ナイトメルヘン~満月の夜を楽しんでいたら、宇宙から来た女性と暮らす事になりました。

CE-TAKU

第一夜【月からの訪問者】

「では我々はここら辺で...くれぐれもこの子の事を気にかけて置いてください。」

警察官が頭を下げ玄関の扉を開け家を出ていく。


怜耶れいや!もう!これで何回目なの!?」

僕は玄関でお母さんに叱られている。

当然だ。今は夜中の1時。こんな時間に小学生が出歩いていたら、怒られるに決まってるよね。

まぁ、もう慣れてる。どれぐらいかは忘れたけど、だいたい10回は超えてるだろう。

「怜耶!いい加減にしないと、本当にお母さん許さないからね!?」

何度も何度も怒られてるうちに、この声もだんだん聞こえなくなってきてる。

許さない、か。勝手にすればいいじゃん。

どうせ僕は余り物なんだから。

部屋に戻ってゲームしよ。

「怜耶!待ちなさい!」

はぁ.....

「うるさい!!そんなに嫌いなら一生 みのりに構ってろよ!!」

僕はそう怒鳴りつけて玄関を後にした。

「んっ.....」

お母さんがどうなろうと知ったこっちゃない。

妹の稔が産まれて4年、僕には冷たかった。

僕がさっきまで居た外みたいに。

さっきのおまわりさんの方が、まだ暖かかったかな。

たまにキツく当たるのもいたけど。

はあ、こんな事考えててもつまんないや。

どのゲームにしようかな。


グルルルル...


...大きな声出したらおなか空いちゃった。

あとでなんか持ってこよ。




.....気づいたらもう2時だ。

もう寝たかな。


よし...いないいない

僕は戸棚からビスケット、冷蔵庫からジュースを取り出した。

カップラーメンとか食べたかったな。


「...さむ」

はぁ...暖房ついてないのか。

ジュースは冷たいしココアにしとこ。


牛乳を温めて...よし、退散退散。

さて、何しようか。

ゲームはもう飽きたな、これなんかもう何周もしたし。

...最後に何か買ってもらったの、いつだっけ?


.....やめたやめた、気分悪い。

あーあ、僕も妹になりたかったな。

男なんてめんどくさい。

...そういえば今日なんか明るいな、外からだ。

怜耶は窓から空を見上げる。

わぁ...満月.....キレイ...

こんなに綺麗な月、久しぶりだなぁ...

そうだ、外でこれ食べよ。

なんだかこんなにワクワクしてるのも久しぶりだ。


怜耶はベランダを開ける。

う...やっぱちょっと寒いな...

でもいいや、こんなに綺麗なの見逃すなんて損しそうだし。

怜耶はココアを啜る。

「はぁ...あったまるう...」

片手でビスケットをかじる。

幸せ...


その刹那。


「うわぁーーー!!!」

.....あれ、気のせいかな。

何か人の声が聞こえるような気がするぞ...

「落ちるぅーーーー!!!」

...やっぱ気のせいじゃない!!?

でもどこから??

怜耶は辺りを見回す。

いない.....って事は.....

怜耶は恐る恐る”月”の方向へ顔を上げる。

「助けてぇぇーーー!!!」

人!?

しかも大人の女性...なんで!??!

怜耶は突然の出来事に疑問を山のように抱えながら考える暇もなく、落ちてくる女に潰される。

怜耶はこの時、死も覚悟した。




「うぅ.....」

落ちてきた女は意識を取り戻す。

「まさか飛行機が壊れてるとは.....航空科め.....」

「.....って、そうだ!大丈夫!?」

女は踏み潰した怜耶に声を掛ける。


.........あれ、ぼく.....生きてる?

夢.....かな.........

「大丈夫!?ぼく!!」

なんだか声が聞こえる.....

怜耶は重い頭を動かし辺りを見回す。

.....ん!?

「だっ.....だれですか.....」

「あぁー良かったぁー!!生きてたあー!!危うく”宇宙域警察”に行くとこだったぁー!」

「.......?」

.....宇宙?この人は何を言っているんだ??

ぼくは.....いまホントに現実この世にいるのか?

...落ちつけ、冷静に考えろ。

僕は鈴実怜耶、ここは僕の部屋のベランダ。

僕は夜のひとときを過ごしている時、この人に踏み潰された。

よし、頭は大丈夫みたいだ。

.....さて、どうしたもんか...

「...あなたは、だれですか?」

「あぁ、ごめんね!私は宇宙文部科学省 非行児童更生課 地球係のメル・リベラです。」

メルは宇宙域 文部科学省の職員証を見せる。

「昨日、私が担当する非行児童更生課 地球係が秋田県警の継続補導データベースを確認してその中から最も補導数の多いきみを指導・更生するために地球まで来たんだけど...」

「なんでも...私たちの方で手違いというか...準備不足があって...地球に行くための航空機が故障して、予定の時間の5倍早く着いちゃって...あんな風に不時着しちゃったと.....」

「...死ぬかとおもったよ。」

割とマジで。

...てか、”非行児童更生課”ってことは僕、地球の警察のほかに宇宙にも目つけられてんだ.....

それであの不時着とか...天罰かな...


「ごめんねっー!!死んじゃったら更生どころの話じゃないよねぇっ...」

メルは謝りながら怜耶を抱きしめる。

「ちょっ...近い.....」

でも.....悪くはないかも...

全然罰じゃないや。

なんだかすごくいい匂いがする。

宇宙にも地球みたいに柔軟剤とか、香水ってあるのかな。

.....こんな風にぎゅっーってされたの、何年ぐらい、前だっけ.......

「んー...あれ、どうしたの?怜くん。」

「...あ、なんですか?」

「なんだかうっとりしてたみたいだけど、眠い?」

「いや、なんというか.....」


ドタドタドタ

部屋の扉から大きな足音がする。

「やべっ...お母さんだ...」

「お母さん?」

どうしよう...

今のこの状況、見られれば警察にメルさんが連れていかれるかもしれない。

そうなったら僕も一緒に....

「来てっ!」

怜耶は小さな手でメルの手を引く。

「怜くん!?」

どこか...大人を隠せる場所...

ええい...ここだ!

僕はベッドにメルさんを引っ張って一緒にベッド潜り込んだ。子供の僕でも意外と人を引っ張れることに驚いた。


「怜耶!うるさいよ!!いい加減静かにしてちょうだい!」

お母さんはさっきより大きな声で怒鳴った。

まあ、僕より一回り大きい大人が”宇宙”から落ちてくれば当然うるさいよね。




「.....出ていったかな?」

「...もう出ていいよ。」

「怜くん.....」

メルさんの顔を見ると、ちょっと赤くなっている。

この羽毛布団が暖かいからかな。

僕も身体中汗と緊張でいっぱいだ。

「どうした...の.....」

いや、違う.....

僕がメルさんを押し倒してるからだ...!!

しかもお胸を鷲掴みしちゃってる.....!?!

いつの間にこんな体制を...!?

「.....たのしい?//」

「あわっ...ご、ごっごごめんなさい!!」

僕は慌ててメルさんから離れる。

それと同時に”やわらかいもの”からも手を離す。

会って何時間も経たないうちにこんな事になるなんて...もうクラクラする.....

「...怜耶くん?」

「ご...ごめんなさい...そんなつもりじゃ...」

僕は必死に頭を下げる。

「いいや、いいんだよ...」

「え?」

どういうこと?普通、初対面の人にこういう事したら、死ぬほど怒られる...というか物理的に、社会的に殺されるはずだけど...

「説明してなくてごめん...宇宙域文部科学省の職員は外部から知られちゃいけない情報を取り扱うからその情報漏洩防止、つまり簡単に言うと普通の人には見えないよう特殊な素材で出来た制服を着ているんだ...」

「ど...どういうこと?」

「...私をベッドの中にいれて押し倒したり...おさわりしちゃったりする必要は、なかったってこと...///」

メルは顔を赤らめながら上着を着直す。

「え.....」

「も、もうお嫁にいけない...なんて...///」

フォローしないで...余計に恥ずかしい.....

ヤバイやばいやばいやばい...

もう無理死にたい。マジで死にたい...

恥ずかしすぎるでしょ.....これじゃ僕ただのヘンタイじゃんか...マジつらい.....


で、でもそれならなんで、僕はメルさんが見えてるんだ?

「え.....じゃあなんで僕にはメルさんが見えるの?」

「左腕、見てもらえるかな?」

「わ...何これ...」

確かに僕の左腕には紫色の腕輪が着いている。

月明かりが当たると透明になった。

なんだか病院の患者が付けるアレみたいだ。

「これ、外したらどうなるの?」

「だ、ダメだよ!取る時はちゃんと私を通してから外してね!」

「ど...どうして?」

「1回そのブレスレット、宇宙域文科省外部用通見証を外すと私の声や姿が一切消えちゃうんだ。」

「じゃあ、もう会えなくなっちゃうの...?」

「会えなくはないけど...1度外すともう一度宇宙に戻って手続きと再渡航が必要になるね...」

「そこで私が怒られちゃったら、他の職員と交代になってほんとに会えなくなっちゃうかも...」

「そうなんだ...」

「どうしても外す必要があったら、このコンタクトを使って。数に限りはあるけど、1回一週間は持つから。」

「そのブレスレットを着けてて日常生活で支障をきたすような事は無いだろうから安心してね。

ゴム性みたいに見えても、耐水性や耐衝撃性もばっちりだから。」

「わかった.....」


「それと...」

「...?」

「さっきの怜くん...かっこよかったよ。」

「.....!?」

「こんなに現実離れした話を真面目に聞いてくれて、必死に私を守ってくれようとしてくれたの、怜くんが初めてだよ。」

「.....」

確かに聞いた時はビックリした。

いきなり空から落っこちてきて、宇宙から来ただなんてメルヘンチックな話、誰も信じないだろう。

でも、なんだか心の底から信じちゃう僕がいる。

この人が綺麗なお姉さんだからじゃない。

優しく抱きしめてくれたからでもない。

む...胸を触ったからでもない。

運命というか...そういうのに近い何かを感じるから。


「あと...ごめんね.....痛いことしちゃって...」

「大丈夫だよ...生きてるし...」

「...ちょっと、きてくれる?」

「うん...」

メルさんはもう一度、僕をぎゅっと抱きしめた。

...なんだか、赤ちゃんの頃に戻ったみたいだ。

外とお母さんは冷たいけど、メルさんはあたたかい。

ああ、なんだか、生きててよかったな。

会ってほんの数時間のうちに、こんなに...す...す...

.....ダメだ、ダメなんだ.....

メルさんは...宇宙の人。

ぼくが更生したら、きっと宇宙に帰ってしまう...

そうしたら...またあんな日が戻ってくる...

.....悪いフリをし続ければ、ずっと、居てくれるかな?

メルさんと一緒にいたい。ずっとぎゅーってしてもらいたい。この人と、家族になりたい。

.....もっと、悪い子になっちゃえ。











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