第35話 今日が独立記念日になるんですか?
「話がよく見えないのだけど、神々からの独立って具体的にどうするのよ?」
テンパっているのかセリアはタメ口でルイーゼ様に聞く。ギュンターが
「セリア、それも良い質問です。流石、運命に自分で抗っただけありますね」
「わ、私は自分でやりたいようにやっただけよ」
セリアは自分勝手に魔族になった事をまさか褒められるとは思っていなかったのか、照れ隠しで大きな声を出す。
「ちなみに、リザ。もし人間を滅ぼすとしても貴方だけは助けてほしいとお姉さんは私に懇願していましたよ」
「ちょ!余計なこと言わないでよね。勘違いしないでね、リザ。ほら散々世話してきたから、ペット的な愛着よ。それだけ」
ライラは弟への愛情を認めたくないのか、必死で誤魔化す。嫌よ嫌よも好きのうちというのは、真理なのかもしれない。強烈なコンプレックスは裏返せば、かけがえのない愛情となる。
リザはその言葉を聞いて、瞳に力が戻る。
「ね、姉さん……やっぱり、姉さんは姉さんなんだね」
「そう、私の言った通りでしょう?」
ルイーゼ様は魔王の姿には似つかわしくない女神然とした優しい笑顔を見せた。確かにルイーゼ様はリザが不安に押し潰されそうな時、そういうアドバイスをしていた。でも、知っていたなら人が悪い。あの時に教えてあげれば良かったのに。まあ、僕らに魔王である事がまだバレてはいけなかったから仕方ないか。
「さて、神々からの独立ですが、文字通りの意味です。この世界を神々の管理下から切り離します」
「私は神を信仰していませんが、そんなことをして大丈夫なんですか?」
ライラが冷静に問う。管理というからには、それが無くなったら種々の問題が出てくると予想するのはデキる大人として当然だと思う。
支配から卒業すれば楽になれると思って盗んだバイクで走りだすのは純粋すぎる子供だけだ。
「神々の怒りを買って、必死で滅ぼしに来るでしょうね」
ルイーゼ様はこともなげに言う。
「それはこの世界の人が困るでしょ!?」
アユミがこの世界を代表して叫ぶ。転生者だからこそ敏感なのかもしれない。
「そうです、だから魔王なのです」
「へ?どういうこと」
「お姉様のお話は難しくてよく分からないにゃー」
人間と魔族のアホ代表が困惑する中で、聡明代表のライラとギュンターは納得した表情だ。
「神に対抗できる者を選別するためですね」
「その通りです。ライラさん、やはり貴方は優秀ですね」
「神様に褒められるのは身に余る光栄ですね」
ライラは謙遜して頭を下げる。
「ライラさん、恐縮する必要はないですよ。今まで通り仲間として接して頂きたく思います」
「善処します」
ライラはぎこちない笑顔で答えた。仲間がいきなり神ですと名乗れば戸惑うのが普通の感覚だと思う。
「話を戻しましょう。神というと絶対の存在だと思いがちですが、意外とそうでもありません。私を観察していれば分かるかと思いますが。ねぇ、スナオさん」
返答に困りますよ、ルイーゼ様。本音は言えば、その通り!と喝采を送りたいけどそんなことしたら後で何をされるか分かったものではない。
適当にごまかそう。
「そ、そうかもしれませんねー」
「つまり言い換えれば、一部の人間や魔族が十分に対抗できる存在なんです。もちろん、厳選された者に限られますが。そして、その厳選が魔王であると容易でした。魔族は基礎能力が高い者が多いですし、人間界で能力の高い者は向こうから魔王退治に来てくれます」
「だから、ギュンター様が我々を試していると仰ったんですね」
「その通りです。貴方は強靭な上に聡明なのですね。陛下がお褒めになるのも納得です」
つい先ほど真剣勝負をしたライラとギュンターがお互いに視線を送り合ってシンパシーを感じている。ずるい、僕も交ざりたい。
「私達を選定しているのは良く分かったけど、神々から独立しても私達にメリット無いんじゃない?むしろ、神々の怒りを買うデメリットしかないよね」
さすが、自己愛強いセリア。自分に不利益なことには敏感だね。
「ルイーゼさんの事は尊敬していますが、む、無駄に戦いが始まるのは良くないと思います」
姉ラブのリザも賛同する。いや、もしかしたらトラウマのある彼女……彼の本心かもしれない。いまだ、リザが男の子であることに慣れない。
「そう思うのは当然です。これは伝えるかどうか迷う事ですが……」
「陛下、ここまで来たら全てお話ししましょう」
ギュンターが先を促す。確かにここで止められたら、僕らの中で内部闘争が起きてしまうかもしれない。
「ええ、そうですね。この世界は神々からしたら破棄対象なのです」
「「はきたいしょう?」」
アホ代表がシンクロする。言葉自体も難しいが、世界に対して使う言葉ではないため聡明なライラも困惑している。
「破棄とは、つまり捨てられる、世界が無くなるということですか?」
「残念ながらその通りです」
「ちょっと待ってよ。独立してもしなくても神からこの世界は滅ぼされるって事?私達が何かした?」
セリアは興奮して席から立ち上がる。
「何もしていません。神々の派閥争いに利用されただけです」
「何よそれ!ふざけてる!そんな神々、私が粛清してあげるわ」
セリアの興奮は最高潮に達し、顔を真っ赤にして怒鳴っている。セリアだけではない。事情を知っていたギュンター以外は、状況を理解したのか皆怒りに震えている。
「そうです。ふざけているのです。そんな神々から独立するため、みなさん一緒に立ち上がっていただけませんか!?」
ルイーゼ様はセリアの後を追うように立ち上がり、皆の顔を順番に見回していく。
「なんだかとんでもない特務になってしまいましたが、特種冒険者として職務は全うさせていただきます」
ライラはそう言って立ち上がる。真面目な彼女らしい宣言だ。
「わ、わたしは姉さんと一緒なら頑張れます」
リザは控えめに立ち上がる。どこまでもお姉さん基準なんだね。うん、いいと思うよ。
「自分は常にルイーゼ様とともにあります」
ブラムは自然体で立ち上がる。あっ居たのね。女神を邪魔しないようにずっと黙っていて偉いね。従者はそうありたいよね。
「陛下の栄光あらんことを」
ギュンターは姿勢よく真っ直ぐに立ち上がり、右手を高く掲げる。凛々しいけど、ルイーゼ様そこまで求めてないよ。
「こんだけ居れば大丈夫だよね、サロメちゃんは遠慮―」
この期に及んで自分だけ逃げようとするサロメを、ルイーゼ様得意の氷点下の視線が捉える。
「わかった、わかった、わかったよぉ!お姉様の言う通りにしますぅ」
渋々、サロメは立ち上がる。
「ありがとうございます。皆さんに快く協力を得られて、力が無限に沸いてくるようです」
あれ、僕の意思確認は?辞退してもいいんですか、ねぇ女神様!
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