第55話 商会と後継者

 行くメンバーが決まってからは二日で出発の準備が整った。


 それに今回はメイガスさんのおかげで馬車が必要ない。

 遥か大昔の人が作ったというアーティファクト、空飛ぶ絨毯があるからだ。

 結構広く、くつろいだ状態でも十人くらい余裕で乗れる。

 最大で二十畳くらいの広さになるらしい。


 スピードはそこそこ出るようで、全速力の馬車くらいだとか。

 正確には分からないけど、時速30kmとか40kmくらいか?

 どちらにしても結構速いと思う。


 ただ、飛んでいる間、魔力を消費するらしい。

 なのでメイガスさんくらいの魔力がないと危険だとか。

 それじゃ世界でも十数人くらいしか使えないと思うが。


 メイガスさんは絨毯を地面に広げると、手招きをする。


「さあ、乗って乗って。商業都市まで遠いから早く行くわよ」

「忘れ物は――食料はメイガスさんの亜空間にあるし、お土産リストは……」

「私が持っているので大丈夫です」


 お土産はアウロラさんが担当してくれるらしい。

 皆にかかると魔王軍の軍師も形無しだな。

 ただ、本人は嬉しそうにしている。


 最初はどうかと思ったが、お土産も今後のことを考えると必要だ。

 四天王たちとの戦いが本格的になったら結構厳しい戦いになる。

 福利厚生じゃないけど、これくらいなら叶えてあげないと。


 厳しい戦いになるのは分かっているなら治癒魔法が得意な人も欲しいな。

 アマリリスさんなら文句はないが、それはさすがに無理だろう。

 向こうは向こうで大変そうだから助けてとも言ってないし。


 今回の救出作戦で強そうな人がいたらこっちに引き込もう。

 個人的にはテンジク推しだが、東国には他にも強い人がいる。

 その辺りと交渉できればいいんだけどな。


 おっと、そろそろ出発か。


「それじゃ、ヴォルト、こっちは頼むな」

「任せろ。クロスは……心配しなくても平気だな」

「嘘でも心配しろって」

「酒の心配はしてるぞ。美味いのがあるかもって言ったんだから探して来いよ?」

「俺の心配をしろって言ってんだよ」


 そんなやり取りだが、皆が笑った。

 その後、アウロラさんやメイガスさんたちに気を付けてと言っている。

 俺にはないようだ。心配されても困るだけだし別にいいけど。


「それじゃ行くわよー」


 絨毯が浮かび上がると、そこそこの高さまで高度を上げる。

 そしてゆっくりと前に進み始めた。

 徐々にスピードを上げ、南の方へ進む。


「驚いたり怖がったりしないのねぇ。お姉さん、がっかり」

「魔族なので。この高さから落ちても死にませんから怖くないですよ」


 俺は身体強化中にジャンプするとこの高さくらいまでは飛べるから怖くない。

 アウロラさんも別に怖がってない。むしろ初めて見る景色に感動している感じだ。

 アルファは慣れているのかアラクネにあれは海とか、あれは塔とか教えている。


 つまり誰も怖がっていない。


 しばらく景色を眺めていたアウロラさんが、こちらを見た。


「もしかして時間に余裕がありますか?」

「メイガスさんはどうです? 絨毯の操作が大変ですか?」

「今は自動操縦にしてるから大丈夫よ。でも、アウロラちゃん、どうしたの?」

「いえ、実をいうと商業都市について話を聞きたいと思いまして」


 アウロラさんはそもそも魔国を出たことがなかった。

 俺に会いに来たのが魔国を出た初めてだという。

 なので情報としてその場所は知っていても実際には行ったことがない。

 事前に話を聞ければありがたいということだった。


 とはいえ、俺も行ったことはない。

 知っているのはその町出身のキャラが何人かいる程度で、都市そのものの情報もかなり偏っている。ここは大賢者の出番だろう。


 俺たちに頼られたことが嬉しかったのか、メイガスさんは色々と教えてくれた。


 商業都市ベローシャはどの国にも属さない中立都市。

 どの国もこの都市を狙わないという暗黙の協定が結ばれているらしい。


 そもそも商業都市がある場所は食物が何も育たないような荒れ果てた地だった。

 大陸の中心に位置していることもあり、そこを通ると大幅な時間短縮になる。

 ただ、魔物が多く、通るのは命懸けになる。


 そんな時、とある商人が莫大な金を使って魔物を退治し、大きな宿場町を作った。


 それが商業都市ベローシャの始まりと言われている。

 今では流通の要になっていて、小さな国には負けないほどの人と金がある。


 大昔、この都市を支配しようとした国があったが、逆に食料の流通を止められて滅んだとも言われているらしい。


「実際に滅んだわけじゃないけど、かなりの打撃を受けたのは間違いないわねー」

「もしかして見てたんですか?」

「リアルタイムで見てたわよー。他国からもシカトされちゃって国王が謝罪してそのまま退位してたわね。今は小さな国になって細々とやってるみたい」


 エルフは寿命が長いから大昔のことも普通に見ていたわけだ。

 歴史の証人だね。


 それはともかく、この世界って自給自足ができる国が少ないんだよな。

 魔国もそうだけど、カロアティナやエンデロア、それに聖国もダメだったはず。


 食料だけでなく金属や魔法技術、それに魔石なんてもの生活には欠かせない。

 そういうのが全部そろう国は聖国よりも西にあるオグステン帝国くらいだろう。


 とはいえ、その帝国も商業都市には手を出せないとか。

 物資の流通もそうだけど情報も集まる都市だから、下手に手を出せないんだろう。

 お金の力って怖いね。


「いま商業都市を実質支配しているのはベルスキア商会の商会長ね」

「ベルスキア商会ですか……たしか、商会長はベルスキアの名前を襲名するとか」

「良く知ってるわねー。その通りで今は五代目くらいだったかしら?」


 ガチャで出てきたからな。たしか五代目ベルスキアという名前だった。

 白い顎髭がかなり長い老人キャラだったはず。

 戦闘力は皆無だけど、キャラを持っているだけで取得できるお金が常に20%増えるというお金チートキャラだった。とてもあやかりたい。


 ……あれ?

 たしかあのキャラのプロフィールに何か悩んでいるって書いてあったような?

 ちょっと思い出せないが、それを解決すれば協力関係を結べるか?


「あの人って何か悩んでませんでしたっけ?」

「……本当になんでそういうことを知ってるのかしらねー?」

「それは秘密です」

「まあ、いいわ。簡単に言えば後継者問題に頭を悩ませているはずね。結構歳だからそろそろ譲りたいんだけど、誰に譲るか迷ってるとか聞いたことがあるわー」

「六代目を誰にするかってことですか」

「そうよー。しかも子供達が争っていて大変なことになっているとか」

「それは問題ですね」


 そういう問題じゃ解決は無理かな。

 無理に協力関係になる必要はない。

 放っておこう。


『ところがどっこい、それはできません』

『いきなりびっくりするからやめてくれるかな。しかも、ところがどっこいって……キャラ変わってない?』

『まあ、聞いてください。ベータがいるのはその商会です』

『……なんで?』

『ディエスが取引していたのが、その商会にいる後継者の一人だからですね』

『なんて面倒なことを……』

『会長になった暁には資金提供を受ける約束をしていたそうです。そのために協力をしていたというわけです。今は荒くれ者を雇って力で後継者になろうとしてますね』


 ベータは物理攻撃を上げるサポートスキル持ちだ。

 荒くれ者なら物理主体の攻撃しかしないだろう。

 そういう人たちは使い捨てだろうし、いくらでも替えが利く戦闘員というわけだ。


 これはまた戦わないとダメかな。

 それともなんとかベータを回収して逃げるべきか。


『私から提案が一つあります』

『提案?』

『ベルスキアは子供達に見切りをつけ、孫の一人を後継者にしたいと考えています』

『孫?』

『はい。そのお孫さんの両親はすでに他界しているのですが、本来ならその父親にベルスキアは襲名されるはずだったのです』

『……後継者争いが理由で亡くなったわけ?』

『正解です。意図的に魔物に襲わせた奴がいます。ただ、その孫さんは助かりました。商人として先見の目があるようでベルスキアはその子に継がせたいようですね』

『話は分かったけど提案って?』

『その孫に味方して他の後継者を蹴落とし、ベルスキア商会を継いでもらいましょう。ベータを助けられる上に商会とも懇意になれます』

『……本当の目的は?』

『お礼としてお金をたくさん貰いましょう』

『そっちがメインじゃねーか』


 自然とため息が出た。

 タダで情報を得られたのはありがたいが、どうするべきか。


「クロスさん、どうされました? ベルスキア商会に何か問題が?」


 アウロラさんが俺の顔を覗き込み、メイガスさんも俺の方を興味深げに見ている。


「ベータはそのベルスキア商会にいるんですよ。後継者争いでもめているようなので介入した方がいいかなぁって思ってるんですが、どう思います?」


 女性二人から見つめられるのは男冥利につきるけど、こういうのじゃない。

 さて、到着するまでにどうするか決めないとな。

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