第60話 オリジンとルーツ

 古代迷宮を進んでよく分かった。

 俺以外はみんな強い。


 そもそもこの古代迷宮、魔物が多いし強い。

 課金スキルの話だと、ここの魔物は遺跡を守るガーディアン。

 俺たちはオリジンではないので敵とみなされているらしい。

 そしてこの中層はそれなりの魔物が造られるとのこと。


 ミノタウロスにジャイアントスコーピオン、それにヘルハウンド。

 素の俺じゃ倒せない魔物ばかりだ。

 でも、俺が弱くても全体的にはマイナスにならない。


 とくにメイガスさんは強さの桁が違う。

 あんな大量のマジックアローを出したら普通魔力が枯渇すると思うが。


「魔法って面白いのよ。大量に使った方が魔力の消費量が落ちる場合もあるし」


 考えていることが顔に出ているって本当なんだな。

 思っていたことをズバリ言い当てて答えてくれた。

 でも、どう考えてもメイガスさんしかできない方法だと思う。


 それに他もたいがいおかしい。


 アルファは直接攻撃をするわけじゃないが、メイガスさんの魔法を強化しているのでサポーターとしては優秀だろう。ストロムさんもさすがはエルフと言うべきか、アルファのおかげもあって魔法攻撃が強い。それに罠の解除も得意だ。


 アウロラさんは物理攻撃最強だし、アラクネは華麗なステップで魔物を殴ってる。

 アランは二刀流と、それによるスキル「黒鷹」が異常なダメージをたたき出し、カガミさんは少ない札を使って式神による攻撃をしている。


 悲しいほど俺って弱いんだな。

 むしろ皆が強すぎるという気もするけど。

 まあ、落ち込む必要はない。そもそも強い必要はないんだし。


 そんなわけで探索は順調だ。

 十分とかからずに下へ行く階段を見つけた。


 階段を下りようとするとストロムさんが俺の前に立ちはだかる。


「ちょっとちょっと、クロスさん、まだ調べてない部屋があるわよ?」

「いえ、そもそも調べませんけど」

「嘘でしょ!?」

「本当です。今はやることがあるので、調査なら別の機会にお願いします」

「くぅ、こんな……こんなお宝が目の前にあるのに……!」


 お宝らしいものは見えないが、ストロムさんにとってはこの場所自体がお宝なのだろう。アウロラさんはあの指輪を外したくないみたいだけど、エレベーターを使える指輪が見つかればいいんだが。


『下層エリアにも行ける指輪が地下三十階にありますよ』

『そうなのか? ならそれを渡そうか』

『本当はクロス様に最下層まで行って欲しいんですけどね』

『そんな暇はない』

『仕方ありません。今回は諦めます』


 今回は、ね。

 課金スキルも個性が出てきたと言うか俺に色々やらせようとしてくる。

 別にいいけど、何をしたいんだろうね。


 考えても分からないし答えてもくれないだろうから気にするのはやめよう。




 しかし不思議に思う。

 メイガスさんってなんでディエスに騙されたんだ?

 まさに「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態だ。

 アウロラさん達もメイガスさんの邪魔にならないようにしているくらいで今は一人で魔物を倒している。


 ディエスと魔力譲渡の契約した理由が分からん。

 無理矢理じゃないと思うんだが。

 アルファたちを人質に取られたのかな?


 そんなことを考えている間にもメイガスさんは魔物たちを倒していく。

 メイガスさんの頭上にはマジックアローが大量に浮いており、魔物を見つけると自動発射。どんな魔物もほぼ一撃で粉砕し、倒した魔物から魔力を吸い取るという魔法まで使ってる。

 ほぼ永久機関だ。さすが大賢者。


 そのおかげで今はもうB29だ。目的地まであとワンフロア。


「相変わらずメイガスはでたらめねー」

「ストロムさんでもそう思うんですか?」

「当然よ、同じエルフだってあんなことできないわよ」


 ストロムさんも強かったが、メイガスさんほどではない。

 確かに人並み上の強さは持っているがメイガスさんの強さは桁が二つか三つ違う。  

 俺とは五桁くらい違うが。


「もしかしたらメイガスはオリジンの血を引いているのかもしれないわねー」

「オリジンの?」

「さっきはスルーしたけど、オリジンって名称はそんなに有名じゃないのよね」

「そうなんですね」

「なんで知ってるの?」

「秘密です」

「秘密が好きねー、まあいいけど。で、さっきの話に関係あることなんだけど、私たちエルフって遺跡を探索する子が多いんだ。その理由を知ってる?」

「自分たちのルーツを探しているんですよね?」


 ストロムさんにものすごい目で見られた。

 そしてため息をつく。


「なんで知ってるのか知らないけど、その通りよ。そこでオリジンが関わってくるんだけど――」

「ああ、エルフの何人かがオリジンの子孫って話ですか」

「……メイガスがびっくりさせられるって言ってたけど、よく分かるわー」


 ゲームのキャラプロフィールを読み込むと常識なんだけどな。

 そろそろゲーム知識は言わない方がいいのかもしれない。


「ちなみにクロスさんはこの件に関してなにか見解がある?」

「この件……オリジンとエルフの関係ですか?」

「そうそう」


 見解というか答えを知ってるんだよな。

 さて、どうしたものか。


 そう思っていたらまた胸ぐらをつかまれた。


「さっきも言いましたけど苦しいです」

「その顔は何か知ってるのね!?」


 やべ、また顔に出てたのか。

 そろそろ何か対策しないとだめかもしれん。

 仮面とかかぶろうかな。


 おっと、それよりもこっちだ。


「こういうのはちゃんと調べた方が楽しいかと」

「いいから吐け!」

「……言ってもいいですけど、怒らないでくれます?」

「……怒るようなことなの?」

「何かを知っているではなく、答えを知っているので」

「嘘でしょ……どんなエルフも答えに辿り着いていないのに……!」


 ストロムさんは何か葛藤していたが、胸ぐらから手を離した。


「自分で調べる……でも、いつか答え合わせをさせて……」

「俺が生きている間なら」


 エルフが言う「いつか」って数百年後もあり得るからな。


「魔族だと80年くらいだっけ? エルフの魔法で寿命を延ばしてよ」

「そんなことできるんですか?」

「死ぬほど体が痛いらしいけど、できなくはないはず」

「それは嫌です」


 寿命が延びるのは確かに生物の夢だが痛いのは嫌だ。

 しかもそれって魔法じゃなくて改造じゃないのか?

 そんなエルフのキャラがいたような。


 それにしてもエルフのルーツね。

 人間も魔族もエルフもドワーフも獣人もそうだが、オリジンたちが自分たちに似せて作った生物なんだよな。

 奴隷のように世界各地で仕事をさせていたんだが、オリジンは魔法暴走で大半が死に、俺たちの先祖が残ったという歴史がある。

 なのでオリジンの末裔は俺たちを奴隷みたいに思っている……という設定だ。


 つまり、メイガスさんがオリジンの血を引いているなんてことはない。

 エルフの突然変異みたいなものだろう。URのキャラなんてそんなもんだ。


「クロスちゃん、ストロムちゃん、階段があったわよー」

「あ、はい」

「寿命の件は考えておいて!」

「だから嫌ですってば」


 その話はなかったことにしてようやく目的地の地下三十階だ。

 課金スキルは何も言ってくれないが、ここにアーティファクトがあるらしい。


 階段を下りた先は結構広い広間だった。

 野球のスタジアムくらいはあるかな。

 でも、特に何かあるようには見えないが……?


 いや、なんかある――というかいる?

 部屋の中央に人が倒れているのだろうか?


 皆も気付いたようで、訝し気にそれを見ているが、近づくような真似はしない。

 それは当然だ。そもそもこのエリアを探索しているのは自分たちだけ。

 魔物の可能性がある。


『あれが目的のアーティファクトです。近づいて魔力を流しましょう』

『遠いから良くは見えないけど人っぽくないか? ちゃんと服も着てるし』

『人型のアーティファクトなので』

『なんだって?』

『人型のアーティファクトです。当時の魔法化学技術で作られた最高傑作ですね。今は魔力切れで倒れてますけど』


 人型のアーティファクトなんて聞いたこともない。お金に換算したらいくらになるんだ。ストロムさんの言葉じゃないが、歴史に名が残るぞ。

 でも、これなら確かにベルスキア商会の商会長に見てもらうことも可能だろう。

 ならさっそく魔力を流してみるか。


「あれが目当てのアーティファクトなのでちょっと行ってきますね」


 ストロムさんが「はぁあぁああ?」とものすごい声を出していたがスルーする。


 人型アーティファクトに近寄ると、普通に寝ているように見える。

 床に寝ているのに、なぜ枕があるんだ。

 材質は分からないけど、綺麗なままの枕だ。これもアーティファクトっぽい。

 でも、なんでメイド服を着てるんだ?


『古代魔法王国が滅んでから誰も来なかったのでしょう。なので寝ている間に魔力切れになったのです』

『ああ、そういう。でも、メイドさんっぽい恰好なのはなんでだ?』

『メイドだからです』

『身も蓋もないな』


 見た目が二十前後の女性だ。

 でも、なぜだろう、そこはかとなく不安だ。


『魔力を流すと襲ってくるとかないよな?』

『ありません。ささっと魔力を流してください』

『ずいぶんと急かしてないか?』

『気のせいです』


 人型のアーティファクトと言われても女性だ。触るのは抵抗がある。

 仕方ないのでおでこに触った。冷たいな。

 自分の魔力で足りるのかは分からないが、少しずつ流す。


 すると女性の口から「ウィィィィン」という言葉が漏れた。

 そして目を開けるとこちらを見る。

 何度か瞬きをすると、立ち上がって俺に頭を下げた。


「所有者登録が完了。よろしくお願いします、マスター。大事にしてください」

「は? なんで?」

「初めて私に魔力を通したマスターを所有者として登録しました。やったね」


 スマホの初期設定登録かなにか?


『ちょっとどういうこと?』

『やりましたね。人型アーティファクトを手に入れましたよ』

『俺、欲しいなんて言ってないよね?』

『ですが役に立ちます。戦闘力が高いので』


 戦闘力が高い?

 あ、もしかして……。


「名前はある?」

「固有の名前はありませんが自律型狭域殲滅兵器パンドラという製品名があります。得意技は高圧縮レーザーです。あと投げキッス」


 古代兵器パンドラじゃねぇか。

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