第97話 元教皇
倒れている元教皇のオリファスに近づく。
こんな状況でも誰も助けないというのがすごい。
この人、ダウナー系というか、陰キャというか、負の要素が多い。
見た目からしてホラーだしな。
キャラプロフィールに書かれていたが教皇になる前は魔女と言われていたらしい。
どうやって教皇になったのかは知らないが間違いなく強い。
治癒も攻撃もできるならぜひとも戦いに参加してほしいところだ。
「オリファスさん、大丈夫ですか?」
「……声をかけてくれるのをお待ちしておりました……!」
倒れていたのは作戦か。
オリファスはうつぶせの状態から手を使わずにゆらりと立ち上がる。
魔法を使わないで欲しい。立ち上がり方からしてホラーなんだよ。
ちょっと呆れていたら、いきなり両方の二の腕を掴まれた。
「正式な挨拶は初めてですね……オリファスです。暗いところが好きです……」
「……クロスです。俺はカラアゲが好きかな」
「か、神の好みを知ってしまった……! 日記に書こう……!」
……怖。あと腕が痛い。でも、それ以上に目が怖い。
髪の毛が邪魔で良く見えないけど吸い込まれそうな漆黒だ。
渦巻いているようにも見える。なんかやばい。
それにしても、ものの見事に俺を神だと思ってるな。
神じゃないことがばれたらちょっとやばそうだ。
確かに課金スキルは神の残滓だけど神じゃない。
残滓が神だと言うなら、メタトロンという魔法を持っているオリファスも神だ。残滓によっても色々とランクというか強さがある。こっちの残滓の方が上なのは間違いないけど、このあたりの説明をしたところで通じると思えないんだよな。
「ああ、怒っているのですね? 教会本部では失礼いたしました。まさかすでに神が降臨されているとは思っておらず、恐れ多くも歯向かってしまいまして……う、思い出したら吐き気が……」
「この状態では吐かないでくださいね。気にしてないし、怒ってませんから」
「なんと寛大な……清らか過ぎて吐きそう……」
どっちにしても吐くのかよ。
というか、この人なんでいつも吐きそうなんだ?
ダウナー系ってこんな感じだっけ?
もうちょっと気だるい感じの人じゃないの?
『吐きそうなのは、神の残滓であるメタトロンの魔法を持っている影響ですね。制御できるほどの魔力を持っていますが、常に抑え込んでいるので体に影響が出ているのでしょう』
『そういうことか』
『今なら奪うこともできますよ。私が食べるってことですが』
『……いや、それはしなくていい。ただ、吐き気をなんとかすることはできるか?』
『できなくはありませんが、金貨百枚は貰います』
『それは永続的に大丈夫だと思っても?』
『はい。メタトロンの魔力をオリファスになじませて抵抗を減らす形ですので。お勧めはしませんが、やりますか?』
『ならちょっと待ってくれ』
それなら交渉に使えるかもしれない。
「あの、起きていたなら分かっていると思いますが、これから魔国に戦いを仕掛けます。できれば助けていただきたいのですが」
「不思議なのですが、クロス様なら一人でどうとでもなるのでは……? いえ! これは単なる疑問であって疑っているわけではないのですが……!」
俺に絶対的な力があると信じているからそういう質問がでてくるのだろう。
確かに金さえあればなんでもできるが、ないと何もできないんだよな。
今だって金貨は一億枚くらいあるけど、四天王に勝てるかというと怪しい。
素が弱いと言うのは悲しいね。
俺が強ければお金を使うのも減るんだけど。
それはともかく、どうしたものか。
上手い言い訳が思いつかない。
そんなことを考えていたら、アマリリスさんが戻ってきた。
そして今の状況を見ると、すぐに俺からオリファスを引きはがす。
「クロスさんが痛がっています。離れてください、オリファス様」
「私の力くらいで神が痛がるわけがないでしょ。というか貴方の聖なるオーラが激しすぎて浄化されそう……あれ、ちょっと待って。貴方、体の中の悪魔はどうしたの? 気配を感じないんだけど……?」
「昨日、クロスさんに消してもらいました。痛みのない生活って素敵ですね……!」
アマリリスさんが嬉しそうに言うと、オリファスの頭がぐりんと俊敏に動く。
だからそういうホラーな動きはやめて。
「ああ……神に疑問を持つなんて、なんと罪深い……過去最高に吐きそう……!」
悪魔がいなくなっていることにようやく気づいたのか。
オリガ、バルバロッサ、スコールも驚いているようだし。
アドニアだけは頭にハテナマークが浮かんでいるが。
でも、そのおかげで俺への疑いが無くなったか?
「あの、なら魔国で一緒に戦ってくれますかね?」
「もちろんです……! 神の剣として歯向かう奴らは皆殺しにしてやります……!」
「そこまでしなくていいです。ウチの組織は基本的に不殺の方針なので」
「不殺……? いえ、神がそうおっしゃるならそれで。ああ、神が私の力を頼っている……テンション上がってきた……!」
協力してくれるのは助かるけど、いつまでも神と言われるのは嫌だな。
戦いの交渉に使おうと思ったけど、こっちに使おう。
「オリファスさん、俺を神のように扱うのはやめてもらえますか?」
「無理です……いえ、これは逆らっているわけではなく、本能的に無理って言うか。メタトロンを無効化した上に、天使を食い、悪魔を消し去る方なのです。神のように扱うのは駄目とか何の罰なのかと……死にそう……!」
「神だと思うのは自由です。ただ、人が多い場所でそれをされるのは困るので」
「う、うう……でも、でも……う、また吐きそう……」
「仕方ありません。先に体の不調を治してあげます。話はそれからですね」
「え……?」
仕方ない。ここは先にやってしまおう。話が進まないし。
「貴方の体調不良は神の力とも言うべきメタトロンの魔法を持っていることです。それを貴方の魔力に同調させて吐き気などを抑えます」
オリファスの手を握る。
こっちが驚くくらいオリファスがびくっとなった。
『さっき言ってたやつをやってくれ』
『金貨百枚ですが本当にやります? もったいなくないですか?』
『このままだと話をするのが大変だし、面倒だからやってくれ』
『わかりました――もういいですよ』
オリファスの顔は髪でほとんど隠れているので良く見えない。
でも、ほんの少しだけ覗いている顔だけで分かる。
映画の早送り……それとも逆再生?
そんな感じに顔色が良くなっていくんだけど?
それに黒く濁った眼が綺麗になっていくのは逆に怖いんだが。
というか、目のクマも消えた?
どれだけメタトロンの影響受けてたんだこの人?
「オ、オリファス様! だ、大丈夫ですか?」
手を離した瞬間に倒れそうになるオリファスをアマリリスが支える。
すると「ウフフフ……」とオリファスの笑い声が聞こえた。
「こんなに気分がいいのは生まれて初めて……! 普通の人ってみんなこうなの……? そう思うだけで嫉妬で吐きそう――な感じはないけど」
「えっと、大丈夫?」
俺の声を聞いたオリファスはすぐさま跪いた。
というか五体投地された。
この人うつぶせが基本スタイルなの?
「このオリファス、神であるクロス様に永遠の忠誠を……!」
「まず、立ってください。それなら普通に接するようにお願いします」
オリファスはまた魔法を使って立ち上がると、泣きそうな目で俺を見た。
「う、うう……! 分かりました……吐きそうじゃないけど、吐きそう……!」
吐きそうって口癖になってんだな。
でも、これで一件落着か……?
教会の人というか信仰って怖いな。
これって昨日のアマリリスさんと同じだと思う。
そのアマリリスさんはなぜ頬を膨らませているのだろうか?
「クロスさん、いきなり女性の手を握るのはどうかと思います」
「え? ああ、そうでしたね。ちゃんと許可を取るべきでした」
「クロス様にならいつ触られても問題ありません。むしろいつでもウェルカム……すごい、痛みがないから陽キャみたいなこと言ってる……!」
陽キャだってそんなこと言わないと思うけど。
でも、これで教会のメンバーも戦いに参加してくれることになる。
いつか神じゃないと話をするけど、それはアウロラさんが魔王になってからだな。
……説明しないで逃げると言うのもありか?
まあ、そんな先のことは後でいいか。
まずは森林地帯のシェラを古代迷宮で倒す。
それに集中しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます