第45話 教会の幹部たち

 ディエスが憑りついていた男性は怪我が無いのでそのままにする。

 どういう扱いになるか分からないけど、どうしようもないな。

 あとでグレッグやアマリリスさんに事情を伝えよう。


 あと、特別独房にいた人たちが牢を出てきたので先に逃がした。

 アランもそうだけど、結構ヤバイ奴らがいたな。

 お礼を言われたが、気にするなと言って先へと促した。


 牢屋に囚人が残っていないことを確認してから、スカーレット、メイガスを連れて上の階へと移動する。


 多くの人が通ったので廊下はかなり荒れた感じだ。

 ただ、何人かはディエスに見つかって攻撃されたのだろう。

 気を失って床に倒れているようだ。


 アラン達も助けてやればいいのに……とは思ったけど、基本は自己責任だし、そこまで余裕がないか。


『治癒魔法を施せるか?』

『一人金貨一枚で請け負いますが、やる必要がありますか?』

『やってくれ。あと、気付けというか目を覚ますようにしてくれるか?』

『それはサービスでやっておきます。倒れている人に触れてください』


 廊下で倒れている人に触れると一瞬だけ体が白く輝く。

 その後、倒れている人は目を覚ました。


「さあ、早く逃げて」


 そう言うと倒れていた男性はお礼を言ってから外へ走っていった。


 外ではヴォルトたちが戦っているだろうけど、逃げていく人を守るようにも言ってあるから大丈夫だろう。よし、他にも倒れている人を起こさないとな。


「お姉さん、今日だけで何回びっくりしているか分からないわねぇ」

「わ、私もです! 魔族、なんですよね? そもそも牢屋の鍵が……」


 メイガスとスカーレットが俺の行動やスキルを見て不思議に思っているようだ。

 いちいち説明する気はないが、あとで面倒なことになりそう。


 結構時間がかかったが、とりあえず目につく人は全員治して起こした。

 後はヴォルトたちと合流して聖都の外へ逃げよう。

 城から聖国の軍隊がきたらもっと面倒なことになりかねない。


 よし、あそこを曲がればエントランスに着く。正面から脱出だ。


「む! 見つけたぞ! お前! 正々堂々勝負しろ!」

「またかよ」


 外への扉の前に聖騎士アドニアが腕を組んで仁王立ちしている。

 しかも俺が通路で助けた人達を足止めしているみたいだ。

 タイミング的にアラン達は先に出たようだな。

 アドニアも運がいいのか悪いのか。

 俺は完全に運が悪いけど。


「異端審問で有罪になった奴らを外に出すなんて何を考えている!」

「俺は魔王軍四天王ヴァーミリオン様配下の魔族だからな。教会の敵は仲間だ」

「魔族だと! ならお前を斬る! ――あ、コラ、お前ら、逃げるな!」


 剣を抜きながら俺の方に歩いてくると、その隙に皆が外へ出て行った。

 ゲームでもこっちでも残念な子だな。


「まあいい。どうせ聖都からは出られん。それよりもお前だ! 今度こそ決着をつけてやる! いざ、尋常に勝負!」


 もう決着はついていると思うんだけどな。

 こういうちょっと残念な子は嫌いじゃないが、それは創作の中だけだ。

 現実にいたらちょっと困る。ドジっ子と同じだ。


「ジェットストーム」

「え?」

「な……! きゃあぁぁぁ!」


 メイガスが強力な風系の魔法を使うと、アドニアがかわいらしい声を出しながら外へ吹き飛んだ。


「うふふ、さあ、行きましょう?」

「ああ、どうも。助かるよ」

「こんなところでもたもたしているのはもったいないわ。貴方のことを色々教えて欲しいし。さ、早く早く」


 メイガスは楽しそうにスキップしながら外へと向かう。

 後で根掘り葉掘り聞かれるのは嫌なんだが仕方ない。


「いつか私もあんな魔法を……!」


 そしてスカーレットはさっきの魔法を見て目が燃えている。

 思いのほか熱血のようだ。


 メイガスを追って外に出ると、なぜか突っ立っているんだけど、どうしたんだ?


「今日はびっくり箱の大安売りね。お姉さんを驚かせて何が目的なのかしら?」

「一体何を……なんだこりゃ?」


 教会本部の外へ出るとそこはまったく原型を留めていない敷地があった。

 周囲の草木は燃えていて、いたるところに小さなクレーターがある。

 しかも教会本部が少し崩れてないか?

 ドラゴンが暴れたのかと言いたい。


 ……そんなわけはなく、ヴォルトとアウロラさんが暴れた結果だろう。

 無駄に暴れているわけじゃなく、俺が逃がした人達を守るようにしているな。

 逃げていく人たちに早く逃げろと促している。


「勇者殿! その力は神のために使うものですぞ!」

「うるせぇよ。もうテメェらの言いなりにはならねぇ!」


 ヴォルトが聖剣を振りかぶる。

 そして教会の人間に向かって振り下ろした。

 おいおい、殺す気か?


「むん! ぐ、ぐぐ……!」


 相手は結界を張って耐えた――よく見たら、アレって大司祭マルガットか?

 強力な結界だが、勇者の力が戻って聖剣も持っているヴォルトの攻撃は防げない。


 ヴォルトは結界を破壊してさらに聖剣を地面に叩きつけると、その衝撃でマルガットは吹き飛ばされた。


 そして別の場所ではアウロラさんと……異端審問官長ガリオが戦っている。


 アウロラさんはラフな恰好じゃなくて前に着ていた軍服のような姿だ。

 それに帽子もかぶってる。眼鏡はしてないけど、マントはカッコいいな。


 そしてガリオは……やっぱりこっちでもその装備か。

 男性に人気がある女性キャラだが、その理由の一つは服装だ。


 着るにはかなりの自信と勇気がいる黒いラバースーツだ。

 それに鞭を持って、さらにアウロラさんと同じように軍帽をかぶっている。

 はっきり言って、お友達にはなりたくない。


「……その服、恥ずかしくないんですか?」

「……変?」

「……たぶん」


 ひそひそ声ではあるが、ちょっと聞こえた。

 二人とも結構余裕があるな。戦いながら話してる。


 一応説明しておくか。


「メイガスさん、スカーレットさん、勇者と軍服の女性はこちらの味方ですから攻撃しないでくださいね」

「もー、今日はもうお姉さんのびっくりは打ち止めよ? なんで魔族と勇者が共闘しているの? それにあの軍服の子って――」

「そのあたりはまた後で。さあ、逃げますよ」


 退却を知らせる魔道具を空に掲げる。

 そして魔力を込めると、空に向かって赤い光が飛んだ。

 それが空で破裂すると、花火のように輝く。


 ヴォルトもアウロラさんも花火を見るとすぐに俺の方へ視線を向けた。

 親指を立てることで妹さんの契約をすべて破棄したことを伝える。

 二人はそれを見ると笑顔になって頷いた。

 ヴォルトはともかく、アウロラさんは表情が豊かになったもんだ。


「神に言っとけ、勇者はもう帰らねぇってな!」

「遊びはここまでです」


 二人はそれぞれ相手を攻撃で吹き飛ばすとすぐに本部の敷地内から外へ逃げた。


「俺たちも逃げますよ」

「勇者ちゃんたちに付いていけばいいのね? ならスカーレットちゃんは任せて」

「え? え? なんです?」


 メイガスは驚いているスカーレットを後ろから抱きしめると宙に浮いた。

 そういえばアルファがメイガスと飛んだとか言ってたっけ。


 そのメイガスは俺の方を見て笑顔になった。


「貴方は残るんでしょう? なら私とスカーレットちゃんだけで行くわね?」

「ええ。聖都の南東の方で落ち合う予定ですので、そこまで行ってください」

「分かったわ。ならお礼もその時にね。それじゃ掴まっててねー」

「え? え? きゃああぁぁぁ……」


 空を飛ぶって慣れてないと怖いよね。

 さて、メイガスにはバレていたみたいだし、俺はここで少し待つか。


『足止めをするつもりですか?』

『少しだけな。あれが出てくると逃げられない人がいるかもしれないし』

『面倒なことを嫌がる人だったのに成長しましたね』

『やったことが無駄になることが嫌なだけだって。というか誰目線?』


 廊下で倒れていた人を治して起こしたのもせっかく助けたのにって思っただけだ。

 それに一人だけだったらすぐに逃げたけどスキルとお金があれば怖くはない。

 お金があると気が大きくなるって本当だね。ちょっと意味は違うけど。


「メタトロン」


 そんな声が聞こえると、地面に巨大な白い模様が現れた。

 うっすらと光り輝く模様は敷地内全部をカバーしているようだ。


 後ろを振り向くと、首を斜めに傾けた女性が前髪の隙間からこちらを見ている。


「魔族がここで何をしているの……?」

「散歩って言ったら逃がしてくれるかな?」

「そういう陽キャなセリフは嫌い……吐きそう」


 陽キャのセリフかな……?

 それよりも初対面の人に吐きそうと言われたことに傷つくんだが。


 ……おっと、そんな余裕をかましている場合じゃないな。

 ディエスほどじゃないが、危険な奴の一人だ。

 今頃出てきたのはようやく目を覚ましたってところか。


 目の前にいるのは教皇オリファス。


 ダウナー系なのに行動力がある神の狂信者。

 黒髪を雑に伸ばした感じで、美人らしいが顔の半分は前髪で見えない。

 金のサークレットを頭に付けて、服は寝間着のような白いワンピース。

 簡単に言うと井戸とかテレビから出てきそうな感じの奴だ。


 なんでこれを教皇にしたと言いたいところだが、その理由はこの魔法だ。


 味方を回復しながら、悪魔、アンデッド、魔族に対して大幅なステータスダウンを引き起こす領域を展開するオリファス専用魔法「メタトロン」。

 これが展開されたので、さっきまで倒れていた奴らが立ちあがった。


 そして俺はステータスが大幅に下がっただろう。

 ステータス二倍は相殺されたかな?


 でも一番の問題はそこじゃない。

 この魔法はゲームだと強制撤退を防ぐ効果があったはず。

 ゲームだと戦闘中にキャラの入れ替えができるんだけど、これはそれを防ぐ。

 おそらくこの世界だとこの領域から逃げられないってことになるはず。


『その通りです。解除するには倒すか気絶させる、もしくは対象に触れてください』

『触れる?』

『一時的に魔法を使えなくします。金貨一枚貰いますが、それで無効化しますので』

『魔法そのものを無効化するとか、遠隔だとだめなのか?』

『お高いのでお勧めしません』

『確かにお高いのはダメだな』


 オリフェスに触れるだけで魔法は解除できるわけだ。

 時間稼ぎも必要だし、敵は多いけどやりますか。

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