第14話 貶すより褒めた方がいいのは、小学生でも分かりますよね?


 スライムの大量発生の案件は、すぐに片付いた。いや、リザが片付けてくれた。洞窟なんていう逃げ場の無い所で大量発生したのが彼らの運の付きだった。

 リザが魔法で尋常ならざる巨大な雷を落とし、洞窟を形成している小山ごと崩してしまった。ほとんどのスライム達は岩にすり潰されてあの世に旅立った。かろうじて、逃げ出した残党は僕が待ち伏せして、病死して頂いた。

 あのゼリーのような生命体にも有効とはいったいどんな病原なのだろう。もしかしたら対象により変化しているのかもしれない。元いた世界に帰ってこの病原の研究をしたら、何かしらの賞が取れるかもね。ははは、帰れないけどねー、研究している間に何人死ぬか分かんないけどねー。妄想するくらい許してねー。


「触れもせずにスライムを倒すなんて、イトゥさんってすごいんですね」


 苗字で呼ばれるのが久しぶりで誰のことを言っているのか一瞬分からなかった。伊藤という発音はこっちの世界では珍しいらしく、変な風に訛っているのが余計にそうさせた。


「いや、リザちゃんの魔法の方がよっぽどすごいよ。僕のは扱い辛い……というかほぼ呪いみたいなもんだし」


 棺桶の中から僕は答える。今は帰りの山道を歩いている。ちなみにリザはルイーゼ様に言われるがまま移動式ベッド棺桶を引いている。車輪がついているとはいえ、結構な重さのはずだけど、疲れを微塵も見せない。

 彼女の健気さがそうさせている部分もあるとは思うけど、実際は魔法を使っているのかな。なんだかいつもより、寝心地が良いのもそのせいだと思う。


「神の恩恵を呪いとは、不敬ですよ!スナオ」


 ルイーゼ様は棺桶の蓋にコンとを上から叩く。それ系の団体が見たら児童虐待だと発狂しそうな光景が平然と繰り広げられている。異世界って怖いね。


「それは大変失礼しました。ところで、ルイーゼ様。少しリザをこき使いすぎではないですか?」


 おざなりの謝罪とともにリザの身が心配になり、そう問いかける。


「い、いえ。いいんです!魔法で全然辛くないですから。それにわたしには魔法くらいしか取り柄がないので」


 やはり魔法は使っているらしい。ただ、魔法も無尽蔵というわけではないだろうに。


「リザちゃん、そんな悲しい事は言うもんじゃないよ。君にはたくさん良い所があるさ」


 自己肯定感の低いリザがブラック企業で病みかけていた自分と重なりその愛らしい姿も相まって守ってあげたくなってしまう。だって、もう我が子みたいなもんだからね。


「そうでしょうか……」


「まずは勇気があるよね」


「ゆ、勇気なんてわたしには!」


「いやいや、ルイーゼ様に普通は自分から話し掛けられないよ。話し掛けられるのは勇気がある人か、あるいはよっぽ無神経な人だね」


 ゴミおじさんの顔を思い浮かべながら、後半は言った。今頃、周りの迷惑を顧みない豪快なくしゃみをしているのかなぁ。


「それはどういう意味ですか?」


「ルイーゼ様が高嶺の花すぎるということですよ」


 案の定突っ掛ってきたので、すかさず女神もフォローする。


「まぁ……そうでしょうね」


 あっさり機嫌を直してくれるところが素敵です。さすが、女神!


「あ、あの時は、必死だったので」


「あと優しいよね」


 会社で地獄のような営業を経験して、他人の褒める所は徹底的に探す癖がついた。当時は思考と心が停止したので機械的に褒めていたけど、今は本心から褒めている。


「や、優しいですか?」


「だって、行方不明のお姉さんを探しているんでしょう?家族思いで優しいと思うよ」


「そんなの当たり前じゃないですか!家族なんですから!」


 今までのオドオドした感じが嘘のように語気が強くなった。どうやらリザにとって家族は地雷らしい。


「そ、そうだよね。家族は大切だよね」


「あっごめんなさい。イトゥさんは何も悪くないのに……」


「ほ、ほら!そうやって人を思いやれる所も優しさが滲み出てるよ!!」


 折角、少しだけ上昇傾向にあった彼女の自己肯定感がしぼんでしまわぬように畳みかける。


「それは、イトゥさんやルイーゼさんが良い人だからです」


 僕は良い人だけど、ルイーゼ様はどうかな。そもそも人じゃないし!


「リザ、貴方は立派です。私が認めるのですから胸を張りなさい。過度な謙遜は時に他人を傷つけますよ」


 神の啓示に等しいルイーゼ様の言葉にも、リザは半信半疑だ。ちょっと重すぎるのかもしれない。よし、今度はおどけてみよう。


「何よりリザちゃん、カワイイし!」


「か、かわいい?」


 リザはぽかんと口を開ける。


「あれ、カワイイって言葉、無いのかな?なんというか、キュート?愛らしい?抱きしめたくなる?うーん、カワイイを使わずにカワイイを表現するのって難しいね」


 現世ではKAWAII《カワイイ》は世界共通語で外国にも浸透していたんだけどなぁ。


「ふふ」


 その二音を皮切りにリザの口から笑い声が漏れた。彼女の笑顔を初めて見た。女神の視線でだけど。こんな素敵な笑顔は直接見たいなぁ。


「可愛いは分かりますよ!生まれて初めて言われたのでビックリしただけで。イトゥさんは、ホントおかしな人ですね」


 いや、カワイイっしょ。その笑顔、輝いてるよ。貴方の周りの人たちは一体どこに目を付けていたんだろうね、不思議だね。


「スナオさんは本当に困った人ですね……」


 なぜかルイーゼ様がため息をつく。いつ僕が女神を困らせただろうか……うん、結構困らせたこと、あるかも。


「止まれ!!」


 突然木の陰から人影が複数飛び出してきて、一人がいきなりそう怒鳴った。怒鳴り終わった時には、剣やナイフなどを武器をもった男達に周りを取り囲まれていた。

 恐らく野盗だと思われる。異世界ってやっぱり物騒なのね。こんなんで現代人はどうやって異世界ライフを満喫しているっていうのかな?教えて、エライ人。

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