第32話「称号の出世」

 その後、折角だったので、盗賊たちにはそのままスケープゴートになってもらった。

 まず、全員を縄で街道沿いの木々に括り付ける。次に、イタ車の天井布を剥がして作った横断幕に、『正義の鉄槌!!死神一派成敗!!』と殴り書き、木間高くに掲げた。仕上げに、大傭兵セバス様の顔に死神と書き残すなど、各々がトドメのデコレーションをする。

 果たして、身代わりとしての役割を全う出来たかどうかは一切不明であるが、みんな、非常に楽しそうに作業にあたっていたので、よしとしよう。




―――翌朝


「おはようございますっ。」


 テントの中で目を覚ますと、20cm先からエレナが自分の顔を覗き込んでいる。


(最近は、エレナの距離感もかなり近いんだよなぁ……。)


「お、おはよぅ……。」


「コタローさん、今日もお願いします!」


「今日もって、まさか??」


「はい、朝のお稽古ですっ!」


 この日は完全に油断していた……。何故なら、前日にエレナの杖が折れていたからだ。しかし、早朝のうちに代わりの木の棒を探してきたようで、この日も2時間近く稽古が続いた。


コンコンコン、ココン、コンコンコンコン……


(早く、代わりの杖を見つけてあげないとなぁ。)


 エレナのいつもよりぎこちない振りを受けて考える。このままでは魔法を使えないだろうし、折角の朝練も効率が上がらないだろう。交易都市スパエナに到着したら、折れた杖よりも業物を探してあげよう。……それと、あと一応、ペンダントのドクロ加工もだ。




―――マレッタ自由国へ通じる街道


ドカ、ドカ、ドカッ!!


キャンキャンキャンキャン……


 アビーが、街道へ飛び出してきた3匹の狼型の魔獣を一蹴する。


「魔獣撃退したよぉ。アビー、エラい??」


 馬車の中へ戻って来ると、アビーはまたもニンマリ顔を自分に向ける。


「あぁ、うん。偉いな、アビー。」


「コタローさまぁ、じゃあ、アビーの頭ナデナデしてっ?」


「……えっ、頭ナデナデ!?」


「この前みたいに~。早くぅ!」


「わ、わかった……。」


 アビーからの催促に戸惑いながらも、その小さな頭に手を乗せる。


ナデナデナデナデ……


「えへへへっ♪」


 前回同様、アビーはヒコーキ耳になって、しっぽをフリフリさせる。すると……、


ツ~~~~~~ン


 エレナさんがむくれた表情で、冷たい視線を向けてくる。


「あら、お二人は随分と仲がよろしいんですね。」


「いや、ほらっ、ただのスキンシップだよ……。」


「スキンシップにしては度を超えていますよ?」


「そ、そうかなぁ……。」


 そこへ、アビーが割って入って来る。


「別にいいじゃん。アビー、コタローさまの“ソクシツ”だよー。」


「いやいやいやいやっ……。」


「ワタシは“正室”ですっ!!」


「エ、エレナさん!?」


「コタローさんに余計なちょっかいを出すの、やめてもらえます??」


「何で、エレナにそんなこと云われなきゃいけないのさぁ??」


「コタローさんの“正室”だからですっ!!」


「そんなの関係ないもんっ!!」


「関係、大アリですっ!!」


バチバチバチバチ……


 エキサイトする二人を止めに入ろうとするも……、


「あのさ、二人とも……、落ち着いて?」


「コタローさんは、黙ってて下さいっ!!」「コタローさまは、黙っててっ!!」


「……あ、はいっ。」


 逆にお叱りを受ける。


プィっ!!



『…………。』



 その後、しばらく長い沈黙が続く……。外は天気がいいのに、馬車の中はどんよりとしている。二時間ほど経ってようやく、空気感が落ち着いてくると、この日は、“称号持ち”についての話題になった。目指せ称号持ちを目標に掲げ、朝練に励むエレナからのフリでだ。


「……そういえば、ラドルフさんはいつから称号持ちなんですか??」


「私は、生まれた時からですね。恐らく、アビーも……。」


「アビーもそうだよ。生まれた時から。」


「コタローさんもそうなんですよね??」


「うん、まぁ、オレは生まれた時からっていうか、気づいた時には……。」


「いいなぁ~。」


 エレナは、羨ましそうにため息をつく。


「皆さんの周りには、大人になってから称号持ちになられた方はいますか?」


「アビーは知らない。」


「ん~、我々の周りの称号持ちは、皆、生まれつきだったような。大人になってからなった人もいるのかもしれませんが……。」


「やっぱ、そうなんですね……。」


 エレナは、あからさまに落ち込み出す。


「それならさ、サリエルさん呼んで聞いてみようか?どうせ、暇してるんだろうし。大きくなってから称号持ちになるのも、案外、普通かもよ?」


「はいっ、是非お願いします!!」


「じゃあ、呼んじゃうよ??サリエルさ~ん!!」


ボフンッ!!


「ハイハ~イ!」


 サリエルさんが、フッと馬車の中に現れる。

 やはり、この日も、サリエルさんからの先制パンチだ。


「あー、ホントにもうっ!!コタローさん、貴方って人は、何でいつもこう間が悪いんですかぁ?」


「えっ?あぁ、どうもすいません。」


 理不尽な苦言に、とりあえず頭を下げる。


「……で、何かあったんですか?」


「今日、もうこの後すぐ、今組んでるパーティメンバーと、イベント限定ボスを倒しに行く予定なんですよぉ?」


「あ、そうですか……。それはなんか、すいませんでしたね。」


「ハアぁ……、まぁいいですよ。それで、ご用件は何ですか?」


「“称号持ち”について、教えてくれませんか?」


「称号持ちについてですかぁ。何だかフワッとした聞き方ですね。例えば、どんなことが知りたいんです?」


「え~っと、称号持ちってゆうのは、生まれつきの資質なんですか?」


「まぁ、そうですねぇ。称号持ちは、基本的には、先天性のものです。大体の場合は、天職と関連性の高い称号が発現するんです。」


「やっぱり、そうなんですね……。」


 それを聞いたエレナは、なんとも残念そうだ。


「でも、“基本的には”ってことは、例外もあるってことですよね?」


「ええ、もちろんです。修練を重ねて、後天的に“称号持ち”なる者も、少ないながらにいますよ。」


「大天使様っ、それではワタシも努力すれば、称号持ちになれる可能性はありますか??」


 エレナが食い気味にサリエルさんへ質問する。


「そうですねぇ。貴方はぁ……。」


 サリエルさんは目を凝らし、エレナの瞳を覗き込むと……、


「……そうでしたか。ええ、その可能性は十分にあるでしょう。」


 何故か納得した表情を浮かべて肯定する。


「やったぁ!!」


「コラコラぁ、喜ぶのはまだ早いですよ。貴方の頑張り次第という意味ですからね。今後もしっかりと励んで下さい。」


「はいっ!!」


 大喜びのエレナに軽く釘を刺したのち、サリエルさんはラド君とアビーの方に顔を向ける。


「あとは、そちらのお二人、ラドルフさんとアビーさんに関連するお話もついでにしましょうか。」


「よろしくお願い致します……。」


 ラド君は息を呑んで、耳を傾ける。


「称号というものは、“出世”するんです。」


「大天使さまぁ、出世って何ぃ??」


 アビーはフランクにサリエルさんへ質問をする。ラド君は冷や冷やした表情で、両者の顔を交互に見るも、サリエルさんは全く気にしていない様子だ。


「平たくいうと、グレードアップするといったところでしょうか。死線を潜り抜けたり、更なる修練を積んだり、何か特別な経験を経ることで、上位の称号にグレードアップするのです。」


「へぇ~、上位の称号になると、どうなるのぉ?」


「それに関しては、コタローさんが何度か経験されているので、お詳しいかと。」


「称号が上がると、身体能力が向上するんだ。あと、新しい魔法やスキルを覚えることもあるよ。ただ、オレの場合は、上位の称号に変わった直後に、ひどい頭痛に襲われるんだけど。」


「それはまぁ、云うまでもないとは思いますが、新しい魔法やスキルが脳内に刻み込まれるからですね。」


「なるほどぉ。とても勉強になりました。」


 ラド君は、称号が出世すること自体は既に知っているようではあったが、無粋なことは一切口にせず、サリエルさんに頭を下げる。


「まぁですから、ラドルフさんとアビーさんも、これからも引き続き励まれることをオススメしますよ。」


「はいっ、ご助言感謝いたします!!」


「まぁ、今日はこんなところでしょうか。……あっ、約束の時間が!そうそう、さっき云ってたイベント限定ボスの件は、もちろん、“ビーハン”の話ですよ♪アハハハっ!」


(あぁ、その件については、どうでもよ過ぎて、すっかり忘れてました……。)


「ではでは~、皆さん、御機嫌よう♪」


『…………。』


 サリエルさんが帰った後は、やはり何ともいえない空気になる。


「……だってさ。」


「はい。ワタシ、頑張ります。」




―――とある都市の大聖堂内


「お呼びでしょうかぁ?」


 純白の鎧を身に付けた長髪の男が、派手な羽衣をまとった中年の男の前にひざまずく。


「ついさっき、ローザリッヒの教会から、伝書バトで手紙が届いてのぅ。死神が、ヴァーティゴを一蹴したそうじゃ。」


「あの、炎剣を!?」


 長髪の男は目を大きく見開く。


「そいで今、死神一派はローザリッヒを南下しておると。」


「……そうですかぁ。それは看過できませんねぇ。」


「一応、王国からも死神退治は頼まれておるからなぁ……。」


 羽衣の男は少し面倒くさそうな表情を浮かべたのち、長髪の男に指示を出す。


「“聖騎士団長”リュングラードよ、この件はお前に一任する。死神を殺れぇぃ。」


 リュングラードは頭を下げて勅命を拝し、不気味な笑い声を響かせる。


「お任せ下さい、“法皇”様ぁ。どんな手を使ってでも、必ずや、死神を仕留めてみせますぅ。……ヒャヒャヒャッ♪」





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


サリエルさん情報で、エレナにも称号持ちの芽が出てきたのは朗報です。

背後での不穏な動きも非常に気になるところではありますが、

次話は一気に、マレッタ自由国入国から、交易都市スパエナに入ります。


「続きが気になるかも!」と思った方は、

フォローしていただけると嬉しいです!

ぜひぜひ、★評価の方もお願いいたします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る