第101話 迷宮探索と制御室

 古代迷宮の中を下に向かって進む。


 相変わらず古代迷宮はどんな素材で出来ているのか分からない。

 何かの金属であることは間違いないが、傷一つ付けることもできない。

 ミスリルとかオリハルコンの合金だろうか。


 そんな迷宮に入ったメンバーは、俺、アウロラさん、パンドラ、それにヴォルト、アラン、カゲツ、テンジクの突撃部隊と、アマリリスさん達の元教会メンバーだ。元教会でもアドニアとスコールはいないが。


 最終的にシェラのところまで行くのは俺とアウロラさんとパンドラだけだ。

 シェラを舐めているわけではないが、大勢で行っても勝てるわけじゃない。

 向こうは毒などで集団を相手にするのが得意な奴だ。

 アーティファクトで防げるが、こっちが多ければ多いほど被害は大きいだろう。


 ヴォルトたちには迷宮で暴れてもらってシェラの配下や魔物を呼び寄せる陽動だ。

 さすがにこのメンバーに勝てるような配下や魔物はいないと思う。

 いたらドラゴンくらいだろうな。


「ようやく暴れられるのか!」

「カゲツは少し落ち着けよ」

「んだよ、アランだって暴れたりねぇって言ってたじゃねぇか」

「まあな。魔国とはいってもそこまで強い魔物はいなかったし」


 カゲツとアランは迷宮内でも結構余裕だな。

 アランは冒険者として世界を冒険しているから古代迷宮にも入ったことがあると聞いたことがある。カゲツは物怖じするタイプじゃないか。


「お前らの強さは知ってるけど、緊張感はなくすなよ?」

「そうでござる。こういう場所では罠などもあるから気を付けた方がいいでござるよ。あと変な武器には触らない方がいいでござる……」


 ヴォルトとテンジクは慎重派だな。

 テンジクは凶刀のことがあったからか。

 強いのに気を緩めないのは心強い限りだ。


「罠、私、まかせる」


 元教会メンバーのガリオはそういうのは得意そうだ。

 元々盗賊というか義賊的な人だったはず。


 聖国で捕まって、そのままオリファスとディエスに採用されたとかなんとか。

 それがなぜ異端審問長官になれるのかは知らないが、人を捕まえるのが上手いからだろう。おそらくスキル持ちを捕まえる役目だったんだろうな。


 それにアマリリスさんやオリファス、それにバルバロッサがいる。

 これだけでこの古代迷宮を制覇できそうな勢いだな。

 とはいってもそれが目的じゃない。


 目的はシェラを倒すことだ。

 殺すつもりはないが無力化させなければいつまでも魔王代理になる気だろう。

 金は掛かるだろうが、そのために温存している金だ。惜しみなく使おう。


 ここは商業都市にある古代迷宮と同じようにエレベーターを使う必要がある。

 まずはエレベーターを操作できるアーティファクトを手に入れないと。


 パンドラの話では迷宮内にある制御用端末でアーティファクトを作り出し、登録すればいいとのことだ。前世の入館証みたいなものかな。ただ、機械的なものではなく魔法でやるらしい。文明は違っても似たような物は作られるんだな。


 さて、パンドラのナビでそこまで行こうかね。




「おい、ヴォルト、次は俺の番だったろ?」

「悪い悪い。順番間違えた」

「なら次は俺、二連続な!」


 魔物を倒す順番でヴォルトとカゲツが魔物を倒す順番の話し合いをしている。

 ヴォルトはさっき緊張感を持てとか言ってたくせに。

 とはいってもこの辺に出てくる魔物は弱い。

 ガーゴイルとかスライムとか魔法生物系だ。


 ガーゴイルは石で出来た悪魔っぽい奴だが、悪魔じゃないし石像でもない。

 そう見える魔物というだけだ。でも倒すと本物の石になる不思議な魔物だ。


 スライムはゼリー状のアレだな。

 前世だとスライムを知らない人っているのかというくらい有名な魔物だ。

 某ゲームみたいに可愛くはないが。


 ガーゴイルは普通に物理攻撃が効くので突撃部隊がローテーションで戦っているが、スライムには魔法攻撃が良く効くのでオリファスが相手をしている。とはいえ、どっちも過剰戦力だが。


「うう……役に立つところを見せたいのにスライムを燃やすだけなんて……」

「オリファス様。クロス殿はちゃんとオリファス様がお役に立っていることを分かっておりますぞ」


 バルバロッサがオリファスを慰めているけど、なんだかな。

 それにオリファスは顔を隠している髪の毛の間から、ちらちらと俺を見ている。

 ちょっと怖いので褒めておこう。


「ええ、オリファスさんのおかげで迷宮探索がはかどってますよ」

「ありがたきお言葉……! これが天にも昇る気持ち……!」

「本当に浮いてますから降りてください」


 無意識に飛行の魔法とか使わないで欲しい。

 難しい魔法のはずなのに簡単に使えるのは強いことの証明だ。

 スライムのような魔物を相手させるのはちょっともったいなさすぎる。


「……誰か怪我をしてませんか。できれば瀕死だと良いのですが」

「アマリリスさん?」

「すみません。治癒魔法を買われて一緒に来たのですが、誰も怪我しないので」

「それはいいことなんですけどね」


 なんで皆そういうアピールをするんだろう?

 順調に進んでいるんだけど、順調じゃないような感じだ。


「モテモテですね、クロスさん」

「アウロラさん、怖いんでもうちょっと離れてくれますか?」

「それは何か後ろめたいことがあるということでしょうか?」

「いえ、全く。でも、命の危険は感じます」


 そしてアウロラさんの機嫌が少し悪そう。

 パンチの素振りをしているし、何を殴る気?

 それに魔王様が神話時代の兵器と聞いてから考え込むことが多い。

 なにか問題でもあるのだろうか?


「私の機能を使わなくても分かります。これはラブコメとヤンデレの波動……!」

「パンドラは何を言ってんだ?」

「状況を分析した結果です。巻き込まれたくはありませんが、見てる分には楽しい」


 なんだろう。この人選は良くなかったのか?

 あまりにも緊張感がないような……?

 気のせいかな?




「ここです。間違ってたら兵器を辞めてただのメイドになります。むしろ間違えろ」


 パンドラが示した場所にはおそらく金属製の巨大な扉があった。

 形状は四角でプレートが付いている。

 プレートには文字が書かれているが、古代文字だから読めない。


 ストロムさんなら読めるだろうけど、パンドラも分かるはずだよな?


「あのプレートにはなんて書いてあるんだ?」

「『コントロールルーム。関係者以外立ち入り禁止』ですね。ちなみに資格がない人が入ると防衛システムが作動して強力な魔物が襲ってきます……ですが、すでに倒されていますね。部屋に何かいますが、生体反応がありません」


 シェラが先に倒したということかな。

 向こうにもパンドラと同じ型の兵器がいる可能性が高い。

 シェラもパンドラのマスターになっただろうし、古代迷宮で色々できるのだろう。


 まだ迷宮から出てこないということは何かに手間取っているはずだ。

 状況が分からないけど、手が出せないのか、時間がかかっているのか、それとも辿り着いていないのか。どっちにしても進まないとな。


「パンドラ、開けてくれ」

「分かりました。開けゴマ」


 パンドラが意味のない言葉を言いつつ扉を横にスライドさせた。


 そこそこ広い部屋の中央に魔物が倒れている。


 たぶん、ワイバーンだ。

 飛竜と呼ばれる魔物だけどドラゴンではないとか。

 そもそも動物並みの知性しかない。


 この世界のドラゴンは人以上の知的生命体だからな。

 一緒にしたら申し訳ないくらいの違いがある。


 ワイバーンはドラゴンみたいに前足はなく、翼になっているタイプだ。

 弱いわけではなく、かなり強い。

 全長五メートルくらいあるし、グリフォンよりも強いだろう。


 でも、死んでるなら強くても問題ない。


 近づこうとしたら、アウロラさんが止めた。


「どうしました?」

「外傷がありませんね」

「え?」

「パンドラさん、あれは間違いなく死んでいるのですか?」

「生体反応はありません。それに別のフロアにいるワイバーンにはちゃんと生体反応があります。なので立派に死んでいます」


 防衛システムはどこかのフロアのワイバーンをここへ送りこむってことなのか?

 それはいいんだけど、パンドラがこういうことで間違えるとは思えない。

 ということは死んでいるのも間違いないだろう。


 それにシェラが相手なら外傷がなくても不思議じゃない。


「シェラのことですから毒でも盛ったのでは?」

「その可能性は――パンドラさん!」


 倒れていたワイバーンのしっぽがパンドラを襲う。

 ――が、パンドラは片手でそのしっぽ攻撃を止めた。


「驚きました。死んでるのに動くとは。ゾンビ?」


 パンドラは両手でしっぽを掴むと、背負い投げのようにしてワイバーンを床に叩きつけた。しかも一度だけではなく、ビタンビタンと何度も叩きつける。


 ワイバーンは鳴き声を上げるわけでもなく、パンドラのいいように振り回された。

 見ていてちょっとかわいそうになったが、十数回叩きつけたところでワイバーンはまた動かなくなる。いや、少し痙攣しているか?


「ちょっと分析……魔法による死者への使役ではなく、強制的に脳を動かす薬品が使われていますね。死体状態でも動くとは驚きです」

「……シェラの薬か。ここに誰か来た時のために罠をしかけたわけだ」

「おそらく。かわいそうなので弔ってあげましょう。往生せい」


 パンドラはそう言ってワイバーンの頭に右手をかざす。その手が一瞬だけ光るとワイバーンはびくっと体を動かし、その後、力が抜けたように倒れた。


 おそらく古代の技術で脳に直接何かをしたのだろう。


「これで大丈夫。ワイバーンの体も安らかに眠ったはずです」

「そうか……パンドラもいいところがあるな」

「むしろいいところしかないと自負してます」

「……そう、かな?」

「疑問形なところにイラっとします。ストライキは権利だと言っておきます」

「悪かったよ。パンドラはいいところしかない最高のメイドだ」

「よせやい」

「お前が言わせたんだけどな」


 それでも照れているのかパンドラはホウキを取り出して掃除を始めた。

 ワイバーンがホウキで壁際に追いやられるのはちょっとかわいそうな感じだが。


 よし、とりあえずこの部屋の危険はなくなったか。

 さっそくエレベーターを操作するアーティファクトを作ろう。

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