第110話 砂漠とオアシス

 ミーティングの翌日、砂漠地帯へ足を踏み入れた。

 朝早くから一番近くのオアシスに向かっている。


 斥候として妹さんと精霊と聖剣、そしてオリガが先行した。

 砂漠というのは暑さもあるが、砂に足を取られて移動もかなり辛い。

 ただ、精霊には関係ないようで足取り軽やかに進める。


 さすがに妹さんだけだと厳しいので聖剣とオリガと一緒に行ってもらっている。

 隠れるところもほとんどないが、目がいいので敵よりも先に発見できるだろう。


 砂漠で最初にやらなくてはいけないのが拠点の確保だ。

 砂漠地帯にはいくつかのオアシスが存在する。

 その一つを今日中に手に入れる。


 そうでなければアギと戦う前に相当消耗する。

 砂漠は昼に暑く、夜に寒い。命の危険があるレベルの寒暖差だ。

 魔国の場合、生きるのが厳しいのはどこも同じだが砂漠は群を抜いている。


 そんな過酷な環境で生き残った魔物たちはかなり強い。

 ジャイアントスコーピオンやデザートシャークなどがそれに該当する。

 他にも小さいが毒を持つ魔物が多く、いつでも危険だ。


 オアシス周辺は比較的安全ではあるが、そこは当然アギの配下がいる。

 どれくらいの部隊がいるのかは、まだ分かっていない。

 そこまで多くは配置はされていないはず、と言うのはアウロラさんだ。


「北で暴れていたアギが撤退したようでして、今日、北からの侵攻を開始しました」

「ジェラルドさん自ら出てくれているんですよね?」

「はい。すでに北にあるオアシスの一つを手に入れたと報告がありました」


 早すぎない?

 タイミングを合わせて今日侵攻したんだよな?


「まだ昼前ですよ? 罠の可能性は?」

「その可能性はないとのことです」

「まあ、アギならそんな姑息なことはしない思いますけどね」


 アギは戦うことが好きな奴で配下も大体同じだ。

 罠を使って相手を倒すなんて意味がないことはしないだろう。

 個人的な評価だが、四天王の中じゃまともな方だ。比較的ではあるが。


「アギや側近の考えは分かっていませんが、北の守りを薄くして南に集中するつもりではないでしょうか」

「なるほど。アウロラさんがいますからね」

「いえ、クロスさんがいるからです」

「ええ……?」

「そろそろ自覚してください。ウォルバッグとシェラを倒しているわけですし、警戒しないわけがないでしょう」


 確かにそうだけど、アウロラさんはどっちもその場にいたんだ。

 俺が倒したんじゃなくてアウロラさんが倒したという状況になってないのか?

 クロス魔王軍という名前だとしても、俺が倒したという話は……あるのか?


「あの、俺が倒したってばれているんですか?」

「ばれてるわよー」

「ばれているに決まって……被った……殺すぞ、大賢者……!」


 近くにいたメイガスさんとオリファスが同時にそんなことを言いだした。

 オリファスをなだめてからメイガスさんに事情を聞く。


「千里眼の魔法があちこちに置いてあるからよー。魔力の流れからいって、東と西に流れているから、アギとヴァーミリオンにばれているのは間違いないわねー」

「実際に倒したところは見ていなくても、ダークエルフや他の亜人たちが言っていることを確認したはずです、我が神よ……分かってて情報を流していたわけではない……?」

「オリファスさん、神はそういう小さなことを気にしないのです」

「……! 蟻がどれだけ象を調べても勝てないということですか……! 私はなんて浅慮……! 神よ、お許しを……!」


 アウロラさん、オリファスを言いくるめるのが上手くなったな。

 個人的には神扱いをやめて欲しいが戦力になるから仕方ない。


 集団戦ならメイガスさんとオリファスが強いからな。

 神だと嘘をついているのは少々心苦しいが頑張ってもらおう。


 それはともかく、情報は筒抜けか。

 千里眼の魔法はその場所に魔法を「置く」必要があるらしい。相当魔力を消費すれば行ったことがない場所でも見えるらしいが、魔力の消費量と合わないのでやらないらしい。

 メイガスさんくらいになると、長い人生の中で色々な場所へ行ったことがあるから大体は見えるらしいが、さすがに魔国に千里眼の魔法は置いておらず、魔法は使えない。オリファスも同様だ。


 だけど、魔族なら魔国のいたるところに魔法を置くことが可能だ。


 しまったな。全然考えてなかった。

 ヴァーミリオンの方はなんとなく情報を取られているような気はしてたけど、アギの方はないと思ってた。


 いかん。

 シェラの時で分かったはずだ。

 俺は弱いんだから情報を取られないようにしておくべきか。


『俺の情報を取られないようにできるか?』

『毎日金貨一千万くらい使いますので無理です。クロス様の情報はクロス様だけではなく、多くの人が持っています。今では魔都でも有名ですので』

『え? そうなのか? 個人情報なのになぁ』

『大丈夫です。嘘の情報も多いので』

『嘘の情報?』

『気に入りませんが、あの女が意図的にそういう情報を流しています』

『アウロラさんが?』

『はい。正しい情報を得るのを困難にするための策でしょう。気に入りませんが』


 気に入らないと二回も言ったぞ。

 スキルは本当にアウロラさんのことが嫌いなんだな。

 とはいえ、スキルが直接何かをできるわけでもない。

 今は放っておこう。


 おっと、話が逸れすぎた。


「アウロラさん、事情は分かりましたけどアギが南側の守りを増やすというなら、今目指しているオアシスの守りも相当なものなのでは?」

「いえ、まだ大丈夫です」

「まだ?」

「砂漠での移動は私達だけではなく、アギや配下も厳しいものになります。いままで南側は手薄でしたが、すぐに増強できるほどではありません」

「そういうことですか」

「はい。なのですぐさまオアシスを占領します。メイガスさんとオリファスさん、それにアルファさん達マスコット部隊のサポート力には期待しています」

「うふふ、お任せよー」

「神のためならいくらでも……殺すなという命令も何かの意図があるのですね……? ……わからないから吐きそう……!」


 メイガスさんとオリファスがそう言い、アルファたちとアラクネ、そしてカガミさんが全員でポーズをとった。任せろという意味のポーズだろう。それはいいんだけど、カガミさん、顔を真っ赤にしてめっちゃ恥ずかしそうだ。

 クールビューティはどうした?


 ……いや、これは俺やアウロラさんのためかも。

 シェラを倒した後、俺とアウロラさんのそれぞれ別の件で沈んでいた。

 それをパンドラが空気を読まずに全部暴露したからな。


 それ以来、ジョルト達男性陣は俺に酒を勧めてくるし、アウロラさんの方はフランさん達が色々と話しかけている。アマリリスさんはともかく、他の教会メンバーはなんでそんなことでって感じだったが。


 俺の方に関しては結構早く吹っ切れている。

 バウルやメリルがシェラを倒したことで感謝してくれたことが大きいかな。


「ボス、ありがとうございます。これでシェラに倒された仲間も浮かばれます」

「私からもお礼を。間接的ではありますが、シェラは両親の仇。クロスさんのおかげで前に進めそうです」


 そう言ってもらえたからな。俺の方はもう大丈夫だ。


 アウロラさんも仕事を振ってしまえばそっちに集中するので問題はないのだが、なんとなく雰囲気が暗いときがまだある。なので、アルファたちは必要以上に明るく振る舞っているんだろう。カガミさんを巻き込んでだけど。


「カガミさん、無理しなくていいですからね」

「む、無理などしていません。これはマスコット部隊のリーダー、アルファさんが決めたポーズ。部下として従わねば」

「まあ、カガミはあれくらいはっちゃけてもいいと思うぞ」


 カガミさんの真面目さが変な方向に出ている。

 そしてそれを茶化すアラン。

 カガミさんに攻撃されているが、あれってイチャイチャしてんのか?

 俺はアランを殴っていいような気がする。


 そして女騎士三人娘の方からは歯ぎしりが聞こえてきた。

 一緒にいるアドニアは分かってない顔をしているけど。

 パンドラは「ラブ波動」とか言ってるし、アマリリスさんはなぜかメモ帳を出して必死になにかを書き込んでいる。


 砂漠なのにみんな結構余裕だな。

 俺やアウロラさんのためかと思ったけど、これが平常運転なのかも。


「ただいまー!」

「戻った」


 先行していた妹さん達が戻ってきたようだ。

 さて、情報を確認しようか。

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