第53話 元気な妹と超絶バフ

 前は閑古鳥だったのに今の冒険者ギルドはたくさんの人がいる。

 しかも全員がクロス魔王軍の所属。いいのだろうか。


 村長は若い子が増えてありがたいとか言ってたな。

 観光関係の仕事をお願いするかもしれないとも言ってたけど。

 そんな仕事をする魔王軍ってなんだろう?


「おーい、クロス、悪いけど料理を運ぶから手伝っておくれよ」

「俺、一応この組織のボスなんだけど……?」

「ここじゃ私がボスなんだよ。ほら、ベーコンエッグとパンだ」

「はいはい……ってこの量が多いのはスカーレットか?」

「あ、はい、私です! すみません! 成長期なんで!」


 成長期で済まされる量ではないと思うけど、さすがははらぺこ魔女だな。

 メイガスさんに弟子入りしたらしく、魔法の訓練を頑張るそうだ。

 帰るところがないとか言ってたのでメイガスさんが引き取ったとも言う。

 スキルだけでも有用だけど、魔法も強くなったら強力だな。


 でも、クロス魔王軍が何をする組織なのかよく分かっていない気がする。

 年齢が近いのか三人娘たちと仲良くしてるみたいだし、別にいいか。


「おはよーございまーす!」

「フラン! 妹ちゃんに指導してあげて! 貴族っぽい作法とか話し方とか!」


 妹さんが聖剣と精霊の子犬を携えてやってきた。

 聖剣は相変わらず妹さんを立派なレディにしようと頑張っている。

 聖剣の仕事じゃないと思うんだが。


「昨日も言ったけど私には無理だよ。子供のころだってずっと剣を振ってたからさ」

「なら、ルヴィでもサフィアでもシトリーでもいいから!」

「私はガサツが服着てるって言われたからなぁ」

「メイド長に匙を投げられたわたくしでもよければ指導しても良いですわよ?」

「貴族とは作法や言葉遣いではなく心……!」

「闇百合全員つかえねー!」


 朝からとても元気というか、女の子のパワーってすげぇな。

 おじさん、ちょっと怖いよ。

 ヴォルトはまだか。女性率が高くて肩身が狭い。


 ぎゃーぎゃー言ってたが、妹さんが俺に気付くと近づいてきた。


「クロスさん、おはよーございます!」

「おはよう。元気っぽく見えるけど体の調子はどう?」

「嘘みたいに体の調子がいいです! やっぱり精霊が吸い取ってたんですね!」


 明るく言ってるから精霊に対して恨みがあるわけじゃなさそうだ。

 元気よく言い過ぎて精霊の子犬が足元でしょんぼりしてるけど。

 言葉が分かるというか意思が通じる状態なんだろう。


 そういえば、スキルが言ってたな。

 たまには生命力を吸わせてあげた方がいいって。

 そうするほど精霊は強くなるとか。


「たまには生命力を与えた方がいいらしいよ。それで精霊が強くなるみたいだから」

「そうなんですか? なら、毎日ちょっとずつあげようかな? いま食べる?」


 今度は精霊が妹さんの周りをしっぽを振りながら走り出した。

 かなり嬉しいんだろう。


「クロス、そんなことよりも礼儀作法を教えられる人を見つけて……」

「なんかすごく疲れてそうだな?」

「だって、見た目が……! 見た目は完璧なお嬢様なのに……! 嫌いじゃないの! こういうギャップがある子も好きなの! でも、ちゃんとした場所でちゃんとできるくらいの作法を身に着けて欲しい……! このままじゃ私が邪剣になりそう……!」


 気持ちは分かるけど泣くほどか?

 いや、泣いているかどうかは分からないけど。

 というか、そんなことで闇堕ちするな。


 確かに違和感があるほどのギャップだが、いい子だから問題ないと思うんだけど。


「気長に頑張れ。今は体が治った反動でテンションが高いだけだと思うから。落ち着けば少しは話を聞いてくれると思うぞ」

「そうかな……そうかも……そうであって……そうであるべき……」


 聖剣が落ち込んでいるのを見ると、少し気が晴れる。

 お前も人の話なんか聞かないタイプだったぞ。

 妹さんとの相性が良いというか悪いというか、相殺される感じでありがたい。

 この調子で二人とも落ち着いてくれ。


 フランさんが朝食を運んでくると、妹さんはワイルドに食べ始めた。

 聖剣がまた色々言ってるけど、妹さんは気にせず食べている。

 かきこむように朝食を食べ終えると「遊びに行ってきます!」と元気よくギルドを飛び出した。嵐みたいな子だな。


 今まで寝たきりだったから、何をするのも新鮮なんだろう。

 だからって四天王になる必要はないんだけど。

 妹さんも何をする組織か分かっていない気がする。


 入れ替わるようにメイガスさんが入ってきた。

 それにアルファとアラクネもいる。

 相変わらずアルファはアラクネに乗ってるな。


「あらあら、大盛況ねー。さあ、私達も朝食を食べましょう」

「メイガス様、ここのクマ鍋は最高だったという情報を提供する」

「さすがに朝からクマ鍋は厳しいものがあるわよ?」

「夕食のために三つ目クマを狩りに行こう。アラクネちゃんもいるから大丈夫」

「クマ鍋は至高。アラクネはいつでも行ける」

「なら今日は三つ目クマを狩りにいきましょうか」


 アルファとアラクネがハイタッチをしている。

 三つ目クマってかなり強いんだけどな。


 メイガスさんは朝食を三人分頼むと俺がいるテーブルまでやってきた。

 そして朝の挨拶をしてから椅子に座る。


「ベータちゃんとガンマちゃんを探してくれるって聞いたんだけど?」

「アウロラさんから聞きましたか。はい、その予定です。戦力増強は必須ですから」

「お姉さん感動……でも、なんで戦力が増強されるって分かるのかしら? アルファちゃんの嘆願書に書いてあったからって答えはダメよ?」


 細目のほんわか系お姉さんではあるが、そういうところは鋭いね。

 アウロラさんにも説明したし、隠す必要はないだろう。


「ベータもガンマもサポート系のスキル持ちですよね?」

「……うふふ、あの堕天使も知っていたみたいだけど、クロスちゃんにはなんでバレているのかしら?」

「それは秘密です」

「あら残念。でも、これは知らないでしょ? 三人には他にも秘密があるのよ?」

「踊るんですよね? その姿は俺も見たいと思ってました」


 メイガスさんの細目が開いた。そして金色の目が輝く。

 それって本気出すときの演出だからやめて欲しいんだが。


「もう驚かないって決めてたのに……お姉さんの寿命が縮むでしょう?」

「エルフなんですから一、二年なんて誤差ですよ。その踊りも含めて戦力増強になりますから二人は優先して探す予定です」


 とはいっても、疲れているから一週間くらいは休むけど。

 これはアウロラさんにも伝えてある。

 ちゃんと休養は取らないと。

 魔王軍だけどブラックな組織はダメだ。完全週休二日制にする。


 はて?

 なぜかメイガスさんが首を左側に傾けている。

 それに合わせているのかアルファとアラクネも首を傾けていた。


「踊りも含めて戦力増強ってなんの話かしら?」

「え? ですからアルファたちの踊りですよ。ものすごいバフ効果があるスキルが使えるので戦力として期待しているんです」


 メイガスさんは首を逆の右側に傾けた。

 アルファたちもそれを真似る。


「だから、なんの話かしら?」

「はい?」

「確かにアルファちゃん達には踊りを教えてあるわ。でも、かわいいだけよ?」

「いやいや、三人揃って踊ると『オメガブースト』ってものすごいバフが――」


 いや、待て。

 まさか、本人はもとより作ったメイガスさんも知らないのか?

 ゲームだと特殊演出があるほど有名だぞ?

 動画でも再生数が多かったし。


 メイガスさんの目がまた大きく開いてギラリと光る。

 あれは獲物を見つけた狩人の目だ。


「うふふ。今日はクロスちゃんといっぱいお話をしないといけないわね?」

「……すみません、うちの軍師を通してくれますか。スケジュールがいっぱいで」

「大丈夫よ、ベータちゃん達のことでクロスちゃんを独占していいって言ってたわ」


 仕事が早いよ、アウロラさん。


「さ、どういうことかお姉さんに話してみて?」

「私も知りたい。そんな力があるなんて知らなかった。踊りに磨きをかけないと」

「アラクネにはそういうのはないの? あと二人アラクネを見つければいい?」


 くそう、せっかくのお休みなのに色々と面倒そうだ。

 スキル説明には本人が知ってるかどうか書いておいて欲しかったなぁ。

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