第85話 戦闘後の報告

 アウロラさんが座布団の上で正座してメモ帳を確認した。


「まず、アルファさん達にファンクラブができました」

「その報告って必要ですか?」


 食べてたご飯を吹き出しそうになったよ。

 というか、なんでファンクラブ?


 話によれば、昨日、上空に現れたアルファたちの踊りは戦いに参加していない獣人たちも見ていた。最終的にはアウロラさんがテンジクを倒したようなものだけど、それは巫女様たちのおかげということで絶大な人気があるらしい。


「獣人ではないという話も周知してもらっています。ですが、人気が衰えません」

「昨日の今日ですからね」

「メイガスさんも『ウチの子は世界一!』とご満悦です」

「楽しそうで何よりです」

「なお、次からはアラクネさんも正式メンバーとして参加するそうです」

「あの子はどこに向かってるんでしょうね」


 もともとガンマがかなりの人気だったらしいし、それがいきなり三人だからな。

 ゲームでもあの踊りは人気があったし、動画の再生数もすごかった。

 虜になる人も多いんだろう。


「それに付随してですが、パンドラさんが作った巫女人形がかなり売れました」

「巫女人形……?」

「メリルさんの依頼でパンドラさんが徹夜で作ったそうです。限定百個の巫女人形は販売開始五分で完売しました。三体揃えると幸せが訪れるそうです。現在、商業都市では量産体制に入っているとか」

「なる……ほど……?」


 昨日の今日で量産体制って何?

 メリルのスキル「ドミネーター」がそうさせているのだろうか。

 巫女様のグッズ販売権をすでに押さえているとかじゃないよな?

 というか、東国以外でも売り出す気か?


「またレア物としてメイド服バージョンがあったのですが、通常価格で銀貨一枚とのところ、即席オークションで金貨一枚以上の値段がついたとか」

「獣人にもお金持ちがいるんですね。人形に金貨一枚って」

「購入者はホクトさんです」

「何やってんですか、あの人」

「ガンマさんとの別れがつらいそうです。虚空院のご神体にするとか」

「神刀の立場がないじゃないですか」


 ガンマのことが可愛かったわけか。

 もしかしたらカガミさんを素直に褒めたことでツン成分が弱くなったのかも。

 でも、虚空院のご神体って神刀じゃないのか?


「あとカガミさんとアランさんがいい感じです。二人でお祭りを見て回っています」

「その報告も必要ですかね?」


 なんとなく俺もそう思ってたけどさ。

 でも、アランはどうなんだろう?

 復讐のために世界を放浪しているわけだし、ここに落ち着くってことはないよな?


「では、ここまでは軽いジャブ。ここからが本番です」

「ああ、良かった。こういう報告が続くのかと思ってましたよ」


 ここからはちゃんとした報告ということだろう。

 しっかり聞かないと。


「まずテンジクですが、いまだに意識を取り戻していません。ただ、命に別状はないとのことです。身体的にはかなり衰弱しているそうですが」

「そうですか。ちなみにテンジクへ何か罰があったりしますか?」

「いえ、今のところそういう話は出ていないようですね。あの刀のせいだという話も広まっていますので、獣人も鬼もテンジクに対して思うところはないようです」

「そうですか。大丈夫かな……」

「心配ですか?」

「え? ええ、まあ――あの、顔が近いです」


 ちょっと怖い。

 殺気じゃないんだけど、何かしらの念を感じる。

 俺がテンジク推しだからかな?

 というか、テンジクを殴るとき死んだら事故とか言ってなかったか?

 やる気だったわけじゃないよな?


 それに大丈夫というのは残滓の影響がないかってことだ。

 そもそも神の残滓を知っているのは基本的に俺だけとスキルだけ。

 他の人はあの凶刀のせいだと思っているはず。

 操られていたのは間違いないが、テンジクに変な影響がなければいいけど。


「テンジクに関してはなんらかのお咎めがあるかもしれませんが、厳しいものにはならないとホクトさんは言ってました。ただ、状況を詳しく確認したいようでして、しばらくは千輪の屋敷に留まってもらうことになるとも言ってましたね」

「それは仕方ないと思います」


 俺がいるうちにテンジクと話すことができれば残滓のことも分かるだろう。

 いざとなったらまたスキルに力を借りないとな。


「では、次にバサラさんのことです」

「もしかして、そっちは相当なお咎めが?」

「いえ、そちらも大丈夫です。しばらくは千輪の復興に貢献してもらうとのことで、お咎めらしいものはありません。ただ――」

「ただ?」

「なぜかクロスさんに娘さんを見て欲しいと言っています」

「俺に……? ああ、あの件か」

「まさか嫁にとかじゃないですよね?」

「だから近いですって。アウロラさんは俺をなんだと思っているんですか?」


 これはちゃんと説明しておかねばなるまい。


 バサラの娘さんはヤケドを負っている。

 それはバサラの炎を操るスキルによるものだ。

 事故だったのだが、結果として娘さんはヤケドを負い、外に出ることもなくずっと家に閉じこもっている。そういうキャラプロフィールを見たことがあった。


 最初に戦った時、バサラの隙を作ろうと、ヤケドを治してやると言ったんだよな。

 精神支配で意識は朦朧としていただろうけど、反応していたし覚えていたわけだ。


 そのことを説明するとアウロラさんが頷いた。


「なるほど、そんな事情があったんですね」

「ええ、だから嫁とかそういう話ではありません」

「納得しました。ですが、一つ聞いていいですか?」

「なんでしょう?」

「なぜバサラさんの娘さんがヤケドをしていると知っていたのです?」

「……俺の不思議系スキルのおかげですね」

「……分かりました」


 言葉はそう言っているけど目が言ってないんだよな。

 ものすごく興味深そうに俺を見ている。


「では、バサラさんに治しますと伝えていいのでしょうか?」

「そうですね。ここへ連れてきてくれるのか、それともこちらから行かないとだめなのかだけ確認してください」

「分かりました。報酬はどうしますか?」

「え? 報酬?」

「まさかタダで治そうとしてましたか?」

「あ、ああ、そうですね。でも、俺が欲しいものを持ってるかな?」


 欲しいのはお金だけど、ないだろうな。

 酒でもいいけど鬼は酒を作る技術がないとか。

 ファイアリザードの肉を大量に貰っても困る。


「なら、向こうに何を出せるか聞いてみます」

「あまり高価なものでなくていいと伝えてください」

「分かりました。代わりに娘をやるとか言い出したら全力で断っておきます」

「そうしてください」


 娘さんもSSRのキャラだ。

 鬼属性のステータスを上げるとかそんな感じだった。

 でも、クロス魔王軍に鬼属性のキャラはいないから意味はないかな。


「あと、カゲツさんがクロス魔王軍の四天王になりました」

「えぇ……」


 そろそろトリプルスコアだぞ。

 もう、十二神将とかにした方がいいんじゃないかな……?


「それと鬼の大半がクロス魔王軍に協力するとのことです」

「……理由を聞いても?」

「簡単に言うとクロスさんがバサラさんを倒したからですね」

「ああ、そういう……」


 鬼は強い人に従うと言うあれか。

 テンジクの方が強いけど、鬼のトップはバサラだった。

 そのバサラを俺が倒したから俺の方が上だと。


 でも、あれってバフを盛りに盛った状態だ。

 それに倒したわけじゃなくて精神支配を解いただけなんだけど。


「俺はバサラさんを倒してませんよ?」

「そう思っているのはクロスさんだけです」

「本人がそう言ってるのに……」

「バサラさん本人が認めています。クロスさんは自分より強いと」


 余計なことを。

 でも、鬼たちは確かに強い。

 獣人たちに負けてしまったが、それはアルファたちのおかげだ。

 魔国に攻め込むなら貴重な戦力になるだろう。


「とりあえず分かりました。他には何かありますか?」

「はい。一番重要な情報が」

「え? なんでしょう?」

「今日の夕食には寿司、お刺身、それにうな重が出るそうです」

「おお……!」


 なんと、うな重。うなぎだよ、うなぎ。

 土用の丑の日だってほとんど食べたことないのに。

 うなぎもいいけど、タレがいいんだよね。タレがついたご飯なら何杯でもいける。


「なのでクロスさんは今日くらい安静にしていてください。お祭りもしばらくは続くそうなので、明日以降は楽しめますから」

「分かりました。それでしたら今日はここでゆっくりしています」

「はい。私も箸の特訓をしておきます」

「普通に食べられると証明しましたよね?」

「そう思っているのはクロスさんだけです」

「食べられていないと思っているのもアウロラさんだけでは?」


 よく分からない攻防があったけど、どっちにしても夜が楽しみだ。

 ちょっとは頑張ったんだから自分へのご褒美として腹いっぱい食おう。

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