第31話「死神一派、登場!?」
―――マレッタ自由国へと向かう馬車の中
侍大将との決闘の日から二日。今日は朝からカラっと晴れ、湖から吹く風は一層心地良く感じられる。昨晩は、小さな村の宿のベッドで熟睡できたので、戦いの疲れは残っていない。
「ラドルフぅ、マレッタ自由国はまだぁ??」
「まったく……。寝っ転がりながら、馬車の壁に足を伸ばして、あなたは本当にだらしがないですねぇ。陛下の御前ですよ?」
アビーは、もう退屈過ぎて死にそうといった様子だ。
「いいよ、別に気にしてないから。逆に、だらしがないなんて聞くと、自分のことを云われてるみたいでさ。」
「何を仰いますか。陛下はいつもきちんとされていますよ。」
「いや、そうでもないんだって、ほんと。……で実際、あとどれくらいで着きそうなの?」
「マレッタ自由国の税関まであと二日、そこから、交易都市スパエナまでは、更に二日ほどでしょうか。」
「まっだ、まだじゃん。。」
到着予定が聞こえたアビーは、壁に向かって足を軽くバタバタさせる。
「それでも、この子たちは“イガノクニ”という特別な品種なので、一般の馬車よりも遥かに速いんですよ?」
一方で、ラド君は懸命に馬車を
「……そういえば、税関では、プライベートカードを提示するんだっけ?」
「はい、そうでございますが。」
「大丈夫かなぁ?入国の時、オレ捕まったりしない?“死神”確保って。」
「それに関しましては、心配ないと思います。マレッタ自由国は永世中立国ですので、シシド共和国、ゴリン王国、どちらの事情にも肩入れしません。」
「そっかぁ、だったらいいんだけど……。」
その後は、ラドルフ先生による、マレッタ自由国についての授業が始まる。
マレッタ自由国の歴史は古く、ゴリン王国とシシド共和国の建国直後にまで遡るという。南部における両国の国境付近の管理体制が緩く、往来が容易だった時代、人族と三種族の中にも、互いの文化を尊重し、融和を図ろうとする者たちが現れる。
その流れは急速に加速し、種族による区別をなくして共存を目指すという考えのもと、南部地域で独立運動が起きる。いくつかの大商会の後ろ盾もあり、完全に火の着いた独立運動は、ゴリン王国とシシド共和国の両国でも抑えることは出来ず、マレッタ自由国が建国されるに至った。
マレッタ自由国の建国により危機感を覚えたゴリン王国は、北部の国境付近で同様の事態が起きることを恐れ、要塞都市の建立を決定した。一方のシシド共和国も、それと向かい合うようにして要塞都市を築く。現在もなお、北部の両国の国境は、軍事境界線として緊張状態にある。
建国以来、永世中立国を貫くマレッタ自由国は、ゴリン王国、シシド共和国のそれぞれと国交はあるものの、決して、どちらかの事情に肩入れすることはない。もちろん、マレッタ自由国内での両国間の争いはご法度である。
制定されている憲法も両国とは異なる部分も多く、主な特色としては、以下の点が挙げられる。
・国の代表は、再選2回までの任期制で、4年ごとに選挙で決められる。
・自由国軍は、一切の侵略行為を行わず、自衛のためだけの組織とする。
・種族間のあらゆる差別を認めず、それに反した場合は厳罰が課せられる。
また、マレッタ自由国の今日の発展には、地理的な優位性も大きく寄与している。国土の北は広大なビワー湖と古代獣が防波堤となっているため、魔族の侵攻が極めて少なく安全であり、国土の南は海に面しているため、海運も盛んで活気がある。国の規模としては、ゴリン王国、シシド共和国にはやや劣るが、こうして蓄えた経済力が、両国をけん制する抑止力にもなっている。
「なんだか、とてもまともそうな国みたいですね。」
「まぁ、そうだね。」
ラド君の話を聞く限りでは、自分もエレナと同意見だ。旧体質なゴリン王国と比べると、真っ当な国のように思える。
「アビーはフードをかぶらなくていいから、マレッタは嫌いじゃないよぉ。」
「ハハハッ、アビーらしい理由だね。」
今日は天気も良く、ここまでは穏やかに旅が進んでいたのだが、この後、何の前触れもなく、非常に面倒くさい事態に巻き込まれることになる。
「おかしな馬車がこちらに向かってきますね……。」
「えっ、どれどれ?」
ヤン車風に魔改造された3台の馬車が、こちらに迫ってくる。
湖沿いの街道を完全に塞ぐと、馬車の中から12、3人ほど輩が出てくる。
「おいおい、テメェら!!止まれ、止まれぃ!!」
(まったく、品もへったくれもないような連中だ……。)
渋々、こちらも馬車から降り、外へ出ていく。
「男二人に、女二人かぁ?ちょろいぜ。」
輩1号が、エレナとアビーを見て、ニタッと笑う。
「金と女を置いてけぇ!そうすりゃ、お前たちは痛い目見ずに済むぞぉ!」
輩2号が、自分とラド君を相手に凄む。
「何だかとても頭の緩そうな人たちですね……。」
ラド君の本音がダダ漏れる。
「フン、テメェら、自分たちの置かれている状況がイマイチ理解できてねぇようだなぁ。無駄口叩いていられるのも今のうちだけぜぇ!兄貴、姉貴っ、お願いしやすっ!!」
輩3号の呼びかけに、馬車の中から、更に二人出てくる。ひょろひょろっとした黒マントの男と、パッツパツの修道服のようなものを着た巨漢の女だ。
輩4号は、二人の登場にイキりながら声を上げる。
「このお二方をどなたと心得るっ!!大傭兵にしてあの噂の死神ぃ、セバス様とぉ、史上最凶ルーキーにしてアクアマリン級冒険者、エレナ様だぁ!!」
『…………。』
「どうだ!?ビビって声も出ねぇかぁ??」
……確かに死神の名は、盗賊としては非常に使い勝手が良いのだろうが、現在、死神はゴリン王国から指名手配中の身でもある。御用になるリスクも格段に上がるのだが、そこに頭が回らないほど、コイツ等はアホなのだろうか??
大傭兵セバス様が勇み、前に出てくる。
「ワテが、噂の死神セバス様やでぇ~。死にとうなければ、大人しく金品置いてきやぁ!?」
農作業用の鎌を改造したようなものをクルクルと振り回し、こちらを威嚇してくる。
最凶ルーキーエレナ様も続く。
「そこの耳長族の貴方ぁ、なかなか良い男じゃなぁい!?私の召使いになるなら、毎晩、可愛がってあげるわよぉ♪」
こちら側の空気が徐々にピリつき始める……。
「全く以て不愉快ですね。私の主は、陛下だけです。」
「アビー、コイツ等きら~い。やっつけちゃっていい?」
二人とも苛立ちを隠せない。……しかし、それ以上に怒りに打ち震えているお方がいる。
「……これは、ワタシとコタローさんに売られたケンカです。お二人とも、手出しはご遠慮下さい。」
エレナの声のトーンは、普段より一段、いや、二段は低い。
「承知しました。それでは今回は、后様と陛下にお任せします。」
「それでは、コタローさん、行きますよ!」
「あ、はいっ!」
エレナの掛け声と共に、朝練用の棒を右手に握りしめる。
「俺は女だからって容赦はしないぜぇ!!」
「くたばれっ、黒ローブぅ!!」
輩1~6号が、一斉に襲い掛かってくる。
バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッッ!!
あっという間に、6人が地面と友達になった。
「クソッ、このアマがぁ!!」
「テメェ、悪人ヅラのクセしてぇ!!」
続いて、輩7~12号が向かってくる。
バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッッ!!
明かな実力差があるにも拘わらず、それすら気づけず立ち向かってくるとは、頭が緩いにもほどがある。……残りは例の二人。
自分が、朝練用のこん棒の先を大傭兵セバス様へと向けると……、
「ヒ、ヒィイっ!!」
おおよそ、大傭兵とは思えない情けのない声が上がる。
「ワテ、噂の死神やなんて、ホンマは嘘やねん。。まんまと、コイツ等の口車に乗せられたっちゅうか。よ~く見てみぃや、ワテ、あの人相書みたいに仏頂ヅラちゃうやろ?もっと、もっと男前やし、それに、あんな血色悪くあらへ……」
ゴツンっ!!
自分は容赦なく、大傭兵セバス様の頭にこん棒を振り下ろす。
「どいつもこいつも、悪人ヅラやら、仏頂ヅラやらうるさいのぉ!本人を目の前にして、何ディスっとんのじゃあぁ!!」
一方のエレナは、まだ怒りが収まっていないようだ。
「あんた、私を一体誰だと思ってるのぉ!?アクアマリン級冒険者、エレナ様よ!!」
最凶ルーキーエレナ様が、杖を大きく振りかぶる。一方のエレナは、相手の振りに合わせて根元を狙う。
バキッッ!!
最凶ルーキーエレナ様の杖がへし折れる。
「ちょ、ちょっとぉ、なんなのよこの小娘っ……。」
エレナはキリッとした眼差しを最凶ルーキーエレナ様に向け……、
「ワタシは、アクアマリン級冒険者じゃなくって……、エメラルド級冒険者ですっ!!!!」
バコンッッ!!
怒りのこもった一振りをその顔面にぶち込む。最凶ルーキーエレナ様を完全にノックアウトだ。どうやら、冒険者ランクを間違えられていたことに対し、相当ご立腹だったようだ。
ポキっ……
今度は、エレナの杖が折れる。当然、ここまでの打撃を想定して、作られたものではないはずだ。
(……それにしても、最後の一撃はえげつなかったなぁ。)
やはり、エレナさんを怒らせてはいけないのだと、再認識させられた出来事であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今話は、エレナの冒険者としてのプライドが垣間見えましたね。
最後は、杖が折れるほどの一撃で、事態を終結させました。
マレッタ自由国への入国も近いようですが、
その前に次話、再び、台風を巻き起こすあのお方の登場です。
「続きが気になるかも!」と思った方は、
フォローしていただけると嬉しいです!
ぜひぜひ、★評価の方もお願いいたします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます