。
直後にフランさんが振り下ろされた剣とそれを持っていた腕を駆けあがった。
前世の漫画で見たことがあるアレだ。
駆け上がる途中で跳び上がり、サイクロプスの一つしかない目に砂をかけた。
それだけでなく、痛みでもがいているサイクロプスの顔をぶん殴った。
ふらついたところで闇百合の皆がサイクロプスの足元を攻撃している。
その連携でサイクロプスはものの見事にひっくり返った。
大きな音と振動共に砂が撒き上がる。
それと同時に周囲で戦闘が止まった。
撒き上がった砂が落ち着くと、仰向けに倒れたサイクロプスの胸元に立っているフランさんが剣を掲げている。
「さあ、次は誰だい! こうなりたけりゃ掛かってきな!」
味方を鼓舞したんだろうけど、なぜか敵側も盛り上がっている。
さすがは元騎士団長と言うべきか。
ヴォルトたちもかなり奮起しているみたいだし。
フランさんが活躍したからか、アウロラさんも嬉しそうだな。
もしかしたらフランさんはアウロラさんのためにあれをやったのかも。
よく考えたらフランさん達が出る必要はなかったもんな。
無理矢理出撃したのは色々悩んでいるアウロラさんを元気づけたかったのかも。
なら、今日のMVPはフランさんで決まりだな。
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