第96話 元教会の人達

 戦いの準備は皆に任せて、村にできたという診療所にやってきた。


 アマリリスさんやグレッグさんがいるが、それ以外にもオリファスたちがいる。

 ウチの組織はちゃんとした軍隊もあるけど、少数精鋭がメインだ。

 ここは何としても元教会の人達を味方につけておきたい。


「クロスです」


 そう言って治療院の扉をノックした。


 最近できたばかりなので建物自体が新しい。

 おそらくヴォルトが作ったのだろうが、普通に建てられるってすごいな。

 勇者じゃなくなっても食っていくのに困らないぞ。


 ……なんだろう?

 治療院の中が騒がしいんだけど?


 そう思ったらいきなり扉が開いた。


「お待たせしました、クロス様。おはようございます、アマリリスです」

「おはようございます。その前に跪くのをやめてもらっていいですか?」

「それがクロス様のお望みならば」

「お望みというかお願いです。あの、そこに倒れているオリファスさんは……?」

「どちらがお迎えするか少々揉めましたので、こう、キュッと」


 アマリリスさん、オリファスに勝てるのか。

 朝だから弱体化してるのかな。

 というか、オリファスはアマリリスさん達を保護しているのでは?

 信仰って怖いね。それに信仰対象が俺だから怖さが倍だよ。

 いつかちゃんと目覚めて欲しい。


 と、そんなことをしている場合じゃない。

 できれば今日、遅くても明日の朝には出発する。

 すぐに話をしておかないと。


「話があるのですが、中に入っても?」

「もちろんです。自分の家のようにおくつろぎください。むしろ、私のことはお嫁さんのように思ってくださっても――」

「アマリリスさん、落ち着いて」

「……出過ぎた真似をしました。罪深き私をお許しください」

「罪深くないんで大丈夫です。というか俺の許しとかいらないので」

「クロス様の寛大さには感謝しかありません」


 俺はアマリリスさんに恐怖しかないよ。

 なんだか狂信的になってないか?

 グレッグさんにそうならないように頼んだんだけどな。


 そのグレッグさん、なぜかコーヒーを飲みながら笑っている。

 笑い事じゃないんだけど。


「あの、アマリリスさん、これまで通りでいてください。そんな風にされたら壁があるように思えてしまいますから」

「これでも足りないくらいだと思っているのですが……?」

「いえ、過分です。せめて友達みたいな感じでお願いします」

「わ、分かりました。努力します……ではクロスさん、今日はどのような……?」


 よし、ここからだな。ちょうど全員いるみたいだし、伝えておこう。


「クロス魔王軍は早ければ今日、遅くても明日の朝には魔国へ向かいます。できれば皆さんの力を借りたいと思ってきました」

「分かりました、すぐに用意します。さあ、皆さん、行きましょう」

「待ってください。俺の方から皆に挨拶というか話をさせてもらっても?」


 昨日の宴会で元教会のメンバーとはちょっとした挨拶をしただけで、ほとんど話していない。状況的にオリファスの命令があれば助けてくれるだろうが、ひとりひとりと話をしておくべきだろう。


「そういうことでしたら……では私は準備をしておきますね」


 アマリリスさんはそう言うと、奥の部屋へと移動していった。

 ここは診察室みたいなもので、奥が住居になっているのだろう。


 アマリリスさんがいなくなったので、ここにいるのはグレッグ、オリファス、アドニア、ガリオ、バルバロッサ、スコールの六人だ。


「ええと、まずグレッグさんも助けてくれると思っていいですか?」

「そうしたいが、この歳で魔国に行くのは無理だろう。ましてや戦えるわけじゃない。役に立てるとは思えないから、ここで待っているよ」

「治癒魔法には期待しているんですけど?」

「私の治癒魔法は大したものじゃないよ。相手がアンデッドとかならやれることもあるが、今回はそうではないのでアマリリス君に任せたい。それに村長さんが腰が痛いと言っているのでしばらくは面倒を見ないとね」


 グレッグはエクソシスト。

 悪魔系やアンデッド系に対しては強力な魔法を使えるが、他はそうでもない。

 それを考えると仕方ないか。


「ヴァーミリオンの領地で戦う時は期待しても?」

「そこなら任せたまえ。正直ヴァーミリオンとは戦いたくないが、クロス君に恩を売りたいからね」


 ものすごく高い借りになりそうだけど仕方ないな。


 なら次は――


「私は闇百合近衛騎士隊に所属したからついていくぞ!」

「アドニアさん、教会本部では悪かったね。怪我はなかった?」

「ちょっと喉が痛かったが問題はないぞ。だが、いつかやり返す!」

「……それは忘れてくれない?」

「断る! それに最近、フランやルビィたちと行動していると強くなった気がする。今なら勝てる!」


 それは皆のスキルのおかげで強くなっただけなんだけど。

 とはいえ、素の俺じゃアドニアに勝てない。

 課金してまで勝ちたいわけでもないし、あとで素直にやられよう。


「わざと負けたら、勝負は無効だぞ! 本気で来るがいい!」


 なんて厄介な。知らないだろうけど俺に課金させるつもりか。

 まあいいや、どこかで強化した時のついでで戦おう。


 次はガリオにしようか。こっちも教会本部で戦ったし。


 ……さっきから気になっていたけど、なんでこの人、メイド服を着てるんだ?

 しかもまんざらでもなさそうな顔をしている。

 無表情が売りだったのに。


「えっと、異端審問官長のガリオさんですよね?」

「今はメイド見習いのガリオ……よろしく」

「……なぜ?」

「パンドラって人に素質があると言われた。そう言われたらやるしかない」


 昨日までラバースーツみたいなものを着ていたよな?


 ……そうだ、この人、可愛いものが好きだった。

 部屋に人形とかぬいぐるみとかヒラヒラした服を買い込んでいるはず。

 メイドになることで合法的に可愛い服を着てるわけか。


 この人、諜報活動とか斥候に優れているんだけど、やってくれるよな?


「魔国に行くんですけど、クロス魔王軍に所属して一緒に戦ってくれませんか?」

「私はメイドさん。メイドさんは戦わない。服が汚れるのはご法度」


 服を汚したくないから戦わないと言ったぞ。

 それはそれでいいんだけど困ったな。

 現地での偵察なんかは任せようとしてたんだけど。


 オリガはオリファスさんの命令なら従う可能性もあるが、できれば自分の意思で戦って欲しいところだ。オリファスに何かあったとき、お願いを聞いてもらえない可能性がある。


 ……可愛いものが好きなんだよな?


「報酬に巫女様人形のメイドバージョンを渡すと言ったら戦ってくれますか?」

「あの幻といわれる巫女様人形メイドバージョン!?」

「幻……? あと戦いに参加すると、アルファたちの踊りを間近で見れます」

「あわ……あわわわ……あの踊りを間近で……!」


 面白いくらいに動揺している。昨日も宴会中にちょっと踊ってからな。

 というか、勢いで言ったんだけど、アルファたちってそんなに人気があるのか?

 ベルスキアが商業都市で猛プッシュしているのは知ってるけど。


 動揺していたガリオが頷いた。


「分かった。あの変だと言われた服を着て戦いに参加する。できれば追加でアルファちゃん達にサインをもらって欲しい。アラクネちゃんも」

「……サインがあるか知らないけど、それでよければ頼んでおくよ」


 ガリオは両手を上げてガッツポーズをしている。

 この人面白いな。


 こっちはいいとして、残りは赤の騎士団長バルバロッサと宮廷薬師スコールか。

 こっちの世界じゃ初めて会うけど、両方ともゲームではキャラを持ってた。

 どちらもSSRだから無課金でも普通に取れたんだよね。


 バルバロッサは五十代くらいの男性。赤い髪に赤い髭。鎧も赤という感じの人だ。

 オリファスに命を救われたことがあって、それ以来忠誠を誓っている。

 聖国で女王派だったが、それは周囲を欺く嘘。

 女王の情報をオリファスに流していたはずだ。


「お主がクロスか?」


 おっと、向こうから声をかけてきた。


「ええ、そうです。バルバロッサさんですよね?」

「うむ。オリファス様はお主の中に神を見たと言っているが、本当にいるのか?」

「俺自身には分からないですね」


 とりあえずこう言ってごまかしておこう。

 いるともいないとも言わずに分からないという答え。

 これならオリファスも騙せそうな気がする。


 バルバロッサは特に疑いの目を向けてはいない。

 単に質問しただけのようだ。


「神がいようといまいと、オリファス様が信じているならそうなのだろう。儂も戦いに参加してほしいという話か?」

「ええ、できればお願いしたいところですが」

「オリファス様の護衛としてならどこまでも付いていこう」


 そうだろうね。

 さすがにオリガのように個人的な報酬では動かないだろう。

 バルバロッサはオリファスとセットで戦うことがなるが、それで十分だ。


「なら、オリファスさんの護衛をお願いしますね」

「お願いされることではないが心得た」


 さて、次は宮廷薬師のスコールか。


 ゲームでしか見ないような緑色の髪をした二十代前半の女性だ。

 髪は三つ編みにして、丸いぐるぐる眼鏡をかけている。

 そばかすがチャームポイントで眼鏡を外すと美人だとプレイヤー達は言っていた。

 だが、好感度を上げても眼鏡をはずくことはなく、素顔を見た人はいない。


 そんなスコールは地面を引きずるような丈の長い白衣を着て、両手をポケットに突っ込んでいる。俺をジッと見ているが、観察しているみたいだ。


「スコールさんですよね?」

「そう。僕はスコール。初めまして、クロス君」


 そういえば、僕っ娘だったなこの人。

 十代までが許容範囲だと思うけど、ちっこいし子供に見えるんだよな。

 ただ、宮廷薬師になれるほどで実力は本物だ。


 王族は毒が怖いからね。それを防ぐためにアーティファクトとかも使うけど、大体は治癒魔法か薬だ。魔法は生まれ持った素質が影響するが、薬は配合が分かれば誰にでも作れる。そういう意味で重宝されている。


 薬師もセンスは必要だけど、努力で何とかなるレベルだ。そのために王族は信頼できる優秀な薬師がそばにいるって話だ。


「僕の中でオリファス様が一番興味深かったけど、クロス君は同率一位くらいに興味深いよ。君の中にいるのは本当に神なのかな? それとも君が神?」

「分かりませんね。でも、そばで戦ってくれたら分かるかもしれませんよ?」

「心惹かれる誘い文句だね。ま、僕はオリファス様の薬を作る必要があるんでね、オリファス様が行くと言うならついていくよ。ぜひともオリファス様が神だと言った力の一部を見せて欲しい」


 それには何も言わずに笑顔を返す。

 肯定も否定もしない。相手に想像させる技術だ。

 スコールもオリファスさえ来れば色々やってくれるだろう。

 それに今回の相手はシェラ。薬の知識は絶対に欲しいところだ。


 さて、なら後は倒れているオリファスだな。

 大丈夫だとは思うけど手伝ってくれるよな?

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