第100話 神話時代
ダークエルフとオークたちを生け捕りにした。
かなりの人数だが誰も殺さずに制圧できるのはこっちが異様に強いからだな。
しかもこっちにはまだまだ余力がある。
全員で戦ったらもっと素早く制圧できただろう。
でも、戦力はできるだけ増やしておかないとな。
最終的にはヴァーミリオンの奴とも戦うんだ。
向こうには強力なアンデッドたちがいる。
どれだけあっても足りないくらいだろう。
それはそれとして、薬を飲んだダークエルフたちが虫の息だ。
アマリリスさんの治癒魔法でなんとか生き延びているが、助かるだろうか。
金を使ってでも助けるべきかどうか迷うが、とりあえずは静観だ。
それに今、スコールが薬の分析をしている。
調査用の機材が足りないとぼやいているが、真面目にやってくれているようだ。
真面目にというか、ちょっと薄ら笑いを浮かべているのは怖いが。
他にも問題がある。
メイガスさんとオリファスが揉めている。
「貴方、本当にクロスちゃんと迷宮に行くの?」
「何か問題があるわけ……?」
「裏切らない保証がないのよねー?」
「クロス様に対する忠誠心は本物だって何度も言ってるでしょ……? 大体、メイガスの方はクロス様を観察しているじゃない……裏切るならアンタの方じゃないのぉ……うわ、言ってて吐きそうにならない……素敵……!」
「アルファちゃん達を助けてもらった恩があるもの。裏切ったりしないわー」
「口では何とでもいえるわよねぇ。でも、裏切ったりしたら私がアンタをぶっ殺しちゃうから気をつけなさいよ……!」
「それは私のセリフじゃないかしらー? それに貴方だけじゃなくて、配下の人達もちゃんと見てなさいよー?」
ゆっくり話す二人だから会話がスローテンポだ。
言ってることは不穏だが。
確かに元教会のメンバーは何を考えているか分からない。
オリファスに従っているが俺に対してどう思っているのかは微妙だな。
古代迷宮に連れて行くけど大丈夫だよな?
「クロス君、分析が終わったよ。なかなか興味深い結果だった」
どうやらスコールの分析が終わったようだ。
文句を言っていた割に仕事が早いな。
今のところ好意的ではあるが、スコールはどうなんだろうな?
「結論から言えば魔力を数倍引き上げるけど、体がもたないという薬だね」
「そのまんまですね」
「どんな薬だろうと飲み過ぎれば毒になるからね。もっと濃度を薄めればメリットの方が上回るだろうけど、これは全くの逆だね。毒の副作用で魔力が上がるようなものだ。魔国の薬師とは酷いものを作るねぇ」
「あれを薬師と言うのは抵抗がありますけどね」
「へぇ、だが、薬という観点だけで言えば相当なものだ。一度は会ってみたいね。とりあえず成分は分かったからそれを無効化する薬も作れるけど、どうする?」
「時間がかかります?」
「いや、そうでもないね。とはいっても数時間は掛かるけど……ああ、僕は迷宮に入らなくても大丈夫じゃないかな?」
「え?」
「オリファス様が健康になったからね、定期的な薬の投与もいらなくなったんだよ。神の力とは薬師泣かせだね」
そういうとスコールはニヤニヤと笑いながら俺を見た。
スキルを使ってメタトロンの魔力をオリファスになじませたからな。
オリファスの体調不良が無くなったから、スコールの薬も必要ないってことか。
でも、神の力か。ここは肯定も否定もしないでおこう。
「なら治療の方を任せても大丈夫ですか?」
「問題ないよ。まずは発汗によりある程度の毒素を抜く必要はあるけど、それさえ終わればアマリリス君の治癒魔法も不要だろう。それが終わるまではアマリリスにいて欲しいけどね」
アマリリスさんとオリファスはヴォルトたちの治癒役として迷宮に入るからな。
治療の前段階が終わるまではいてくれってことか。
「分かりました。ではそれでお願いします」
「実は僕が作った急激に発汗を促す薬を試してみたいと思っていたんだよ」
「……それって大丈夫なんですよね?」
「……アマリリス君がいるから大丈夫だと思うよ」
いざとなったらスキルに頼ろう。
さて、こっちはいいとして、アウロラさんの方はどうだ?
俺が薬を奪ったダークエルフを尋問していたようだが。
「アウロラさん、そっちはどうです?」
「はい、薬の話を聞いてからは色々話してくれました」
「実験台みたいな扱いをされてますからね」
薬を飲んでいないダークエルフはロープに縛られた状態で項垂れている。
まあ、シェラってそうだよね。
たとえ同族だとしても仲間と思っているわけじゃない。
アイツは自分とそれ以外くらいの感覚しかないだろう。
……いや、もう一人いるか。自分ともう一人と他人という区別だな。
聞いた話によれば、シェラはここ最近、古代迷宮に引きこもっているらしい。
事情は不明だが、この迷宮で見つけた人形が影響しているとのこと。
その人形と側近何人かを連れて中で何かをしているとのことだ。
魔王様が健在の時は大人しくしていたが、本格的に迷宮の探索を始めたそうだ。
誰も入れるなということでここを守っていたが、時間がかかるので交代制。
しばらくすれば、他の亜人たちやダークエルフがここへくる予定らしい。
貰った薬は強い奴が来たときに使えと言われて持っていたとのことだ。
バウルたちもそうだけど、ステータス五倍のフランさん達も強いからな。
さらにメイガスさんとスカーレットの魔法があれば強い奴認定されるわけだ。
だいたいの状況は分かったけど、目的がよく分からない。
そもそも古代迷宮の奥には何があるんだろう?
こういうときはパンドラだな。
「パンドラ、ちょっといいか?」
「もちろんです。掃除ですか?」
「そんなわけあるか。この古代迷宮って何の目的で作られたものか知っているか?」
「もちろん知っています。完璧メイドなので」
「なら教えてくれ」
「現在は魔王と呼ばれているようですが、当時はバランサーと呼ばれた神話時代の兵器を倒すために作られた前線基地です。私も配属予定でしたが、不良品として返されました。おのれ口惜しや……よく考えると今の方が楽しいですけど」
いきなり分からない単語がいくつか出てきたんだけどどういうことだ?
魔王様がバランサーと呼ばれていた神話時代の兵器?
「まず、神話時代ってなんだ?」
「神がいた時代です。古代文明よりももっと前と言えば分かりますか? だいたい今から二万年くらい前です。私がつくられたのが大体一万年前くらいで、そのさらに一万年前くらい前の時代です。つまり私二個分昔の時代」
意外と最近までいたんだなという感想だ。
数億年前とか勝手に思ってた。
「なら、次の質問。そのバランサーって何をする兵器なわけ?」
「世界の秩序を守る兵器です。私はメイドをする兵器」
「秩序を守る? それっていいことだと思うけど、本当に魔王様のことなのか?」
「秩序を守るという認識がちょっと違いますね。秩序というのは世界の秩序で、人の秩序ではありません。つまり、人が増えすぎたらその分減らしますし、怪しげな技術を手に入れたら抹殺しようとしてきます。秩序というよりも世界の均衡を維持をするのでバランサーと呼ばれていました。いい迷惑」
「えっと……どういうこと?」
「皆さんが言っている古代魔法王国は私のような兵器や便利な魔法を作り出し、今よりもはるかに栄え、ほぼ全世界を掌握していました。なので『お前らやりすぎ』とバランサーが襲ってきたわけです。それに抵抗した戦いが千年くらい続いてました」
おいおい、そんな歴史は初めて知ったぞ。
ゲームのストーリーをちゃんと確認しておくべきだった。
「ちなみに、その戦いって……」
「状況から見て負けたのでしょうね。局地型殲滅兵器バルムンクが暴走して今の商業都市周辺を吹っ飛ばしましたので。あれで勝つつもりでしたから」
「ああ、そうなるのか」
「そもそも神が作った兵器を壊せるわけがないんですけどね」
「どういうこと?」
「バランサーは神の遺産です。そういうのは同じ神の遺産でなければ破壊できません。あの戦いは神を超えられるかどうかの戦いでもありましたね」
「神の遺産……」
「神話時代に神が作ったものをそう言ってます。そういうのはだいたいヤバイです」
神の遺産……神の残滓ということか?
『いえ、違いますね』
『うお、びっくりした』
いきなりスキルから話しかけられた。
心臓に悪いな。
『神の遺産とはあくまでも神が作ったものであって、神の残滓ではありませんよ』
『そうなんだ?』
『例えば聖剣は神の遺産。東国にある神刀は神の残滓です』
『ややこしいな……お金払ってないけど情報を貰ってもいいのか?』
『これくらいはサービスしておきます。ちなみに、その神の遺産の一つがこの古代迷宮の奥に保管されています。それを再現しようと分析していたようですね』
『……それってヤバイもの?』
『バランサーを倒すための兵器ですが、聖剣みたいなものだと思ってもらえれば』
『そりゃヤバイね……でもなんで魔王様――バランサーを倒すものがあるんだ? どっちも神が作ったんだよな?』
『バランサー自体が秩序を守らなくなった時のために神が残したものですね』
『ああ、そういうこと』
制御装置みたいなものか。
それにしても思いのほか色々聞けた。
古代迷宮の奥には聖剣みたいなものがあると。
シェラが手にしたらろくなことにならないだろうな。
そうなる前にこっちが手に入れよう。
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