第三幕 シンセイカツ⑩

(なんだかどっと疲れた……)

 

 至極当然な感想を抱きながら、健生と柳はトレーニングルームを後にする。扉を出たところで、実行犯の引き渡しをしていた市原と偶然顔を合わせる。


「お、健生君と柳ちゃん、お疲れ様やな」

「市原先輩、お疲れ様です」

「あ、市原さんお疲れ様です……さっきはありがとうございました」


 健生が礼を言うと、市原はどこか嬉しそうに口角を上げる。

 

「ええよええよ。ちょうどさっき犯人どもの引き渡しが終わって、これから取り調べするところなんや。念のためなんやけど、健生君と柳ちゃんにも同席してもらってもええかな? ひょっとしたら……まあないとは思うけど、健生君の知ってる人かも分からんし。もしキツかったら、断ってもらってもええけど」

 

 何だか、刑事ドラマのワンシーンみたいだ。


「そういうことなら、分かりました」

 

 本当に自分の知っている相手が襲撃犯であれば、それこそ謎だ。健生の返事を聞くと、市原は申し訳なさそうに頭をかく。

 

「ホンマにありがとうね、健生君。ほな、取り調べ室案内するわ」

 

 市原は健生と柳を先導して歩く。取り調べ室は、トレーニングルームから五分程度歩いた場所に位置していた。市原は二人を、取調室横の部屋に案内する。そこは、取り調べ室の様子が伺えるよう壁が加工されている部屋だった。録音機器も一通り揃っており、その前にはフードを深くかぶったギザギザ歯の少年がいた。健生と同い年……いや、年下だろうか。


「健生君、紹介するわ。この子、若松冬樹(わかまつふゆき)君。年齢は健生君の一個下やね。この子、うちのホワイトハッカーやねん。機械にも強いから、こういうときにお仕事してもらうんよ」

「えっと、冨楽健生です、よろしく……」

 

 どこか挙動不審な少年、若松に自己紹介すると、彼はちらっとこちらを見る。

 

「ども……若松冬樹です……」

 

 それだけ言うと、彼は録音機器の方に視線を戻してしまった。

 

(えっと、これで終わりか……)

 

 つぎはぎの件もあるし仕方ないと思っていると、市原がそっと耳打ちする。

 

(健生君すごいなあ。若松君が初対面で自己紹介できるの、レアなんやで)

(えっ、そうなんですか?)

(気に入られたんとちゃう?)

 

 どうやら、これでもずいぶん打ち解けた方らしい。内心ほっとしていると、柳が二人に声をかける。

 

「健生様、市原先輩、そろそろ取り調べが始まるようですよ」

 

 彼女の言葉に隣の部屋を見ると、ちょうど古賀に連れられて実行犯のうちの一人が入室したところだった。彼女に茨で縛られたこともあるのだろう、実行犯はすっかりおとなしくなっていた。その顔には納得いかない、という表情が浮かんでいるが。

 古賀と実行犯が入室すると、若松が録音機器をいじりだし、室内の会話が聞こえるようスピーカー機能をオンにする。

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