第59話 迷宮探索とエレベーター

 古代迷宮。

 それは世界各地にある遥か昔に作られた遺跡。

 材質すら全く分からない未知の物質で作られた遺跡は、何千年も前に存在した古代魔法王国が世界を支配していた証とも言われている。


 そういう遺跡には多くの人が挑戦し、そして命を落とす。

 古代遺跡は魔物が徘徊し、入ってくるものを襲う。

 魔物の生態系が地上とはまったく異なり、魔物たちは遺跡を守っているとか。


 ただ、命を賭けるに見合ったリターンがある。

 それが遺跡で見つかるアーティファクト。


 何千年前と言われている昔の物でもアーティファクトは動く。

 動かなくなる物もあるが、その理由は分からず、理由が分からないから直せない。

 なので動くアーティファクトはそれだけで結構な価値がある。


 そんな話を迷宮研究家のストロムさんは熱く語った。


「さっそくメイガスと一緒に迷宮に行けるなんてついてるわー。それにほかにも護衛さんがたくさんいるし、もしかして私の最終到達地点を更新しちゃうかも!」


 ショッピングモールのような巨大な商店から宿に帰ったあと、お昼を食べに戻ってきたメイガスさんやカガミさんに古代迷宮に行くことを説明した。なぜか当然のようにストロムさんが近寄ってきて、すぐに食いついた。


 エルフとは思えないほどの素早さで迷宮へ行く準備を整え、すぐに向かうことになり、今は迷宮の入り口にいる。


 商業都市ベローシャから少し歩いた場所に迷宮があるのだが、そこまでの道は整備されているから移動も楽だ。

 入り口付近でも商人が商売をしようとしているようでずいぶんと賑わっている。

 商人ってたくましいね。


 迷宮に入る前に準備の最終確認をしていると、メイガスさんがストロムさんの方に近寄った。


「ストロムちゃんの最終到達地点はどこなの?」

「地下十四階。最下層は地下二十階らしいけど、たぶんその下もあるはず!」

「え? 最下層が地下二十階?」

「そう。確認されている場所はそこだね。そこから下に行く階段が見つからないみたいだから、そこが最下層って言われてる。でも、それだと遺跡としては規模が小さすぎるんだよね。私はその下があるって信じてる!」


 ストロムさん以外が俺の方を見つめた。

 事前に行く場所を説明していたからだろう。


 ストロムさんはその状況がおかしいと思ったのか俺の方を見た。

 トラブルになりかねないし、ちゃんと説明しておこう。


「地下二十一階へ行くんですけどいいですか?」


 ストロムさんは俺が何を言ったのか理解できなかったようで、そのまま止まった。

 そんなストロムさんの顔の前でメイガスさんが手を振る。


「ストロムちゃん、大丈夫? 起きてる?」

「うん……あの、クロスさんって今、地下二十一階って言った?」

「言ったわよー、私もちゃんとこの耳で聞いたわ」

「私、地下二十階が最下層って言ったよね?」

「はい。ですが、二十一階からさらにその下を目指して地下三十階まで行く予定なんですけど……」


 そう言うとストロムさんは笑顔でポンと手を叩いた。


「なんだ冗談かー。もー、びっくりしちゃったよ。地下二十一階なんか見つけたら一躍有名になっちゃうからね!」

「あ、そうなんですね」


 いいのかな? いいよな?

 いざとなったらストロムさんが発見者ってことになってもらおう。


 課金スキルが地下三十階に目当ての物があると言ったから、そこを目指すつもりなんだけど。ただ、何があるのか聞いても「すごい物」としか答えてくれない。

 ちょっとだけ心配になってきたが、まあ大丈夫だろ。


 入る前の最終確認も済んだので、すぐに古代迷宮に入った。


 魔国にも古代迷宮はあるけど、入ったことはない。

 あそこは四天王のシェラが支配ているから許可が出ないんだよな。


 なので初めて古代迷宮に入ったけど、確かにこれには驚く。

 オリハルコンとかアダマンタイトでもない未知の金属というか石なのだろうか。

 暗い紺色の壁には何らかの模様が描かれていて、しかも定期的に鈍く光る。

 光源が必要ないのは助かるが、ちょっと不気味だ。


 あまり長居したくはないな。とっとと用を済まそう。

 えっと、目的地はこっちか。


「クロスさん、そっちは行き止まりだよ。何もない部屋があるだけ」

「ええ、実はその部屋に用事がありまして」

「え? 何もない部屋だよ?」


 知らないとそうなるんだが、知ってるとなんの部屋なのか分かる。

 ストロムさんは特に文句もなく付いてきてくれた。


 そして四畳半くらいの部屋に全員が入った。


「ね? ここには何もないでしょ?」

「そうですね。あ、ストロムさん、危ないから早く部屋に入ってください」

「どういうこと?」


 ストロムさんが部屋の入り口にいたが、俺たちがいる中心まで歩いてきた。


「それじゃアウロラさん、指輪に魔力を通してください」

「分かりました」


 アウロラさんが、右手の人差し指にはめている指輪に魔力を込める。

 最終的にはそこの指に指輪をつけることになったが、とても疲れた。


 指輪に魔力が流れると入り口がゆっくりとスライドして閉まる。

 その扉には「B1」と描かれていた。


「へ?」


 ストロムさんから声が漏れる。

 直後にガコンと大きな音がすると、部屋が下へと移動を始めた。


 この部屋、エレベーターなんだよな。

 そしてあの指輪がそれを操作する魔道具。

 魔力を込めると地下二十一階まで行ける代物だ。


 アルファやアラクネはエレベーターを楽しんでいるが、大人組はちょっと気持ち悪そうだ。俺は前世があるからそうでもないけど、初めての人は厳しいかもしれない。


 アランも難しい顔をしている。


「お、おい、クロス、これってなんなんだ? 地震じゃないんだよな?」

「今、部屋自体がこの迷宮の下の方へ移動しているんだ。もう少しすれば到着するからそれまで我慢してくれ」

「下に移動してるのか。あまり乗っていたくないな……カガミは大丈夫か?」

「これくらいなら問題ない。東国にも似たような物がある。さすがに部屋ごとではないし、閉鎖空間でもないがな」


 東国にも面白い物があるんだな。

 どんなものなのか見てみたい。


 またガコンと音がすると、部屋の動きが止まった。

 扉にはいつの間にか「B21」と描かれている。

 そしてスライドしながら扉がゆっくり開いた。


 明らかに入ってきた通路ではない。

 そもそも壁の色が明るめの青になっている。

 これで地下二十一階に着いたわけだ。


「それじゃここからは徒歩です。今は地下二十一階なので地下三十階を目指しましょう。魔物は見つけたらすぐに倒してください」


 俺は弱いから倒さないけど。

 全員が「おー」と気合を入れたところで、ストロムさんが胸ぐらをつかんできた。


「あの、ストロムさん、苦しいです」

「ちょ、おま、え? なに? ど、ど、どういうこと!?」

「いえ、地下二十一階まで降りてきたので、地下三十階まで目指しましょうって」

「違う、そうじゃない! なによこれ! なんなの!?」

「最終到達地点をいきなり超えたのは申し訳ないと思うのですが……」

「そんなことどうでもいいから説明! 急いで!」


 エルフなのに急がせるんだな。もうちょっと落ち着いてほしい。


「クロスちゃんたらいつもこうなのよー、お姉さんをいつもびっくりさせるの」

「びっくりで済むかー! こんな大発見、歴史に名前を残せるっつーの! さあ、吐け! 吐いて!」


 これはちゃんと説明しないと先に進めそうにないな。

 仕方ない。まずは説明しておこう。




「つまり、その指輪がこの部屋を動かすための鍵になっているってこと?」

「そうです。地下二十階まではあくまで上層エリアでして、当時の低階級の人達が入れた場所です。ここからは中層エリアで中流階級の人が入れる場所なんですよ」


 さらにこの下に下層エリアがあるけど、それは当時の貴族だけが入れるエリア。

 行くためにはこの中層で似たような指輪を見つけるしかない。

 でも、そんなことをしている時間はない。


 説明するとストロムさんは納得したようだが、俺のことを疑いの目で見ている。


「なんでそんなことを知ってるわけ?」

「秘密です」

「そこが一番大事でしょーが!」

「大事だから秘密なんです」

「……もしかしてオリジン?」

「オリジンって古代魔法王国の生き残りのことですか?」

「そうそう、クロスさんってもしかしてそれなの?」

「いえ、生まれも育ちも魔国で生粋の魔族です」


 オリジンって起源って意味だけど、ここだと古代人みたいな扱いだ。

 俺は違うけど、確かに古代魔法王国の生き残りはいる。

 そういうキャラがいるからな。しかも調整失敗してるくらいに強い。


 まあ、それはどうでもいい。今はストロムさんだ。


「オリジンじゃないなら、なんでこのことを知ってるの?」

「だから秘密です」

「分かった。いくら払えばいい?」

「お金の問題じゃないんで」

「このままじゃ私が寝れないでしょうが! 肌が荒れたらどうする!」


 そんなこと言われてもな。

 困っているとメイガスさんが割って入ってくれた。


「はいはい、ストロムちゃん、そこまでよ」

「だって、このままじゃ気になって眠れない!」

「でも、クロスちゃんはこういうことに関しては教えてくれないのよ。そういうスキルを持ってるって思って我慢して」

「ぐぬぬ……! なら、その指輪を頂戴!」

「これはあげません」


 アウロラさんがとても力強くそう言った。

 なんだろう。すごく居たたまれない。


「あの、ストロムさん、俺が持っている情報が確かなら、地下三十階にすごいアーティファクトがあるので……」

「それをくれるっていうの!?」

「それをベルスキア商会の商会長に見てもらう予定なのですが、そのとき同行してもらえますか。その報酬として渡しますので」

「よぉし! 取引成立! そういうことなら任せなさい!」


 迷宮研究家としての知識とエルフという種族的に商会長にも信頼されるはずだ。

 何があるか知らないが、上手くいけばアーティファクトをあげても構わない。

 こっちの目的はあくまでもベータの奪還だ。


『たぶん、あげられません』

『なんで?』

『一番価値があるものは無理ですが、他の物は渡してもいいですよ』

『一番価値のある物って?』

『それは見てのお楽しみです』

『なんでだ』


 よく分からないが課金スキルは言いたくないようだ。

 まあいいか。行けば分かる。


 さあ、迷宮探索といきますか。

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