第18話 食材調達
面倒ごとが片付いたので、今日の目覚めはとてもいい。
余計な面倒ごとが増えたけど、まだ何も起きていないことに心を砕く必要はない。
ほどほどに働いて、ほどほどに食べて、ほどほどに遊び、ほどほどに貯金する。
つまり、あんまり頑張らない。それが俺の人生哲学。
というわけで、魔王代理を決める四天王の戦いに関してはほっとく。
エンデロア王国で俺が暴れたので、魔国では犯人捜しをしているはずだ。
四天王同士でつぶし合ってくれたら最高なんだけど、休戦状態だから難しいかも。
ただ、お互いに探りを入れるような牽制はするだろう。
エンデロア王国と何かしら秘密の約束をしていた四天王がいる。
しかも魔王様が健在の時から。
その四天王は誰だ、という話も出てくるに違いない。
あいつらは意外と情報収集に長けている。
エンデロアのこともある程度は把握するだろう。
その過程で大規模な戦闘にはならなくとも小競り合いはある。
それがあるから、しばらくここは安全な大丈夫なはずだ。
なので今のうちに逃走資金を貯めておこう。
自分のだけじゃなくて皆の分もだな。
ゴブリン達もいるし、アウロラさんも別の場所で再起を図ろうとするだろうし。
結局はお金だな。
人生はお金だけじゃないというが、経済が安定しているなら大半はお金だよ。
経済が崩壊している状況なら意味はないが、金で買えるなら絶対に必要だ。
ありがたいことに魔王軍へ支払う上納金――ノルマは無くなった。
魔王様が封印され、四天王の派閥が分かれたので、納めるところがない。
それに四天王達も稼いだ金は自分の物にしている。
でも、俺しかまともにノルマをこなしてないってなんだよ。
いまさら文句を言うつもりはないが、ちょっと不満だ。
他の奴らはお金ってちょろまかしていただけなのか?
そもそも稼げていなかった? どっちだろうな。
まあいいか。
そんなことを俺が心配する必要なんてないし。
さて、今日も元気に薬草採取に行こうかね。
まずは冒険者ギルドか。
ちゃんと仕事があることを確認しておかないと。
フランさんも仕事が溜まってるって言ってたから、依頼票だけは確認しておこう。
なぜかやる気に満ち溢れているアウロラさんと一緒に冒険者ギルドへやってきた。
良いことがあったのか機嫌がよさそうだ。
ゴブリンの皆と話をしていたようだけど、面白い話だったのかね?
ギルドの建物に入ると、フランさんがカウンターの中で忙しそうにしている。
カウンターには書類が積まれており、一枚一枚に何かを書き込んでいるようだ。
普段なら読書の時間なのにな。
そして食堂にはヴォルトもいる。
前に自分で壊したテーブルを修理しているようだ。
白いハチマキと金づちが良く似合う。
朝の挨拶をしてから依頼票の確認をするため、カウンターに近寄った。
「フランさん、薬草採取の仕事ある?」
「もちろんあるよ。しかも今は買取価格が倍だ」
「え? どうして?」
「どこかの魔族がとある国で暴れたから多くの薬品が必要になったんだってさ」
フランさんがニヤニヤしながらそんなことを言った。
「悪い魔族がいたもんですね」
「クロスさんだと思います」
「アウロラさん、フランさんがぼかして言ってるんですから、それに乗らないと。それが大人の会話です」
「なるほど。若くてすみません」
「同い年ですよね? というか、その謝り方は良くないと思います」
若くてごめんなんて煽ってるとしか思えん。
アウロラさんは真面目なのか不真面目なのかよく分からん。
それとも今のは冗談だったのだろうか。
フランさんとアウロラさんが一緒に笑っているから冗談だったのだろう。
一通り笑ったフランさんは依頼票をこちらに見せた。
ただ、薬草採取ではなく、魔物討伐の依頼票だ。
正確には討伐じゃなくて食料調達の依頼だけど。
「悪いんだけど、今日は食材になるやつを狩ってきてくれないかい?」
「なんでまた?」
「うちのギルドの食料事情だね」
「本部からの食材支給がまだ先ってこと?」
「そういうこと。一週間以上は待たないとダメなんだよ。こっちは倍じゃないが、五割増しで買うから頼むよ」
「五割増しとは大きく出たね」
これはやるべきだろう。
というか、やらないと村の宿や食堂で食べる羽目になる。
あんな観光地の割増料金の料理なんて食べる気がしない。
それに成功報酬五割増しは捨てがたい。
お金は必要だから稼げるなら稼いでおかないと。
それにこっちはアウロラさんがいる。
角ウサギだろうと、三つ目クマだろうと勝てるだろう。
「あまり危険なことはしたくないけど、そういうことなら引き受けるよ」
「どこかの屋敷に乗り込んで貴族をぶちのめすよりは安全だよ」
「あれはちょっとズルしてるから。本来の俺は弱いんだって」
この場にいる俺以外の三人がとても残念そうに俺を見ている。
スキルの事情を知らない皆には通じないだろうけど、本当のことなんだけどな。
ステータスが超絶アップする聖剣を持っていてもあの程度だったし。
課金をすれば人並み以上の強化はできるけど、お高いんだよなぁ。
しかも永続じゃない。一時的に強くなるだけで課金はしたくない。
愚痴っても仕方ないので、さっそく森の奥の方へ行ってみるかな。
目指せ三つ目クマ。今日は熊鍋だ。
「というわけで、アウロラさん、期待してますので」
「クロスさんの期待には応えましょう」
「よろしくお願いします」
「では腕立て伏せから。まず百回」
「俺を鍛えてくれって意味じゃなくて、魔物を倒してくれって意味です」
分かってて言ってるのか天然なのか微妙に分からない。
今も真面目な顔で「そういう意味でしたか」と言ってるし。
なんかこう、ずれてるよな。
そんなことよりもすぐに行こう。
奥の方へ行けば珍しい薬草が採れる可能性がある。
俺一人なら行かないが、アウロラさんと一緒ならどこまでも行けそうだ。
すぐに準備をして外へ出ようと思ったら、いきなり入り口の扉が開いた。
三人の女性が立っていて、赤、青、黄の髪が太陽の光でキラキラと輝いている。
「フラン様! 私達は冒険者として働くことにしました!」
この前の女騎士たちだ。でも、鎧を着ていないし、マントもしていない。
なんというか、普通の恰好だ。
というか、冒険者として働くって言った?
フランさんは右手全体を両目に当てて天を仰いでいる。
「フラン様が喜んでいる!」
「来た甲斐がありましたわ!」
「やはり我々の女王はフラン様のみ……!」
どう見ても呆れているのだが、何かのフィルターがかかっているのだろう。
よし、逃げよう。
面倒なことに巻き込まれる前に逃げなくては。こういうときの嗅覚は大事。
だが、アウロラさんが普通に三人娘に絡んだ。
「決心したんですね?」
「アウロラ、久しぶり。アウロラの言葉で目が覚めたよ。私達は団長のフランチェスカ様を慕っていたのではなく、フラン様という一人の人間を慕っていたと改めて気付いたんだ。なので私達も騎士団の立場を捨て、ここで冒険者として頑張るよ!」
「見事な心意気です」
この人、何やってんだろう。
余計なことを口走って色々な人の人生を変えている気がする。
もしかして俺もその一人なのか? 俺は絶対に変わらんぞ。
動きのなかったフランさんだが、大きくため息をつくとようやく三人の方を見た。
「アンタら何やってんだい。騎士団を抜けるなんて馬鹿がすることだよ?」
「あの、フラン様には言われたくないのですが……」
「……確かにその通りだけど、私とは事情が全く違うだろう?」
フランさんが貴族や騎士の立場を捨てた――死を偽装したのは、目をつけられていたという理由がある。
この三人娘にはそれがない。そのまま騎士団にいても問題ないはず。
それだけフランさんを慕っているということなんだろうけど、普通なら重いって感じるはずだ。責任を取れるわけじゃないが、人の人生を大きく変えるのは、それなりに責任を感じるものだから。
「あ、あの、もしかしてご迷惑でしたか……?」
三人はちょっと泣きそうな顔で恐る恐るフランさんを見つめている。
フランさんは三人を見て、仕方ないなぁという顔をしてから首を横に振った。
「迷惑なことなんてあるもんかい。またアンタ達と一緒にいられるのは嬉しいよ」
フランさん、男前だ。
そして三人娘はカウンターを飛び越えてフランさんに抱き着く。
女の友情というかなんというか。
しかし、騎士団の立場を捨てるほどとはね。
危険な仕事だとは思うけど、冒険者ほどじゃない。
会うだけなら他にも方法があったと思うんだが。
「それじゃ、アンタたち、今このギルドの食料は少ないんだ。すぐに冒険者登録をするから、食材になる動物や魔物を狩ってきておくれ」
「感動の再会は終わりですか……?」
「その感動の再会には美味い飯が必要だろ? 今は女子会もできないくらい食材がないんだ。今日の夜のためにもキリキリ狩ってきな!」
「りょ、了解です!」
ノリが軍隊。騎士団だから似たようなもんだけど。
「皆さん、ここは私達と一緒にいきましょう」
「アウロラも手伝ってくれるの?」
「当然です。私達もこれから狩りに行くつもりだったのでちょうどよかったです」
なるほど、確かにその通りだが、ちょっと心配だ。
女騎士属性の子たちって、フランさんがいないとポンコツなんだよな。
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