第19話 三人娘の実力
村の近くにある森へやってきた。
メンバーは俺、アウロラさん、そして元騎士の三人娘だ。
特に名前がついていないこの森は薬草の宝庫だ。土地が理由なのか、近くにある温泉の効能がここまで来ているのかは分からないが、取りすぎなければ大体一週間くらいで新たに生えてくる。
個人的には最高の場所なのだが、今後は三人娘がライバルになるのだろうか?
そうならないためにも魔物を狩れるようになって欲しい。
あまりじっくりと見たら怒られるのでちらっと三人を見る。
赤い髪をショートカットにしている活発な女性はルビィ。
青い髪のロングヘアにしている典型的なお嬢様はサフィア。
黄色い髪を左側でサイドテールにして不敵な笑みを浮かべている女性はシトリー。
ソシャゲでは烈火のルビィ、氷結のサフィア、大地のシトリーで全員SSRだった。 あくまでもゲーム上の話だが、フランチェスカが実装されるまでは残念な評価しかなく、趣味で使うプレイヤーしかいなかったという。
それもそのはずで、三人はSSRなのにステータスが低い。
レアリティが強さに反映されるゲームだが、この三人だけは異様に低かった。
自分以外のスキルやステータスを強化するというスキルを持っていたが、素が弱すぎて攻略サイトの雑感では「くっころ要員」「趣味枠」「見た目だけSSR」いう不名誉なことが書かれていたほど。可哀そうすぎて人気があるという感じだった。
ただ、フランチェスカのパーティ内の女騎士属性のステータス五倍というバグとも思われていたスキルがあると、三人が持つスキルもそれに影響されるように強化されて、「ぶっころパーティ」となる。
フランさんがいないので期待することはできないが、さすがに俺よりは強いよな?
角ウサギくらいなら三人で狩って欲しいんだけど。
俺専用の依頼ともいうべき薬草採取はしないで欲しい。
「あの、皆さん、角ウサギは倒せます?」
俺が問いかけると、ルビィさんがいい笑顔を見せる。
「魔物を倒したことがないから分からないかな!」
「なんで笑ったんです? というか騎士でしたよね?」
事情を聞くと、騎士とは言っても、そもそも黒百合騎士団は貴族の子女が大半で、フランさんのように本当に強い人はごくわずかだと言う。華やかさとか派手さを重視しているので、そこまでの強さはいらないらしい。
ただ、女性ならではの気づかいができるので、令嬢の護衛に関しては重宝されていて、公爵家以外からの依頼があるほどだという。ゲームでの弱さはここからきているのかとちょっと納得した。
「フランチェスカ様――じゃなくて、フランさんがいると結構強くなった気がするんですけどねー」
「憧れの人と一緒なので士気が向上するとかあるんでしょうね」
「お! クロスさん、わかってるー!」
スキルの効果だとは思うが、パッシブ系のスキルって本人が知らないことが多い。
アウロラさんの神悪滅殺は自分で編み出したスキルだから本人も知ってるけど。
それにしても、ずいぶんとフレンドリーになった。
以前は嫌悪感丸出しの視線だったからな。俺よりもヴォルトにだけど。
フランさんとヴォルト、ちょっとだけいい感じになってるけど大丈夫だろうか。
それはそれとして、俺への信頼度が上がったのは訳がある。
三人が冒険者登録をしているときに、フランさんが俺がエンデロアの貴族をボコボコにした人物だとばらした。最初は驚いていたが、すぐに敬礼した上に頭を下げてきたのでやめてくれと頼んだほどだ。
その後、魔王軍近衛騎士隊に入隊したみたいだけど、本当にいいのかと言いたい。
フランさんを団長とは言えなくなったが、隊長と言えるようになった。
それが嬉しいのだとは思うが、騎士団を辞めたことといい、判断と行動が早い。
なお、近衛騎士隊は「闇百合近衛騎士隊」というのが正式名称となった。
しかもこれから人材を増やすそうだ。
それに関連して、ヴォルトの奴も魔王軍突撃部隊の隊長とか言い出した。
お前は勇者だぞと言いたかったが、フランさんたちの手前、言わなかった。俺が魔族をばらされているのにとも思ったが、勇者とばれると教会絡みで色々と面倒なことになるので内緒にするべきだろう。
そして朝食を食べに来たアルファは魔王軍マスコット部隊の隊長とか言っている。
自分をマスコット枠と言ってしまうところに怖さを感じる。
自分を理解している言動だ。
なぜか聖剣に自慢してくると言っていたが、止めた方がよかったのかもしれない。
たぶん、今日の夜はまたうるさい。
なんだろう。
俺の知らないところで俺の軍隊が作られている感じがするんだけど。
……うん。放っておこう。俺は何も知らない。
今の俺は食材を求めるただの冒険者。
ちょっとレアな薬草を見つけて喜ぶ冒険者だ。
売値が二倍なんだから見つけたら持ち帰らないと。
歩いていたアウロラさんが止まった。
「クロスさん、そろそろ魔物たちの縄張りです。どういう作戦で行きますか?」
「作戦も何も、アウロラさんが見つけしだいぶん殴ればいいのでは?」
「小さい魔物ですと吹き飛ぶ可能性が――いえ、吹き飛びます」
「確かに」
粉々になるね。でも、俺じゃ勝てないんだよな。
一応、ナイフは持ってるけど、これで勝てるとは思えない。
高速移動の魔法を使えば何とかなるかもしれないが、こういう森の中では危険だ。
思考速度も向上するけど、下手すると木を躱しきれずにぶつかって倒れる。
あれは魔族でも痛い。
遮蔽物が少ない場所ならともかく、森で獲物を追いかけるような真似はできない。
それに武器の攻撃力が足りない。いいところに当たれば一撃でやれるんだが。
……少しくらい戦えるように努力しようかな。四天王に狙われているし。
それともいい武器を買おうか。
ファンタジーの定番種族ドワーフなら色々作ってくれそうだ。
でも、いきなり強くなるわけでも良い武器が空から降ってくるわけでもない。
今日は三人に戦ってもらうしかないな。
「戦い方を教えるんで皆さんで狩ってもらっていいですか?」
そんなわけで簡単に教える。
こういうとき信頼度があるのは助かるね。
とくに文句もなく従ってくれた。
前世では女騎士三人をどうやって活用するか議論されているスレがあった。
騎士三人娘に対する愛と言えるだろう。
最終的にフランチェスカを使えという身も蓋もない結論だったが。
それでもフランチェスカ実装前は熱く議論していた。それを活用する。
まず、ルヴィさんの適正は前衛突進型。
サフィアさんは後衛遠距離攻撃型。
そしてシトリーさんは前衛盾型だ。
この適正って大事。
ゲームでの話だが、適性に合わない装備はちょっと弱くなる。
逆に適正に合う装備は攻撃力や防御力とかにボーナスが付く。
ほかにも専用装備とかあるけど、それはまた別枠だ。
同じような効果があるかは分からないけど、念のためやっておこう。
それぞれが持っている武具を回収して再分配。サフィアさんが盾を持ってても仕方ないし、ルヴィさんは片手剣よりも両手剣を振り回した方が良く、シトリーさんは攻撃魔法よりも防御魔法中心。これなら角ウサギには勝てるはず。
ここに女騎士属性の前衛治癒型の聖騎士アドニアがいれば勝率は上がると思うけど、いないのでこれで行くしかない。一通り立ち回りも教えたら、あとは角ウサギを狩ってもらおう。
「角ウサギをゲットー!」
「余裕ですわね」
「やはり我々闇百合は最強……!」
なんか普通に勝ってる。
角ウサギは結構強い。あの角は下手をすれば一撃で致命傷だ。それが怖いと言う人も多い。でも、三人はうまく連携して危なげなく角ウサギを倒した。シトリーさんが盾で受け、ルビィさんが剣で攻撃、サフィアさんが弓でトドメという流れるような連携であっさり勝った。
しかも連勝中だ。
思っていたよりも強くて驚いた。それに戦うほど強くなっている。
最初こそびくびくしながら戦っていたが、あっという間に熟練の戦い方だ。
慢心する様子もない。声を掛け合いながら、お互いをフォローしつつ戦っている。
なんだろう。俺が極端に弱いだけなのか?
それともゲーム上の強さってあまり関係ない?
むしろ、URはもっと強いってことか?
たしかにアウロラさんは強いが。
たしかにエンデロアにいたSRの男騎士はそこそこの強さだった。
Rのジャロアはアルファのスキルで強くなってたけど、それでもSRくらいか。
その上のレアリティであるSSRならそれくらいの強さを持っているのかも。
三人のステータスは低いが、SRと同じくらいの強さはあるんだろう。
もしかして俺ってレアリティ最低のC、つまりコモンくらいしかない……?
聖剣によるステータス向上でSRくらいってことか。
……筋トレしようかな。
「クロスさん」
急にアウロラさんに話しかけられた。
「あ、はい、なんです?」
「ぼーっとしてたようですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっと自分の弱さに悲しくなりまして」
「それはセンスがない冗談ですか?」
「いえ、本気ですけど?」
眉をひそめるアウロラさん。
確かにスキル込みの強さはまた別だろうが、ないと普通に弱いんだよな。
三人娘と一対一なら勝てると思ってたけど、そうでもなさそうだし。
「クロスさんが強さは置いておくとして、どうして分かったのですか?」
「分かったとは? なんのことです?」
「皆が武具を持ち替えただけで魔物を狩れています。戦闘らしい戦闘は今日が初めてと聞いていたのですが、最初から角ウサギが狩れるものでしょうか?」
ゲームの知識をそのまま使った……とは言えないよな。
前世のゲーム知識があるなんて言っても変な人扱いになるだけだし、転生していることは誰にも言わないつもりだ。課金スキルだけは俺が転生者だって知ってるみたいだけど。
「なんとなくそう思っただけですよ」
そう言ったのに、ものすごい疑いの目で俺を見ている。
「クロスさんには人の才能を見抜くような力があるのでは?」
「そんなものがあったらまず自分の才能を見抜きたいです」
魔法は高速移動系しか使えないし、剣の才能もない。
もしかしたら、剣じゃなくて棒――バットの才能ならあるかもしれない。
フルスイングはそこそこ行けてると思うんだが。
野球の才能はないけど、今度、武器をバットにしてみようかな。
「ク、クロスさん! た、助けてー!」
ルビィさんの声がした方へ視線を向ける。
巨大なクマがルビィさんを追いかけながらこっちに向かっている。
あれはどう見ても高級食材、三つ目クマ。
だが、そんなことを言ってる場合じゃない。さすがにあれはまずい。
すぐさま高速移動の魔法を発動。
少しでも時間を稼げば後はアウロラさんがなんとかしてくれる。
木々を避けながら三つ目クマに接近。
集中していたからか、なんとか木に当たらずに移動できた。
そしてクマの右前足をナイフで斬りつけつつ、横を走り抜けて背後に回る。
ほんの少しの傷もつけていないが、それだけでクマの気を引けた。
クマはルビィさんを追うのを止め、その場でこちらへ振り向く。
「アウロラさん! お願いします!」
「もう少し待ってください!」
アウロラさんと離れすぎたか。
でも、数秒くらいなら俺でも耐えられるはず。
動かなくとも高速移動の魔法中は思考の引き延ばしが可能だ。
ただ、思考を引き延ばしても相手より早く動けるかはまた別の話。
ちょうど三つ目クマの右手――じゃなくて右前足が襲い掛かってきた。
立ち上がった状態から上から下へ斜めに引き裂く爪の攻撃。
思考を引き延ばしてるのにはそれでも速く見える。
上体を起こしながら後ろへ引くように躱す。
なんとかギリギリで躱せた――と思ったら、すぐに左前足か。
しかも踏み込みというか、右前足を地面につけた四つん這いのような前衛姿勢だから踏み込みが深い。クマのくせに連続攻撃とは。これは躱せないな。
後ろへ飛びのきながら、右手のナイフをクマの爪の間に刺さるように調整する。
上手くいってくれよ。
――ぐえ。魔族の体なのに痛すぎて泣きそう。
衝撃を逃がすために後ろへ飛んだのに全然威力を殺せてない。
でも、クマの勢いを利用して左前足にナイフを突き立てた。
クマが痛みによる咆哮をあげている。
俺は勢いよく背中側にあった木に直撃。
腕も背中もいてぇ。
でも、俺の勝ちだ。
「神魔滅殺!」
森にいた全部の鳥が一斉に飛び立つかのような大きな音。
それほどの振動がある踏み込みから放たれる右ストレート。
それが三つ目クマの背中に直撃したのだろう。
三つ目クマは吹き飛ばされるようなことはなく、その場に崩れ去るように倒れた。
吹き飛ばされないだけの強敵ってことだな。
でも、これで勝ち。今日はクマ鍋だ。
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