第56話 古代迷宮と意外な再会
五日ほどで商業都市ベローシャに到着した。
さすがは空飛ぶ絨毯。
天気が悪いとまた違うのだろうが、快晴だったので特にトラブルはなかった。
絨毯の周りには結界が張られていて落ちる心配もなく優雅な空の旅だと言える。
聖国から戻ってくるときもそうだったが、メイガスさんがいると野営が楽だ。
認識阻害の魔法で夜はほぼ警戒なしで休めるし、水も食料も亜空間で運び放題。
遠出するときはいつもメイガスさんに来てもらいたい。
大賢者をそういう風に使っていいのか分からないけど。
有能であるのは間違いないんだけど、俺を驚かせようとしているのには困る。
知識を披露してくれるのはいいのだが、こっちの反応を見ながらなんだよな。
負けず嫌いなのか、説明するのが好きなのかは分からないけど。
俺が驚かないと悔しそうにしているから、前者なんだろう。
「それじゃ皆をびっくりさせないように都市の手前で降りるわね」
「はい、お願いします」
移動中の人達に見られてはいるが、別に問題はないだろう。
そもそもメイガスさんはエルフだ。
こういうのを持っていてもおかしくはない。
地上に着いてから、メイガスさんは絨毯をしまう。
そしてアラクネに姿を変える魔法を使った。
下半身が蜘蛛のアラクネだが、今は足が普通に二本。
アルファ用の服も着ているので姉妹のようだ。
「なんだか足が変。バランスが悪い」
「そこは慣れて頂戴ね。一応、強く念じれば元に戻るから」
「うん、分かった。二本足でも華麗なステップで敵を翻弄する」
アラクネは常に戦う子のようだ。
糸があるからステップはいらないと思うけど。
ふと見ると、アウロラさんが地面に膝をついて土に触っていた。
そして土を握り、また見る。
この辺りの土は茶褐色と言えばいいだろうか。
硬い土と岩しかなく、枯れた感じの草というか、枝みたいなものしかない。
西部劇の映画で見るような光景だ。
ただ、魔国にはあまりない景色とも言える。
向こうに多いのは荒野じゃなくて砂漠だ。
アウロラさんには珍しいのか、結構真剣に見ている。
「どうかしましたか?」
「メイガスさんの説明通り、この辺りは本当に荒野なんですね」
「大昔、ここで大規模な魔法が使われたらしくて、その頃からこうなったみたいよ」
憶測で言っているのだから、メイガスさんが生まれるよりも前の話なのだろう。
メイガスさんの話ではここには強大な魔法国家があって世界を支配していたとか。
ただ、なんらかの事故で魔力が暴走し、この辺り一帯を焦土に変え、草木が育たない場所になったらしい。枯れ木みたいな草はあるので少しは戻ってきているのかも。
ゲームだとここで古代迷宮というダンジョンが解放される。
降りていくと強化アイテムが大量に手に入った。
高難易度ダンジョンという扱いで、嫌な敵やギミックが多く、特定のキャラがいるかいないかで難易度が相当変わったな。
「古代魔法王国の魔力暴走とかロマンよねー」
「当時の人達はたまったもんじゃないと思いますが」
「そう言われたらそうなんだけど、歴史ってロマンを感じちゃうのよー」
人生が長いエルフでもそう思うのか。
確かにロマンはある。
創作だと良くある話だが、それが現実となればロマンを感じる。
前世でも意味の分からない建造物とかあったし、国が一夜で滅んだとかいう話もあったからな。本当かどうかは知らないけど。
そんな話をしながら、商業都市の門があるところまでやってきた。
待っている人たちが多く、検問待ちのようだ。
「時間がかかりそうですね」
「気長に待ちましょう」
前世が前世なのか、こういう並ぶ行為はあまり嫌じゃない。
有名ラーメン店とか良く並んだ覚えがある。
あの時はスマホを見てたけど。
「ところで、クロスさんはどうするか決めたのですか?」
「はい、決めました。なんとかベルスキア商会に話をつける予定です」
ここはスキルの提案に乗ることにした。
ベータを取り返すためにはその方がいいと判断した結果だ。
金銭を得られるかどうかはともかく、商会に貸しを作るのは悪くない。
魔国の四天王と繋がりがあるかどうかは分からないが、ここは魔国から遠いし可能性は低いだろう。なのでこっちに引き込んでおきたい。
問題はどうやって取引するかだ。
大きな商会なら一見さんお断りだろうし、メイガスさんも伝手はないと言う。
貴重なアイテムを持ち込むのが一番いいだろうか。
色々考えていたら、いつの間にか順番になった。
検問所にいる兵士が俺たちを見て訝し気な顔になる。
「えーと、君たちは……家族なのかね? この子供たちは?」
「私とこの人の子よー」
「こっちの子は私とこの方の子です」
「俺を社会的に殺すつもりですか?」
メイガスさんがアルファを、アウロラさんがアラクネを指してそう言ったわけだが、重婚は王族とか貴族だけなので普通の人がそんなことをしたら色々と大変なことになる。主に嫉妬で。
「まあ、君、甲斐性とかなさそうだから冗談なんだろうね。特に危険な物とかは持ってないから入っていいよ。ようこそ、商業都市ベローシャへ」
嫌な納得のされ方だったが、ここは甘んじて受けよう。
これ以上時間を取られたくない。というか、ここの検問ってザルだな。
アウロラさんも同じ気持ちなのか、不思議そうな顔をしている。
「ずいぶんと簡単に通れましたね」
「ここで問題を起こそうという人はほとんどいないからねー」
詳しく聞くとこの都市で問題を起こすのは自殺行為とのこと。
簡単に言えば近くに町や村などがないため、ここで食料や水を補給しないとかなり厳しい状況になるらしい。荒野で物資を補充できないのは死に直結するので、商売としての揉め事はあっても、危険な行為をする人は皆無だとか。
メイガスさんみたいに亜空間に入れたり、空を飛んだりできる人は少ない。
移動手段はほとんど馬車だし、この都市に寄らずに移動するのは現実的じゃない。
そうならないように、ここでは皆いい子にしているってわけか。
そんな商業都市ベローシャは思った通り賑わっている。
店も多く並んでいるが、大通りに露店を出している人も多い。
基本的にこの都市は税金というものがない。
代わりになんの保護も受けられないというリスクがある。
偽物を掴まされても文句は言えないし、ぼったくりのような値段で買っても訴え出るところがない。検問所にいた兵士たちはベルスキア商会が仕切っているが、商売に関する取引で不正があっても取り合ってはくれない。
ただ、スリや泥棒なんかはすぐに都市を追い出されるとか。
商人にとっては実力主義の都市ということなんだろう。
……感心している場合じゃないな。
まずは宿を探そう。
「どこかにいい宿ってありますかね?」
「それだったら知り合いがやっている宿があるわ。安くしてくれるかも」
それはありがたい。金がないわけじゃないが、できるだけ節約はしたいからな。
しかし、メイガスさんの知り合いって、もしかしてエルフか?
メイガスさんが案内した場所は予想通りエルフが経営している宿らしい。
宿の名前は「ラッキーラビリンス」。
幸運の迷宮ってことか?
少し裏道に入ったところだが、外観は悪くない。
木製のシンプルな宿で清潔感がある。
宿に入るとカウンターでメイガスさんが手続きを始めた。
五十年ぶりとか言ってるのを聞くとエルフってすごいなという感想しかない。
人間で言えば、五年ぶりくらいの感覚なのだろう。
宿の主人の見た目は十代後半の女性なのにすでに200年以上は生きているそうだ。
なんでもメイガスさんとは魔法の研究を一緒にやっていた仲で、今は宿を経営しながら古代都市のダンジョンを探索しているとか。どう考えても古代迷宮だ。
しかも名前はストロムだという。
どこかで見た気がすると思ったら、迷宮研究家のストロムだ。
「メイガスがいれば探索が捗るんだけどね?」
「今は優先していることがあるから、100年後くらいでいいかしら?」
「うん、それでいいよ。絶対に手伝ってよね」
100年後ならいいのかと思うけど、まあいいんだろうな。
そしてそのおかげで無料で泊まれることになった。
食事代を払う必要があるが、それでも助かる話だ。
「えっと、全員一緒の部屋でいいのかしら?」
「俺だけ別にしてください。狭い部屋でいいので」
「まあ、そうよね。でも、狭い部屋ってないからお隣同士にするわね」
「いいんですか?」
「構わないわよ。今はお客さんも少ないし」
これまたありがたい話だ。
何かお礼を考えておかないとな。
まずは休憩しようとそれぞれの部屋に分かれた。
二階の一番奥がアウロラさんやメイガスさん達。
その手前が俺の部屋だ。
荷物はメイガスさんが魔法で作った亜空間に入っている。
部屋でとくにすることもないので、一階の食堂までやってきた。
宿の従業員たちもエルフのようだ。
エルフは基本森から出てこないという設定があるんだが、当然例外はある。
古代遺跡などの研究者をしているエルフは多く、たしか自分たちのルーツを探しているという設定があった。ストロムさんも似たような感じなのだろう。
さすがに酒を頼むわけにはいかないが、ここでのカラアゲは食べてみたい。
商業都市なんだから、当然あるだろう。
「すみませーん、カラアゲを一人前――」
「よお、こんなところで会うとは思わなかったぜ」
注文を遮って話しかけてきた男がいる。
誰だと思ったら眼帯で分かった。
隻眼騎士アランだ。
なんでここにいるんだ?
「約束だからな、酒を奢らせてくれよ」
アランは俺が驚いているのを見ると、笑いながら同じテーブルにつく。
飲まないつもりだったけど、そういうことなら奢ってもらおうかな。
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