第25話 魔国へ
魔国へ入ってから俺たちは北の山岳地帯を目指している。
カロアティナ王国は魔国の南側に隣接しているのでそのまま南から入国した。
三日目の夜、ようやく森をぬけそうなところだ。
魔族や魔物に見つかるのは避けたいので今夜は森の中で野営をすることになった。
視界が悪いので相手を見つけづらいが、それは相手側にも言えること。
それにこちらは俺が課金スキルで対応した。
課金スキルで索敵センサーを使っているから問題ないはず。
この近くに魔族や魔物はいないようなのでここで野営をしても大丈夫だろう。
俺、ヴォルト、アウロラさん、そして聖剣の三人と一本で車座に座る。
見つかりたくないので火は使わない。
俺もアウロラさんも夜目が効くし、ヴォルトもそれなりに見えるようだ。
聖剣はよく分からんが、ちゃんと見えているとのことで問題はない。
ようやく落ち着いたのか、ヴォルトが干し肉を取り出してかじる。
そして大きく息を吐いた。
「魔国へ入ったのは初めてだが、なんとなく変な感じだな?」
「魔国は人間の国よりも魔力が濃いと言われてるからな。慣れてないと人によっては苦しくなると言われてる」
「そんな感じなんだな。サンディアの奴、体が弱いし無事だといいんだが……」
「大丈夫だ。お前の力が譲渡されているなら体も改善されてるはずだ。それに魔王様を封印するほどだからな」
「そうか……そうだな……」
病弱だった妹さんは勇者の力を譲渡されて魔王城へ向かった。
譲渡されたおかげで体が弱い状況はなくなったはずだ。
だからと言って教会の命令を聞く理由がない。
おそらく精神支配されているだろう。
勇者の力を持った奴を精神支配するというのはかなり難しいはず。
それが影響して精神支配が歪な形になっている可能性もある。
誰それ構わず斬りかかるような状況でないといいんだが。
そのあたりはヴォルトに話してないが今は言えないな。
それでなくともヴォルトはちょっと精神が不安定だ。
心配するのは当然だが、心配してもどうにもならないこともある。
ここは少しでも気がまぎれるように今後のことを話しておこう。
「ヴォルト、ちょっと聞いてくれ。これから魔国のことを簡単に説明する。どうやって山岳地帯にいくのかもな」
ヴォルトは頷くと話を聞く体勢になった。
魔国は五つの地域に分かれている。東西南北と中央の五つだ。
中央は比較的平原地帯であり、その中心には魔王城がある。
その周辺には多くの魔族が住んでおり、魔都とも呼ばれている魔国の首都がある。
そして魔国の南側は森林地帯。
それが人間の国との境になっていると言っても過言じゃない。
前回、エンデロアに行ったときは森をやや北西へ突っ切る形で進んだ。
東側は砂漠地帯で、西は沼が多い湿地帯、そして北は山岳地帯だ。
魔王城以外はそれぞれ四天王が治めているが、北の山岳地帯は四天王の一人、ウォルバッグが治めている。
課金スキルで妹さんの場所を確認すると、その山岳地帯にいることが分かった。
動きがないからウォルバッグに捕まっている可能性が高いということだ。
この山岳地帯にいる情報をヴォルトとアウロラさんの二人にどうやって納得させるか悩んでいたのだが、特になにもなく信じてくれた。二人曰く、こんなことで俺が嘘をつくわけがない、とのことだ。信頼されているってのは嬉しいね。
ただ、アウロラさんの視線がかなり怖い。
口には出さないが俺がどんなスキルを持っているのか知りたいのだろう。
冒険者ギルドでアマリリスさんの悪魔を消せるって言ってからも視線が厳しいし。
ヴォルトなんかはまったく気にしていないのか、俺のことを疑う気配もない。
もう少し人を疑った方がいいような気がするが、酒飲み仲間は疑わないというポリシーでもあるんだろう。
聖剣も今回は大人しいというか、ヴォルトの妹さんのことを結構気にかけているようで「妹ちゃんを怖い目に合わせてる魔族がいたらぶっ殺す!」と、ずいぶんと物騒なことを言っている。
兄妹という関係性が好きなようで、ヴォルトに頼れる兄になれと言うほどだ。
ただ、ずっと守ってきた話をすると「よくやった!」と褒めていた。
もしかすると聖剣は前世で兄がいたのかもしれない。
前世を思い出しているのか、かなり協力的に対応してくれている。
そのおかげなのか魔国の魔物はほぼ瞬殺だ。
素材を持って帰れば高値で売れそうだが、荷物を増やすわけにはいかない。
食料になりそうな肉を少しだけ持っていくくらいだ。
そんなこんなで順調に森林地帯を抜けたわけだが、ここからが本番だな。
「西の湿地帯を抜けて山岳地帯に入る。それが一番安全なルートだろう」
「そうなのか?」
「魔物による危険度はどこも似たような感じだが、四天王の誰が支配しているのかという点では西の方が楽だな。東は無理だし、中央の魔都を通るのはもっと無理だ」
「アウロラも同じ考えか?」
ヴォルトが確認のためにアウロラさんの方を見た。
アウロラさんは間を空けずに頷く。
「クロスさんの説明で間違いありません。東の砂漠地帯は好戦的な四天王なので見つかると危険です。西の湿地帯の方が楽でしょう」
「二人がそう言うならそうなんだろうな。分かった、それでいこう。でも、助かるぜ、俺一人じゃ妹を探せなかったよ」
確かにその通りだ。
教会はヴォルトに頼ろうとしていたが、ヴォルトだけでは無理だろう。
それとも何か情報を掴んでいたんだろうか。もしくは情報を貰う予定だった?
ヴァーミリオンの奴とは仲がいいとか言ってたから可能性はある。
アイツは四天王の中ならまだ話せる方だ。
ただ、自分の利益になるかどうかで対応がかなり変わってくる
使えないと思ったらすぐに切るし、害になると思えばすぐに消すだろう。
教会も似たようなことになりそうだが、どうだろうね。
魔王様は封印された。もう教会と協力する必要がないと考えたはずだ。
俺の考えだとヴァーミリオンは教会と協力して魔王様を封印した。
勇者――妹さんが一人で魔王城まで行けるわけがない。
誰かの手引きがあったと考えるのが妥当だ。
おそらくそれをヴァーミリオンがやったはず。
魔王城まで安全に行けるルートを用意したんだと思う。
俺の考えをアウロラさんに話したら、「おそらく」と言った。
「魔王様が封印されたとき、私は魔王城にいませんでした。緊急の対応があって呼ばれたためです」
「それは本当に緊急でした?」
「それなりには。ただ、私でなくとも対応は可能だったと思います。それに――」
魔族が管理しているダンジョンで強力な魔物が発生したらしい。
その討伐依頼がアウロラさんのところへ来たようだが、変ではあったそうだ。
魔物の強さからすれば緊急性が高いのは間違いないが、その割にはずいぶん放置されていたようで、もっと早めに連絡があってもおかしくはなかったという。
つまり、勇者が魔王城へ来るタイミングで呼んだのではないかという話だ。
その連絡はヴァーミリオンからじゃないようだが、どこまで関わっているかだな。
四天王と協力したのかそれとも操ったのか。
アイツのことだから、他の四天王を操った可能性がある。
強いくせに自分の手を汚さないようにするのはいつもの手口だ。
妹さんも魔王様を封印したら用済みだと思った可能性が高い。
だから帰りのルートは教えないとか、他の四天王に情報を流したのかも。
それとも教会に恩を売るための自演か?
どれもありえそうだな。
「こう言っちゃなんだが、アウロラが魔王城にいなくてよかったよ」
「ヴォルトさん? それはどういうことでしょう?」
「いや、魔王城で二人が戦ったらまずいだろ? サンディアが倒されるのもそうだが、逆にアウロラが倒されるのも今の俺にとっては嫌だからさ。アウロラが無事なのは俺にとっては良い結果だよ」
「そういう意味ですか。確かにそうかもしれませんね」
どうやらアウロラさんとヴォルトもそれなりに友好関係を築けているようだ。
一緒に酒を飲むくらいの仲だからな。クマ鍋も囲んだし。
酒飲み仲間に悪い奴はいない。
しかし、妹さんを助けるまでは禁酒か。それだけは困ったな。
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