第16話 いよいよピンチですか?
オーガはどんな姿か。桃太郎に出てくる鬼と言うとしっくりくると思う。
まず何より大きい。平均身長3mはあるんじゃないだろうか。
そして
そんな
僕たちを取り囲んでいた野盗はあっという間に霧散した。やっぱり臆病なんだねー。
「に、逃げた方がいいんじゃないかな!」
オーガ達の方をじっと見据えて行動を起こさない二人に僕は声を掛ける。
「こ、このままだとあのオーガ達は町を襲います。ここで食い止めないと!」
「その通りです。よく言いました、リザ」
うん、勇気があるとリザを褒めたけど、勇気がありすぎるのも考えものだなぁ。
「よし、じゃあリザ。魔法を一発頼むよ」
「ご、ごめんなさい。オーガは人に近くて……無理です……」
うん、そんな気はしていた。じゃあ逃げないとね。
「そっか!それは仕方ない。じゃあ、ルイーゼ様、あとはよろしくお願いします」
「彼らは神罰を受けることは何もしていません。ここで我々が彼らを駆逐するか、彼らが人々を蹂躙するか、いずれにしても自然の営みです」
こんなときまで冷静に神視点。さすが女神様だね!
誰も助けてくれない。
なんだ、元いた世界と同じじゃないか。日常、日常。余裕、余裕。
タスクをひとつずつやる。それだけ。
嗚呼、異世界って楽しいなぁ!
「ルイーゼ様、僕の病原は奴らにどのくらいの時間で効きますかね」
「体が大きい分、少し時間がかかるでしょうね。7~8分くらいといったところでしょうか」
なるほど、とてもとても長い8分間になりそうだー。できる限りの対策をするしかないよね。
「リザちゃん、直接攻撃はしなくていいから、こういうのできるかな?」
僕は時間稼ぎに使うものをリザに発注する。
「そ、それなら簡単です!」
「よし、じゃあ、なるはやでよろしくね!」
危機的状況を脳内麻薬の興奮でごましている僕の脳は、普段使っている言葉を無意識で使ってしまう。
「な、なるはや?」
やっぱり通じないよね。
「ああ、今すぐお願いって意味。で、それができたら僕から離れて。できるだけ早く遠くに。力を使うから」
オーガはもう50M 先くらいまでに迫っている。心なしか彼らのせいで地面も揺れている気がする。
「分かりました!」
リザが返事をして魔法を行使すると、僕らとオーガの間の地面が盛り上がり、僕の求めていた物がものの数秒で完成した。分厚く高い土の柵だ。完全な土壁の方が止める力はあるだろうけど、僕の病原もシャットアウトされる可能性が高い。だから柵が最適。多分。しらんけど!
リザは言われた通り、風の魔法らしきものを使いふわりと空を飛ぶようにして僕から離れた。あっという間に僕の射程外だ。魔法って便利ね。
僕はハナメガネ神器を外し、勢いよく棺桶から飛び出す。
わーお、直接見るとより怖いね、
自身の身長を超える柵を目の前にしても予想通り、彼らは迂回したり引き返したりすることはなかった。その見た目からしてオーガは脳味噌まで筋肉でできている、いわゆる脳筋だと思ったんだ。
目の前に障害がある時、脳筋が取る行動はひとつ。筋力の行使のみ!その読み通り、オーガ達は柵を破壊しようと素手で殴ったり、手作りの棍棒で叩いたりしている。だけど、分厚い柵はそう簡単には壊れない。さすが、超一流魔法使いの仕事。信頼できる。
時間はどれくらい経っただろうか。時計がないから分からないけど、体感は3分くらいは経ったはず。その頃になると柵に綻びが出始めた。僕の病原が効果を発揮するんでまだ倍以上時間はかかる見込みで、この状況はシンプルにやばい。
「うーん、これはダメかも」
「諦めずに足掻いてください。死ぬなら最後の最後まで異世界を満喫してから死んでくださいね!……この状況をクリアできない者は必要ありません」
笑顔でルイーゼ様はそう言い放つ。最後の方は声が小さくなってよく聞こえなかった。なんか早く仕事を終わらせることを望んでない?今の女神の目は、僕に仕事を押し付けて定時で帰る陽キャ後輩の目にとてもよく似てる。先輩をなんだと思ってるんだ!とは決して言えない。だって彼の方が上司に気に入られてるから結局損するのは僕になるんだよね。結局、好き嫌いで仕事をするんだよね、皆。
はっ。今はそんなことをグチグチ考えている場合じゃない!命の危機だった!
一縷の望みをかけて遠くにいるリザの方を見るが、フルフルと首を振って俯くだけだ。うん、彼女は責められない。僕は責めちゃいけない。
あっそういえばどこかで聞いたことあるなぁ。確実に来る恐怖を待つ時間が何よりも恐怖だって。確かにホラー映画でも、出るぞ出るぞとスタンばってる時が一番ドキドキするもんなぁ。こんな恐怖を感じられるのは人生に一度だけだろうから、楽しまないと損だよなぁ。はははは。
現実逃避が思考の大部分を侵食してくる頃、柵の一部がいよいよ破壊され、オーガの1頭が眼前に迫る。その大きな拳を振り上げ、僕の頭へ叩き下ろすまさにその瞬間、オーガが膝をついてバランスを崩す。
な、なんとか間に合った!?
そんな喜びも束の間、オーガは最後の力を振り絞って振り上げた拳になんとか仕事をさせようとする。
あっ終わった……そう思った瞬間、土煙をあげながら一陣の風が吹き、眼前の鬼が吹き飛んだ。
「やっとお目にかかれましたね、スナオさん!」
土煙で確かな姿は見えないけど、その声には聞き覚えがあった。
ギルドの超優秀職員、ライラ、その人の声だ。
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