第37話 教会の戦力

 皆はダンジョンで聖国へ行く準備を進めている。

 クロス魔王軍は四天王がそれぞれの部隊を率いる形だ。

 俺とアウロラさんはボスと軍師という立場なので部隊は持っていないけど。


 それにヴォルトと聖剣も二人だけのコンビで部隊を持っていない。

 二人一緒で四天王一人にしないかと提案したが聖剣が却下した。

 クロス魔王軍って計算ができないのとか思われたら嫌なんだけど。


 それにフランさんから俺、ヴォルト、アウロラさんの三人は一人で特攻して来いと言われた。アウロラさんとヴォルトは分かるけど、俺が特攻したらだめだろ。フランさんは思ってた以上に体育会系だった。


 俺、曲がりなりにもボスなんだけどね。

 そもそも魔王でもないんだけど魔王軍って名乗ってるし。

 むしろアウロラ魔王軍に名前を変えたい。


 それはいいとして、フランさんはやる気だ。

 今回は必ず行くと言ったが、三人娘もそれについてくることになった。

 つまり闇百合近衛騎士隊は全員出撃だ。


「いいかい、これは私達の初陣だ。派手に勝つよ!」

「うおおおぉ! 任せてください!」

「私達に敗北は似合いませんわ!」

「闇に飲まれよ……!」


 フランさんがいるなら三人娘たちも間違いなく強くなる。

 本来ならこれに聖騎士アドニアと放浪騎士ミリアムを入れて「ぶっころパーティ」が完成するんだけど、これでも十分強いはずだ。そういえば、アドニアには聖国で会えるかもしれないな。今回は敵だろうけど。


 そしてアルファはいつの間にかアラクネと仲良くなっている。

 アラクネが背中というか蜘蛛部分の腹部にアルファを乗せて走り回っているのが村で目撃されているとか。村の人達は特に何も追求せず、アルファたちにおやつを渡すほどらしい。


 村のおおらかさには感謝したい。

 というよりもアラクネを魔物だと思っていない節がある。

 下半身が蜘蛛なんだけど、そういう作り物で遊んでいると思っているのかも。


「私達はマスコット部隊。なので一番槍を狙っていく」

「アルファは分かってる。それは誉れ」

「マスコットなんだから後方支援をしてくれ。ゴブリンの皆と一緒にいるんだ」

「私はともかくアラクネちゃんは強いよ?」


 アラクネは上半身を左右に振って、パンチを繰り出している。

 それでもいいけど戦うのはダメだ。


「強いのは知ってる。でも、お前達が怪我したら聖剣の奴が怒るし、大賢者にも怒られそうだから無茶はしないでくれ」

「えー?」

「分かっていないようだから教えるが、お前たちはいるだけで仲間を強化できるんだよ。アルファは魔法使いの魔法威力を上げるスキルがある。アラクネも同様に魔物の力を強くしてくれるスキルがあるんだ」


 アルファは前世から知ってたけど、アラクネの方はスキルで調べたら分かった。

 魔法攻撃を専門にしているゴブリンがいるから、相乗効果でかなり強くなるはず。


「そういえばメイガス様がそんなことを言ってた気がする」

「私にそんな力があるなんて初めて知った。衝撃の事実」

「アルファはともかく、アラクネは進化前も一人でいたから分からないよな」


 むしろ集団でいたら、相当強くなって誰も勝てないような気がする。

 百年の一度くらいの出現率で助かった。

 おっとゴブリンのバウルにもアルファたちのことをお願いしておこう。


「バウル、すまないがアルファたちも守るようにお願いするよ」

「うっす。でも、あの、アルファさんはともかく、アラクネって……」

「ヤバイ魔物なんだけど、俺を親だと思っててね……子持ちって大変だよね」

「確かに大変ですけど、一緒にしないで欲しいと言いますか。でも、分かりやした。そういうことならアルファさん達を守るようにしますので」

「よろしく頼むよ」


 これでマスコット部隊とゴブリン部隊は大丈夫だろう。


 アマリリスさんは宿に戻って色々手配しているはずだ。

 小さな村だけど保養地ってこともあって便利なものは色々ある。


 小さいけど馬車があったはずなのでそれを借りて妹さんを運ぶことになった。

 それに馬も借りてフランさん達を護衛の騎士っぽく見せないと。

 ゴブリン達は目元が隠れるほどのフードをかぶってもらってなんとか聖都へもぐりこめるようにしよう。この辺りはアマリリスさんの演技に期待だな。


 アマリリスさんは聖都でも人気者だ。

 多くの人を連れていても信者だといえば疑われないはず。

 色々穴はありそうだけど、なんとかなると思う。


 問題は教会の奴らだな。URのキャラも多いはず。一騎当千の強敵だ。


 出てきたら面倒なのが、神官騎士オールド、大司祭マルガット、異端審問長官ガリオあたりか。教会本部への殴り込みだから女王コルネリアはいないと思うけど、教皇オリファスは間違いなくいる。


 そしてグレッグは間違いなく敵対する。

 目的は契約の破棄だけど、それは教会の力が減ることと同意だ。

 それには同調しないはず。

 でも、グレッグは対悪魔やアンデッドに強いだけであって素は弱い。

 特に面倒なことにはならないだろう。


 どんな相手でもヴォルトがいれば勝てるとは思うけど、あとで皆と情報を共有しておく必要はありそうだな。今のうちに対策を紙に書きだしておくか。


『もう一人いると思いますが?』

『うお、びっくりした。あと一人って教会に? ほかに危なそうな奴がいたか?』

『堕天使ディエスですね』

『……いんの?』

『調べたのですが、サンディア様への力の譲渡、それをやったのがディエスのようです。今は教会所属の幹部に憑依しているようですね』

『面倒な奴がいるなぁ』


 堕天使ディエスがいるという事前情報は助かる。

 あれは対策なしじゃ勝てないだろう。

 でも、最近、スキルの主張が激しいな。ありがたいけど。


『情報は助かるけど無料で教えてくれるのは何?』

『最近よく利用していただけてますのでサービスです。それはともかくディエスの対策を考えた方がいいと思いますよ』

『そりゃ、ディエスがいるなら対策しないとな……』


 UR堕天使ディエス。

 世界の秩序を破壊して混沌を創り、神を呼び戻そうとしている天使という設定。

 これもフランさん並に物議を醸しだした天使属性のキャラだ。


 でも、そうか。ディエスのスキルを現実的に使うと妹さんのようになるんだな。


 スキル「堕天使の祝福」は、パーティ内のスキルを任意の一人に渡すという内容。

 スキルを渡した方は死ぬわけではないが戦闘不能状態になって戦えなくなる。

 ゲームでは六人で一パーティという扱いだったから、五人分のスキルを持ったディエスを作るのが一時期流行った。


 受け取るスキルの組み合わせによって、ほぼ無敵のディエスが誕生する。

 アウロラさんの神魔滅殺なら一撃だけど、回避能力を上げるスキルを重複させると攻撃が当たらないので勝てない。ディエスを持ってない奴は引くまでガチャして来いと言われたほどだ。


 でも、それはほんの一ヶ月程度で言われなくなった。

 それを無効化するキャラが実装されたからだ。

 たしか古代兵器パンドラだったか?


 いやいや、あれはURで手に入れるのが難しい。

 もっと楽に無効化できるキャラが実装されたから無課金の俺でも対策できたんだ。

 たしかレアリティが低くて、魔女系のキャラだったような気がするんだけど。


 ……思い出した。

 レアリティRのはらぺこ魔女スカーレットだ。


 たしか敵味方のスキル効果を全て無効化する「スキルイーター」があったはず。スキルなしの戦いになるけど、ディエスもスカーレットも素は弱いから五対五の戦いに持ち込めるという戦術だ。意外と使い勝手が良くて皆が持ってた。


『あれ? もしかしてスカーレットに頼めば妹さんも助かるのか?』

『それは無理ですね。あのスキルはスキルの効果を無効化しているだけで、スキルそのものをなくしているわけではりません。妹さんの状況は改善されませんよ』

『だめか。でもディエス対策にスカーレットを見つけて協力を仰ぐのは必須だな』

『いる場所を調べるなら金貨一枚いただきますが?』

『……その金貨一枚がないんだよ』


 妹さんを助けるために使った金は全部のミスリル鉱と俺の老後の資金だ。

 残ったのはわずかな銀貨。後悔はないけど、ちょっと悲しい。

 皆に金を借りるとスキルがばれるし、なんとかしないとな。


『仕方ありませんね。サービスで教えましょう』

『え? いいのか?』

『ログインボーナスみたいなものです。二十年以上生きてますから』

『助かるよ。それでスカーレットはどこに?』

『教会本部の地下に捕まってますね。力を譲渡している者はほとんどそこにいます』


 教会は悪い奴ばかりじゃないはずなんだけど、どうしようもないな。

 とはいえ、正義感でどうこうするなんてことは考えない。

 あくまでもディエス対策でスカーレットを救出しよう。


 ディエスに見つかるのが先か、契約を破棄するのが先かの戦いだな。

 その前に教会の金を奪わないとだめだけど。


 やることは多いが、やると決めたんだから嘆いてもいられない。

 色々と作戦を考えておかないとな。

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