第34話「お仕置き」

―――翌日


 昨晩の食堂でのゴタゴタは忘れて、今日も新しい一日の始まりだ!


 今朝はまず、武闘大会へのエントリーのため、大会本部が置かれている闘技場へと出向いた。自分がエントリー用紙に記入をしていると、アビーがラド君に対して、『見てるだけなの、やっぱり、退屈かもぉ……。』と云うので、結局、自分とアビーの二人が出場することになった。もしものケースだってなくはないので、自分としてもアビーが出てくれるのは非常に有難い。

 闘技場を後にすると、約束通り、エレナのペンダントの石を加工するため、アクセサリーショップへと向かった。後日の受け取りかと思っていたが、職人さんがエレナの要望を聞きつつ、その場で仕上げてくれた。


「これでワタシも、皆さんと一緒ですっ!!」


「……それは良かったね。」


 自分好みに加工してもらったドクロを見つめ、本人はご満悦だ……。


 マレッタ自由国内には、しばらく滞在することになりそうなので、次は、外貨両替所へと向かう。他国の通貨でも、大体の店で支払いが可能ではあるが、どうしても割高になってしまうからだ。

 外貨両替所は、国が直轄で運営しているらしく、中は、高級感の溢れる落ち着いた内装になっている。壁にはそれなりに趣のある水墨画が飾ってあり、待合所にはフリードリンクまで置いてある。スタッフも小綺麗な恰好をして、対応も良い。

 ……ただし、肝心のレートは良いとは云えない。この国の外貨獲得施策なのか、どうかは分からないが、おもてなししてますよ感を出され、誤魔化されている気もしないでもない。




―――外貨両替所前


「失敗しましたねぇ。ローザリッヒで両替しておくべきでした……。」


 両替所を出た瞬間、ラド君がボヤき始める。


「そんなにレートって違うものなの?」


「はい。思ったよりもずっとレートが悪かったです。マレッタは、物価も高いですからねぇ。3、4日滞在する程度なら、別に気にする必要もないのですが……。」


「まぁ、オレもまだゴリン王国の通貨は持ってるし、そんなに心配することはないって。」


「入国税も高額でしたしね。ワタシも、いつでもお金をお出ししますよ。」


「いえっ、陛下や后様にお支払いをさせるなど、侍従じじゅう失格です……。」


 自分たちの優しい声掛けが、逆にラド君には堪えたみたいで、再びコントのようなやり取りが繰り広げられる。


「やはり、ここは腹を切って詫びるしか……。」


「じゃあ、アビーが介錯を務める~!」


「いやいやいやいや、ちょっとちょっとぉ~~っ!!」


(マジで、勘弁してくれ……。この、ひな壇芸人のリアクションも二度目だぞ。。)


 旅人感丸出しで、外貨両替所の前で立ち話をしていると……、


ドンッ!


 突然、男がラド君にぶつかってくる。


「おっと、こりゃすまねぇ、旦那ぁ。」


「いえ、お気になさらず。……それよりアビー、あなた、なんとしても武闘大会で優勝しなさいっ!優勝賞金は、マレッタ通貨で1,000両です。」


「うん、まぁ、コタローさまも出るし、大丈夫じゃない?」


「いいえ、陛下から優勝賞金を頂く訳にはいきません。あなたが優勝するんです!!」


(なんか大会参加の目的が変わってきてないか?……それより。)


「ラド君、一応確認するけどさぁ、今、財布って持ってる?」


 それを聞いて、慌てて両手で身体中を確認するラド君。


「ん?ん?んっ?……アレっ??」


 ラド君の顔が青ざめていく。


「な、ないっ!!財布がありませんっ!!」


「やっぱ、さっきのおっさんか……。追いかけよう!」


「は、はいっ!!」


ダッダッダッダッダッダッッ……!!


 雑踏をかき分け、男が歩いて行った方向を超速で駆ける。


(やっぱ、雑多に人が集まる都市だと、軽犯罪も多いよなぁ……。)


 首を左右に振り、男の姿を探す。


(どこだ?どこに行った??)


 更に、もう少し先へ進むと……、


「へっ、やっぱちょろいぜ、観光客はよぉ。」


 財布を片手にニタニタッと笑う、深緑色のシャツを着た男を発見する。


(……間違いない、アイツだ。)


「おい、待てっ!!」


「ど、どうしてこんなところまで!?」


 男は驚いた様子を見せ、裏路地へと駆け込む。しかし、既に姿を捕捉された状態で、一般人が大司祭様から逃げ切ることなど不可能だ。


ダッッ!!


 すぐさま、先回りをする。


「ヒ、ヒィイッ!!」


 男は腰を抜かして、その場に座り込む。


「やっぱ、悪いことをするとさぁ、それ相応のお仕置きは必要だよね?」


「い、いや、俺は……、落ちてた財布を拾っただけでよぉ。これから、お巡りさんに届けにいくところだったんだ。」


(まったく、言い訳が苦し過ぎる。素直に謝れば情状酌量の余地だってあるのに。)


「少しくらい痛い目みないとわからないようだね?」


「な、何する気だぁ!?」


 折角の機会なので、まだ一度も使ったことのない補助魔法を試してみる。


(まぁ、死にはしないだろう……。)


「アンチ-カース!!」


ぬぉ~~~~んっ


「うわぁぁぁぁ。…………バブ~、バブ~、バブぅ~っ。」


 男は喃語なんごを発し、突然、ハイハイを始める。


(なるほど、これは幼児退行する呪いなのか……。)


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。流石は陛下、とんでもないスピードです。」


 後から、3人が息を切らしながらやってくる。


「それで、先程の男は?」


「ほら、ここにいるよ。」


 取り戻した財布をラド君に投げ渡す。


ジャリン……


「あ、ありがとうございますっ!!……しかし、これは!?」


「お仕置きに、アンチ-カースを使ったんだ。反転してるけど。」


「そうでしたか。それで赤ん坊のように……。」


「もう、元に戻してあげてもいいかな。オレ達に囲まれて逃げようもないだろうし。エレナ、この人にアンチ-カースを使ってあげて?」


 しかし、エレナの表情は浮かない。


「……コタローさん?ワタシまだ、アンチ-カースを習得していないんです。」


「……へっ!?」


(ど、どうしようか……。)


 そりゃ、スリを働いたこの男が悪いのは間違いない。ただ、そのお仕置きとして、ずっとこのままなのも気の毒ではある。それに、スパエナ的にも、この大きな赤ん坊の対処には困ってしまうだろう。


(……仕方ない、サリエルさんにお願いしよう。)


「サリエルさ~ん!!」


ボフンッ!!


「ホイ、ホーイ……。」


 自分の呼びかけに、いつもと様子の違うサリエルさんが現れる。


「え~と、サリエルさん??今日はあからさまに元気がないですね。」


「えぇ、まぁ、ちょっと仕事でやらかしちゃいましてね。ついさっき、経理担当のガブリエルさんから内線が入って、呼び出しを受けてるんですよ。」


「ちなみに、何をやらかしちゃったんですか??」


「や、ちょっとね、経費でケーキビュッフェに行っちゃったくらいですよ?……3回ほど。いや、5回だったかなぁ。」


 サリエルさんは、政治資金を銀座のスナックに使った政治家のように、とぼけた返答をする。


「……あぁ、そうですか。」


「もうちょっとね、バレないように工夫して経費申請するべきでした……。」


(いや、反省すべきポイントがズレてますけど?)


「ちなみに、コタローさん?ボクの代わりに、ガブリエルさんのところへ頭を下げに行く気はありませんか?あの方、一度説教が始まると長いんですよねぇ……。」


「そ、それはちょっとぉ……。」


「そうだ、ケーキビュッフェは、召喚主との親睦会だったってゆうテイにすればいいじゃないですかぁ!!ねっ、名案でしょ?」


(オレに、サリエルさんの片棒を担げってことぉ!?)


「ここは素直に謝罪しに行って下さいよ……。」


「ええっ、ダメなのぉ?コタローさん、貴方が、そこまで薄情な人だなんて思いませんでしたよぉ。ボクだって、今まで色々と貴方に協力してきたつもりなんですけどね……。」


 出頭を勧められたサリエルさんは、急にグズり始める。


「まぁ、それはそうなんですけど……。」


「じゃあ、もう結構ですっ!!ボクからは他に用事はないですし、今日はもう帰ります。では、皆さん、御機嫌よう。……プィっ!」


 結局は、逆ギレしたのちに姿を消す。



し~~~~~~ん……



「本当に帰ってしまわれましたね。。」


「だね……。」


(もぉぉ、この神界の問題児がっ!!)


「それで、この方はどうしましょうか。」


「……とりあえず、治安部に引き渡そう。」


 それからは、ラド君が巨大な赤ん坊を担ぎ、スパエナの治安部へ託児する。事情を話すと、魔法班の一人がアンチ-カースを使い、男を正常の状態へと戻してくれた。取り調べが始まると、今まで受けた被害届の中にも人相が合致するものがあり、結局、男は余罪の追及を受けることになった。

 夕方になると、天下一武道会の組み合わせを確認しに、再び、闘技場を訪れた。張り出された掲示板の前は、すごい人だかりだ。到着して10分ほど並ぶと、掲示板の見える位置にまで押し出された。幸い、自分とアビーは別々のブロックだ。


(……にしても、この参加者数。。優勝までに何回勝ち上がらなきゃいけないんだ?)


 自分は大会初日の8時、アビーは13時からの出番だ。初戦を突破すると、二日目以降は、一日に複数試合をこなすこともある。先が長いこともあり、この日は、早めに宿で休むことになった。




―――聖騎士団スパエナ臨時死神対策室


「リュングラード聖騎士団長、死神一派が泊る宿は特定できました。」


「はい、ご苦労様ぁ。」


 リュングラードはニヤニヤとしながら、団員に労いの言葉を掛ける。


「それと、こちらが、死神とエレナという少女の手配書です。」


「えぇ、えぇ、それにはもう目を通していますよぉ。……う~ん、そうですねぇ、まずはこの異端者疑惑の少女から捕らえてしまいましょうか。」


 リュングラードはエレナの手配書を見つめながら、その捕縛を提案する。


「ただ、少女は四六時中、他の3人の誰かと一緒ですので、捕縛するタイミングは限られてくるかと……。」


「聞けば、死神一派は武闘大会に参加するそうじゃありませんか?」


「はい、そのようです。」


「なら、チャンスはこれからいくらでも出てきますよぉ。なにせ、あの人の多さです。こちらの動きも気づかれにくいでしょう。」


「ただ、逆に目撃者が増えてしまう可能性もありますが……。」


「それは、貴方たちが連携すれば、やりようなんていくらでもありますよぉ。作戦を考えて、後で僕に報告して下さい?」


「承知しました。それでは、失礼します。」


バタン……


 団員が部屋を後にすると、リュングラードはエレナの手配書を手に、不気味に笑う。


「ヒャヒャヒャッ♪エレナちゃんですかぁ。すんごく、そそりますねぇ!待ってて下さぁい。僕が、た~っぷりと可愛がってあげますからぁ♪」





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


今話は、観光客感丸出しで、スリに遭ってしまいましたね。

頼みのサリエルさんはというと、全くあてになりませんでしたが笑

……それにしても、あの聖騎士団長、なんともネジが外れている感じがします。

今後、エレナはリュングラードの魔の手から逃れることが出来るのでしょうか?


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