第22話 ゲーム知識チート

 ヴォルトの妹さんは勇者の力を譲渡されて魔国で行方不明になっている。

 妹さんを助けるのは決定事項だが、教会にもそれ相応の責任を取らせないと。

 俺に探してくれとグレッグは言っているが、あまりにも情報が足らない。


 まずは情報を引き出さないとな。

 変に協力して教会の利益になるのは御免だ。

 最大限こちらに利益があるようにした上で妹さんを探し出す。


 あと依頼料をきちんと貰う。しかも前金で。

 金がないと安心して魔国へ行けない。


 この状況にアマリリスさんは困惑中だがグレッグは俺を見つめている。

 俺がどんな奴なのか見定めているようだが、悩め悩め。

 操れる奴なのか、それとも危険な奴なのか、悩めば悩むほど判断を誤るはずだ。


 ありがたいことにグレッグは俺が元四天王候補という情報を持っている。

 ヴァーミリオンは俺を弱いと言っていたが、俺の言動から四天王に次ぐ強さを持っている可能性を疑っているだろう。しかも四天王全員が協力して俺を追い出したことになっている。俺に対する評価は難しいだろうな。


 グレッグは悩んでいるようだが答えは出ないようだ。

 ならこっちから仕掛けよう。


「ところで妹さんはなんで魔国に? 観光じゃないでしょ?」

「それは分かってて聞いているのかね?」


 分かってて?

 俺がそれを知っているはずが……まさか、そういうことか?

 くそ、アウロラさんはギルドの外か。今は確認できないな。

 魔王様を封印した勇者がヴォルトの妹さんという可能性がある。


 だが、これは言えないな。

 的外れの可能性がある以上、魔王様が封印されたことは言わない方がいい。

 今はとぼけておこう。


「分からないから聞いているんだけど?」

「サンディア君は魔王を封印しに行ったのだよ」

「テメェたちがやらせたのか!」


 さっきからヴォルトは叫んでばかりだが、これは仕方ないな。

 俺がその立場だったら絶対に殴ってる。

 ここはもう止めないでおこう。


「ヴォルト君、待って欲しい」

「あぁ!?」

「これは上層部の命令だったらしいのだ。私達が知ったのはつい先日、これに関しては本当に申し訳なく思っている」

「それを信じろって言うのか! テメェらも教会の人間だろうが!」

「なら、私のことはいい。だが、アマリリス君のことだけは信じてくれないか」


 アマリリスは泣きそうな顔になってから深く頭を下げた。


「申し訳ありません、ヴォルト様。私がサンディアちゃんの面倒を見ていたのにこんなことになってしまって、お詫びのしようがありません……」

「アマリリス君、言葉が足らんよ。彼女が聖都で奉仕活動中に上層部が勝手にサンディア君を連れ去ったのだ。そして奉仕活動も仕組まれていた。君は何も悪くない」

「ぐっ……!」


 ヴォルトの奴、口は悪いがいい奴すぎる。

 たとえそれが本当でも相手に同情するところじゃないだろうに。

 俺が悪い奴にならないとだめだな。


「そんな三文芝居はどうでもいいんだよ。誰を信じるとか、お前らの都合で決めないでくれる? 大体、アマリリスさんが知らなかった証拠がどこにあんの?」


 言葉だけで信用しろなんてありえない。

 ヴォルトの奴は妹さんの件でアマリリスさんに色々と世話になっていたようだから信用するだろうけど、俺には関係ないな。たとえアマリリスさんが良い人だったとしても、今の俺には詐欺師と同じ程度の信用度しかない。


 俺の言葉にアマリリスさんは涙をこらえるような顔で下を向いている。


 ……うお、胸が痛い。

 たぶん、知らなかったことは本当のことなんだろうが、心を鬼にしないといいように使われるだけだ。ヴォルトのためにも俺が悪役に徹しよう。


「で、それが嘘でも本当でも構わないけど、アンタらは何しに来たワケ? ヴォルトに助けに行けって言うつもりだった? それとも単なる事後報告?」

「ヴォルト君とどうするかを相談する予定だった」

「嘘だね。言えば相談なんかしなくてもヴォルトは助けに行くは分かっていたはずだ。アンタらの狙いはそれだろ? 最初から尻拭いをヴォルトにやらせるために来たのさ。それが教会の意向じゃないの?」


 俺の言っていることにも証拠はないが、そんなことはどうでもいい。

 今はあり得そうなことを言って相手を怒らせようとしているだけだ。

 怒りで本音を言ってくれればありがたいが、どうだろう?


「証明はできないが、もし仮に教会の意向だったとしても何か問題があるのかね?」

「開き直ったのかい? いや、別に俺には問題ないよ。でも、教会に対するヴォルトの感情は最悪になるだろうな。それは教会側の問題になるんじゃないの?」

「感情的に教会のことは許せないだろうが、サンディア君の病状を緩和できるのはアマリリス君だけだ。それに今までの貢献もある。少なくとも彼女のことは疑わないで欲しいのだが――」

「そうなるようにアマリリスさんには何も言ってなかっただけだろ? 教会にとって彼女はヴォルトと妹さんを操るための手段に過ぎないわけだ」


 教会にいい感情がなくともアマリリスさんは別。そういう関係を作っておけば、教会はアマリリスさんを通してヴォルトを操れるわけだ。俺ならそうするね。


 さて、ここまで言えば怒るか?

 それともまた開き直る?


 アマリリスさんは驚きの表情でグレッグを見ているが、グレッグは表情を消してこちらを見ている。感情がいまいち読めないが何を考えているのかね。


 直後にグレッグは大きく息を吐いた。


「ヴァーミリオン君の言う通りだね」

「なにが?」

「クロス君とは関わるなという話だよ。本当とも嘘とも言えないことを並べ立てられたが、証明できない以上、答えが曖昧になってしまった。疑いがある以上、ヴォルト君の心は教会からもアマリリス君からも離れてしまうだろう。出直すべきだったな」


 グレッグはそう言って笑うが、目が笑っていない。

 いい加減に言ったことだが意外と正しかったのかもしれないな。

 本音は聞き出せなかったが、こんなところでいいか。

 俺としてはお金を出して欲しいだけなんだ。


「さて、グレッグさん。ここからが誠意の見せ所だ」

「誠意?」

「ヴォルトとこれからもいい関係を続けたいなら、金をちゃんと出せ」

「ほう?」

「ヴォルトをただで操ろうとはせずに、それなりの誠意を見せろ。ありていに言えば金だ。俺に頼むなら俺にも依頼料を出せ。それならやってやらないこともない」

「お、おい、クロス!」


 ヴォルトの言葉を止めるように右手で遮る。


「何も証明できない以上、今のところ、妹さんを助けても教会に改めて預ける可能性はないぞ。そしてヴォルトが勇者の力を教会に譲渡する理由もなくなる。少しでも誠意を見せておくべきじゃないか?」

「サンディア君は病弱だ。定期的にアマリリス君の治癒魔法が必要になる。それを考えれば教会を頼るしかないのでは?」

「俺が治せると言ったら?」


 この言葉には全員が驚いたようだ。

 完治にいくらかかるかは分からないが、治すための情報を得るくらいならもっと安く済む。よほどのことじゃない限りやれるはずだ。


「治癒魔法を使えない魔族に治せるとは思わないが?」


 グレッグが鼻で笑ってからそう言った。


 そうだよな。

 魔族属性キャラにヒーラーはいない。俺が死んだ後で実装された可能性はあるが。


 ここは俺の前世知識を使おう。

 できるかできないかは関係ない。

 できそうと思わせることが大事なんだ。


 ゲームのストーリーは知らんが、キャラ設定は詳しいほうだ。

 特にガチャで手に入れた女性キャラのプロフィールはかなり覚えている。

 ゲーム知識チートって奴だな。


「確かに治すとはちょっと違うかもしれないが原因なら取り除ける」

「原因を取り除く? そんな魔法やスキルなんて聞いたことがないな」

「なら、証拠にアマリリスさんの体の痛みを取り除いてやろうか?」

「え……?」


 アマリリスさんは名前が出たので驚いたのだろう。

 それ以上に体の痛みを俺が知っていたことに驚いたはずだ。

 ここが勝負どころだな。


「体内に封印している悪魔を消滅させてやろうかって言ってるんだけど?」

「馬鹿な! なぜそれを知っている!」


 一瞬呆けていたがグレッグが叫んだ。

 椅子から勢い良く立ち上がり、椅子が大きな音を立てて転がった。

 効果てきめん。これは教会が一番隠したいことだよな。


 アマリリスさんのキャラ設定によれば、教会はこれを隠している。

 理由は簡単。教会が神だと思っていた相手、その正体は悪魔だったが、それを呼び出してしまったからだ。それを何とかするために、過去の聖女は体内にその悪魔を封印した。歴代の聖女はずっとそうしてきたらしい。まさに生贄だな。


 そんな事情はどうでもいいが、俺のことを得体のしれない奴だと思ったはずだ。

 なら妹さんの体を治せるかもしれないと思うはず。

 あくまでかもしれないって程度だが。


 さて、餌を見せたら一度はひっこめないとな。

 無視するか食いつくか、どっちだ?


「おっと、これを知ってるとまずかったか? なら今の言葉は忘れてくれ」

「……できるのか?」

「なにが?」

「悪魔を消すことができるのかと聞いている!」

「それが聞く態度? できたとしても、さっきまでこっちをいいように使おうとしていた教会に何かしてあげなきゃいけない理由があるわけ? 誠意を見せないなら妹さんの方もこっちでなんとかしておくから、もう帰っていいよ。出口はあっち」

「謝罪する」

「は?」

「私の態度、教会の意向、ヴォルト君への対応や妹さんのこと、全て謝罪しよう。必要であれば教皇にも頭をさげさせる。それにいくらでも金を用意させていただく。できるというならアマリリス君が体内に封印している悪魔を消して欲しい」


 グレッグは真剣なまなざしで頭をさげた。

 アマリリスさんは俺を見ながらちょっと放心状態だ。

 悪魔を消せる可能性を示したから思考が追い付いていないのだろう。


 でも、そんなことはどうでもいい。

 今必要なのは偉い奴がさげる頭じゃない。

 妹さんを助けるための金だ。


「俺は可能性を示しただけで、教会の汚点なんかどうでもいいんだよ。話を戻すが、重要なのはヴォルトの妹さんを助けるために教会は何をしてくれるのかってことだけだ。で、どうすんだ? 悪魔を消せるとは証明していないが、可能性があるならヴォルトや俺の心証を良くしておくべきじゃないか?」


 すぐにでも妹さんを見つけに行かないといけないんだ。

 出せるだけ出してもらおうか。

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