第81話 超絶バフと神刀
メイガスさんに案内されて虚空院の奥にある建物にやってきた。
ここはこの千輪でも一番守りが堅い場所と言われているそうで、ガンマはずっとここで寝泊まりしているらしい。
何人かお世話する人がいたようだが、ホクトさん自らもここへ来ていたとか。
そして毎回、頭を下げて獣人たちの守りをお願いしていたそうだ。
メイガスさんもそれを聞いてホクトさんへの評価を改めたらしい。
アルファやベータに対する扱い方から考えれば好待遇と言えるだろうからな。
なお、ホクトさんはディエスと面識がない。
虚空院のだれかが教会と繋がりがあり、ディエスから提案を受けたという。
いつか東国に教会の施設を作らせてほしいと言っていたくらいで無期限の貸し出しだったようだ。鬼の襲撃が無くなったら教会に返すつもりだったらしく、それもホクトさんの耳の動きで判明した。
ディエスが神刀を守るために送ったというスキルの憶測は正しいのだろう。
さすがに狙っているのが神の残滓だとは思ってなかっただろうけど。
代わりに俺が戦うことになったけどね。いろんなことに巻き込まれてんな、俺。
建物の中に入ると、犬耳をつけたガンマが座布団の上で正座していた。
そして紙でできた人形が四体、ガンマを守っている。
これはホクトさんの式神だとか。
俺たちが近づくと、式神がスッとガンマのそばを離れた。
カガミさんがホクトさんを説得してくれたのだろう。
さっそくガンマに近づく。
ガンマを俺を見上げているが、その目は虚ろだ。
すぐに頭の上に手を置いた。
『精神支配の解除を』
『金貨五枚です』
『払う』
『しました』
直後にガンマの目に生気が戻る。そして笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ガンマは立ち上がるとメイガスさんの方へと歩き出した。そして足に抱き着く。
アルファとベータも同じように抱き着き、アラクネも一緒になって抱き着いた。
メイガスさんはガンマの頭をなでた。
「おかえりなさい、ガンマちゃん」
「ただいま。メイガス様、もう顔のいい男に騙されないでね」
「今度は行けると思ったんだけどねー」
アルファもそんなこと言ってたな。
メイガスさんは大賢者なのに騙されたとかなんとか。
大賢者という二つ名が可哀想になるな。
それはそうと、三人の踊りはゲーム通りになるか確認しておきたい。
「感動の再会なところ悪いけど、三人の踊りを見せてもらっていいかな?」
「ああ、そうね。私も見たいと思ってたのよー」
「アルファたちにお任せ」
「目に焼き付けるといい」
「よく分からないけど全力で踊る」
「アラクネはー?」
四人の子供たちが円陣を組んで何やら作戦会議をしている。
それだけで可愛いが、本番はここからだろう。
どんな話が決まったのか分からないが、アラクネを中心にして三人がその周りに立った。そして四人が両手を軽く上げる。
「ハー、ヨイヨイ」
アルファたちがそう言うと、アラクネの周りをアルファたちが回るように踊った。
両手を交互に右、左とリズムよく上げながら時にはドジョウすくいみたいな踊りも入った。絶対に盆踊りだ、これ。メイガスさん、何を教えてんだ?
アラクネも似たように踊っているけど、何やら踊りのキレがいい。
もしかしてオメガブーストが発動してる?
そう思ったら、俺の体も力が漲ってくるような感覚だ。これは結構すごいな。
「メイガスさん、体に変化はありませんか?」
「これって可愛すぎて私のテンションがあがってるわけじゃないのねー?」
「ああ、そう思ってたんですか」
どうやらオメガブーストは健在のようだ。
これならいけるかもしれない。でもこれって個人に掛かるスキルじゃないよな。
問題は効果範囲か。狭すぎると使えないのだが。
『サービスで教えますが、この千輪くらいなら全部カバーできてますよ』
『マジか!』
『マジです。テンジクたちを千輪にいれたら逃がさないようにした方がいいですね』
確かにその通りだ。
効果範囲を出たら恩恵が無くなる。その状態で勝てるとは思えない。
なら千輪に入れたら逃がさないようにしないと。
そうだ。アラン達が相手をしてくれているが、もう一つ対策をしておこう。
「メイガスさん、この状態なら千輪全体を覆うような結界は張れますか?」
「今なら何でもできそうだけど、カガミちゃんの方がいいんじゃないかしらー?」
「それは確かに。なら協力して結界を張るって可能ですか?」
「契約による魔力譲渡じゃないけど、私の魔力を一時的に渡すことは可能よ」
「なら、それをお願いします」
メイガスさんの魔力とカガミさんの結界術は魔王様を封印するほどだ。
たとえ神の残滓でもそう簡単には逃げられないはず。
あとはこの踊りがどれくらい持つかだな。
「アルファたちはこの踊りをどれくらいの時間できる?」
俺がそう聞くと、アルファたちは踊りを止めてまた円陣を組んだ。
そして全員が頷くと俺を見る。
「一時間くらいならいけると思う」
「それなら問題ないな。あ、夜だけど大丈夫か?」
「夜更かしは任せて。ちゃんとお昼寝をしておく」
「頼もしいね」
よし、こっちは何とかなった。次は神刀の方へ行くか。
メイガスさんにアルファたちのことを任せてから神刀がある建物までやってきた。
どこからどう見ても神社なんだが、ここに奉納されているという感じだ。
そして俺を待っていたのか、カガミさんとホクトさんがいる。
「本当に来たのか」
「先ほど話した内容はまだ有効ですか?」
「神刀を持つことができたら貸して欲しいとのことだな?」
「ええ」
ホクトさんは考え込んだが、カガミさんの方へ視線を動かしてから俺へと戻す。
「カガミの話ではお主に不思議な力があるという。それにカガミを助けてくれた恩人でもある。試すくらいなら問題はない」
「助かります」
「カガミがどうしてもと言うのでな。未熟者ではあるが、自分の意見を言えるようになったのはお主たちのおかげだろう。その礼だと思ってくれ」
「ホクト姉さま……!」
ツンデレフィルターが掛かっていてホクトさんも自分の意見をは言えていないと思うけど。それはともかく、カガミさんに感謝だ。
なら、さっそく神刀を持ってみよう。
拝殿の奥に本堂があって、そこに神刀があるとのことだ。
本来は入れないが、今回は特別ということで中に入れてもらえた。
本堂に入ると、中央に神刀が鞘に入ったままの状態で刀置きに置かれている。
その周囲は細い縄で結界が張られていた。
奥には神棚があり、鏡や榊、それに徳利や盃が見える。
これが終わったら絶対に酒を飲もう。
神刀に近づくと、普段は感じない力を感じた。
背筋がぞわぞわするが、なんだか聖剣の近くにいるような感じだ。
『まさかとは思うけど、聖剣も神の残滓なのか?』
『あれはまた別です。この世界の秩序のために作られたものですね』
『世界の秩序?』
『これ以上はお金を取ります』
『違うのが分かっただけでもよかったよ』
聖剣の奴はうるさいが、スキルに食わせたいとは思わないし敵対もしたくない。
いなくなったらそれはそれで思うところがある。
まあ、今頃は妹さんに振り回されているから大人しくしているだろう。
それよりもこっちだ。
『これに意思はないんだよな?』
『ありません。意思があるタイプはかなりレアなので』
『ちょっと自慢気に聞こえるな?』
神の残滓ってだけでもかなりレアだが、その中でもレアを俺は引いたわけだ。
なら課金スキルの方が神刀より上ってことなのかね。
少なくとも教皇オリファスのメタトロンという魔法よりは上だったようだが。
テンジクに憑りついている神の残滓だとどっちが上なのだろう?
そんなことを考えながら、縄の結界をまたいで刀に近寄る。
そして刀の鞘に触れた。
確かにこのままじゃ持ち上げることもできないな。
『それじゃ一日で』
『金貨一枚です』
『払う』
『もう大丈夫ですよ』
右手で刀を鞘ごと持ち上げてから、左手でその刀を抜く。
なんだかじんわりと光っているような刀だ。
いいね、聖剣ほどじゃないけど力が漲ってくる。
よし、これとアルファたちのスキル、それに超絶強化があれば勝てるはずだ。
問題はどっちを先にやるかだな。
まずはバサラの精神支配を解いてからテンジクを倒す方がいいか。
アラン達だけでテンジクを止められるかな?
「な、な、な……」
なんだ? ホクトさんが震えている?
「なんで刀を抜いておるのだ!」
「え? 持つことができたら借りていいんですよね?」
「なんで持つだけではなく抜いておるのかと聞いておる!」
「そりゃ、これで戦うんですから抜きますよ」
ついさっきバサラとの戦いでパワーアップした木刀よりも強いし使わない手はない。というか、鞘から刀を抜くのは駄目だったのか?
鞘に入れたまま叩けと言うのだろうか。
「ク、クロス殿。その刀を抜くのは虚空院の悲願みたいなところがありまして……」
「えぇ……ということは最初から無理だと思ってた?」
「クロス殿なら持つくらいはいけるかとは思ってましたが、まさか抜くとは……」
これは言い訳しないとだめだな。
ここは少しだけ正直に言おう。
「あー、その、これはスキルのせいです」
「スキル? クロス殿の不思議系スキルですか?」
「不思議系って定着してんの? ええと、修行して抜いたわけではなく、裏技といいますか、ズルといいますか。とにかくノーカンです、ノーカン」
ホクトさんはこの刀を抜くのはカガミさんが最初だとか思ってたのだろう。
悪いことをしちゃったけど、そういうことは先に言ってほしかった。
仕方ない。適当なことを言ってお茶を濁そう。
「いいですか、カガミさん。これが神刀です」
「は、はぁ、知っていますが……?」
「刀を抜けると信じれば必ず抜けます。少しでも迷いがあるとだめなんです」
「な、なるほど。クロス殿は私のために神刀を抜いて見せたと」
「そうです。会ったころのカガミさんは堂々としていましたが、ホクトさんの前だとそうでもない。ホクトさんには敵わないとか追い越せないとか思っているのでは?」
「わ、私がホクト姉さまに敵うわけが――」
「その気持ちが自分の強さの限界を決めているのです。この神刀も同様です。抜けないと思っているから抜けないんです」
「限界を決めている……」
いい加減に言ってるけど、たぶんそういうのもあると思う。漫画で見た。
「うむ、その通りだ!」
あ、ホクトさんが復活した。
「カガミは遠慮しすぎるところがある! それが未熟だと知れい!」
「遠慮している……」
「ホクトさんのそういう言い方が影響していると思いますけど」
「む……?」
「何度も未熟者と言われたら、自分は本当に未熟者だと思うのは当然では?」
「ぬ、ぬぬぬ……!」
「たまには素直に褒めることも必要だと思いますけどね」
ツンデレには難しいかもしれないが、心の中なんて分かるわけがない。
まあ、ホクトさんは耳で分かるけど。
それでも言葉にしてもらう方が嬉しいだろう。
「ぜ、善処しよう……そ、その、カガミよ。今更だがお主は良くやっておる」
「ホクト姉さま……!」
「お主は儂よりもはるかに強くなる。だが、それはこれからも研鑽を積むことが必要だ。今、クロスが神刀を抜いたように、いつか必ずお主にも抜ける。それは誰よりも、それこそお主よりも儂の方が信じておるぞ!」
耳がピーンと立っている。本音なのだろう。
そしてカガミさんは目を潤ませていて、こちらも耳をピーンとさせているな。
いきなりカガミさんが片膝をついた。
「このカガミ、必ずや神刀を抜いて見せます!」
「うむ、その意気だ! まずは鬼たちの襲撃をなんとかするぞ! どれほど強くなったか見てやる!」
「はい!」
熱血だね。ちょっと蚊帳の外だけどスポ魂みたいだから嫌いではない。
よし、これで大体の準備は整った。
あとはバサラとテンジクの方に集中するか。
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