第30話「炎剣のヴァーティゴ」

 今の今まで、どう手加減をしようかとずっと考えていた。ただ、この男に対しては、どうやら無用の心配だったようだ。


「死神一派の底はもう知れたぞぉ!!お主たちは配下の者をやれぇ!!拙者は、此奴の首を討つ!!」


『おぉ~っ!!』


 侍大将は、勇ましい言葉で一団を鼓舞する。


(……そうなんだよな。)


 相手の気勢に、今、自分たちは戦場にいるのだと実感させられる。当然、やらなければやられてしまうのだ……。死神一派(仮)の大将格である自分が、いつまでも甘っちょろい覚悟のままでは、仲間を窮地に追い込んでしまいかねない。


(まず、オレ自身が変わらなきゃ。)


「エレナ、ラド君、アビー、周りの武士たちは頼んだっ!ヴァーティゴ殿は、必ずオレが倒す!みんな、絶対に生きて勝ち名乗りをあげるぞぉ!!」


「はいっ!!」「承知しました!!」「はいさ!!」


「セバ殿ぉ、本気で参れぇ!!」


 侍大将は、眼光鋭く自分を見据える。


「黄泉の大鎌っ!!」


ジュおぉ~~~~~~~~んっっ!!!!


「ヴァーティゴ殿ぉ、いざ尋常に、勝負っ!!」


ダッッ!!


 地面を蹴り上げて侍大将に挑む。ここからは、鎌と刀の真剣勝負だ。


カキィ~~ン!!


 ……しっかし、刃と刃を合わせてヒシヒシと感じる。おおよそ、人族とは思えない、物凄い圧力だ。


カン、カン、カン、カン、キィ~~ン!!


 流石はロパンド最強剣士、尋常ではない刀捌きである。


カン、カン、カン、カンッ!!


 鎌の順刃と逆刃を使い、どうにか攻撃を凌ぐ。


カキ~ン、カン、カン、カン、カン、カ~ン!!


「ハッハッハ、やるではないか、セバ殿。拙者の攻撃に、ここまでついてこようとは。」


「ヴァーティゴ殿も、噂に違わぬ強さでござるな。」


 自然と、ござる口調がうつる。


「このままでは少し勝負が長引きそうなのでな、早速だが、この妖刀ムラマサの真の力を解放するとしよう。」


(妖刀の力を解放だって!?)


 侍大将は目を瞑り、深く息を吸い込む。一瞬、呼吸を止めたのち、カッと目を見開き……、


「ぬぅおぉ~~~~っ!!」


 額に血管を浮かび上がらせながら、自身の力を刀に込める。


メラメラメラメラっ……


(か、刀が燃えている!?)


 こちらの驚いた表情を見て、侍大将がおもむろに口を開く。


「お待たせしたな、セバ殿。拙者の愛刀、妖刀ムラマサは、所有者の胆力を糧として本来の姿を取り戻すのである。」


「これが、“炎剣のヴァーティゴ”の由来でござるか……。」


「ハッハッハ、存じておったか。しかし、この事実についても知っておられるかな??炎剣と相対して生き残った者は、未だ一人もおらぬということをっ!!」


「ならば、そのジンクス、拙者が打ち破ってみせよう!!」


「いざ、参るっ!!」


 鎌と刀が互いの大きなモーションと共に衝突する。


ガキィ~~ンっ!! ビリビリっ……


(刀の威力がさっとは段違いだ……。)


「まだまだぁ!!」


 侍大将が追撃にくる。


ガキ~ン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン……


 相手の勢いに押され、凌ぎきるので精一杯だ……。


「どうした、セバ殿ぉ!!受けるだけでござるかぁ!?」


ガンッ、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガ~ンッ!


「むっ!?」


(だが、しかしっ……。)


 この戦いの中で、自分が急速に成長しているのを感じる。今まで、武器を扱う訓練といえば、エレナとの朝練程度でしか行ってこなかった。もちろん、このような剣の達人と手合わせをするのは、初めての経験だ。そして、この実戦を通して、ヴァーティゴという名コーチのもと、大鎌様の取り扱い技術が飛躍的に向上していく。


ガンッ、ガン、ガン、ガン、ガン、ガンッ……


 徐々に、技術が、大司祭ボディのスペックに追い付き始める。


(そう、今この瞬間もオレは……、強くなっているっ!!)


ガギィ~~ンっ!!


「何ぃっっ!?」


 あの侍大将の心が初めて揺れる。


「せ、拙者が、押し負けただと……。」


「感謝申し上げるぞ、ヴァーティゴ殿。貴殿のお陰で拙者は強くなれたでござる。」


 戦場においての心構え、武器による戦闘技術、得るものが大きかっただけに、本心として口から出る。ただ、ある意味では敬意を欠いたとも取れるこの発言に、侍大将は苛立ちをぶつける。


「何を、一度押し勝ったくらいで……、もう、勝負に勝ったつもりかぁっ!!」


(……申し訳ないけど、オレの中では既に勝負は決してるんだ。)


ガギィ~~ンっ!!


 侍大将のらしくもない大振りに大鎌をドンピシャで合わせ……、


ヒュルヒュルヒュルヒュル……


 妖刀ムラマサを宙に弾き上げる。


『…………!?』


 武士の一団は唖然とした表情を浮かべ、戦いを一時中断してこちらに注目する。


「これ以上続けても、無駄でござるよ。」


「フン……、決闘で背走するなど、武士にあるまじきこと。最後まで全力でお相手願おう。」


 侍大将は妖刀ムラマサを拾い上げ、全ての力を振り絞る。


「ぬぅおぉ~~~~っ!!」


メラメラメラメラっ……


「ゆくぞ、セバ殿ぉ!!」


 結末を悟ってもなお、侍大将からは並々ならぬ覚悟が滲む。


「来いっ、ヴァーティゴ殿ぉ!!」


 次の瞬間、久しぶりに“あの声”が、自分の頭の中に語り掛けてくる。



『……今ガヨウヤク頃合イダ。“大鎌振ルイ”ノ真価ヲ見セテミヨ。』



(わかりましたっ!!)


 自分は大鎌様の声に呼応するように、“スキル:大鎌振るい”のオリジナル技を放つ。


「秘義、メガかまいたちっ!!」



ヴゥオ~~~~ンッッ!!



「グハッッ!!」


 真空の刃は妖刀ムラマサをへし折り、侍大将の鎧を貫く。メガかまいたちを受けた侍大将は勢いよく吹き飛び、そのまま仰向けになって倒れる。


「ヴァ、ヴァーティゴさんが負けた!?」


「う、嘘だろぉ!?」


「最後の技は、一体なんだ!?」


 武士集団に動揺の色が広がる。

 横たわる侍大将は、朦朧もうろうとする意識の中、口を開く。


「まさか、拙者が敗れることになるとは……。グッ……、勇者様っ、武士勲章授与式典では、恐れ多いお言葉を掛けて頂いたにも拘わらず、このような姿を晒すこととなり、グハッ……、誠に、申し訳ございませぬ……。セバ殿ぉ、最後の秘技、見事であった……。ガハッ。」


(侍大将は、既に勇者と顔を合わせているのか?)


 勇者が降臨している事実にぼんやりと考え事をしていたところ、後ろから3人が駆け寄って来る。


「流石にございます、陛下っ!ロパンド最強剣士を圧倒するとは!!」


「コタローさまぁ、最後の技すっごかったよ~!」


「お見事でした、コタローさんっ!!」


「みんなもケガはないようでよかったよ。」


 3人の元気そうな姿に安堵する。

 辺りを見渡してみると……、なんと、2/3以上の武士たちが地面に這いつくばっている。


「この短時間によくもまぁ、これだけやっつけたね。」


「ほとんど、お二人の力です。ワタシは助けてもらってばかりでした。」


「アビー、頑張ったよぉ!」


 アビーは自分に満面の笑みを向ける。


「そっか、アビー、エラいなぁ!」


 テストで100点取った小3の子を褒めるようなノリで、頭を撫でてやると……、


「えへへへっ♪」


 アビーはしっぽをフリフリさせ、ヒコーキ耳になって喜ぶ。


「もぉぉ、コタローさんってば……。」


 その様子を見たエレナは、何故か頬を膨らませている。


 ……それにしても、“死神一派”は、少数ながら、なかなかの実力者揃いだ。エルフ族首長の息子と獣人族頭目の娘の戦闘力はずば抜けているし、エレナだって頼りになる。自分への妄信っぷりには、正直、引いてしまう時もあるが、こんな仲間たちがいてくれて、本当に心強い。


「さぁ、行こう!!決闘はオレ達の勝利だ!!」


 意識を失っている侍大将の周りで茫然自失といった様子の武士たちを背に、馬車は南へと走る。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ヴァーティゴ殿との決闘を制したコタロー君。

一時はどうなることかと思いましたが、戦闘中に急成長を遂げるとは……。

なかなかに白熱の一戦だったとは思いますが、

今回の一件は、これからはじまるドタバタ珍道中のほんの始まりに過ぎません。

引き続き、注目いただければと思います!


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