第20話 焚火って不思議な魅力がありますよね?

「す、すごいこれが馬車なんですね!初めて乗りました」


 王都へ向かう移動手段としてライラが用意した馬車に乗り込むと、リザはとても興奮した様子でそう言った。リザの里は馬車もないほどの田舎なのだろうか?

 ちなみに僕は棺桶のまま荷台に積載されている。いろんな意味で僕はお荷物だから仕方ないとはいえ、僕もちゃんと馬車に乗って異世界ライフを楽しみたいとちょっぴり思ったり思わなかったり。


「そんなに珍しい物でもないですが、喜んでいただけて光栄です」


 馬車が動き出すと、リザのテンションは最高潮となる。


「ほ、本当に魔法じゃなくて馬が引いてる!!」


「あーそういうことですか。ダムスティには魔法で動く車しかないんですね。私にはそちらの方が余程珍しいです。嗚呼、やっぱり一度行ってみたいですねえ、ダムスティ」


 リザの興奮は、現代人の僕と類似している。自動車に慣れた人々がテーマパークなどで、たまに馬車に乗って騒いでいるようなものだ。

 馬車よりも魔法で動く車に僕も乗ってみたい。多分、乗り心地は良いと思う。移動式ベッド棺桶で実証済みだ。

 王都へは馬車で急いでも3日はかかると言う。アノンごみおじさんが言っていた通りあの町は相当辺境にあるらしい。

 魔族の出現は緊急事態であるので強行軍だ。1泊は途中の村の宿屋で夜を明かすことができるが、1泊はどうしても野営が必要になる。うん、嫌な予感しかしない。


 

 野営をするまでの間、概ね旅は順調に進んだ。オーガと比較すれば赤ん坊にも見えるちっぽけな魔物に遭遇し瞬殺するということがあったくらいだ。

 そして、野営当日の夜が来た。



「焚火って魔法の炎より温かみがあって良いですね」


 リザは野営のために起こした火をうっとりと見つめてそう言った。彼女にとって、この旅は発見の連続だ。僕達に慣れたのか、詰まらずに話せるようになってきた。


「そうですねー。ずっと見ていられます」


 ライラはそうは言うものの、片目をつぶったままだ。目にゴミでも入ったのだろうか。あれって地味に嫌だよねぇ。この世界に目薬ってあるのかな?

 それにしても、目薬を最初に使った人って勇気あるよね。僕なら無理。安全って証明されてからじゃないと怖すぎるよ。

 おっと、また寄り道だ。閑話休題、閑話休題。


「あれ、目どうかしたんですか?」


 リザが目ざとく気付きライラに声を掛ける。流石、優しい子。


「ああ、お気になさらず。野営する時はいつもこうしているんです。おまじないみたいなものですよ」


 なるほど、ライラは意外と信心深いのかもしれない。でも、どんな神を信仰しているのかな。ルイーゼ様と仲良くやってくれる神だと良いけど。……そんな神いないかもなぁ。

 

「ッション。誰か不敬な事を噂していますね。まあ、検討はつきますが」


 ルイーゼ様はくしゃみをしつつ、火が燃え移らないように少し離れた場所に置かれた棺桶を睨みつけた。相変わらず鋭い眼光で痺れます。


「それはさておき焚火を見て安心するのは、火を使う事が人類を人類たらしめているからかもしれませんね」


 ルイーゼ様は話題を戻す。


「そうだねぇ。その点は人間を評価できるよ。忌々しい日光以外の光を生んだこと」


 焚火の話題に介入してきたその男は、焚火を囲んで座っていた三人の間に何の前触れも無く当たり前のように座っていた。嫌な予感が男の形をして現れてしまった。

 三人は一斉に身構える。


「いやいや、待て待て。こんなに良い夜に同じ焚火を囲んでいるんだ。少し話そうじゃないか」


 男は大袈裟な身振り手振りで訴える。蝙蝠の黒い羽のようなマントがバサバサと揺れ、笑いかけるその口から異様に発達した犬歯が2本垣間見える。これまた分かりやすく吸血鬼ヴァンパイアっぽい奴だ。


「魔族と話す事なんてありません」


 ライラは彼女から聞いたことも無い憎しみの籠った声で吐き捨てた。


「我が魔族だと何故決めつける?通りすがりの焚火評論家かもしれんぞ?」


「に、人間なんですか?」


 リザは素直に問い掛ける。


「いいや、何を隠そう我は魔族、誇り高き吸血鬼ヴァンパイアだ。まさか真っ直ぐに尋ねてくるとは。面白い、貴様は気に入った。我が眷属になることを許そう」


 何が可笑しいのか、魔族と自称した男は大声で笑いながら高慢に言い放つ。ルイーゼ様といい勝負だ。


「では、改めて。魔族とは話すことはありません。何か言い残すことがあれば聞きましょう」


 ライラの深い慈悲で抹殺する前に遺言を確認をしたところで、リザから待ったがかかる。


「ライラさん、ごめんなさい。ひとつだけ確認させてください。眷属と言っていましたが、姉さんもその眷属にしたんですか?」


 リザはピンと来たのかライラを制止して気になることを尋ねる。素直に魔族が答えるとは思えないけど。


「ほう貴様、姉を探しているのか?残念ながら我が眷属に貴様に似た人間はいないな」


 あっ意外と素直なんだね。


「ほ、本当に!?」


 少しでも姉の手がかりを得ようとリザは必死だ。


「我は無闇に嘘はつかん。興味のない人間の顔の区別はあまりつかないが、貴様のその髪の色は一度見たら忘れん。姉も同じ色なんだろう?」


「……そ、そうですが」


 リザはあからさまに肩を落とす。その様子は魔族でさえ父性がくすぐられるのか、吸血鬼は補足する。


「あー、そういえば最近、自ら志願して魔族の軍勢の加わった人間の女がいると聞いたな。我はその女を見たことはないがもしかしたら、貴様の姉かもしれんぞ」


「そ、そんなはずありません。姉さんが自ら志願するなんて!」


「ははは、何をそんなに必死になっている?まだ貴様の姉と決まったわけでもあるまいし、貴様が姉の何を知っているというのだ」


 前言撤回。吸血鬼に父性なんかない。からかっているだけだ。


「わ、わたしは姉さんの家族ですから分かります!!」


「ひょっとしたら、貴様のような家族というしがらみが、そいつを追い込み魔族になる決心をしたのかもしれんぞ?それに何故魔族が悪いものだと決めつける。人間どもよりよっぽど誇り高く生きているぞ?」


 僕は神ではないから善悪を決めることはできないけど、今お前が言っている事が悪魔みたいに残酷だから、やっぱり魔族は悪い奴なんじゃないかな。


「ね、姉さんがそんな……」


 ほら、リザがショック受けてるじゃん。


「リザ。下賤で卑劣な吸血鬼風情の言葉に耳を貸す必要はありません」


 ルイーゼ様がすかさずリザを抱きしめて慰める。


「質問に丁重に答えたのに、侮辱されるとは。その言葉、そのままお返しする。やはり相容れぬな。……まぁ最初から余興で話を聞いたまでだがな!」


 男がマントを強く翻すと強風が吹き焚火が消え、辺りが暗闇に包まれる。この惑星にも月はあったはずだけど、残念ながら今夜は新月。星明りは無いに等しく、野営地は真の闇となる。


「人間とは不便なものだなぁ!!夜目も効かないのだろう!!」


 男がそう叫びながら高笑いする。が、その笑い声は呻き声にインターセプトされる。

 声からして誰かに殴られたようだ。と言っても魔族を躊躇なく殴打できるのは、ライラぐらいしかいない。


「な、なぜ!?この暗さ、見えるはずがない」


「火の有用性を発見した人間の賢さを知っている割には不用意ですね。冒険者が夜襲を想定していないはずがないでしょう」


 ん、想定してたっけ?……あっ片目を瞑るおまじないってこのためか!明かりを失って急な暗闇になっても、瞑っていた目を開ければ、すぐに対応できるってわけだ。流石、特種冒険者だ。


「はっ小賢しい。見えた所で人間などどうということは無いわ」


「不意打ちを試みておいて返り討ちにあったのに、その口振りは無様ですね」


 ルイーゼ様は痛い所つく。そういうことをさせたら、女神様は天下一だ。


「我が眷属にする慈悲もあったが、もういい。全員殺す!!」

 

 吸血鬼から強い殺気が放たれた。まぁた切った張ったですか。

 頑張ってください。僕ば応援することしかできないけど、甲子園のブラスバンドくらい気合入れて応援するよ。

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