第三幕 ダッカン②

 ここで視点は健生に戻る。

 

「信じられない……」

「信じられないって……何がですか?」


 彩川が呆然と呟くのを聞いて、健生は彼に聞き返す。彩川はゴーグルを外した目で若松を見つめていた。

 

「若松君、超能力が覚醒してる……それも、ハッキングと情報処理に長けた何かが!」

「な……」

 

 全員が若松に視線を奪われる中、彼は開ききった目で膨大な量の液晶を見つめる。そこには、健生たちには全く意味の分からない文字列や監視カメラの映像が映っており、それらは一瞬で次の画像へと切り替えられていく。

 

「午前11時31分23秒、学校付近のビルの陰にテレポート。午前11時32分27秒、図書館付近の駐車場にテレポート。この時点で方角は南南西。午前11時34分1秒、廃ビル付近にテレポート。午前11時35分3秒……」


 若松は鼻血を流しながらも、得た情報を紡ぎ続ける。一同はその様子に唖然としていたが、最初に意識を戻したのは市原だった。


「メモ取って!」

 

 市原の指示を受け、新田が素早くメモを取り始める。誰も若松の言葉を聞き洩らさないように、あるいは彼の能力に圧倒されるように、若松の姿を凝視していた。


「午前11時45分2秒、高速道路入口付近にテレポート。……それ以降は映像なし」

 

 最後にそう言うと、若松はふらり、と椅子に倒れ込むように座った。彼の軽い体重とその衝撃を受け取った椅子がガタン!と軋む。

 

「若松君!」

 

 健生たち第一班の班員が駆け寄ると、彼はぼーっとした目で天井を見上げ、鼻血を袖で拭いた。


「……つかれた」

「うん。ありがとう、若松君」

 

 健生は鼻血の応急処置をしながら若松に礼を言う。

 一方、得られる限りの情報を得た市原はその情報を本部にも伝え、更なる情報収集を行うよう指示を出した。前衛組はそれぞれが戦いの準備を、後方支援組は最後に護とテレポートの能力者が見られた付近を衛星などを活用しながら探る。

 

「ささ、最後に二人が見られた場所から七キロ離れた地点に建築物があります……!」

「この付近に研究ができそうな施設はそこくらいしかありませんねえ、地下に隠れているのであれば別ですが! フフフフフ!」

「そこは近くまで行って探しますんで! 本部にも応援を頼んで、すでにそこらへんに向かってもらってます! もちろん、隠密した状態で!」

「そ、そうね! 見つかったら逃げられちゃうものね!」

「相手にテレポートがいるとなると、逃走は容易ですからね。慎重に行きましょう」

 

 目的と、そこに至る手段さえ分かれば後は正解までのルートを辿るだけだ。麻痺しかけていた第一班の機能が回りだす。

 

 情報とはここまで大きなものか。


 慌ただしくなりだした周囲を見ながら、健生は情報戦の脅威をひしひしと感じた。そして、椅子の中で脱力している若松を見る。若松がいなければ、若松の超能力が覚醒しなければ、この状況を打破するのは難しかっただろう。


「若松君」

「……なに?」

「君がいてくれてよかった。護を見つけてくれて、ありがとう」

 

 健生はもう一度、しっかりと感謝を込めて彼に礼を言う。若松は真正面からの厚意に慣れていないのだろう、居心地悪そうに目線を逸らしながら「ん」とだけ言った。

 

「さて、健生君もお仕事の時間やで。これから地図のこの地点に向かう。道中でこれからの作戦について話し合うで! 山下さん、運転お願いします!」

「任されましたよ、フフフフフ!」

 

 山下は意気揚々と運転席に滑り込み、車両を動かす。

  

(護、待ってて……!)

 

 健生は護の無事を祈りながら、彼の元へと仲間とともに向かうのだった。

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