第20話 教会
冒険者ギルドの食堂では宴会が開催されている。
宴会の名目は三人の冒険者デビューだ。
クマ鍋を囲み、ビールで乾杯。美味いね。
あまり人とは関りを持ちたくはないと言っても、こういう宴会騒ぎは好きだ。
楽し気な雰囲気をおすそ分けしてもらうのは嫌いじゃない。
前世は色々なイベントがあっても一人で過ごしていたが、町が楽し気な雰囲気に包まれていたのは嫌いじゃなかった。
ちょっとしたご褒美で一人で美味しいものを食べたこともある。
クリスマスにケーキをワンホール買って、シャンパンも飲んだ。
ああいうのもたまにはいい。
皆は楽し気にクマ鍋をつついている。
平日はビール瓶一本だけ決めているが、今日はもっと行くべきだな。
こういうときにルールを破らずにいつ破る。
意外だったのは黄色い髪のシトリーさんだ。なんと料理が上手。
フランさんと共に準備していたのだが、このクマ鍋、絶品だ。フランさんのカラアゲも嫌いじゃないが、ぜひともシトリーさんにカラアゲを作ってもらいたい。アウロラさんもビールの注ぎ方じゃなくて、料理を教わればいいのに。
「はふはふ、うまうま」
「アルファはよく噛んで食べろよ」
「うん。これはすごく美味しい。メイガス様の料理も美味しいけど、これも好き」
フランさんとシトリーさんはその言葉が嬉しかったのか、アルファの頭をぐわんぐわんと動くほど撫でている。やりすぎだと思ったが、そんな状態でもアルファは懸命にクマ肉を噛んでいる。ちょっと心配だけど大丈夫だろう。
フランさんや三人娘にアルファのことは説明してある。反応は「へー」だったが。
もっと興味を持ってあげてとは思ったが、かわいければ事情はどうでもいいようで皆が撫でまわしてた。アルファもまんざらでもなさそうなので、別にいいのかもしれない。
ただ、俺とアウロラさんとの子供といういつもの冗談がさく裂した。
今回はなぜか皆の受けが良かった。アレって面白いだろうか?
もしかしてセンスがないのは俺なのか……?
「角ウサギをあんなに狩るなんてすげぇな」
ヴォルトがクマ肉を食べながらそんなことを言った。
今日は一日中テーブルの修理をしていたようだが、ちゃんと終わったようだ。
ヴォルトは勇者としての力を教会に譲渡しているようだが今も決して弱くはない。
そのヴォルトが驚いているんだから人間の基準で考えても三人娘は強いんだろう。
「三つ目クマはちょっと無理だが、角ウサギは普通に狩れると思うぞ」
「へぇ、華奢に見えたんだけど、見た目で判断しちゃいけねぇな」
「もう少し武具をいい物にすれば三つ目クマも行けそうなくらいには強いと思う」
「そこまでか」
残念ながら三人の装備はあまりいいものではない。
あれじゃ三つ目クマに傷をつけることはできないだろう。
レベルが上がればダメージが上がるというゲームじゃないんだ。
ちゃんとした武器を使わなければ倒せないだろうな。
三人娘もそれは分かっているのか、お金を稼いでいい装備を買おうと言っている。
そしてフランさんには特訓をお願いしているようだ。
お願いされたフランさんは大きくうなずいた。
「実をいうとあまり期待していなかったんだよ。アウロラやクロスがいるから大丈夫かと思って送り出したんだ」
「えー?」
「酷いですわ!」
「そんなフランさんも素敵……!」
「でも、皆は強くなったんだね。元上司――いや、今もだね。闇百合の隊長として嬉しいよ。さらに強くなりたいと言うならいくらでも特訓してやろうじゃないか」
三人はバンザイしながら喜んでいる。
認めてもらえたことが嬉しいんだろう。
その喜びを新しいビールで祝う様だ。
俺もそれに乗ろう。
しかし、ちょっと困った。
アウロラさんがさっきからじっと俺を見つめている。
最近こういうのが多いな。
「えっと、アウロラさん?」
「背中の怪我は大丈夫ですか?」
「木にぶつかっただけですから。魔族の防御力が高いのは知ってるでしょう?」
五十メートル近く飛び上がっても怪我せずに着地できるほどだ。
三つ目クマに吹き飛ばされたことなんか、ちょっと痛いだけで特に問題はない。
なのに攻撃を受けたのは自分のせいだとアウロラさんが落ち込んでいるんだよな。
新しく届いたビール瓶を受け取ってアウロラさんのコップに注ぐ。
「まあ、飲んでください」
「……いただきます」
「本当になんともありませんから気にしないでください。そんな顔をしながら飲むなんてビールへの冒涜ですよ」
「ですが――」
「アウロラさんが倒してくれるって信じてたからちょっと無茶しただけです」
ルヴィさんを守るには無茶をするしかなかったと言えるが。
あれの責任は俺にあってアウロラさんのせいじゃないんだけどな。
「このクマ鍋をただで食べられるのはアウロラさんのおかげです。それだけでも無茶をした甲斐があったと思ってますから」
「……分かりました。なら、たくさん食べてください。皆さんもお代わりはいっぱいあるので遠慮せずにどうぞ」
アウロラさんがぎこちない表情でそう言うと歓声が上がる。
ここに遠慮するメンバーはいないと思うが、今日は酒の消費も多くなりそうだ。
それから数日、俺とアウロラさんは三人娘と共同で狩りを行った。
さすがに三つ目クマは出てこなかったが、角ウサギは安定して狩れた。
他にも猪などが狩れたので、ギルドの食料事情はずいぶんと改善されただろう。
肉ばっかりなのはどうかと思うが、野菜は村で買えるから問題ないはず。
問題はカラアゲだな。鶏肉が足りない。
フランさんの話だとあと数日でギルドから食材支給があるらしいが。
この辺りに野生の鶏とかコカトリスがいればいいんだけどな。
いや、コカトリスはダメか。あれ、緊急討伐対象の魔物だ。いたらまずい。
魔国にはいっぱいいるけど。
最近、女性陣が料理の特訓をしているようなので、そこにカラアゲを追加したい。
アウロラさんもちょっとは形になってきたとの話だ。
ぜひとも続けて欲しい。
俺は俺で薬草採取を主体に切り替えた。
皆で行くため、森の奥まで行けるようになったから取れる薬草も増えた。
しかも今は買取が二倍。
逃走費用やアルファの食費も稼がないといけないし、今のうちに稼いでおこう。
今日の仕事を終えて帰ってきたわけだが、なぜかフランさんが建物の外にいる。
中の様子を窺っているようだが、なにかあったのだろうか。
「フランさん」
「あ、ああ、クロス達か」
「どうしたの、こんなところで」
「いや、教会の奴らが来てね、今、ヴォルトと何かを話してるんだよ。席を外して欲しいって言われて外にいるんだが――アイツ、教会の関係者だったのかい?」
ヴォルトが勇者であることは俺とアウロラさん、そして聖剣以外は知らない。
隠すようなことではないが、それで距離を取られるのが怖いのか黙っていて欲しいとヴォルトに言われている。でも、全く関係ないって言うのもこの場ではおかしいよな……そうだ、妹さんがいたな。
「妹さんが教会にお世話になってるって聞いたことはあるけど」
「そういえば私も聞いたね。妹さんのために仕送りしているとかなんとか。そういや、ギルドで稼いだ金の何割かは別のところへ振り込むようにしてたよ。あれは教会だったんだね」
表向きはそうだが、妹さんは人質みたいなものと言っていた。教会にいい感情はないだろうが、面倒を見てもらっているから逆らえないというのもある。
一瞬、スキルで妹さんを治すかと思ってしまったが、余計なお世話だよな。
それにしても、ここ一年で教会の人間がここに来るのは初めてだったはず。
何しに来たのだろう?
もしかしてアルファの件か?
しばらくここへは近づかないように言っておくべきだな。
「アウロラさん、アルファにしばらくここへは来ないように言って――」
「ふざけんな!」
ヴォルトの大声がギルドの外まで聞こえた。
激高しているようだが何があった?
「妹に勇者の力を譲渡しただと!? しかも行方不明!? テメェら何してんだ!」
おいおい、予想の斜め上のことが起きてんぞ。
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