第四幕 タイマン④
そしてやってきた文化祭最終日。
後半のシフトをすっぽかした健生、幸、護は雄馬たちにこっぴどく叱られ(シフトの件よりも心配をかけたため怒られた)、一日お化け屋敷に拘束されることとなった。
お化け屋敷には第一班の班員たちや凛夜、恋羽が遊びに来てくれた。怖がってくれる人、全く平気だった人、反応は様々だったが、みんな楽しんでくれたようだ。ただ、転法輪凰華が来たことだけは驚いた。お化け役のこちらが驚かされた。彼女は健生のフランケンシュタインの仮装を見ると、扇子で顔を隠すことも忘れて笑った。何だか納得いかない。
それはさておき、文化祭はその後何事もなく終わった。一般客が帰ると、生徒たちは素早く片付けを行う。あれだけ頑張って準備したものが、協力する人間関係ができたために素早く片付けられていくのは何だか物悲しい。だが、家に帰るまでが文化祭。最後の後始末は綺麗にしよう、と全員が最後の気力を振り絞って頑張った。
そして片付けの後はお楽しみが待っている。それは……。
「お化け屋敷、お疲れ様っしたー‼」
『お疲れ様でした~‼』
そう、クラスでひっそりと行う打ち上げである。この日は、お菓子やジュースを学校に持ち込んでも教員たちは目を瞑ってくれるらしい。片付けが終わって少しの時間、生徒たちには息抜きの時間があった。
こんなことを頑張った、あんなことがあった。そんな話をしながら、打ち上げは解放感と達成感で盛り上がっていく。
健生や幸、護もすっかり馴染んだクラスで級友たちとの会話を楽しんでいた。
そして、学生につきものなのが恋愛がらみの悪ノリである。
「え~! さっちーって冨楽と付き合ってるのぉ⁉」
「はい」
「は~い、みんな注目ぅ~‼」
「待って⁉ 恥ずかしいんだけど‼」
「いけませんでしたか?」
「いや、いけなくはないけど恥ずかしいだけ‼」
「ややっ、健生殿‼ 聞いてませんぞ‼」
「ごめん言ってなかった‼」
「健生いいい、羨ましいぞこのヤロおおおお‼」
「雄馬怖い!」
こんな感じで健生と幸の交際がクラス中にばれたり。
「手繋げ~手!」
「いやいや、ここはハグでしょ!」
「トキメキを! トキメキを供給してください‼」
「俺達はトキメキに飢えてんだ‼」
こんな感じで黒板の前に立たされた。どうしろというのだ。どうしろというのだ!
「何もしない! 何もしません! トキメキが足りない人は少女漫画を見てください‼」
「手繋ぎやハグ……つまり、愛情表現ということですか?」
「幸さん、聞かなくていいから! 嫌なら聞かなくていいから!」
「嫌ではありませんよ」
ちゅっ
「……は?」
頬にキスされた。
クラス中が固まる。幸もどこか恥ずかしそうに、顔を可愛らしく赤らめながらこう言った。
「……私にも、愛情はありますので」
次の瞬間、クラス中が沸いた。
『うおおおおおおおお‼』
「最高です!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「来ましたぞおおおお‼」
「俺、なんか涙出てきたよ……」
何やら群衆に身内が混ざっているわ、勝手に感動されているわでもう大混乱だ。
「マジか……」
健生は未だに何が起こったのか理解できていない。だが、頬に柔らかい感触があったことだけは分かった。キスされたということだけは分かった。
「健生様……嫌でしたか?」
幸がどこか不安そうに自分を見てくる。その表情も可愛らしくて、頭がめちゃくちゃになりそうだ。
「幸さん……」
「はい」
「今度は、俺から仕返しするから」
健生がリベンジを幸に誓うと、その意味を理解したのか、彼女は顔を赤らめる。
超常警察の仲間としても、恋人同士としても、幸との関係が少しずつ進んでいくことに喜びと高揚を覚える健生なのであった。
傷もつ僕ら 第五部 完
第五部 登場人物まとめ
(第五部読了後の閲覧をお勧めします)
・冨楽健生(ふらくけんせい)
主人公。17歳の高校二年生男子。超能力は体の細胞を自在に操る『細胞操作』。副作用は精神の乱れによる暴発。犬塚一の確保のため、超常警察の隊員となった。幸とは恋人同士。第五部にて、犬塚一を確保する。
・柳幸(やなぎさち)
ヒロイン。17歳の高校二年生。超能力は、自分の姿や触れた物を透明にする『透明化』。副作用は感情と表情の鈍化。健生と関わることで徐々に人間性を取り戻していく。健生が死にかけたことで恋心を自覚し、彼に告白する。意外と恋愛には積極的な模様。
・犬塚一(いぬづかはじめ)
健生の中学生以来の友人の皮をかぶったスパイ。長法寺珠緒の手駒として姿を現す。超能力は獣の特徴を自在に体現する『獣化』。副作用は人間としての理性の喪失。健生が被害者となった人体実験の被検体一号。第五部にて長法寺珠緒に捨てられ、健生に確保された。
・秋葉護(あきばまもる)
健生の高校からの友人で、オタク気質。「~ですぞ」という独特な口調をしている。超能力を無効化する『無効化』の能力を持つが、詳細はまだ不明。第一班の護衛対象。第五部では無効化の能力に目を付けられ長法寺珠緒の手先の北条に誘拐された。
・冨楽恋羽(ふらくこはね)
出生者全員が超能力者の家系、転法輪家の末っ子。だが、転法輪家から勘当されたことで冨楽家の娘となる。健生を「お兄様」、柳を「お姉様」と呼んで慕う。第一班の護衛対象。桂木に告白したが未成年のため、五年後もう一度告白をすることになった。無能力者。
・市原輝明(いちはらてるあき)
超常警察に所属する27歳男性。少し長めの髪を後ろで一つくくりにしてなびかせた、細目の狐顔。第一班の指示役でもある。超能力は自分や周囲の物、音を外部から隠す『演幕』。副作用は精神の乱れによる制御不能状態。晶洞に憧憬のような感情を抱く。
・桂木晴人(かつらぎはると)
超常警察所属の25歳男性。愛想のない目つき、短い金髪がトレードマーク。体をよく鍛えており、大柄な体つきをしている。超能力は体が異常なまでに頑丈である『頑丈』。副作用は痛覚の喪失。恋羽の想いを受け入れ、五年後もう一度告白するように言う。
・古賀葵(こがあおい)
超常警察所属の24歳女性。超能力は全身の傷から茨を出す『茨』だったが、バカンスで彩川と結ばれたことが影響したのか植物の蔓を出す『蔓』に変化した。副作用は出血と激痛だが、能力が変化したことで軽くなる。第三部で彩川と結ばれる。
・山下心路(やましたしんじ)
超常警察所属の男性。年齢不詳。手品師のような恰好と白い仮面がトレードマーク。第一班の後方支援組であり、運転係でもある。「フフフフフ!」という笑いが口癖。超能力は顔を自在に変える『人相』。だが、気を抜くと顔がぐちゃぐちゃになってしまうらしい。
・晶洞羅輝(しょうどうらき)
超常警察所属の27歳女性。普段はサングラスにマスク、トレンチコートを羽織っているが、本人はなるべく肉体美を見せびらかしたいらしい。長髪をなびかせたスレンダーな美女。健生の師匠役となる。超能力は全身を美しい結晶に変える『結晶化』。
・若松冬樹(わかまつふゆき)
超常警察所属の16歳男子。フードを深くかぶったギザギザ歯の少年。無能力者だったが、護の誘拐をきっかけに超能力に目覚める。超能力の詳細は不明。過去に超常警察のデータベースをハッキングしたことがきっかけとなり、超常警察に入隊した。
・彩川青葉(さいかわあおば)
超常警察所属の25歳男性。超能力は肉眼で見た相手の感情や思考を色で視認する『視覚エンパス』。副作用は目の負担と色素の喪失。第三部で片思いをしていた古賀と結ばれる。古賀が絡むと少し衝動的な性格になる模様。
・新田知也(にったともや)
超常警察所属の35歳男性。髪の毛が実験に失敗した博士のようにちりぢりになってしまっている、丸眼鏡の男性。自信なさげだが、気配りできる心優しい性格。超能力は全身から炎を放つ『人体発火』。副作用として、精神の乱れで能力が暴発してしまう。
・吉良美麗(きらみれい)
超常警察所属の34歳女性。髪をポニーテールでまとめた垂れ目の女性。顔立ち、スタイル、雰囲気の全てが非常に美しく艶やか。超能力は自分を見た相手に一時的に言うことを聞いてもらうことができる『魅了』。過去の恋人からデートDVを受けていた。
・転法輪凰華(てんほうりんおうか)
転法輪家の長女。黒髪は毛先だけ真っ赤で、肌は美白。炎色のルージュとパーティドレス、扇子がトレードマーク。超能力は炎を自在に操る『炎』。男ばかりの転法輪家に嫌気がさし、恋羽を実家に戻そうとした。転法輪家の中では話が通じる側の人間。
・神木茜(かみきあかね)
地雷系ファッションに身を包んだ少女。一人称は茜ちゃん。超能力は髪の毛を自在に操る『黒髪』。髪の毛に相当気を使っており、髪を傷つけた彩川を目の敵にする。苛烈で狂信的な性格だが、副作用の表れである模様。後方支援組に確保された。
・長法寺珠緒(ちょうほうじたまお)
過去に健生と一に人体実験を行った研究者。転法輪に健生の暗殺依頼を申し込む。超能力者を人為的に生み出す研究を行っている。超能力は自分の状態を操作する『状態操作』。長法寺珠寧は双子の姉。一や茜、テレポートの能力者を手駒のように扱う。
・北条(ほうじょう)
眼鏡をかけたメイド姿の女性。超能力は触れた物と自分を転移させる『テレポート』。長法寺珠緒の身の回りの世話をする。文化祭では護を誘拐した実行犯。
・菊池雄馬(きくちゆうま)
健生のクラスメイトで、文化祭の実行委員。野球部に所属しており、頭を丸刈りにしている。文化祭の準備を通して健生と仲良くなる。友達思いの熱い男。
・福見美緒(ふくみみお)
健生のクラスメイト。ギャルっぽい見た目の不思議ちゃん……と思いきや、真面目で手先が器用な少女。文化祭の準備を通して幸の友人となる。特技はメイクで、文化祭でも特殊メイクを担当した。
・三筋金治(みすじきんじ)
健生のクラスの担任で、通称きんティー。生徒思いの熱血教師だが、生徒のことを受け入れすぎる節がある。文化祭の会議が空中分解していても止めず、見守ってしまう一面も。
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