第98話 グリフォンの縄張り

 色々あった翌日、予定通り魔国の森林地帯へと足を踏み入れた。


 今回は古代迷宮での戦いがメインなので、迷宮に入る部隊と外で亜人や魔物と戦う部隊に分かれることになった。


 俺とアウロラさんは迷宮に入る。そこにパンドラを連れて行く。


 さすがにメリルは連れていけないので、護衛をカガミさんに依頼した。

 マスコット部隊なら守りが硬いから安心だ。


 迷宮での戦いに強そうなヴォルトたち突撃部隊も一緒に古代迷宮へ入る。

 そこにオリファスとアマリリスさんたちを回復役としてつける形だ。

 ガリオ、バルバロッサ、スコールも付いてくるので教会メンバーはほぼ全員だな。


 ヴォルトたちは迷宮内にいるシェラの部下たちや魔物を引き付ける役目だ。

 シェラがいるはずの奥へ行くのは俺たち三人だけ。

 それ以外の人達は迷宮の外にいるシェラの部下たちと戦う。


 全員で行かないのは人が多すぎると俺が守れないというのがある。

 それは東国でバサラさんを倒しに行ったときに分かった。

 守れないというよりは守るためにお金がかかる、かな。


 パンドラは大丈夫だろうが、アウロラさんは守らないと。

 軍師だからついていくと言って聞かないし、これは仕方ないだろう。

 それにアウロラさんには神魔滅殺がある。

 正直なところ俺より強いし、迷宮内に手ごわい魔物がいてもなんとかなるはずだ。


 懸念点としてはパンドラと同じ古代兵器がいる可能性が高い。

 パンドラが勝てるかどうかは不明だが、別に勝てなくていい。

 俺がシェラを倒すまで相手してくれれば十分だ。


 戦場となる古代迷宮までは五日くらいかかる。


 今回はメイガスさんの空飛ぶ絨毯は使わない。

 というか、人が多すぎて全員が乗れないし、目立つ。

 それにこの森林地帯にはハーピーとか空を飛ぶ亜人や魔物が多い。

 倒せないことはないが倒す必要もない。


 今回はできるだけ早めに済ませる必要があるが、移動に時間がかかるのは仕方ない。あまり派手に行軍すると亜人たちが邪魔するだろうからな。できるだけ戦闘を避けて、速やかに行動だ。


「そっちはコボルトたちの縄張りなので避けましょう」

「バウルたちのおかげで助かるよ」

「この辺は俺たちの庭みたいなものでしたから」


 さすがはここに住んでいたゴブリンと言うべきか、森の移動はお手の物だ。

 そういえばエンデロアを襲撃するときも魔族の俺についてこれたしな。

 戦力的にも期待しているけど、森での活動も期待できそうだ。


 普通なら五日くらいだけど、これならもっと早く着くかもしれない。


「ところでボス、さっきの提案ですけど、どうしますかい?」

「グリフォンの巣を突っ切るかどうかか……」

「ええ、アイツらの縄張りを通るか避けるかで結構距離が変わるんですけどね」

「一時間程度ならともかく、避けると半日か。なら突っ切るべきかな……」


 グリフォン。

 魔物の中ではポピュラーで獅子の体に鷲の頭があるやつだ。

 それに背中には翼があって空を飛べる。


 前世の創作だと色々と強力なグリフォンもいるが、この世界では動物系の魔物だ。

 魔法は使えないし、変な亜種もいない。

 それでも空からの急降下攻撃はかなり危険だ。魔族でもたまにやられた話を聞く。


 そんなグリフォンだが、こっちの戦力なら間違いなく倒せるだろう。

 だけど、普通に暮らしているだけのグリフォンを倒すのも気が引ける。


 もちろん襲ってきたら撃退するが、別に悪いことをしているわけでもないんだよな……いや、角ウサギや三つ目クマを倒している時点でグリフォンがどうこうとか言っている場合じゃないか。


「それともボスがグリフォンのリーダーを倒して上に立ちますかい?」

「え?」

「アイツらはシェラに従っているわけじゃないので、縄張りのリーダーを倒せば従ってくれますぜ」

「それでいきましょう」

「ちょっとアウロラさん?」


 軍師だから提案をしてくれるのはいいんだけど、決定するのはどうなの?

 まあ、そういうのも全部お任せだけど、戦うのは俺なんだけど?

 ……いや、誰かに任せていいのか?


「誰なら勝てる?」


 なんで皆は俺の方を見るかな。


「お互いのボスが戦って相手の全部を手に入れるというのがグリフォンの生態ですんで、ここはボスに出てもらわないとだめっすね」

「面倒な生態だな。でも、グリフォンって言葉は通じないだろ? どうすればそういう戦いを受けてくれるんだ?」

「その辺りはあっしらゴブリンにお任せください。いつかグリフォンにまたがって空を駆けたいと思ってたんで、そのあたりの対応は完璧ですよ」


 ゴブリン達ってそうなのか。

 でも、グリフォンライダーとかちょっと憧れるね。

 魔物にまたがって空を飛ぶってのは確かにロマンがある。


 それにバウルたちがグリフォンにまたがって空を飛べるようになったら戦力もかなり上がるかも。森林地帯での戦いは微妙だけど、砂漠地帯での戦いならかなり有利になる気がする。


 損して得取れって言葉もある。スキルで金は使うが後々のために必要だろう。


「なら、交渉、というか話しをつけるのは任せる」

「分かりやした。ちなみに負けたら面倒なんで勝ってくださいよ?」

「そういうプレッシャーをかけるのはやめて」


 最初から全力でやれと言われているんだろうな。


 グリフォンは魔物の中でも強い部類だ。

 素の俺なら勝てないだろうけど、スキルがあればなんとかなる。

 古代迷宮までまだ距離があるし明日は筋肉痛になっても問題はない。

 超絶強化をして勝つか。




 森林地帯の少し開けた場所にグリフォンたちがいた。

 枝とか藁を巣に使うのだろうけど、丸太で巣を作るところがグリフォンだね。


 グリフォンは魔物の中でも頭が良い方なのだろう。

 しばらく前から監視されていたのだが、グリフォンの領地に足を踏み入れる前にバウルがなにかの鳴き声を発すると数体のグリフォンが目の前にやってきた。


 その後、何かの話をしたようだが、魔物と会話が通じるってすごいな。

 ついて来いという風にここまで案内された。


「あそこにいるのがここのリーダーですね。そっちのボスは誰だって聞いてます」

「手を上げるというか、前に出ればいいのか?」

「そうっすね。中央まで行けばすぐに戦いが始まると思います」

「分かった。ならちょっと行ってくる……なんで皆は食事を始めてるのかな?」

「ボスが負けるとは微塵も思ってないので休憩しているみたいですね」

「少しは心配しろよ。というか、アイツら食事だけじゃなくて酒まで飲み始めたぞ」


 ボスなのにボスと思われていないのだろうか。

 アマリリスさんとかオリファスは目をキラキラさせながらこっちを見てるけど。

 なんかグリフォンたちからも憐みの視線を感じる。


 まあいいや。早く終わらせて俺も酒を飲もう。


 広場の中央まで歩くと、グリフォンたちのリーダーとやらも中央に出てきた。


 なんだか貫禄があるね。

 それにデカいから俺を見下ろしている。

 グリフォンの表情ってよく分からんが笑った気がする。


 動物的に俺を弱いと思ったか。

 でもな、魔法やスキルを計算できないところが魔物だよ。


 ゆっくりと木刀を構える。

 これで戦闘の意思があると分かったはずだ。


 すぐさま身体強化の魔法を起動した。


『十分間の超絶強化を頼む』

『金貨五枚です』

『……安くなった?』

『神の残滓と悪魔を食べましたので。それでどうします?』

『もちろん払う』


 ありがたい。半額になってる。

 これはもっと神の残滓を食べればもっと安くなるのか?

 危ない思想の奴が持ってたらできるだけ食べてもらおう。


『そうしてください。滅多にあるわけじゃないんですけどね』


 東国にはたまたまいたが、本来はあまりいないんだろう。

 ……気付かなかったけど、もしかして魔国にいるのか?

 まさか四天王達って……いや、それは後だ。まずは目の前のグリフォン。


 グリフォンはいつの間にか前足の爪で俺をひっかこうとしている。

 危ない。思考速度が上がっていてよかった。


 その爪による攻撃を木刀で弾く。

 そのまま足を踏み出して袈裟斬り。

 グリフォンも超反応で後ろへ避けた。


 それだけじゃなく、翼を羽ばたかせて羽根を飛ばしてきた。

 フェザーショットとかいう攻撃か。

 これは当たると結構痛いと聞く。突き刺さるらしい。


 でも、今の俺には当たらないな。

 飛んできた羽根を全部木刀で叩き落とした。


 これにはグリフォンの方も驚いたようで、さらに後方へと距離を取った。

 でも、逃がすわけがない。


 身体強化と超絶強化の恩恵で一瞬で距離を縮めることができる。

 さらにフルスイングで攻撃しようと思ったら、上空へ逃げられた。

 しかもまた笑っている気がする。


 翼のない奴に負けるわけにはいかないとでも思っているのか?

 飛べなくても跳ぶことはできんだぞ。


 屈伸するように足をまげて力を溜めてから飛び上がる。

 そして驚いているグリフォンの首にラリアット。

 そのままグリフォンの首を軸にして背中側に回り込んだ。


「クエェェ!」

「暴れんな」


 苦しかっただろうが仕方ない。

 後は翼が動かないように抑え込む。

 魔法で空を飛んでいるわけじゃなく、物理的に飛んでいる奴にはこれで十分。


 というか、良くこれで飛べるな。

 前世とは法則が違うのか、こんな歪な造形でもちゃんと飛べている。

 でも、翼を抑え込めばさすがに飛べない。


 グリフォンと俺はそのまま自然落下した。

 魔族の俺はともかく、グリフォンはどうだろう?

 死なないとは思うけど。


 グリフォンを地面に思いきり叩きつけた形になった。

 苦しそうにしていても怪我はなさそうだ。

 これは俺の勝ちでいいんだよな?


 背から降りて立ち上がると、グリフォンもふらふらと立ち上がる。

 その後、俺の方を悔しそうに見たけど、頭を垂れた。


 たぶん恭順の意味だろう。

 これでグリフォンたちはクロス魔王軍ということだ。


「よし、勝ったぞー……って何を盛り上がってんだ?」


 疑問に思っていたらバウルが近づいてきた。


「賭けをしていたようですね。何分で勝つかという賭けだったみたいですが」

「人が戦っているというのに……」

「ボスにはカラアゲと酒が用意されてますよ」

「よし許す……ところでグリフォンって何を食べるんだ? もう俺の配下だから何か食べさせたいんだけど?」

「……やっぱりボスはボスっすね。それは俺らが用意するんで任せてください」

「ならグリフォンたちの世話を任せるよ。よし、カラアゲを食おう」


 そろそろ暗くなるし、今日はここでキャンプだろう。

 もともとグリフォンの縄張りだし亜人たちも襲ってこないはず。

 古代迷宮はまだ先だから、今のうちに英気を養っておこう。

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