第52話 軍師の相談
英気を養った日の翌日、朝からアウロラさんに呼び出された。
現在の状況について報告がしたいとのことだ。
朝食前だが難しいことは先に終わらせるべきだな。
ダンジョン「ゴブリンのねぐら」の一室でアウロラさんが出迎えてくれた。
すぐに報告してくれるようだが、資料まで作ってある。
いつ作ったんだろう。まさか寝てないとかないよな?
「安心してください、ちゃんと寝てますので」
「……そんなに俺の顔って分かりやすいですか?」
「はい。今は私のことが大好きでなんでもしてあげるって顔をしてますね」
「それは事実無根なんですが」
「今の冗談は面白くなかったですか?」
「……努力してもどうにもならないことってあると思います」
悪気はないんだろうけど、そうやって俺の反応を確かめるのは勘弁してほしい。
たぶん、いまだに俺を魔王にしようとしているんだろう。
そんな面倒なことをするわけないのに。
でも、逆にアウロラさんを魔王にすると決めた。
それも面倒ではあるけど、そこまで嫌じゃないような気もする。
……なんだか流されてるなぁ。
「では、冗談はこの辺にして魔国の状況について説明します」
まず、魔国の北にある山岳地帯。
ジェラルドさんが残党狩りを終わらせて完全にクロス魔王軍の領地となった。
そして今は他の四天王に比べても遜色ない戦力になっているとのこと。
どうやら俺の元部下とかがそっちに集まっているらしい。
なんで? 集まる理由なんてないと思うんだけど?
それはともかく、不気味なのは四天王からちょっかいがないことらしい。
偵察などはあるようだが、直接的な戦闘は仕掛けてこず、状況を見ているだけ。
なので四天王たちを警戒をしつつ、情報と戦力を集めているとのことだ。
また、ジェラルドさんは内政にも力を入れているらしい。
戦闘力と内政が高いってシミュレーションゲームの高ランク武将だな。
謀反とかしないでほしいけど、何かプレゼントでもした方がいいのだろうか。
そして戦略シミュレーションゲームといえば罠がある。
内政ばかりやってると、いつの間にか他国の戦力が異常に高くなる。
そうなると詰むわけだが、これも似たようなものだろう。
放っておくと四天王たちの軍が強くなって対応しきれなくなる。
一日一日強くなっていくだろうから、今日が一番弱いと思わないと。
でも、弱いとは言っても簡単に勝てるような弱さじゃない。
ウォルバッグのときはたまたまだ。
アイツが一人で出てくるなんてミスというか偶然があったから勝てた。
それに集団の強さを凌駕するのが四天王だ。
ゲーム知識で弱点が分かってるとは言っても、絶対に勝てるわけじゃない。
ウォルバッグもそうだったし、俺の知らない攻撃をしてくる可能性がある。
気を付けないと。
「魔国の報告は以上ですが、何かありますか?」
「いえ、とくには。ところで四天王の領地で情報を集めているのは誰なんですか?」
「とくに誰というわけではありませんが、諜報活動をしている部隊があるとジェラルドさんは言ってましたね」
「そんな部隊があるんですか……」
「何か気になりますか?」
「いえ、四天王の領地で破壊工作とか扇動を依頼したいと思っただけです」
「確かにそういう部隊も必要ですね。可能かどうか聞いておきます」
四天王達が協力して潰しにこられたら困る。
お互いに牽制するくらいの仲になってもらわないと。
ヴァーミリオンのところは無理だろうが、アギとシェラのところはお互いに潰しあって欲しい。そのためにもお互いを敵視するような噂を流しておきたい。
「次はクロス魔王軍の報告になります」
「なにか問題がありました?」
「いえ、問題ではないです。メイガスさんが魔導部隊を率いる四天王になりました」
「ああ、はい。本人が嬉しそうに言ってきたので知ってます」
「そうでしたか。それとサンディアさんが精霊部隊を率いる四天王になりました」
「それも知ってます。止めて欲しかった……」
「精霊がかなり強い上に、聖剣を持っているので素も強くなってましたから」
「実際に戦闘があっても後方待機ですけどね。それよりも問題があります」
「なんでしょうか?」
「まだ四天王って名前を使うんですか?」
ゴブリンのバウル、勇者のヴォルト、闇百合のフランさん、元四天王のジェラルドさん、魔導生命体アルファ、聖剣。そこに大賢者メイガスと妹さんが増えた。俺の計算が正しければもう8人いる。もうダブルスコアだ。
ここまで来るともう変えない方がいいような気もするけど、俺としては減らしていきたい。とくに聖剣と妹さんはヴォルトの部隊ってことでいいんじゃないかな……。
「四天王は人気なんです」
「人気があるからってポンポン増やしちゃダメでしょうが」
「いつか違う名前に変えるかもしれませんが、とりあえずは四天王で」
「まあ、いいですけど。それ以外には何かありますか?」
「これは要望ですがメイガスさんからベータさんとガンマさんを探して欲しいと言われています。アルファさんも嘆願書を持ってきました。かわいらしい字で」
「ああ、それは俺も聞きました。嘆願書は初めて聞きましたけど」
「必ず戦力になるからと嘆願書には書かれていましたが、そうなんでしょうか?」
「まあ、そうですね」
これはあれだな。アルファたちはサポートスキルを持っている。
アルファは魔法攻撃を強くするが、ベータは物理攻撃、ガンマは防御を強くする。
そして三人そろうと超絶サポートスキル「オメガブースト」が使える。
俺も一度はそれを使う時の踊りを生で見たい。
「具体的に何か知っているのですか?」
「アルファは魔法攻撃を強化してくれるスキルを持っているのは教えたと思いますが、ベータやガンマも同じです。それに三人揃うとさらに強力なスキルが使えるようになります」
「なるほど。でも、クロスさんはなぜ知っているのでしょうか?」
「まあ、色々あって。万能スキルのおかげです」
アウロラさんには色々バレているからそう言っておこう。
さすがに前世の記憶があるとか言っても頭がおかしいと思われるだけだし。
「なら、いる場所も分かるのでしょうか?」
スキルを使えばすぐにわかるな。
妹さんを探したときも使ったし。
そしてお金もある。
「だいたいの場所は分かると思います」
「なら、その捜索を優先しませんか?」
「え?」
「私達には戦力が必要です。それも圧倒的な戦力が。今、四天王たちとやり合っても勝てるかもしれませんが、お互いに大きなダメージを受けます。そうならないためにも戦力を集めたいと思ったのですが」
相変わらずお優しいことだ。
魔族でも亜人でも獣人でもできるだけ殺したくないのだろう。
魔族としてはかなり珍しいけど、前世のある俺の感覚と似ているな。
さすがにアウロラさんが転生者だとは思わないけど。
「ならそうしましょうか。すぐに調べますよ」
そう言ったらなぜか驚かれた。
「あの、いいのですか?」
「え? いいと思いますけど……?」
「お互いに大きなダメージを受けないように戦力を集めたい、そういう理由で提案しているのですが」
「できるだけ死者を出したくないんですよね。なら理に適っていると思いますが」
そう言ったらまた驚かれた。
変なこと言ったかな……?
「……以前、サンディアさんを助けられたら相談したいことがあると言ったのですが、覚えていますか?」
「いきなりですね。ええ、もちろん覚えてます。馬車で話した時のことですよね」
「はい。今、相談してもいいですか?」
「構いませんけど、相談されてもお役には立てませんよ?」
「聞いてほしいだけです」
「そうですか。では、どうぞ」
アウロラさんは喉の調子を整えたから、まっすぐ俺の目を見た。
「魔国を自由で平和な国にしたいと言ったら笑いますか?」
「いえ、別に笑いませんけど? むしろ応援します」
これって相談だろうか。
でも、笑うような話じゃない。
自由で平和な国なんて最高だと思うけどな。
カラアゲとビールの心配だけして生きたい。
なのに、なぜかアウロラさんが驚いた顔をしている。
さっきから驚いてばっかりだな。
「その顔は本気でそう思ってくれているんですね」
「また顔に出てましたか」
「ええ……ありがとうございます。決心がつきました」
「それはよかった……んですよね?」
「もちろんです。魔族であるにもかかわらず、自由で平和な国を作りたいなんて笑い話です。それなのにクロスさんは笑いもせずに応援しますと言ってくれた。多くの魔族はそれを望んでいないかもしれませんが、私はやってみせます」
「ああ、そういうことですか」
アウロラさんがやりたいことと皆がやりたいことは違うとか言った気がする。
それを気にしていたのか。
……もしかして俺が笑ったら諦めたのか?
いや、諦めるわけがないな。アウロラさんはそういう人だ。
「確かに大半は望んでいないでしょうが、魔族だって自由と平和が好きな人もいますよ。俺もその一人です。それに大半の魔族はそういう生き方を知らないだけです。アウロラさんが魔王になってそんな国を作れば、同じ考えを持つ魔族も増えるんじゃないですかね」
「はい……そのときはクロスさんに大魔王として即位してもらいますので」
「本当にやめてください」
「この冗談は面白くなかったですか?」
「目が本気でしたので面白くなかったですね」
「そうですか。ですが、諦めませんので」
「それは光の速さで諦めてください」
意志の強い人は嫌いじゃないが、それに俺が関わってくるなら話は別だ。
でも、アウロラさんが嬉しそうにしていると、何かしてあげたくなるんだよな。
俺は意志が弱いね。
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