第109話 ライカンスロープ
シェラを倒してから二週間後、森林地帯の東側に到着した。
砂漠地帯まであと少しのところではあるが、ここで野宿することになった。
砂漠に入ってしまうと遮蔽物がなく、簡単に見つかってしまうからだ。
砂漠は攻めるのも守るのも大変な場所だ。
警戒は必要だが、今日くらいは森の中でゆっくり過ごしたい。
森の中も安全とは言えないが、すぐさまどうこうということはないはずだ。
シェラが死んだことをゴブリンのバウルたちが亜人の各部族へ伝えている。
それと今後は独立しろとも伝えてもらった。
森にいる亜人たちの部族は多い。
シェラは亜人たちを支配下に置いたものの、まとめるようなことはしなかった。
もともと支配していた場所をそのまま領地として与え、食料や薬草を献上させていただけだという。
バウルたちのようにシェラに逆らった部族は滅ぼされたか、どこかへ逃げるしかなかった。もしかしたらバウルたちもこの森へ戻りたいのかもしれない。四天王達を倒したらここに戻ってもらってもいいかな。
それはさておき、今、森の中は無法地帯となっている。
ダークエルフたちはシェラの代わりを誰がするのか揉めているようだし、いままで押さえつけられていた亜人たちも動き出した。あまり放っておくわけにもいかないが、この状態ならヴァーミリオンも攻め込めないはず。そのメリットを考えると、しばらくはこのままだけど。
明日から敵の領地に入るということで情報共有をすることになった。
寝る前のミーティングだな。
それをアウロラさんに頼んだ。
俺の方は吹っ切ったが、アウロラさんはまだ自分自身のことで悩んでいるようなので、仕事を押し付けた。本人にとっては大事なことなのかもしれないが、そんなことを今悩んでもらっても困る。
そもそも悩んだところで答えなんか出ない。
パンドラに話を聞いたり、フランさん達に相談したりしているようだが、答えが出ないのですっきりしないのだろう。俺もスキルにアウロラさんが魔族じゃないのかを確認したが、「あれは災厄であり何者でもありません」という答えが返ってきた。
なので、あとで一緒に調べてあげますと言ったら、いきなり張り切り出した。
完全に吹っ切っれたわけではないだろうが、後回しにしてくれたのだろう。
そんな張り切ったアウロラさんがミーティングの開始する。
「では砂漠を支配している四天王、アギとその組織について説明します。質問があればその都度お願いします」
大体ことは俺も知っているが、知らない人の方が多いだろう。
皆が真剣な顔で耳を傾けている。
「まず、アギはライカンスロープと呼ばれるオオカミ人間です。人間を遥かにしのぐ身体能力を持ち怪力。まず一対一なら勝てません」
「あの! オオカミ人間というのは、狼の獣人という意味ですか?」
この辺りの知識が一番乏しいのはヴォルトの妹さんだろう。
その妹さんが手を上げて質問している。
「いえ、狼の獣人とは全く別の種族でして魔物に近いです。変身能力があるので、そこが獣人とは大きく異なる点ですね」
「変身能力?」
「アギは月の光を浴びると変身します。いつもは人間の姿なのですが、変身すると顔が狼になり、体毛も多くなって、より狼らしくなります。それでも人間寄りではあるのですが」
「それだけですか?」
「いえ、見た目が変わるだけではなく、反射神経や筋力が強化されます。そして最も厄介なのが再生能力です」
「再生能力?」
「傷を負ってもすぐに治るということです。満月だとその能力が最も高くなり、新月だとほぼなくなります。なので満月の夜に戦ってはいけません」
満月の夜ならアギはチート級だ。
見たわけじゃないが満月の夜なら腕一本斬られても即座にくっつくとか。
アギの腕を斬ることができる奴がいるのかと言いたいが本当のことらしい。
そこまでの再生能力は満月だけの話だが、新月だとしても少しはある。
人状態で強い奴が、月の光で強化され、さらには再生能力がある。
純粋な戦闘力であれば、シェラやヴァーミリオンよりも強いだろう。
「戦いが長引けば状況は変わりますが、次の満月はまだ先です。ですが、満月でなくともアギは強い。夜に戦うという無謀は控えた方がいいでしょうね」
「えっと、なら夜に襲ってきたらどうするんですか?」
「逃げます」
「ええ……?」
「アギに勝つには昼に戦うしかありません。ですが、昼はアギの配下たちに守られている。なのでしばらくは、配下の方を倒していく――捕らえるという意味です。そしてアギを守る者がいなくなったら決戦です」
それしかないよな。
アギだって寝ずに戦うなんてことはできない。夜に戦うなら昼は寝ている。
だが、その昼は配下の奴らが守っている。
東国の鬼や獣人たちと一緒に攻めるのは少しでも兵力を分散させるためだろう。
アギの配下は戦闘狂が多い。死ぬまで戦うのを止めないような奴らばかりだ。
そう言うのを殺さずに無力化するのはかなり難しいからな。
「大雑把ではありますが、作戦はそんな感じになります。次にアギ以外に注意するべき配下です。とはいっても問題になりそうなのは二人、テデムとワンナです。私も最近になって知ったのですが、アギの側近のようです」
その後、アウロラさんから容姿や注意するべき点の説明を続けた。
まあ、そうだよな。
アギはその強さを活かして突撃を繰り返すような奴だ。
それが北の山岳地帯で威力偵察をしたとか。
誰かに言われなくてはそんなことはしないだろう。
でも、テデムとワンナか。
どっちかがいるかと思ってたけど両方いたか。
UR死神テデムは猫の獣人。
獣人としては珍しく、魔法を主体として戦う。
男性キャラでURなのは希少だろう。
レアリティで言えばジェラルドさんとタメを張るってことだし。
スキルは確か「分析戦術」。戦闘ターンが経過するほど敵のステータスや攻撃力が下がっていくという長期戦向きのスキルだな。
もう一人のSSR賭博師ワンナは竜人だ。
人間に近い竜の容姿を持っていてる亜人。顔はそのまま竜で体には鱗がある。
賭博師とは言っても賭け事が好きというわけじゃなく、無謀な作戦を実行して、さらには成功させるという「逆張り戦術」というスキルを持っていた。スキルの説明はそうだけど、自分や仲間がダメージを受けるたびに仲間のステータスが上がるという感じだったはず。
……言ってて思い出した。
この三人を組みあわせると条件付きで面倒なパーティになるんだった。
アギは満月時にHPが0になったとしても倒されずに次のターンでHPが完全回復するので、戦闘終了の三十ターンまで生き延びる。なので、二人のスキルで延々と敵は弱体化され、アギ自身は強化されていく。
つまり引き分けか負けのどちらかにしかならない。とはいえ、三十ターン後は弱体化されすぎてステータスがなくなるので負け確定だろう。
満月時だけという状況だが、その時はディエス並みに嫌がられる。
スカーレットとパンドラがいるから、スキルならなんとかなるかもしれないけど、こっちの世界ではどういう扱いになるのか分からないな。
でも、二人のおかげで少しは楽になった気がする。
シェラが死んだことはアギも把握しているだろう。
それにアギに意見を言えて、アギもそれに渋々ながらも従っているようだ。
おそらくだけど、いきなり攻撃は仕掛けてこない。
アギが何も考えずに襲ってきたら逆に危険だったが、行動がまともになっている分、やりやすくなったとも言える。
時間をかけるつもりはないが、少しだけ余裕ができたかもしれないな。
……あとは金を何とかすれば盤石なんだけど、そっちはどうしたものかね。
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