第61話 古代兵器と不具合

 UR古代兵器パンドラ。

 ガチャで出現する対パッシブスキルのメタキャラ。

 パッシブスキルを完全に無効化するというスキル「アンチスキル」を持っている。


 スカーレットは敵味方関係なくその戦闘でスキルを使えなくするが、パンドラのアンチスキルは任意の一体。堕天使ディエスどころか、強力なパッシブスキル持ちに対する強力なメタキャラだが、その上で素の戦闘力も高いので人気があった。


 ……はずなんだけど、なんでメイド服を着ているのだろう。

 ゲーム上の服装はちょっと未来風の服だった。

 それに薄い水色のロングヘアじゃなく、金髪のショートカットだったような。

 武器もホウキじゃなくて、高周波ブレードみたいなのを持っていた気がする。

 本当に戦闘力が高いのか……?


「なんでメイド服を着てるのかな?」

「趣味です。メイド最高」

「趣味なんだ……」


 理由は分かったけど納得がいかん。

 ゲームではゴーレムとかAIみたいな感じで、感情がない話し方だったはず。

 好感度を上げてもそれは変わらないと聞いてたけど、この子はなんか違う。


 それに問題はなぜここに一人でいたかだ。

 そのせいで俺がマスターになったわけだが、これは正しい選択だったのだろうか。


「なんでここで寝てたの?」

「製造時になんらかの不具合が混入したようで返品されたんです。すごく不本意」

「不具合?」

「兵器としては感情が豊かすぎると言われて返品されました。ここで修理を待っていたのですが、いつまでたっても誰も来ないので寝てました。告訴も辞さない」


 なんか一言多いなこの子。

 もしかしてそういうところが返品理由なのだろうか。


「私からも質問をいいでしょうか。いいと言ってください」

「いいけど」

「私の記憶が正しければ局地型殲滅兵器バルムンクが暴走したのですが国はどうなりました? 滅んだ?」

「その質問に答える前に、どれくらい寝ていたか分かる?」

「寝ていた時間ですか。なら計算します。百桁くらい余裕……約8728年?」


 そんなに寝てたのか。

 ということは古代魔法王国はそれくらい前だったんだな。


「今の時代だとその国の名前も分からなくてね、今は古代魔法王国って呼んでるけど、それなら魔力の暴走で滅んだとされてるね」

「そうでしたか。ずいぶんと派手に吹っ飛んだみたいですね。しかし、そんなに寝ていたとは。私ってばお寝坊さん」


 とくにショックを受けたようには見えないな。

 色々言いたいことはあるけど、とりあえず地上に戻るか。

 今日は宿に泊まって、明日、ベルスキア商会に連れて行こう。


「クーロースーさーんー」

「うお、びっくりした。ストロムさん、ゾンビみたいに近づかないでくださいよ」

「こんなもん見せられたらゾンビにもなるわ! 私を殺そうとしてんの!?」

「言いがかりにもほどがある」

「だいたい、あの兵器って自律型なの!? やばくない!?」


 言われてみるとやばいけど、俺のやばいとは意味が違いそうだ。

 でも、このパンドラだと大丈夫なような、より危険なような……?


「この方は魔法特化で作られた種族ですね。寿命設定を間違えたらしいですが、特に問題はなさそうです。耳の尖り具合が素敵」

「余計なことは言わないように」

「命令を確認。お口にチャック」

「なんか今、聞き捨てならないことを言わなかった?」

「気のせいです」

「そう、気のせいです。牛肉と豚肉の違い程度」


 全然違うと思うけどな。

 この子、いい加減なことばっかり言ってるが大丈夫だろうか。


「むむむ……仲間発見。挨拶しないと。第一印象は大事」

「仲間?」


 まさか同じ型の兵器がいるって話じゃないよな?

 周囲を警戒すると、パンドラはなぜかアルファに近づいた。


「初めまして、私は狭域殲滅兵器パンドラ。製造番号はP-5963です。趣味はメイド」


 アルファは首を傾げたが、右手を上げた。


「私は大賢者メイガス様に作られた魔導生命体アルファ。最初に作られたから皆のお姉さん。趣味は昆虫集め。カブトムシのフォルムは至高」

「むむむ……つまり最新型の初号機?」


 もしかしてパンドラとアルファって同じものなのか?


「アルファってメイガスさんが作ったんですよね?」

「そうよー。でも、ベースは遺跡にあった技術ね。情報が足りない部分は勝手に解釈して作ったんだけど。パンドラちゃんもその技術で作られているのかしら?」


 パンドラがこちらを向くと、コクンと頷いた。


「技術は同じですが、正確に言えば私とアルファさんはタイプが異なります」

「タイプが異なるってなにかしら?」

「アルファさんは私と違って自律型ではなく、他律型の遠隔操作兵器がベースです。なので私とは姉妹というよりも従姉妹ですね。貴方は伯母」


 他律型ねぇ。

 そもそも古代魔法王国は何と戦っていたんだろう。

 世界を征服していたって話なんだけどな。

 そのあたりは誰のキャラプロフィールにもなかったと思うが。


「アルファさんは素晴らしいです。兵器としての機能を排除してありますが、味方と認識した方の魔力伝導率を高める性能があります。しかも自分で判断できる上に、感情まで搭載されていて、さらには成長機能もある。あとかわいい」

「あらー、ほめ過ぎよー?」


 そうはいってもメイガスさんは嬉しそうだ。

 アルファも嬉しそうにしているし、なぜかアラクネがドヤ顔している。


「褒め足りないくらいです。足りない部分は貴方が補ったとのことですが、当時の魔法化学技術の水準と同等かそれ以上でしょう。私の方が先輩ですが、アルファさんのほうが技術的には上です。これは下克上不可避」

「もー、お姉さんをおだて過ぎよー?」

「あの、メイガスさん、嬉しいからって俺を叩くのやめてもらえます?」


 さっきから背中をバシバシ叩かれて痛い。

 女の子が甘いものを食べて足をバタつかせるのと同じ原理だろうか。


 まだ判断するのは早いが、このパンドラはそこまで危険じゃない気がする。

 別の意味でやばそうな気もするけど。

 とりあえず、ここで話をしているのもなんだし、一度宿まで連れ戻ろう。




 来るときよりも早く宿まで戻ってこれた。

 帰ってくるまでに周囲から「なんでメイド?」と言われたが気にしない。

 宿に戻っても言われたけど、そっちも気にしない。


 そして今はストロムさんが宿の仕事をほっぽり出してパンドラに質問攻めだ。

 他は宿の食堂で飲み食いしているが。


「なるほどー、パンドラちゃんは他の同タイプよりも感情豊かなんだ?」

「はい。感情豊かな兵器だと後々困るかもしれないということで初期化処理をされる予定でした。個性を大事にしてほしい」

「でも、初期化処理はされなかったと?」

「はい。待機中、兵器の実験で許容以上のエネルギーが使用され、その兵器が暴走し、この辺り一帯が吹き飛びましたから。容量用法は守って使いましょう」

「魔力暴走は兵器の実験による暴走かー! それじゃエルフってなに?」

「それはお口にチャック。マスターの許可がないとだめです。悪しからず」


 ストロムさんに睨まれた。

 あとで答え合わせするって言ってたのになぁ。


 まあいいや、無視してカラアゲを食べよう。


「よく分からないが、すごいもんだな。あれが兵器だって言うんだから驚くぜ」

「アランは結構世界中を回っているんだよな? ああいうのは見たことないのか?」

「確かに古代遺跡にも行くが、あんなものは見たことがない。カガミはどうだ?」

「そうだな……東国にカラクリ兵と呼ばれる大昔の兵器ならあるが、こちらでいうゴーレムみたいなもので、考えたり話したりはしないな」


 まあ、そうだよな。

 そんなものがあったらもっと有名であってもおかしくない。

 それにゲームのガチャでもそういうのはパンドラ以外にいなかった気がする。


「クロスさん、ちょっといいですか?」

「もしかしてアウロラさんは見たことがあるんですか?」

「いえ、見たことはないのですが、以前、魔国で気になる報告を受けたことが」

「気になる報告?」

「はい。四天王、ダークエルフのシェラが古代迷宮で大発見をしたらしいと」

「古代迷宮で……まさか」

「自律型のゴーレムだと噂されていました」

「……ここと同じようにパンドラがいたのかもしれませんね」


 パンドラが言うにはここにある遺跡は兵器の製造工場みたいなものだという。

 なら他の遺跡にいるパンドラはちゃんと仕事をしていた兵器というわけか。

 それをシェラが手に入れた……勝てるかね?


「きゅぴーん」

「パンドラちゃん、変な声をだしてどうしたの?」

「何やら私をただのニートだと思った人の脳波をキャッチしました。とても遺憾」


 こっちのパンドラは鋭いな。

 つうか、脳波をキャッチできるのかよ。


 それはともかく、シェラと戦うときは要注意だな。

 完全な兵器としてのパンドラなら相当な強さだろうし。

 まあ、俺としてはこっちのパンドラの方がいいけど。


「きゅぴーん」

「パンドラちゃん、また何かあった?」

「私にデレた人の脳波をキャッチしました。ツンデレはメイドの専売特許なのに」


 いい子であることは間違いないと思っておこう。

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