第一幕 ジュンビ②

「……というわけで、お化け屋敷をすることになったんです」

 

 超常警察の本部で、健生は第一班の班員や恋羽に報告する。今日は護も一緒だ。

 

「あの会議は本当に途中から謎でしたぞ……健生殿には感謝しかありませぬ」

「私も会議の意義が分からなくなっていたところでした。ありがとうございます、健生様」

 

 護と柳は健生にお礼を言う。だが、礼を言うのは健生の方だ。

 

「いや、あの場で賛成する人が誰もいなかったら本当に詰んでた……二人ともありがとう」

「お兄様たち、大変でしたのね……」

 

 すんなりメイド喫茶をやることに決まった恋羽は、上級生三人を労う。

 

「はあ~、ええなあ、文化祭。アオハルやんアオハル」

「オレらはそういうのとは無縁だったからなァ」

「任務とか訓練ばっかりしてたからね」

 

 孤児院の三兄弟組、市原、桂木、彩川は羨ましそうに言葉を交わす。

 

「ちなみにさ~、誰がどの役割するかとか決まったの?」

 

 古賀に質問され、健生は答える。

 

「あっ、はい。俺は当日フランケンシュタインで、柳さんはコープスブライド。護は演出です。準備では男子が教室内の装飾をやって、女子が服飾担当です」

「きゃー! 柳ちゃんのコープスブライド⁉ きっと素敵ね、見に行かなきゃ!」

「どちらにせよ、当日は巡回がありますよ吉良さん。私たちも文化祭を回らなければ」

 

 喜ぶ吉良に、晶洞が釘をさす。


「それにしても、健生君がフランケンシュタインとは! 唯さんの護衛任務を思い出しますねえ、フフフフフ!」

「じじ、自分の特徴を上手く活かした意見で素敵ですね、健生君……!」

「……興味ない」

 

 山下は健生の初任務を思い出したかのように笑い、新田は健生の意見を褒める。若松は学校に通っていないこともあり、文化祭には興味がないようだった。


「まあ、当日は俺らも巡回するから、安心して文化祭楽しんでな、みんな。あと、ちょっとしたサプライズもあるからな~」

「サプライズ……ってなんですか? 市原さん?」

「それ言うたらサプライズにならんやん。楽しみにしといてや~、健生君」

 

 市原はにやり、と笑って健生にひらひらと手を振るのだった。

 

 

 

 

 文化祭の準備はすぐに始まった。健生はベニヤ板など重いものを運びながら、体力がついたな~と思ったりする。これは訓練を続けている成果なのだろうか。

 

「冨楽、お前けっこう力あるのな……」

 

 菊池が驚いたように声をかけてくる。

 

「えっ……ああ、ちょっと筋トレしててさ」


 咄嗟に無難な答えを返す。嘘はついていない。

 

「ふーん。俺も野球部で鍛えてるけど、けっこう重いぜ? これ。相当鍛えてんだな」

 

 教室に戻ると、菊池と協力して作業に取り組む。一緒に作業をしようと声をかけてくれたのは、何と菊池からだった。

 

(何か用でもあるのかな……?)

 

 健生はそんなことを思いながら、菊池とともに黙々と作業を進める。肝心の彼は何も言わない。


(えっと、これ、俺から話しかけた方がいいヤツ……?)

 

 どうしようか、と悩んでいた時、菊池は「ふう……」と息を大きく吸った。

 

「あのときは助かった‼ ありがとう、冨楽‼」

「おわっ! あ、あのときって……?」

 

 菊池の大声に身をのけぞらせながらも、健生は菊池に問いかける。

 

「ほら、文化祭何やるかって話し合ってたときだよ。何かほとんどのヤツがふざけ始めててさあ、んなのできるかって意見もあったじゃん?」

「あ、ああ、あれね……」

「けど、あんとき冨楽が自分のことネタにしながらもお化け屋敷って意見出してくれて、他のヤツも賛成してくれたじゃん? 俺、あんときすげえ助かってさ」

 

 菊池は曇りのない瞳で、健生のことを真っ直ぐ見つめる。

 

「何か、今まで話したことほとんどなかったけど、冨楽っていいヤツだったんだな」

「そんなことないって……柳さんとか、護とか、福見さん……菊池君も後押ししてくれたし。あれがなかったら、俺、痛いヤツになってたよ」

「お前が自分のことネタにしてくれたのに、そんなことさせるかよ」

「……菊池君もいいヤツだよ」

 

 菊池は健生の言葉を聞き、にへっと笑って見せる。

 

「だろ? あと、その菊池君っての堅苦しいからなしな。気軽に雄馬(ゆうま)って呼んでくれよ」

「えっ……いいの?」

「お前ならいいって。その代わり、俺も健生って呼ぶから。これから友達な、俺ら」

  

 屈託のない菊池……雄馬の笑顔に、健生はじわっと目元が熱くなる。友達……そう言ってもらえたのは護以来かもしれない。

 

「きく……雄馬~!」

「何て顔してんだよ健生……ほら、手元見てねえと怪我するぞ」

「わ、分かった……!」

 

(何か、何かアオハルって感じだ……!)

 

 健生も次第に文化祭の雰囲気にのまれ、浮かれた心中へと変化していくのだった。

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