第27話 殺人事件に遭遇ですか?

 ロイに「魔王討伐に行くならついでに連れて行ってほしい奴がいる」と、まるでついでに駅まで車に乗せてくれ的なノリで頼まれて、その人物がいる場所へ僕らは到着した。

 どこまでま余裕で魔王の存在が霞んでしまう。

 道すがらルイーゼ様がずっとロイに対する不満を漏らしていたが、到着する頃にやっと落ち着いた。女神でもコントロールできない人間がいるんだなぁ。

 ライラが大人が3人は入りそうなやたら大きな袋に入った物を馬車の荷台に載せたので、僕の棺桶と相まってかなり窮屈だ。リザが少し居心地が悪そうに過ごしていて可哀想だった。誰ですか、棺桶なんて持ち運んでいるのは!


 到着した場所は王城だった。新しい仲間になる予定の人物は王国の剣術指南役に師事していると聞いている。

 王城でもライラは顔パスで城門番の兵士から尊敬の眼差しを受けていた。城内の訓練場に案内され、目当ての人物を発見する。今は訓練中のようだ。

 ルイーゼ様に負けず劣らずの美しいブロンドの長髪で尖った耳が特徴の青年剣士、ギルドマスターのロイが言う所のエルフの連れだと思われる。こちらが指南役かな。

 ただ、そのサラサラの髪は一体どうなっているんだ。トリートメントもないでしょ、この世界。あっ魔法か?魔法でキューティクル出しちゃってる感じなのかな?ゴワゴワな上にストレスで歳不相応の白髪が少しある僕の髪質とは雲泥の差でコンプレックス感じちゃうね。

 対峙するのは女性だ。現世で言えば女子大生ぐらいの年齢だろうか。黒髪のショートボブでアジア人……いやおもいっきり日本人顔だ。近所のコンビニで会ったらすぐに忘れそうな平凡な顔だけど、この異世界で会うと逆に異質で記憶に鮮明に残る。これは……恋!?

 と、冗談はさておき、なぜあんな純日本人がエルフに剣術の稽古を受けているのか?


 僕が思案している所で弟子の方が斬りかかる。ライラには及ばないものの常人からしたら驚異的な俊敏さだ。師匠の方は僕から見たら、ゆったりと動いているようにしか見えなかった。二人が交錯した後、弟子の方の


「……まだ斬ろうとしているな、アユミ」


 ふぅん、名前まで日本人なんだね……じゃなくて!!

 エルフさん、殺しちゃってるじゃん。そんな気障ったらしい台詞言っている場合じゃないでしょ。訓練じゃないの?

 ルイーゼ様も突然のことに言葉が出ないようだけど、ぎりぎりでリザの目を隠しショッキングな光景を見せないようにしていた。グッジョブ。

 ライラは事情を知っているのか、肩をすくめている。え?これ日常ですか?ちょっと慣れてきたと思ったけどやっぱり狂ってるね。この世界。


 これだけでも異質な光景だったけど、さらに驚くべきことが起きた。アユミと呼ばれた首無しの死体が動き出し、頭を拾い上げた!まだ鮮血が噴出している首に頭を乗せるとみるみるうちに傷がふさがり、元通りのごく一般的な人間の形となる。そして、普通に喋り出した。B級ホラー映画かな?


「師匠の言っている事は抽象的過ぎて何度聞いてもよく分かりません。斬ろうとするんじゃなくて勝手に斬れるってどういうことですか」


「……言葉では伝わらん」


 弟子がキャイキャイと囀るのとは対照的に、師匠は小声で呟くように話す。対照的な二人だ。

 そんなことより、なんで生き返っているのか、気になるんですけどぉ!


「また、それですか!ただ口下手なだけじゃないんですか?私、何回殺されたと思ってるんですか!?もう軽く4桁はいってますよ」


「アユミ、お前は……いつもうるさい。口を動かす前に……剣を振るえ」


「本当は教える気無いんじゃないですか!?どうせ、いい試し斬り相手くらいにしか思ってないんでしょ!?」


「……」


「なんとか言ってください!図星なんですね!?」


「お取込み中の所、申し訳ありません。少しよろしいですか。ユーリ様、アユミ様」


 しばらく続きそうだった掛け合いにライラは空気を読んで割って入る。ユーリと呼ばれた師匠は、ライラの顔を見て思案している表情になる。


「あっライラさん。こんにちは」


 ユーリは明らかにハッとした顔で続ける。


「……ああ、あの木偶坊でくのぼうの一番弟子か」


「また、私の名前をお忘れでしたね。本当、剣の道以外に興味が薄すぎますよ、ユーリ様。師匠とそういう所はそっくりです」


 ライラは呆れ顔でそう言った。


「……一緒にするな」


「そちらの方々は?」


 不貞腐れる師匠を無視してアユミは小首を傾げて問う。


「紹介します」


「いや、不要だ。覚えられん。……要件だけ聞こう」


 ライラがルイーゼ様とリゼを紹介しようとしたところを食い気味に拒否される。なんだかこの世界には無礼な人が多い気がする。文明レベルと品位は比例するのかなぁ。でも、現世にも同じくらい失礼な人はいるから、そういうわけでもないか。


「アユミ様をお迎えにあがりました。詳しくはこちらに」


 ライラはロイから預かった手紙をユーリに渡す。手紙を読む師匠を弟子はそわそわと見つめている。迎えに来たと言う言葉に何かしらの期待をしているのかな。残念、魔王討伐に強制連行なんだよ。

 読み終わったユーリは徐に口を開く。


「分かった。……アユミ、修行の旅に出るが良い」


「え、いいんですか?」


 アユミは小声で「これで殺され続ける日々から解放される」と呟き、小さくガッツポーズをしている。


「ああ……少しは成長して帰ってくるがよい」


 ユーリはそう言い残すと、自分の世界に入り訓練に没頭してしまう。師匠として、もう少し激励の言葉とかないんだろうか。まぁ躊躇無くぶった斬る人だから、本当に自分が剣を極めること以外に興味が無いのかもしれない。


「ライラさん、ちなみに旅の目的地はどこなんですか?」


 ワクワクが隠せないキラキラした表情でアユミは質問する。


「定かではありませんが、魔王の居る所です」


「へ?ま、魔王ですか?何のために……まさか」


「知れたことです。人間が魔王に会う理由は一つ。討伐です」


 ルイーゼ様は待ってましたとばかりに、強く宣言する。


「やっぱりそうですか……それよりさっきは師匠に邪魔されちゃいましたけど、どちら様ですか?」


 ルイーゼ様とリザはようやく許された自己紹介をした。


「私はシバサキアユミ。路頭に迷っているところを拾われて、王国の見習い剣士をしています。先ほどもう見られてしまいましたけど、死なない事、正確には何度でも生き返る事が私の強みです。あっ!アンデッドじゃなくてちゃんと人間ですよ?」


 アユミが自己紹介を返す。強みを主張するなんてまるで採用面接だ。ますます同郷の匂いがする。そしてその口ぶりから高いコミュ力が窺える。う、うらやましい!

 でも、現世では考えられない強みだ。実際首を落とされて生き返るところを目の当たりにしているから受け入れるしかない。


「す、すごいですね!」


 純粋なリザはまた素直に驚いている。


「アユミさん、少しよろしいですか?お二人はこちらでお待ちください」


 ルイーゼ様はそう言って、アユミを他の二人には会話が聞こえない少し離れた所に誘導する。


「アユミさん、貴方、転生者ですね?」


「な、なんで分かったんですか?」


 アユミはひどく驚いた顔をしていたが、逆に転生者じゃなかったらその方が驚きだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る