第28話 感動の再会とはならないんですね?

 馬車にアユミが乗ってきたら転生について色々と聞かないといけないなぁと思っていると、荷台が大きく揺れるのを感じる。誰かが荷台に足を踏み入れたんだ!

 おかしい。ハナメガネで確認するとまだルイーゼ様達は馬車には乗り込んでいない。それどころかアユミを中心にワイワイと談笑している。……初対面ですごいな。やっぱりコミュ力が異様に高い。キミ、営業に向いているよ。

 さて、では馬車に侵入してきたのは誰なのかな。野盗には遭遇したことはあるから、治安が現代ほど良いわけではないのを知っているけど、ここは王城のうまやだ。流石に白昼堂々、盗みを働く阿呆は居ないと信じたい。この世界で僕の常識はことごとく裏切られてきたから、侵入者はそんな阿呆なのかもしれない。

 念のため、ハナメガネを外して警戒する。ただ僕が警戒した所で、盗人を制圧する技術は無いので殺されるか殺してしまうかの2択しかない。殺されるのは嫌なので、もし襲われたら時間を稼いで病死してもらおう、と覚悟を決める。


「おっ、棺桶があるぜ。これじゃないのか」


 早速見つかる。声から察するに若い男だ。まあ、悪目立ちするよね、棺桶。でも、まるでコレが目当てのような口ぶりだ。


「あーそうそう。それよ、それ。さっさと持って帰るわよ」


 馬車に乗り込んで来てはいないが、そばに若い女性もいるらしい。口調が面倒くさそうだ。やる気は無いが要領が良い同僚を彷彿させる。


「おいおい、中身も見ずにいいのかよ?」


 雑な相槌に男の方が不満そうな声で聞く。


「意外と真面目なのねー、魔族って。はぁー行方不明になったドラキュラを連れ戻すなんて地味な仕事じゃ魔族になった甲斐が無いわ」


「今の魔王様は人間界の征服には興味ないからな。何を期待していたのかは知らねえけど、あんまり派手な仕事はねえよ。ただ、配下を大事にしてくれるから俺は嫌いじゃねえな。現に帰ってこない吸血鬼を1人を心配して俺らみたいな捜索隊が複数派遣されているからな。前の魔王様じゃ考えられないぜ」


「ふーん、現魔王は腰抜けなのね」


「お前なぁ……。今の魔王様じゃなきゃお前も即、殺されていたぞ、多分。魔族になりたい人間なんて前代未聞だからな」


「まあ、私の才能を見抜く力があったのは救いだけど、こんな慎重な起用をするのはやっぱりビビりね」


「どんだけ自信があるんだよ。そういう事自分で言う奴、だいたい小物だけどな」


「うるさい!ほら、ささっと持ち帰る!」 


「結局中身は見ないのかよ。文句ばっか言ってないでお前も働けよ!」


 無駄話が止まらない。口喧嘩まで始めそうだ。ただ、下っ端を自称するだけあって情報セキュリティに対する意識が甘々だ。自発的に下っ端魔族であることをカミングアウトした上に、恐らくブラムを連れ戻すという目的と魔王に関する興味深い情報もダダ漏れだ。

 魔王が人間界の侵攻をあまり考えていないとの事だけど、じゃあ僕らはなんで襲われたんだろうと疑問が生じる。

 いけない、いけない。思考がまた飛ぶ所だった。疑問はとりあえず置いておいて、現状を打破しないといけない。下っ端と分かったとはいえ魔族であれば、僕に対する危険度は急上昇する。僕のスキルは魔族に効かないことが判明しているからだ。

 早くみんな戻ってきてくれ!

 真面目な男が念のため中身を検めようと蓋に手をかけたその時、願いが届く。


「私達の馬車に何か御用ですか?お城の方ではないようですが……」


 ライラが不審者二人に冷静に話し掛ける声が聞こえてきた。ハナメガネを掛け直して様子を伺う。


「どう見ても盗人でしょう。捕えましょう」

「ひゃー、この世界ってやっぱり物騒なんだ!?」


 ルイーゼ様とアユミが思い思いに口を出す。アユミがすでに馴染んでいる。愛嬌のある容姿と人懐っこい性格が相互作用を生んでいるのかな、心底うらやましい。


「えー、あー、……あ、そうだ。人を探しているだけなんです」


 男が無理めの言い訳をする。先ほどからの口調からして頭は良くないらしい。


「他人の馬車を勝手に物色して、ですか?」


 ライラは疑いの目を向ける。


「ちょっとそれは苦しいよね。逮捕だ、逮捕ー!」


 アユミは腕を振り上げて叫ぶ。こころなしか少し楽しそう。いわゆる、パリピ的特性を持っている可能性がある。ちょっと苦手かも。

 さて僕が声を出して彼らが魔族であることを主張してもいいけど、ここで戦闘が始まると僕の病原で皆に被害が出る可能性がある。様子を見よう。魔族の言葉を信じるなら、魔族側に積極的に人を襲う意思はないと言うことだし。危害を加えてきたサロメやブラムはきっと少数派なんだろう。そうに違いない。

 いや、ビビリじゃないよ?無理やり楽観的に考えて自分への危害が極力少ない方に誘導しようとかそんな卑劣な事は考えていないよ?あらゆる可能性を慎重に検討しているだけさ。


「あんたがグズグズしているから、面倒なことになっちゃったわね。仕方ない。本当に仕方ないけど、目撃者は消すしかないわね」


 魔族の女は念願通り暴れる口実ができたので、言葉とは裏腹に嬉しさを抑えないようだ。口調が弾んでいる。

 しかし、皆の方に振り返った瞬間に表情が一気に驚愕へと変わる。その視線はリザに釘付けだ。


「リザ!?」

「ね、姉さん!?」



 聞いた事ない声量のリザの叫び声が女とシンクロする。女は行方不明の姉だったらしい。だけど、姉妹の感動の再会とはならない予感がすごい。

 どうやら、リザの行方不明の姉は魔族に組しているようだ。というか、魔族になったとさえ言っていた。人間が魔族になる方法があるのかは定かではないが、彼女はすでに人間ではない可能性が高い。

 更に悪いのはリザはショックを受けるだろうがブラムが言っていたように、姉は自分から積極的に魔族になったような口ぶりだった。

 いや、希望を捨ててはいけない。ワンチャン、洗脳されている可能性もある。

 成り行きを見守ろう。

 け、決してビビってるわけじゃないよ?

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