第43話 はらぺこ魔女と大賢者

 出会う信者たちを木刀で倒しながら地下へと向かった。

 信者には善良な人たちもいるんだろうけど、運がなかったと諦めて欲しい。


 さすがに地下へ行く階段への扉付近には鎧を着た兵士が待機している。

 本部の建物が揺れるほどの何かが起きているから不安そうではあるが。

 ここも一気に片付けよう。


 兵士二人に高速で近づく。

 驚いた顔が見えたが、そのまま木刀を振りぬいた。

 一人を吹き飛ばし、もう一人を巻き込む。


 二人が壁に寄り掛かるように尻もちをついたところへさらに追撃。

 二人の頭を一回ずつ兜の上から結構強めに叩き、気絶させた。

 これでしばらくは起き上がれないだろう。


『兵士が持っている鍵束を持って行った方がいいと思いますよ』

『鍵束? もしかして下は広間じゃなくて牢屋になっているのか?』

『異端審問で集めたのでしょうね。牢屋に閉じ込めているようです』


 いいね。相手が悪なら気兼ねなくなんでもできる。


 倒れている兵士の腰辺りにある鍵束を奪う。

 キーリングに大量の鍵がついているけど……アルファベットが振ってあるな。

 これなら分かりやすいか。


 扉を開けるのはグレッグからもらった鍵だ。

 それで開錠し扉を開けると聞いていた通り地下へ続く階段があった。

 壁のたいまつに火が灯っているようなので中は明るい。


 三段飛ばしで階段を下りるとすぐに下の階へ到着する。

 いきなり現れた俺を見て驚いた兵士たちを有無を言わさずに倒した。

 三人いたけど今の俺の敵じゃないな。


 改めて周囲を確認すると、左右に牢屋があり、それが奥の方まで続いている。

 一つ一つがかなり狭く、それぞれ個別に閉じ込められているようだ。


 周囲から「助けて!」「開けてくれ!」という声が聞こえてきた。

 上が騒がしいから何かがあったことは分かっていたんだろう。

 すぐにでも開放してやりたいが、こっちにもやることがある。


「スカーレット! メイガス! どこだ!」


 大きな声で叫ぶ。

 一瞬だけ静かになったが、牢屋の奥の方から声が聞こえてきた。


「ス、スカーレットというのは私ですー、たーすけてー」


 なんだか緊張感のない間延びした声だが、たしかそんなキャラだった気がする。

 その牢屋まで移動すると、確かにゲームで見たキャラがそこにいた。


 黒をベースに白いフリルがついたゴスロリ服を着て、黒紫の髪を両側でおさげにしている高校生くらいの女の子。サイズが大きすぎる魔女の帽子と丸眼鏡、さらには大きな杖を担ぐように持っている。


 杖を奪っていないっていうことは脅威と思われていないんだな。

 でも、間違いない。この子がはらぺこ魔女のスカーレットだ。


「アンタを助けてやる。だから俺に力を貸してくれ」

「え? え? でも、私、魔女としては落ちこぼれで……」

「魔法は期待してない。貸して欲しいのはスキルの方だ」

「私ってスキルを持ってるんですか……?」


 スキルイーターはパッシブスキルだったか。

 戦闘が始まると勝手に使われるタイプだ。

 この世界だと自分のスキルを知らない奴が多いんだよな。


「なら、そばにいてくれればいい。アンタがいないと俺が困るんだ」

「よく分かりませんけど、分かりました! 助けてくれるなら何でもしますー!」


 その言葉に頷いてから牢屋の鍵穴、その周辺を見る。

 Cと書かれているのでカギを鍵束から探した。

 そして鍵穴に入れて回すと牢屋の鍵が開く。


「あ、ありがとうございますー!」


 スカーレットが涙目で飛び出してきた。

 そして抱き着かれる。

 怖かっただろうが、安心していい状況じゃない。

 それにやるべきことが残っている。


 スカーレットが解放されたことで周囲がまた騒ぎ出した。

 でも、それは後だ。

 抱き着くスカーレットを引き離し、大きく息を吸った。


「メイガスはどこだ!」


 そう叫ぶと、何人かが牢屋から手をだして奥の方を指した。

 そして「特別独房」と言っている。


 奥に別の牢屋があってそこにいるってことか。

 ならすぐに奥へと思ったけど、少し考える。


『この牢屋の鍵を開けるなら金貨何枚だ?』

『普通の牢屋全部なら金貨十枚で請け負いますが、鍵は使わないんですか?』

『面倒くさい。俺が奥の扉に着いたら普通の牢屋は全部開けてくれ』

『お金を持つと言うことが違いますね。ですが、分かりました』


 スカーレットを連れて奥へ移動する。

 奥には厳重そうな扉があり、その先は隔離されているようだ。

 スキルは俺が奥へ到着したことを認識したのか、全ての牢屋の鍵が一瞬で外れた。


「鍵は全部開けた! 契約書も全部燃やしてあるからすぐに聖都から逃げろ!」


 牢屋にいた人たちは思考が追い付かない状況だったようだが、一人が牢屋から出ると何人もの人が牢屋を飛び出して階段の方へ向かった。慌てずに逃げて欲しい。


 特別独房への扉には鍵がかかっていたが、ここも面倒なのでスキルに頼んだ。

 ガコンと大きな音を立てて開錠されたので大きな扉を押し開けながら入る。


 扉の先の牢屋も似たような感じだが、一つ一つがずいぶんと広い。

 それに牢屋の格子が結構太いから簡単には出れないようになっている。

 強力なスキル持ちを入れておくような堅牢な牢屋なんだろうな。


「メイガス! どこだ!」

「ここよー。でも、どちらさま?」


 近くの牢屋から声が聞こえたのでそこへ移動する。

 牢屋なのに大量の本が持ち込まれていて、それを優雅に読んでいる女性がいた。


 白に近い金色でウェーブがかかった長い髪、服は昔のギリシャ人が着ているようなアレ。目が開いているかどうか分からないほどの細目だが、一番のポイントは耳だ。エルフなので尖っている。


 目の前にいる女性が大賢者メイガスで間違いない。


「アルファに頼まれて助けに来た」

「あらまあ、本当? あの子ったらいい子ね」

「牢屋を開ける、ちょっと待ってくれ」


 鍵穴の近くにはZと描かれている。

 その鍵で牢屋を開けた。


「本当に助けてくれるのね。お姉さん、嬉しいわ」


 見た目は二十代前半なのだが、お姉さんというレベルの年齢ではないはずだが。

 エルフでも年齢は言わない方がいいんだろうな。


「アルファのところへ連れて行くが、その前にやることがある。一緒にいてくれ」

「あらあら、何をするのかしら?」

「ディエスを倒して契約書を奪う」


 そう言うと、メイガスは右手を右頬に手を当てて困ったような顔をした。


「お姉さんの助言だけど、それは無理よ?」

「アイツが天使なのは知ってるし、対策もあるから大丈夫だ」


 大賢者ならアイツが天使なことくらい知っていると思うがどうだ?


「お姉さん、びっくりよ。貴方、ただの魔族じゃないのね?」

「そのあたりはまた後で」

「ま、魔族さんだったんですか!」


 なぜかスカーレットが驚きの声を上げた。

 よく考えたら自己紹介をしてなかったな。

 でも、ここで言う必要はない。名前は逃げた後でいいだろう。


「俺は確かに魔族だが、人にやさしい魔族だから安心してくれ」


 そう言ってから近くの牢を見る。

 中にいた男に話しかけた。


「鍵を渡すから、ここにいる全員を逃がしてくれ」

「へぇ、逃がしてくれるのかい?」

「ああ、契約書も燃やしたし、すぐに逃げても問題ないはずだ」

「そいつはありがたい。なら任せな。騎士の名誉に誓って、このアランが牢から全員を逃がしておくよ」


 暗くて良く見えなかったけど、コイツ、隻眼騎士アランか。

 確かに鷹の模様が入った眼帯をしているが、ずいぶんと大物がいたな。

 でも、驚いている場合じゃない。すぐにディエスを片付けよう。


「メイガス、スカーレット、一緒に来てくれ」


 メイガスはニコニコ、スカーレットは困った顔をしながらも付いてきてくれた。


 一般用の牢屋へ戻ると、牢は誰もいなかった。

 全員が外へ逃げたのだろう。


『ディエスはどこにいる? いくら使ってもいいから教えてくれ』

『いえ、この先にいるのでお金はいいですよ。気を付けてください。送り込んだ悪魔を食らってさらに強くなってます』

『……そのディエスを食べてもらうのにはおいくら?』

『封印状態ではないのでかなりお高いです。少なくとも今の全財産では無理ですね』

『マジかよ』

『本体を弱らせればお手頃の値段で食べるのも可能です。できればそうしたいので、ボコボコにしちゃってください』


 ディエスが憑りついている奴はどこの誰とも知らない相手だが仕方ないな。


 二人よりも数歩前にでて、先に進み、ディエスと対峙した。

 ディエスは苦しそうな顔はなくなり、憤怒の顔で俺を見ている。

 怒りで俺を殺せそうなほどだ。


「貴様! 神をお迎えする計画が台無しではないか!」

「俺に台無しにされる程度の計画だったと知れて良かったろ?」

「何者かは知らんが貴様を食らいつくしてやる!」


 残念だが逆だ。

 俺の中にあるスキルがお前を食う。

 そのためにもボコボコにしてやる。

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